世界をめぐる、銀白の翼
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四章 RE:BIRTH
輝かない翼
「じゃあ、始めるよ。まず赤銅の翼と、天空要塞都市ラピュタの動向について」
「EARTH」の会議室に、主だったメンバーが集まっている。
全員が入れるほどではないので、何人かは回線での参加になっているが。
「現状、ラピュタに関しては見つかってない」
「まだ?あれを覆うほどの力なんて、サーチかければすぐに見つかるはずだろ?」
あの時
蒔風達の目の前からラピュタが姿を消したのは赤銅の力によるものであることは間違いない。
だがいくらなんでもそれが続くわけがないし、仮に続いてもそんな歪みはすぐに見つけ出される。
つまり
「最初のように・・・雲に隠れてる、ってわけか」
「雲隠れとはこのこと」
「言ってる場合か」
「だったらデカい雲を探せば?あれを隠すほどの雲はそうそうないはずだぞ」
「そうだったら簡単だったんだかね・・・・」
ヴォンとその言葉と共に巨大モニターに地図が現れ、そこに無数のポインターが光った。
その数は見た感じで五十。多すぎる数だ。
「見てくれたまえ。これは今確認できる、ラピュタを包める大きさの雲だ」
「こんなにかよ・・・・」
「もちろん、このすべてが本物ではない。だがあまりにも高性能な幻術だ。ほんの少しの実体を混ぜ込まれている」
いくつかの雲は幻影である。
だた、それなりの大きさの雲を包むような幻影なので、実物かどうかは近づいてみないとわからない。
しかも動きもその雲をもとにしているから、パターンからも読み切れない。
「さらに本物の雲もいくつか作り出されている。この中から調べるのは現実的ではない」
これだけの数、調べるには戦力を分散させなければならない。
だがそんなことをしては見つけた時に全滅だ。
順番に調べようにも、すぐに新しいのが作られていたちごっこか、あるいはノーマークのところから出てくるかもしれない。
そうなっては取り返しがつかない。
「結局は後手に回るしかないのかよ・・・・・・」
「さらに言うなら、もしこのステルス機能が赤銅の能力ではなく、ラピュタの機能の一つだったら余計に打つ手がない」
「だったらできる方で頑張るしかないだろ」
「・・・・もしもの時の準備はしている。すぐに対応できるように、関係各所には通達済み。こっちもすぐに動けるようにしている」
そうして、モニターが閉じられて別の話に移る。
「協力してくれる組織は?」
「ZECTですが、紆余曲折あって今は警察組織の一部になってるから、相手がワームでない限り大きな戦闘はできないってよ」
「ライダーは全員「EARTH」に参加するから、問題はないがな」
「市民の避難誘導とかを受け持ってくれるらしい。それだけでありがたい話だ」
「時空管理局は二段階作戦と称して、こちらの攻撃が終わってから第二段攻撃を受け持つと提案してきたけど・・・・・」
「多分、傍観からのいいとこどりや。あまり頼りにできへんかも・・・・」
「はやてたち自身は?」
「あ、うちらはだいじょうぶやで。というか、うちらを出すことで「何もしなかったわけじゃない」っつー言い訳にするつもりやな、これ」
「しかも引退したゲイズ氏を指揮官に任命って・・・・完全にスケープゴートにするつもりじゃないか?」
「今ここで上層部に関して愚痴を言ってもしょうがない。他は?」
「学園都市は武器や技術の提供に止まってます」
「あの街は何も国家じゃない。出てくる戦力だって、とんでもないとはいえ教員だしな」
「教会各所は?」
「あれらは自国の守りに徹するのが手一杯のようですね・・・・」
「魔術師の団体、組織は無数にあるからな。そうならざるを得ないか・・・・」
「「猛士」は今までどおりに行くぜ。オレらは出来る限り闘う」
「大半は避難誘導とか救助活動とかの援助ですけどね」
「いや、助かる」
「トゥスクルは・・・・・」
「・・・・すまない」
「仕方ないさ。一つの国だ。そもそも、ここまでハクオロさんに協力してもらうだけでも申し訳ないくらいだ」
「皆の避難と安全が確認できたら、すぐに向かう」
「本当にすみません」
「と、言うことだが・・・・・」
各所の報告が終わり、話が蒔風に振られる。
話を聞きながら手元をいじっていた蒔風がおぉ、と顔を上げて要約する。
「つまり「EARTH」は赤銅の翼が出てきたら戦いに専念できるってことね?」
「ああ」
「そか。じゃあ、みんな頑張って行きましょー」
そういって、話を終わらせる。
行きましょう、という割には、彼自身にやる気があまり見られない。
一人だけ、この場にいながら、輪から外れていた。
------------------------------------------------------------
「父さん、いいんですか?」
「・・・・・指揮権はもらったからな」
「だけど、これじゃただの傀儡です!!このままだと・・・・・」
「だが、世界を護るために拝命したのだ。これが奴らの思惑通りであろうとも、儂は儂のやるべきことを為すだけだ」
時空管理局の一室。
彼に割り振られた一室で、レジアス・ゲイズとその娘、オーリスが言葉を交わしていた。
レジアスはJ・S事件の際に管理局を辞していたが、今までご意見番のように助言をしてきて、さらにはそれを求められたこともある。
管理局にはいまだ、彼に世話になった者が多くいる。
辞したのは、罪に対する責任感から。
それでも何かをするのは、亡き友の想いと、自らの正義から。
だから今回も何かしなければと立ち上がったのだ。
しかし、顔を出した瞬間に上層部会議室に呼び出され、この戦いが終わるまでの管理局の部隊指揮権を渡されたのだ。
それの意味が解らないレジアスではない。
恐らく、娘の言うとおりだ。
「体の良い置物にされるのだろうな」
「しかも管理局は高みの見物をする気ですよ。父さんにすべてを擦り付ける気です!!」
「いや、だからこそいい」
いいように使われてしまう。
心配する娘をよそに、レジアスは笑う。
「他の奴では、何をするかわからんからな。自分がこの位置にいる方が、対策をいくらも立てられる」
「・・・ですが・・・・・」
「心配するな」
もうそんなことをされる歳ではないのだろうが、レジアスがオーリスの頭にポンポンと手を乗せる。
「自分たちが上にいるというだけで、自分たちだけで守った気になっている若造に、一泡吹かせてやるわい」
ぐぁっはっは、口を開けて笑うレジアス。
好き勝手はさせない。
その意思が、とって見れる。
------------------------------------------------------------
ギィ
「・・・・・・・・」
ギィ
「・・・・・・アー・・・・・」
ギシ
「ふあーーーーー・・・・・」
「何してんですか」
「EARTH」の局長室
その部屋の椅子に座って、ゆっくりと回りながら蒔風が気の抜けた声を出していた。
それを見て咎めるのはアリスである。
「ほら!!みんなだって体は動くようになったんですから、あなたも協力してくださいよ!?」
「いや、ほらだってさ。皆がいれば何とかなりそうじゃん?」
「・・・・・本当にそう思いますか?」
「とりあえず、俺は戦わないよ。というか行きたくない」
「力があるくせに?」
「力があっても死ぬときは死ぬよ?それが嫌なのだ」
机にべったりと寝そべって応える蒔風には完全にやる気がなくなっていた。
否、向かった先を恐れて、やる気を出さないようにしているだけか。
「・・・・・必ず、戻ってきてくださいね」
「・・・・・・」
アリスが、一言残して退室する。
その言葉に、蒔風は机に伏したまま手をひらひら振って応える。
そして、一人になって
「・・・・また戻れってかよ・・・・」
拳を握る。
歯を食いしばる。
言葉を漏らす。
「畜生・・・ふざけんなよ・・・・・・」
自分に向けたものか
誰かに向けたものか
それは彼にしか分からない
------------------------------------------------------------
空は見えない。
ここは巨大雲の中、当然だ。
光を遮るほどの厚さではないので、周囲一帯が霧のようになっていて、手を広げた範囲くらいは見える。
そんなところから何が見えるというのか、赤銅の翼は景色を眺めるように立っていた。
「世の形が変わりているのだな・・・・・・」
翼を開き、言葉を漏らす。
そしてを軽く振るって、地面を三か所、軽くつついた。
フォン・・・・・・
「光」
グォン
「闇」
スゥッ
「虚無」
空中都市の一角に、新たな三人の影が生まれる。
その影は赤銅を二歳くらいは小さくしたような少女の姿をしていて
「破壊するのかい?」
「ど、どうしま・・・・しょうか・・・・?」
「・・・・・・・・・」
一人は活発そうな、一人は暗そうな、そして一人は無感情な顔をしていた。
「世界・・・・・抗いの力、見せたもうて」
こちらも、準備を整える。
大きな、戦いに向けて。
------------------------------------------------------------
「巨大質量反応あり!!!」
「全長約40.5km・・・・・間違いないです!!」
「ラピュタか!?場所は!!!」
モニターが目まぐるしい勢いで展開され、いくつものデータが飛び交って行って地図のある一点をさしていく。
その場を見て、オペレーターの朱里が叫んだ。
「エリア三国!!ポイント35!!」
「あそこには一刀さんたちの家が!?」
情報が流れる。
直後、屋上から爆発音が鳴り響き、蒼青の光がその方向へと一直線に飛び出していった。
「一刀!!」
「ご主人様が先行して飛び出してしまわれたぞ!?」
「総員に通達!!赤銅が来たぞ!!!!」
------------------------------------------------------------
唸るサイレン。
響く警報。
準備ができ次第、次々とメンバーが「EARTH」から飛び出して行っている。
その中で、一人だけ姿を見せないものがいる。
「蒔風のやつはどこ行ってんだよ!!」
「今の彼はいつもと違う・・・一体どこに・・・・」
「EARTH」の中を、翔太郎とフィリップが駆けていた。
理由は明白。蒔風がいない。
リボルギャリー到着までの時間、彼らはビルの中を走り回っていた。
そして
「見つけた!!」
蒔風を見つけた。
コンピュータ室で四台のパソコンを使って、ものすごい勢いで情報の整理をしている。
「な、なにを・・・?」
「関係各所への通達。避難誘導経路の確保。避難所の提示。やることは多い」
翔太郎の言葉に、淡々と答える蒔風。
だが彼が聞いているのはそういうことじゃない。
「お前・・・戦いにはいかないのかよ!!」
「敵の前に立つことだけが戦いじゃないさ。俺はこっちだ」
「そうかもしれないが、お前は一番の戦力だろ!!」
「クラウドと変わらないさ」
「おま・・・・」
言い訳にも聞こえるような蒔風の言葉に、翔太郎がせかすように言葉を繋げていく。
しかし、そこでフィリップが待ったをかけた。
「翔太郎。ギャリーが到着した。急がなければ」
「ッ・・・・~~~~~!!!絶対に来いよ!!絶対だぞ!!!」
《サイクロン!ジョーカー!!》
振り向くことのない蒔風の背後で、変身音が聞こえてきてWが去っていく。
だが、その場にフィリップの体が倒れ込んだ音がしない。
「本気でいかない気ですか」
「・・・・今度は・・・・・アリスか・・・・」
モニターから目をそらさずに言葉を発する蒔風。
その背後には、フィリップを支えるアリスが立っていた。
言及する。
「皆が戦いに行くというのに、あなただけこんなところにいる気ですか」
「うるさい。これだって必要なことだろ」
「しかし、あなたはもっと行くべきところが・・・・」
「そこに向かって、死ぬ思いをして来いと言うのか」
アリスの言葉を蒔風が遮る。
その声は、心なしか震えているようにも聞こえた。
「こんな形だけどな・・・・やっと、普通に戻れたんだ」
蒔風が言う。
蓋を外そうとすればできた。
だが、それは彼自身の喪失を意味する。
今まで戦ってきた、彼の意味が。
しかも、事件や戦いは終わりを見せない。
蓋は、外せなかったのだ。
「だけど外れた。今の俺は、戦うのが・・・・否、死ぬのが、何より怖い」
「立ち向かいなさい!!」
「そうして俺を無理やり戦いに駆り出すのかよ!!あんたは!!!!」
ガシャンと、蒔風の座っていた椅子が倒れる。
その音と同時に、アリスの胸倉に蒔風は掴みかかっていた。
「何もかもあんたが言ったからだ!!俺が戦わなきゃいけなくなったのも、無数の世界で死にかけたのも!!思い出しただけで見ろ!!こんなにも体が震える!手に力が入らない。足がすくんで踏み出せない!!!一番最初にあんたが来た時、俺が答えたられたのは死ぬのが怖くなかったからだ!!理から外れていたからだ!!それがなくなっても、あんたはまだ俺に戦えというのか?命を落とし、苦しむような場所に行けと言うのか!?」
「それは・・・・」
「俺はな、そりゃ多少のケンカはしていたが、命のやり取りをするような人間じゃなかったんだよ!!それをあんたが駆りだした。俺が理からずれているのをいいことに!!!」
一呼吸して
「そんじょそこらの人間に、いきなり力が与えられ、それで死に物狂いで戦えというのか!?あぁ、確かに経験はあるさ。戦い方もわかる!!でもな、だからと言って簡単に命かけられると思うな!!死ぬのがどれだけ怖いか、あんたにわかるか!?えぇ!?」
アリスが悪いわけじゃない。
何も悪い者などありはしない。
だけど、だったらこの感情は何処に向ければいいのだ?
この噴き出す不安を、どこに
そんな間違い、わかってる。乗り越えるべきだと、理解している。
でも、その一歩が踏み出せない自分が、たまらなく嫌だ。
「ああそうさ!!戦わなきゃならないんだよ!!立ち向かわないといけないんだ!!こんな俺が嫌で嫌で、だから「蓋」を作ったんだ!!でももうあんなもの作りたくない。俺はもう!!人間でいたいんだよ!!」
アリスの胸倉をつかむ手は、いつしか力をなくしていた。
掴みかかっていたその手は、今はまるで、救いを求めてすがりつくような。
「俺も・・・みんなと・・・!!!でも・・・・怖いんだ・・・・!!」
------------------------------------------------------------
アリスが、部屋を退出する。
フィリップの体を医務室のベッドに寝かせ、それから携帯を取り出して連絡をはじめた。
「もしもし、私、アリスです。・・・・えぇ、お願いします。あれだけのもの、何のサポートもなしにあるわけありません」
『わかりました。彼も?』
「そうですね・・・連れて行きます。荒療治が必要のようですから」
『うまくいきますか?』
「やらねばなりません。借り出したのも私です。追い詰めてしまったのも、私です。だったら、彼が立ち直れるようにするのも・・・・・私の責務です。長岡さん、データをよろしくお願いします」
『集めておきましょう』
通話を切る。
そして、振り向いてさっきの部屋に視線を向ける。
(あなたがそう思うのは当然のことです。死ぬのは、怖い)
視線を前に戻す。
(それがだめだと、わかっている。乗り越えたい。でも恐怖が勝って、それができない。乗り越えたくない、わけじゃない)
だったら
(私が、かならずそこに行けるようにします)
「願いの翼人の願いがかなえられなかったら・・・・・一体どこに救いがあるというのでしょう?」
あなたは、一緒に戦いたいのですよね?
だったら―――――
いままであなたに任せきりだったこと、私が引き受けます。
あなたの願いは、私がかなえる。
to be continued
後書き
動きだす赤銅
動けない銀白
戦わなきゃいけない。でも身体が動かない。
アリスは立ちあがらせることができるのか!?
もう言うより荒療治した方がいいと思いますね、あれ
赤銅は赤銅で戦力を増やしましたね。
あの三体をどう使っていこうかは決まってないです!!!(ドーン!!)
アリス
「えぇええ!?」
とりあえず出した。
戦わせてみますよ!!
次回、VS赤銅's
ではまた次回
追記
ラピュタの全長はATD-X様が算出してくださいました。
ありがとうございました!!
ページ上へ戻る