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彼願白書

作者:熾火 燐
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提督はBARにいる外伝、ロッソ
  元提督は乗り込む。

 
前書き
前回の要約

「うーみーはーひろいーなー♪」「おーきーいなー♪」 

 
「ブルネイ鎮守府の明石です。荷降ろしの手伝いの要請を受けて、待機してました。」

接舷した『ウーノ・ネイト・オーウェン』に乗ってきたのは、この鎮守府の明石だった。
どうやらこの鎮守府の入港管理や搬入を取り仕切っているのは彼女らしい。
タラップの下では、他の艦娘も何人か待機している。
壬生森が先に電文で連絡していたのが、ちゃんと来ていたようだ。

「うん、助かる。ところで、一番の腕自慢な艦娘は誰かね?ひとつ、直接運びたい手土産があるのだが。」

「私を除けば、高雄ですかね。運べるかどうか、モノを確認したいのですが。」

「うむ、では。」

壬生森はブルネイ所属の明石と高雄を連れて、船室の酒樽を見せる。
中身は敢えて言わないが、明石はピンと来たらしい。

「酒樽、洋酒みたいですが……この薫りは嗅ぎ慣れない匂いですね。香ばしいような、甘いような。」

「そうだろうね。日本に表向きのルートで持ち込まれたのはこれが何十年ぶりだろうか。貴重品だよ、いちおうね。」

「して、この中身は?」

聞いてきた明石に、そっと壬生森は耳打ちする。
耳打ちされた反応は、へなへなしながらヤバイ、これはヤバイ、間違いなくヤバイ、国家予算、赤城給食、エリクシールとか言い出している。
国家予算は言い過ぎだが、エリクシールって表現は的確かもしれない。
数年前までなら命懸けの密輸で僅かに運び込まれて、ブラックマーケットでは同量の金より高い値段が付いていたかもしれない代物だ。
金より高い液体など、エリクシールとしか言いようがないだろう。

「では、後ろでぽかんとしている高雄君。運べるかい?」

「重さや大きさに問題はありません。あの明石が腰を抜かすような物体みたいなので、気を付けて運びますね。」

「そうしてくれるとありがたい。」

こうして、壬生森と丁寧に樽を担いだ高雄は船室から出て、船を降りる。
先に降りて待っていた叢雲が、道案内の艦娘を捕まえていたらしく、その艦娘の引率で鎮守府の中へと向かうことになった。
さて、噂の『Bar Admiral』はすぐ側だ。





「お初にお目にかかる。内務省統合分析室、分析官の壬生森だ。」

「秘書の叢雲よ、宜しくね。」

入口で面食らったが、ここで派手にリアクションするのは思うつぼと見て、出来るだけ平素を維持してそこへ入る。

「そりゃどうも、ご丁寧に。この鎮守府の提督の金城だ。生憎と堅苦しいのが嫌いでね、言葉遣いが荒いのはご容赦願いたい。」

「構わんよ、此方もその方が話が早い。」

鎮守府内の執務室にあたる筈の位置には、噂のバーがあった。
ラフなシャツ姿に前掛けをした強面の男、という風体の金城に勧められて、壬生森達はカウンター席に座る。
資料での姿が一種軍装だったので、会うまでは「陸戦隊の隊長が無理矢理着させられてむかっ腹が立っている」ような写真でしか知らなかったが、どうやら第一印象は当たらずも遠からずらしい。
そして、内装を見回した壬生森はひとまずそこでにこりとする。
まっすぐな木目のバーカウンターとはなかなかわかっている。
並んでいる酒も、インド洋ルートや大陸ルートから入れられる酒は揃っているようだ。
ウォッカまで揃えているとはなかなかの収集癖だと思う。
今日持ってきた酒は、さすがに無いようだが、あったらあったで問題なブツだ。
ないほうがむしろ健全だろう。

そして、金城の隣には駆逐艦娘がいる。
髪の長い子で制服を見るに、夕雲型のようだが……壬生森の現役時代には夕雲型のマスターシップがほとんどいなかったので、誰なのかはわからない。
ケッコン艦リストにもいなかったので、秘書艦という感じでもなさそうだ。
ともかく、バーカウンターの内側にいるということは彼女は助手らしい。
駆逐艦という割には落ち着いた印象で、店の雰囲気をちゃんと立てている。

ふむ、初見の印象は悪くない。
壬生森は呑気に店構えを目で見ていると

「あの……この樽は何処へ……?」

後ろから樽を担いだ高雄が困惑していた。
しまった、と思い、壬生森は振り返る。

「あぁ、そうだった。その樽はカウンターの隅にでも載せてくれたまえ。すっかり失念していたよ。」

うわ、締まらない。
壬生森は内心でやらかしたと慌てていた。
とはいっても、中身はそれを踏まえても驚くに値するハズだ。

「お~。流石、高雄。馬鹿力だなぁ。」

「ちょ、女性に対してその言い方は酷くないですか!?」

「まぁまぁ、馬鹿力は昔からだろうに。酔っ払ってグラス握り潰したのは一個や二個じゃねぇだろが。」

腕力だけじゃなく握力も凄いのか、今の高雄型は凄いな。
壬生森はそんな検討違いなことを考えていると、いつの間にか高雄がいなくなって、金城が聞いてきた。

「……で、これは?」

よくぞ聞いてくれた、と思いながら渾身のどや顔をくれてやることにする。
中身は、それほどにお高いブツだ。
好みはさておき、それがなにかわかるならば腰が抜けてもおかしくない貴重品だ。

「他人の城にお邪魔するんだ。手土産のひとつも準備しないと失礼かと思ってね。」 
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