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北欧の鍛治術師 〜竜人の血〜

作者:観葉植物
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プロローグ 始まりの咆哮
  始まりの咆哮Ⅱ

「竜・・・⁉︎」
「ええ、竜です」
ユスティナ・カタヤ要撃騎士は驚きを隠せなかった。なにせ自分の中である程度の返答は予想していた。しかし竜までは予想していなかった。というよりできるはずもない。竜は基本的に気性が荒く、古くから縄張り争いや雌を巡った闘いのせいでその数を減らし今では存在の確認さえ困難な程になってしまった。しかも人間の言葉を理解するなど一部の高位の存在が可能な芸当だ。ワイバーンなどの比較的数が多い種族は知っているが知能は動物と然程変わらないと聞く。高位の竜が大量に繁殖するなど街の一つや二つ焼き払われても不思議ではない。それが共存するなど考える事さえ困難だろう。
「竜が共存するなど聞いたことがありません!何かの間違いでは?」
「それがこの話には続きがあるのです。竜と人間たちは相互不可侵条約を結んだとはいえ簡単な交易などは行っていました。竜たちは巣で取れる特殊な石を、人間たちは自分たちの育てた果実類が中心の農作物を。双方はこれらの品を物々交換という形で流通させていました。そして長い年月が過ぎたある日のことでした。人間の集落だった場所は王都に。周囲にも街が出来ていき、ただの一部族だった人々は国を作り上げました。これが現在のアルディギアの基盤となった国、今風に言うと旧アルディギアです。しかし繁栄と平和も束の間、急発展した隣国から攻撃を仕掛けられ、辺境の村が焼かれ、住民が1人残らず殺されました。これに旧アルディギアは反撃、血みどろの、血で血を洗う戦争が始まりました。一時は旧アルディギアに軍配は上がりましたが戦争の後期には隣国が有利になっていきました。そんな時、竜たちからある武具がアルディギアにもたらされました。それはとても強大な魔力を宿した鎧でした。その鎧を纏って何かを振るえばただの棒切れでも数キロに渡って破壊の爪痕を残します。そんなもので剣を振るえば・・・結果は火を見るよりも明らかでした。隣国は一気に劣勢に追い込まれ、結局多額の賠償金を負ったまま当時その国を統治していた一族は滅びました。アルディギアは戦争に勝利し、国は守られたのです。・・・そこまでならよかった。しかし、これも世の常。欲に目が眩んだ政治家のひとりが鎧を解析し、それが竜の鱗などから作られていると知ると王に悟られぬよう、竜たちへの攻撃を開始したのです。まず真っ先に狙われたのは竜の雛。次に卵。そして雌と老いた竜。最後に若い竜や屈強な雄たち。その政治家はその鎧を大量生産して王に献上して出世しようとでも考えていたのでしょうか、狂ったように進撃を続けました。王に直接伝令が届きそうならあの手この手でそれを揉み消し、結局、政治家の足元には大量の竜の死体が並べられました。そしてやっと王の耳にその報告が上がりました。しかし時はすでに遅かった。王の説得に竜たちは耳を貸さず、人間はそれに応戦するしかなかった。そうして互い仲は険悪になり常に国境には重厚な警備が敷かれるようになりました。カタヤ要撃騎士、あなたは『竜と少女』という童話を知っていますか?」
「それならば子供の頃に読んだ記憶があります。確か少女がある日竜に出会い、それからの彼らの半生を綴る内容だったかと」
「そうです。現在アルディギアに出回っているそれの終わりは『少女と竜は仲睦まじくいつまでも暮らしました。』という謳い文句で締められています。これには続きがあるのです。実際は物語の終わりから数年後、少女と竜は結婚するのです」
「・・・⁉︎」
もう驚くなと言われても無理だろう。開いた口が塞がらず、声も出ない。異種族間での結婚などここ数十年でやっと聞き始めた言葉である。それをずっと昔にしていたなど、どれだけ最先端を行くのだ、そもそも竜が街中に入ればすぐさま騎士か兵士が飛んできて居座ることもままならないだろう、とユスティナは頭の片隅で考えていた。放心状態のユスティナを見てラ・フォリアが微笑みながら続けた。
「ほんの一部に限られていますが、竜はその姿を変えることができるのです。それも自分が望んだ姿に。少女と結婚した竜はその力を持っていました。そのおかげで人間の街に入ってもバレなかったのです。ですがある時、秘密を知った者からの密告が王宮に届き、すぐに竜と少女は連行されました。普通ならば処刑されるところですが竜にはある交渉の材料がありました」
「材料・・・?」
「その竜の一族は鍛治術師(ブラックスミス)だったのです。その技術と自分が竜であることを武器に彼は王に向かってこう言いました。『彼女を開放すれば、ここで腕を振るおう。だが彼女に何かあれば自分は本来の姿に戻って王宮を焼き払う』、と。王は反竜体制に積極的ではなかったのでその提案を受け入れました。それと同時に彼の打った剣を使用し、反竜派の政治家を捕らえて処罰しました。同時に王は彼に竜と人間の橋渡し役になってくれないかと頼みました。そこからの両者の関係は良好なものになっていきました。以前のような信頼は無くなりましたが、それでも最悪の時期よりはいくらかマシになりましたね。話が逸れましたね。それから数年後、彼と少女は子供を出産します。人と竜との間に生まれた子は暫定的に竜人(ドラゴニュート)と呼ばれました。鍛治術師(ブラックスミス)の一族の者であった彼はその子に竜のしきたりに従って自分の冶金(やきん)技術を伝えました。この時、王宮ではある計画が進められていました。竜たちを人工的に繁殖させようという計画です。と言っても人間側は住処や食料を与えるだけなんですけどね。その甲斐あってか、今では全盛期の半分ほどの数に増えました」
「しかし姫様、それほどの数の竜たちをどこに住まわせているのですか?領地内のどこかなら誰かに発見されるのも時間の問題ですし、ましてや領地外に住まわせるわけにもいかないのでは?」
「実は、王宮の地下を中心に広大な空間があって、竜たちにはそこに住んでもらっているのです」
ユスティナはもう驚かないことにした。自分の勤務先の足元に竜たちが住んでいるなど想像するだけで恐ろしいが彼らは知性ある竜。刺激しなければ大丈夫なはずだ。
「アルディギアは法律で鉄道事業に規制をかけ、地下鉄などの坑道事業を禁止しているでしょう?あれは竜たちの住んでいる空間に振動や騒音などを伝えないようにする為なのです。それと、王宮では彼らの血を絶やさないシステムとして18になった者は竜の巣に行って相性の良い竜を探すことになっています。もし見つからなければ、その者は人間と結ばれて子を成します。そのようにしてあの一族は技術と血を絶やさぬにようしてきました。しかし、此度の事故で死んだ彼女は15、伴侶探しはまだ行われておらず、両親は既に亡くなっています。実質的にあの家系の最後の者でした。大臣たちがあんなに騒いでいたのはそう行った事情のせいなのです」
「それで姫様は移植を受けた少年を連れて帰ろうとお考えになったのですか?」
「ええ、輸血も受けたという話ですからもしかしたら臓器や血にある固有蓄積時間(パーソナルヒストリー)を受け継いでいるのではないかと考えての事です。そして、その彼なら鍛治術師(ブラックスミス)を継いでくれるのではないか、と」
「それで、少年を移送されるのですか?もしそうであればすぐに手配しますが」
「そうですね、ではお願いします。もちろん、彼女の遺体も」
「了解しました。しばらくお待ちください」
一時間後、飛空艇は2人を引き取るとドイツを飛び立った。 
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