魔法少女リリカルなのは『絶対零度の魔導師』
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アージェント 〜時の凍りし世界〜
第二章 《暁に凍る世界》
不信
前書き
久々に更新。
主人公若干チートかも?
広域結界により外部との交信を絶たれ、退避も出来なくなった研究所。暁人が掲げたハボクックから、純白の光が溢れ出す。
瞬間、世界が変容する。元来寒冷なアージェントの気候だが、それを基準としても段違いに冷たい冷気が結界内に吹きすさぶ。
「……《シルバーワールド》。」
圧倒的な冷気は氷点下50℃を下回り、防寒服やバリアジャケットを以てしても防げない程である。暁人の足元に展開する魔方陣は五芒星だ。
「まずは突破口を抉じ開ける、いくぞ。」
〈Aye sir.《Blizzard Gast》〉
研究棟の一角に高速砲が着弾、外壁を吹き飛ばし、無理矢理に侵入ルートを切り拓く。防衛に就いていた魔導師の部隊が泡を食って次々と出てくるが、余りの寒さに、目に見えて動きが鈍い。
暁人の《銀世界》は広域結界に属性変換を織り混ぜた上で、常時《ダイヤモンドダスト》と《ホワイトアウト》が発動する凶悪仕様の《アージェント式魔法》だ。
アージェント式魔法を一言で表せば《戦域支配魔法》である。戦場全体に影響を及ぼし、時に一発で戦況を引っくり返す様な上級広域魔法を得意とする。
特に、一流の使い手は必然戦術眼にも長け、戦史に名を残す名将となる事が多い。たとえば《白皇》の様に。アージェント式魔法が《王の魔法》と呼ばれる所以である。
大規模な術式と冗長な発動時間、膨大な魔力を必要とする広域魔法。既に暁人は保有魔力の四割を放出していたが、委細気にせず守備隊に意識を向ける。
「……邪魔だ。」
百を下らない氷の剣を生成し、守備隊に向けて斉射。そして、被弾箇所から剣を通して体を凍らせていく。
射砲戦となるもここはすでに暁人のホームにして狩り場だ。半端な射撃魔法は通用しない。警備部隊は瞬く間に無力化、壊滅した。
「……次。」
抵抗戦力は殆ど無い。一部の研究員が護身用の簡易デバイスを向けているが、有効打は望むべくもない。
「ハボクック、内部構造を……」
〈It is already grasped.〉
「………流石。」
出来た相棒の返答に満足しつつ、研究所に踏み込む暁人。屋内だというのに、通路には雪が積もり、扉には氷が張り、天井からは氷柱が垂れ下がる。
「……反応は?」
〈Exploring ……Reaction detection. Four o'clock direction, distance 120.〉
「よし、想定通り。」
暁人が《シルバーワールド》を使った理由は二つ。一つは守備隊を短時間で無力化するため。もう一つは、大魔力の氷結系魔法を行使することでスノウスフィアを共鳴させ、位置を特定することだった。
「対象までの障害は?」
〈Four AH drone, both accredited as general purpose type.〉
「……妙だな。」
〈Why?〉
「戦力が少な過ぎる。仮にも“奴”の拠点だぞ……余りにも手応えが無い。」
増援が来るまでの足留めにしても弱い。こちらの正体は割れている筈なのに戦力を補強した様子も無い。
「……まさかっ!?」
そして暁人は一つの結論に辿りつく。それは即ち………
「奴は……ここを守る気が無い……?」
だとすれば、暁人の事を知っている筈の仮想敵が打つであろう手は容易に想像がついた。暁人を確実に仕留める事ができて、尚且つ暁人が避けられない……否、避けさせない手が。
「っ!?ハボクック!!」
相棒にありったけの魔力を流し込み、術式を組み立てる暁人。その意を即座に理解したハボクックは、その補助を行う。時間的には……おそらくギリギリか。
暁人の足元に浮き上がる五芒星の魔法陣。無数のそれが重層的に組み立てられ、一つの巨大な魔法を構成していく。
多重魔法陣自体はそう珍しい技術ではない。しかし、たった一人が、直径200mという戦術魔導兵器級のそれを扱っているとなれば話は別だった。
「《Fort of iceberg》!間に合えっ!!」
暁人の残りほぼ全魔力と、空間中の残留魔力を全て使用した魔法陣が眩い光を放つのと、研究所の地下深くに設置された“それ”が解放されたのは殆ど同時だった。
■次元航行艦アースラ 艦橋
「も、目標付近で大規模な魔力爆発を確認!爆発の規模から対滅型魔導爆弾と推測されます!」
「何だと!?一体何が……」
センサー員からの報告に、クロノは思わず頓狂な声を出した。対滅型魔導爆弾というのは膨大な魔力を対消滅させることで空間を抉り取る戦術魔導兵器だ。簡易アルカンシェルと呼ばれる事も多く、本家の威力には遠く及ばないがそれでも、街一つ吹き飛ばすくらいなら訳はない。
一瞬遅れて、アースラにまで衝撃が届く。研究所まではまだ10km程離れていたが、ここからでも爆発が視認できた。
「っ、現地の状況は!?」
「駄目です!大気魔力が乱れて観測出来ません!」
「くっ……フェイト!武装隊を率いて現地に向かってくれ!はやては広域魔法をスタンバイして待機!」
「うん!」
「了解や!」
「観測班は何か分かったら直ぐに報告を!武装隊にもだ!」
矢継ぎ早に指示を飛ばすクロノ。爆風が雪を巻き上げた影響で、爆心地は目視も出来ない。
「ハラオウン執務官及び武装隊出撃!」
「八神一等陸尉、上甲板にて詠唱開始!」
次々と上がる報告。徐々に晴れていく雪煙。そして……
「あれは………何だ………。」
爆心地にあったのは氷の城。透き通った美しい氷が、無数の尖塔を構成している。爆発の為か痛々しい破壊痕が散見されるが、それを感じさせない程に優美で、荘厳だった。
「しゅ、周辺の魔力濃度が急速低下!あの城に向けて集束しています!」
「……!まずい!武装隊に警告をだせ!」
何を仕掛けてくるのかは分からなかった。しかし、相手の想像はつく。警戒に越したことはないのだった。
「っ……あの…屑共が……えげつねぇ事しやがる……。」
暁人は肩で息しながら、吐き捨てる様に呟く。魔力は殆ど底を尽き、立っているのがやっとだ。研究所を爆破して、研究員もろとも吹っ飛ばす積もりだったのだろう。成功すればよし、失敗しても暁人の戦力を削れる。スノウスフィアはこの程度じゃびくともしない。
事実、研究員や守備隊を全て庇った影響で、暁人の消耗は戦闘困難な程にまで達している。
「そんで、弱った俺をアースラが捕らえる……良くできた作戦だよ、全く……。」
ともすれば震え出しそうな足に活を入れ、接近するアースラの部隊にハボクックの先端を向ける。皮肉にも、先ほどの爆弾のお陰で魔力は腐る程周囲に漂っている。
「……警告する。それ以上接近するようなら直ちに集束砲で攻撃する。お前達じゃない、研究員を、だ。賢明な判断を期待する。」
当然ブラフだ。だが、アースラ側にそれを判断する材料は無い。で、ある以上、迂闊な行動は取れない筈だ。
暁人としては戦闘は避けたい。魔力に不足は無くても体の負担まではどうしようもない。ましてや彼は、『無傷では済まなかった』のだから。
暁人が展開した氷の要塞はしかし、爆発の全てを止める事は出来なかった。その際、外壁を突き抜けた魔力の奔流が暁人の方に流れ込む様に内部構造を調整したのだ。これは反撃を早くする為だが、同時に暁人の体にも無視出来ないダメージを与えていた。
幸いにも相手は停止した。ここからは交渉という事である。
「……上出来だ。こっちの要求はこの研究施設に存在するスノウスフィア『6個』とこの場からの退避だ。」
どうする?とは聞かない暁人。向こうには呑めない提案だと分かっているからだ。
『……白峰暁人さんですね?』
「……執務官の方か、まあ妥当だな。」
『貴方の要求を聞き入れる事は出来ません。大人しく投降して下さい。』
「なるほど……人質はどうなっても構わない、と。」
『っ……!卑怯な……』
「犯罪者を卑怯呼ばわりとは……何を当たり前の事を……それくらい想定しとけ。それに、こいつらを見捨てたのは“そもそも管理局だろ?」
『……何を?』
「何をって………だから、こいつらを囮に、俺を爆弾で始末しようとしたのは管理局だろ?」
『違う!そんな事……ある訳ない!』
「……そうか?少なくとも俺は爆弾なんて仕掛けてない。これが無ければとっくに逃げてる。研究所の自爆も、罠でも無い限りアナウンスがあるし、研究員諸共なんて真似もしない。そしてスノウスフィアが半ダースもそろってれば、こんな爆発程度じゃびくともしない。そして……俺が死んで一番得するのは管理局だ。」
『そんな……そんな事………』
元々フェイトの頭の回転は早い。そして、暁人の言葉に信憑性があるのも理解出来ている。しかし、それでも認められない。認める訳にはいかなかった。
「さて……投降しろ、だったか?答えはノーだ。氷雪を救うまで、俺は止まる訳にはいかない。」
『………氷雪ちゃんの治療なら、管理局が責任を持って……』
「管理局でどうこう出来る病気じゃない。それに……言った筈だ。俺は管理局を信用してなければ、正しいとも思って無いって。二度も言わせるな。」
大体、と暁人は続ける。氷の様に冷徹に、厳然と。
「管理局が氷雪を手に入れて何をしたいのか想像がつく。大方『あの実験』の続きだろう?治療?寝言は寝て言え。お前達が氷雪に何をしたのか、忘れたとは言わせない。」
『…………?』
怪訝な顔をするフェイト。何の話をしているのか分からないといった表情だ。
「………まさか、何も聞いてないのか?」
『……………』
「…………………………クックックッ………ハッハッハッハッハッハッハ!!滑稽だなぁ!!何も知らずに俺を捕まえようとしてたのか!演技で言ってるのなら大したもんだと思ってたら、まさか本心とはな………いや、済まなかったな。面の皮の厚い偽善者だと思ってた。」
突然、狂った様に嗤い出す暁人。その凍りついた瞳の奥に潜んだ狂気に呑まれ、フェイトは言葉を紡ぐ事が出来ない。
(やだ……聞きたくない……)
本能的に暁人の嗤い声に恐怖を覚えるフェイト。一体何が、彼にこれ程の狂気を抱かせるのか、理解が追い付かない。
「ククク……ああ、安心した。やっぱり腐ってた……何も知らない少女に、何も知らないまま絶望を与えさせようとしていたなんてな……あの下衆が!!」
突然声を荒げる暁人に、反射的に身を固くするフェイト。暁人の眼からは、先程までとは打って代わって、押さえようの無い怒気が迸っていた。
「……………スノウスフィアは貰ってく。じゃあな。」
そう一方的に言い捨てて、暁人は予め裏で準備していた魔法を発動させる。
「《Snow Thaw》」
瞬間、氷の要塞が全て溶け、否、蒸発した。辺りにもうもうと白煙が立ち込め、視界が塞がれる。
『あ、ま、待って!』
そんなフェイトの言葉に耳も貸さず、暁人はスノウスフィアを奪って逃走した。
アースラの会議室は重苦しい雰囲気に支配されていた。白峰暁人を取り逃がしたが、誰もフェイトを責める者はいない。あの時、あの場で、あんな話を聞かされて、一体誰が冷静でいられるというのだろう。
「……あの人が言ってた事、本当なのかな?」
「それは……どの話の事だ?」
フェイトがぽつりと呟いた言葉に、クロノが水を向ける。他の皆も意識を向けていた。
「管理局が、今回の事を仕組んだって。……ううん、それどころか……」
「フェイト、もういい。」
顔面蒼白になって続けようとするフェイトを遮る。クロノも提督という立場になり、管理局がけっして白い一面だけを持っている訳では無いことは知っている。それでも、暁人の話は俄に信じられずにいた。だが、
「確かに、奴の話は衝撃的で、その上嘘を言っている様にも見えなかった。だが、それでも奴は犯罪者だ。それは揺るがない。……話は捕えてからゆっくり聞けばいい。今は、奴を確保する事だけ考えよう。」
クロノの言葉に、皆が迷いを振り切る様に頷く。疑問を先送りにしただけなのだが、性急に答えを出さねばならない訳でもない。クロノの言う通り、暁人を捕まえてからじっくり聞けばいいのだ。
そんな中、一人釈然としない顔をした少女。はやてである。
「どうかしたのか?」
「ん……いや、ちょっと気になってんけど……研究所にあったスノウスフィアって『7個』だった筈やん?」
「ああ、そうだ……いや、まて。奴は確か……『6個』と言ってなかったか?」
「そう……そうなんよ。数が合わへんのや。」
暁人は過去に四度、護送中のスノウスフィアを強奪している。未発掘のスノウスフィアが1つ。そして今日奪われた7つ。すべてあわせて12個のスノウスフィアが存在している。
この内、暁人が所持しているのは11個。つまり、現存しているスノウスフィアは全て暁人の掌中にある計算だ。だが……
「おかしい……数を偽る理由は無いが……なら、残り一つは何処にあるんだ?」
謎が謎を呼び、手掛かりはあまりに少ない。白峰暁人という人間は、未だ吹雪の彼方に隠されていた。
後書き
伏線のバラマキ方って難しい。もっと読み込んで、読み返して初めてわかるってぐらいにしたいんだけど。
次回は番外編。ちょっとはリリカルなのはっぽい話を入れようかと。クオリティへの期待は無しで。
次回予告
研究所襲撃にで深手を負った暁人は、湯治を兼ねて良く効くと噂の温泉、『黒駒谷』にやって来ていた。
時を同じくして管理局の三人娘もまた、なのはの湯治を名目に黒駒谷を訪れる。
人気の温泉街で起こる、笑いあり、バトルあり、色気あり?の大騒動が今!始まる!!
次回 《ドキドキ!?温泉パニック!!①》
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