世界をめぐる、銀白の翼
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第四章 RE:BIRTH
be Put Down
「ラピュタは・・・・・見つかったのか?」
「依然として消息がつかめません。あんな大きいもの、一体どこに・・・・・」
松葉杖をつく一刀と、モニターを前にして情報を集めている朱里が言葉を交わす。
しかし今仮に見つかったとしても、この状態ではどうしようもない。
他のメンバーの意識は戻ったものの、戦闘ができるほどではない。
クラウドはまだベッドの上だし、一刀もこの通り松葉杖の状態だ。
そして、「EARTH」の局長は――――――――
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「・・・・・こんなもんか」
床に散らばっていた漫画を積み上げ、作品、巻数順に本棚に並べていく。
いらないものは分別して、直接ゴミ袋に。いっぱいになったら口を結ぶ。
枕や掛布団を干し、部屋の空気も入れ替える。
蒔風舜は今、自室の掃除をしていた。
片腕はまだ首から吊っているが、立ち上がって掃除をするくらいには回復しているようだ。
「ふ~んふふ~ん・・・・・っと」
そして、ごみ袋を種類別に外に出す。
空が、眩しい。
今この瞬間、世界は穏やかだった。
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「なんで!あの!バカは!!」
「荒れてんなぁ・・・・」
「勝手に!決めて!勝手に!暴走!してん!のよ!!!」
言葉一つに尽き一回ずつ、ダゴン、バゴンと重い音がトレーニングルームに響いている。
その発信源は、サンドバックである。
一回殴られるたびに跳ね上がり、天井に張りついてきては戻ってまた、打ち付けられる。
その腹にたまったものを吐き出している唯子を見て、泉戸裕理がスポーツドリンクをストローで吸いながらつぶやいていた。
唯子の憤りももっともだ。
洗脳されてるから、助け出そうとして行ってみたらそれは解けてて
手を伸ばしたら投げ飛ばされるは打ちつけられるはで
しかもその理由が「耐えられないから」と来たものだ。
それらにもムカついているのに、さらにむかつくことに―――――
「なんで!私は!まだ!弱いのよ!!!」
その彼を、無理矢理にでも引っ張ってこれなかった自分が腹立たしい。
あんな死にもの狂いで手に入れた(入れてしまった)この力でも、彼には届かないのか。
そう思うと、たまらない感情が身体を埋める。
やるせない。
しかも、相手の赤銅の翼人は、その翼刀を「連れて」行ってしまったのだ。
悔しい、という感情もある。
人はそれを嫉妬と呼ぶ。
自分では行きつけなかった彼の隣に、あれはあっさりと取り付けたのだから。
「あの!女!絶対に!ブチのめして!やるんだから!!」
ブチィッッ!!!
そうして何度打ち込んだのか。サンドバッグの鎖が切れ、天井ではなく向かいの壁に叩きつけられて破裂した。
ジャラジャラと鎖が揺れている。
「あ・・・・壊しちゃった・・・・・」
「派手にやってるね」
「・・・長岡さん」
そのトレーニングルームのカウンターから様子を眺めていた長岡が、テーピングと冷却スプレー、そしてドリンクを持っていやってきていた。
壊したことを怒られるのかと頭を下げる唯子だが、いいのいいのと長岡は手をひらひらさせる。
「いまさらだしねー」
「う・・・・」
そうしている長岡の視線の先にあるのは
・ベルトが引きずり出されているルームランナー
・重りが跳ね上がってしまっている筋トレ器具各種
・バネが所々飛び出ているマットレス
・壁に叩きつけられたサンドバック(今ここ)
という面々。
最初はびっくりしたが、ここまで来ると逆にどこまでいけるのかと面白くなってくる。
「ま、これ以上はされると困りますけどね」
「あ、あはは・・・・」
「だから、これから実践訓練しません?」
「え?」
「うっぷん晴らすにしても、ここの物じゃ耐えられないでしょ?」
「でも・・・・」
「傷つけちゃうの、怖い?」
「・・・・・はい」
唯子が頷く。
やはりなんであろうと「力」は何かを傷つけてしまうものだ。
自分であろうと、相手であろうと、心であろうと。
勝つ以上は、負けた方の心に「悔しさ」を与える。
「うん、それでいいんじゃないかと、思うわ」
「そう・・・ですか?」
「それはあなたのやさしさだから。どんな状況に投げ出されても、前に進もうとする、貴女の良いところ」
「考えてないだけですよ・・・・」
「でも、自分が傷つくのを恐れてしまってる人が、いるでしょう?」
長岡の言葉に、唯子が言葉を止める。
鉄 翼刀。
責任から押しつぶされそうになり、悪に逃げてしまった男。
傷つくことを、恐れてしまった男。
「目、覚まさせてやらなきゃね」
「でも・・・どうやって・・・・・それに、赤銅のとかって言うのも・・・・」
「好きな人、取られちゃってもいいのかしら?」
「それはっ・・・・」
「じゃあやることは一つね。引っ叩いてでも奪い返して、引きずってでも連れてくること!」
「・・・プっ・・・・それじゃ、ただの昼ドラです」
「あら?女の内面なんて、そんなもんじゃない?」
そうして、唯子は長岡と共に訓練場に向かう。
そして、その場で
「このワンちゃん強いッ!?」
「恋の道は修羅の道よー?だったらゾンビがいてもおかしくないでしょー?」
「だからって本当につれてこないでくださいよ!!!」
凩と、地獄のような実践をしていた。
木刀でも、彼は強かった。
余談だが、この木刀は彼の手製である。
「精神統一には、こういう作業もいいものだ」
「EARTH」の売店で一本5000円で売ってる。
凩(犬状態)のストラップと並んで、人気商品だ。
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「・・・・ということになります」
「ご苦労。下がってよい」
時空管理局では、八神はやてが上層部に今回の翼人についての報告書を提出していた。
その部屋から彼女が退出し、上層部のみでの回線会議が始まった。
「どうするかね?」
『「EARTH」には管理局から出向している者もいる。こちらの責任にされないかね?』
『あくまで彼らは「EARTH」名義だからいくらでも言えるわ。なんなら、こちらからの指示でデバイスの取り上げもできる』
「それはあまりにも反感を買うだろう」
『報告書を見るに、「EARTH」だけで勝てる可能性は?』
「あまり高くはなさそうだ。翼人三人いて、この体たらくだからな」
『我々はどうすますかな?助成いたしますか?』
「・・・・・これは「EARTH」の問題だ。それでどうなろうとも責任はあちらがもってくれるし、下手に手を出してわれわれが損害を被る必要もない」
『では・・・・傍観いたしますか』
「最終的に勝つのは我々だ。いくら規格外の化け物であろうとも、「EARTH」と事を起こした後でまともな戦闘ができるわけがない」
『そこを時空管理局が倒す・・・と?いいとこどりですな』
『君、そこは合理的と言いたまえ。一度に行くよりも、継続させて疲弊させた方がよかろう?』
『それに、相手は一人だそうじゃないか。まったく、「EARTH」は何をしておるのか』
『もう一人不確定要素の青年がいるそうですが?』
「そんなもの、奴らの一味として薙ぎ払ってしまえばいい」
『世界の守護者面しおった若造どもが。今こそ真に世界を護ってきたのがだれなのかを思い知らせてやる』
『待ってくれ。手を出さないにしても、世論からは抗議が来るぞ?』
『確かに・・・・傍観していたのかと言われそうだな』
『時間は浅くとも、あちらにはいくつかの実績がある。それは避けられんだろう』
「諸君。それに関しては大丈夫だ」
『ほう?』
「こういう時、つまらぬ正義感から勝手に押しかけてくる元・地上の英雄がいるからな」
『なるほど。彼に任せて、そのまま・・・ですな?』
『無論、権限など与えぬ。終われば用済みよ』
『尻尾切りですな?いや、もう彼は切られてましたか!!はははははははは!!!』
その時、通信が入る。
受付からの連絡で、客人が来たとの内容だった。
「拍手して迎えようか。引退したにもかかわらず、平和のために動いてくれる、彼に」
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「どうだった?はやて」
「うん・・・・とりあえず、うちらに関しては何も言われんかったよ」
「よかった・・・・」
管理局地上本部前で、はやてを迎えに来ていたフェイトが彼女を乗せて走らせる。
彼女らは「EARTH」にも登録はしてあるが、その本分は時空管理局員だ。
だから、向こうから「やめろ」と言われればそうするしかないし、デバイスの取り上げだって、履行されれば逆らえない。
「ま、言われた時は本気で「EARTH」に就けばいいんやけどな」
「でも・・・・」
「・・・・・・・・」
確かに、「EARTH」に所属でもいいかもしれない。
だが、あくまでも「EARTH」という組織は、言ってしまうと「蒔風舜の友だちグループ。世界の平和のため、がんばります!!」みたいな集団なのだ。
いくらパイプがあっても、まだ公的機関とは言い難い。
「それにうちらのデバイスはともかく、ティアナ達のデバイスは管理局で作られたもんや。向こうがなりふり構わなくなってきたら、取り上げる権限とかでっちあげるに決まっとるしな」
何のために、戦うのか。
それは決まっている。
だが、この世界には障害が多すぎる。
to be continued
後書き
各人来るであろう戦いに備え始めていますね。
・・・一人を除いて(チラっ)
蒔風
「(フイッ)」
目をそらすな
アリス
「またヘタレ回ですか?そういうの読者がだれるからやめなさい」
いいえ、やめません。
他の人たちはしっかりを動きますし。
それに、彼には乗り越えてもらわないといけませんからね。
貴女の出番も有りますよ、アリス。
アリス
「マジか!!よし、もっとヘタレて!!」
蒔風
「それはことわーる!!!」
次回、動き
今回の後編みたいな感じですね。
ではまた次回
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