魔法少女リリカルなのは『絶対零度の魔導師』
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アージェント 〜時の凍りし世界〜
第二章 《暁に凍る世界》
ドキドキ!?温泉パニック!!①
前書き
導入編というか、若干短め。
「《黒駒谷》?」
暁人の出した怪訝そうな声に、彼の担当医であり親友でもあるミハイル・ミハイロフは頷いた。
「そうさ。あそこの温泉は自然魔力を多く含んでいるからね……君の怪我の治りも良くなるし、氷雪ちゃんの暴走の抑止にも役立つだろう。」
《黒駒谷》はアージェントにある温泉地の名前だ。その昔、怪我をした一頭の黒駒が温泉の水を一口飲んだところ、たちどころに怪我が治り、谷を駆け抜けたと言われている。
その源泉は高い魔力を含んでおり、体内に取り込む事でリンカーコアを活性化させ、自然治癒や魔力回復を促進する効果があることが認められている。
「それは、そうだが……けど、スノウスフィアは後一つだ。だったら一刻も早く……」
「君の言うことにも一理あるけどね。今回の襲撃じゃ管理局へのダメージは殆どない。下手に治りかけで行っても返り討ちが精々だよ。」
「……………。」
「それに、温泉旅行なんて、氷雪ちゃんも喜ぶと思うけどなー?」
「行くぞ、直ぐに支度しろ。」
(………ご主人様、チョロい。)
二人の会話を聞いていたミミは心の中で思わずそう、呟いた。
同刻・次元航行艦アースラ 艦長室
「「「温泉?」」」
艦長室に呼び出されたなのは、フェイト、はやての三人は、異口同音に言った。
「ああ。三人とも少し休暇だ。《黒駒谷》とかいう温泉で疲れをとってきてくれ。」
「けど、またあの人が来ちゃうんじゃない?」
あの人、とは勿論暁人の事だ。その危惧は当然のものだったが、クロノは心配いらないと断じた。
「前回奴は相当なダメージを負った様だからな。直ぐに行動は出来ないだろう。追跡も、もうすぐヴォルケンリッターが合流するから人手は足りてる。だから今の内に英気を養い、体調を万全にしておいてくれ。」
クロノの台詞に顔を見合わせる三人。そんなに都合良くいくのかとも思ったが、既に宿の手配まで済ませていたクロノに押され、渋々といった風に受ける事に決めた。
(………それに、こっちにも色々と調べる事があるからな。できれば、彼女達には触れさせたく無い類いの。)
クロノの内心を知ってか知らずか、ともかく行く以上はしっかり楽しもうとあーだこーだと話す三人。その内なのはだけを、クロノは個別に呼び出していた。
「あんまり無茶はさせたく無いが、相手が規格外である以上、一人でも戦力が欲しい。しっかり治してきてくれ。」
「了解!体はほとんど治ってるし、後はリンカーコアだけだから大丈夫なの。」
「それは良かった。……それと、」
言い難そうに言葉を詰まらすクロノ。僅かな沈黙の後、言葉を紡ぐ。
「フェイトの事を気に掛けてくれ。この間の事を相当気にしているらしい。」
その、ある意味ではクロノらしいとも言える頼みに、なのはは二つ返事で了承した。
黒駒谷はアージェントでも屈指の観光地だ。両側を銀嶺に挟まれた細く長い谷、その縁に沿って沢山の温泉宿や土産物店が並ぶ。
お尋ね者であり現在絶賛指名手配中の暁人では、普通の店に入る訳にはいかない。なにより……
「氷雪を一人には出来ん。だが……俺が女湯に入る訳にもいかんだろう。氷雪を男湯に入れるのも駄目だ。他の男共に氷雪の肌を晒す事など論外だ。」
「………それで、ここかい?」
「ああ。ここまで奥地で、しかも『混浴』であれば、 他の客はいないだろう。俺の正体を隠す意味でも、氷雪を守る意味でも都合がいい。」
暁人一行の目の前にあるのは、日本家屋風の木造の宿『松風屋』。黒駒谷の奥地にあるそこは観光客はおろか、現地の人々でも殆ど知らない、正に知る人ぞ知る名湯だった。……混浴でさえ無ければ。
しかし、後ろめたいことをしておりなおかつ超弩級シスコンである暁人には都合が良かったのだ。
「……ま、まあご主人様とお嬢様の事を考えれば最適なのは確かです。」
「温泉……楽しみ……」
先に入った暁人とミハイルに続き、ミミは半ば諦めと共に、氷雪は期待に目を輝かせて暖簾をくぐるのだった。
暁人達に遅れる事数分後。
「へぇー、見た目は日本のお屋敷だね?」
「そやなぁ…京都とかにありそうや。」
なのはとはやては松風屋の前に立っていた。三人だけでゆっくりさせたいというクロノの配慮で、地元の住民でも殆ど知らないこの宿を探しだしていたのだ。
「ところで、フェイトちゃんはどないしたん?」
「ああ、フェイトちゃんなら……」
そこまで言ってなのはは後ろを振り返る。そこには顔を真っ赤に染めて、何やらブツブツ呟きながら悶えているフェイトの姿が。
「……えっと………。」
「混浴って聞いてからずっとこんな調子で……」
「な、なのはぁ……やっぱり駄目だよ。こ、こん、混浴だなんて……今からでも違う所に……」
普段の凛としたハラオウン執務官としての姿は何処にもない、どちらかと言えばただの内気な少女にしか見えなかったが、むしろこっちがフェイトの素であろう。
ともあれ、茹でダコの如く真っ赤になったフェイトをどうにか説得しつつ、三人も松風屋に入るのだった。
暁人達を案内したのは齢80に達しようかという女将。通された客間はそれなりに広く、木と畳の臭いで溢れていたが黴臭さは微塵も感じなかった。
「それでは、ごゆっくり。」
それだけ言って部屋から下がる女将。荷物を下ろし、先ずは一息つくと……
「温泉……行こ……。」
待ちきれない様子の氷雪が急かす。が、
「ん……ちっと考え事したいからな。ミハイル、頼めるか?」
「……いいのかい?」
「お前なら、な。」
暁人は氷雪を他者と二人きりにしない。その数少ない例外がミミとエヴァだが、暁人のミハイルでの信頼はそれに並ぶものだった。
「……そうかい、じゃあ頼まれよう。」
ミハイルは頷くと荷物からタオルだの何だのを取り出して準備をする。
「それでは私も……」
「ああ、ミミ。お前はちょっと残ってくれ。」
「ご主人様……?いえ、分かりました。」
ミミが特徴的な長いウサミミをピコピコ折り曲げて了解の意を示す。ミハイルと氷雪が部屋を出ると、ミミの方から話を切り出した。
「お嬢様を遠ざけたって事は、次の作戦ですか?」
「ま、そんなトコだな………」
頷き、暁人は自らの作戦を説明し始めた……
「……ミハイルさん。」
氷雪が隣を歩く大切な兄のほぼ唯一と言っていい親友に声を掛ける。
「どうしたんだい、氷雪ちゃん。」
「お兄ちゃんは……何をしているの?」
氷雪にはどうしても気に掛かる事があった。彼女の兄の行動だ。暁人は時折、数日間家を開ける。大抵の場合はミミが家に残るか、エヴァが二人の代わりに白峰家を訪れ、氷雪を見守っている。
暁人の外出が増えたのはここ最近だった。氷雪の病を直す為と言うが、帰ってくる度、暁人の表情は険しくなっていた。実際には襲撃による体力的、精神的な消耗の為だったが、事情を知らない氷雪はそうは受け取らなかった。
即ちーーーー
「私は……もう、助からないの?」
氷雪には、自惚れでも何でもなく、兄に愛されているという自覚があった。そして、自分もまた、兄をーー家族愛的な意味でーー愛していた。
兄の顔が優れないのはひょっとしたら、自分の助かる見込みが薄れているからではないのだろうか?もし、自分が兄を助ける為に頑張って、その全てが徒労であれば自分はどんな顔をするだろう?
しかしーーー
「いや、君は助かるよ、氷雪ちゃん。」
ミハイルの口から出たのは、明確な否定。
「暁人が必ず助ける。君が絡んだ事で、不可能があると思うかい?あの、暁人が。」
そう、氷雪の兄はあの暁人なのだ。妹の為なら天の神様から地獄の閻魔まで全てを敵に回しても厭わない男。彼ならば、妹の幸せを邪魔する全ての障害を問答無用で捩じ伏せるに決まっていた。
「君は、助かるんだ。暁人が必ず助ける。だから、安心していい。きっとその日は近い。」
ミハイルの断言に、氷雪は小さく頷いた。
後書き
次回予告
温泉へと湯治にやってきた暁人一行。お湯にゆっくり使って日頃の疲れを癒す暁人達だが、そこに管理局の三人娘がやってきた!
気付いているのはミミただ一人。主の休息を守るため、本来のウサギ姿で奮闘する!!
一方フェイトは、前回暁人に言われた事を気にしている様で………?
次回 《ドキドキ!?温泉パニック!!②》
いよいよお風呂シーンです。
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