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入れ替わった男の、ダンジョン挑戦記

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誕生、前代未聞の冒険者
  第九話

僕の素性を明かした途端、凄く騒がしくなったララを落ち着かせるのにかなりの苦労を要し、時間も遅いので今回はお流れとなり、ララは宿屋に、僕は家に戻った。

そしてそれから、何かとラビル族の商人が親しげに接してくるようになった。ラビル族は亜人の中では戦闘を得意としていないため、これまではダンジョンの商売に手を出せなかったが、僕が転移を解放したので、好機が舞い込んだのだ。

そもそもが目利きのよさと愛嬌のある身なりで評価のある商人だ。もうダンジョン内で、かなりの需要を叩き出しているらしい。

「ほんと、商魂逞しいよね」
「でもヨーンは最上級待遇だろ?俺達も、あの美人なウサギのねーちゃんに接客してもらいたいぜ」

ダンジョンに潜っていたら、目敏く発見されては買い物を勧められてはテンポも狂う。早々に切り上げ退却し、冒険者中間に愚痴るが、羨ましがられるだけだった。

ラビル族の商売は、基本は男性が行い、余程のお得意様か信用できる相手ならば綺麗所がお相手するのだとか。

残念ながら僕にはあまり得になる情報とはならないだろう。何せ潜って買い物をするほど長居しないし。

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しかし僕もダンジョン以外ならば買い物もする。日々の探索には入念な準備が不可欠だし、武器の点検も重要だ。

折角早めに切り上げたのだからと盛大に使ってきた武器のオーバーホールをリアさんにお願いしに行ったら、ばったりララと遭遇した。

「ララがリアさんの店に?…お手伝い?」
「アチャー、ヨーン君もそう思っちゃったかー」
「ララが武器のお店にいたら問題なのです!?」

予想通り、というリアさんの反応に、大体の人物がそう返すだろうと思った。何せ亜人の中でもブッチギリの非戦闘民族だ。場違い甚だしいと言える。仕入れなら理解できるが、ララはしきたりの真っ最中で、商売はしていない。ならば?

「…もしかして、買って使うの?」
「ハイです!ララは冒険者になってやるのですっ!」

…無茶じゃないかなー?

「リアさん、売るの?いや、客なら売るんだろうけどさ…」
「言いたいことは分かるよヨーン君。ま、一通り試してもらってかな?」

非力なラビル族に使えるの?と言葉の内に込めて問うと、使えるか確かめてから、とのことなので、少し見ていくことにした。

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~剣~

「王道の剣をこうやって…アーッ!?」
「危な!スッポ抜けたんだけど!?」

~槍~

「ララの突きはモンスターの大群を一掃するのですっ!」
「ウーン、突けてないし持ち方も間違えてる…」

~銃~

「この軽さならララでも楽勝なのです!後は的を…ヒャッ!?ウウッ、ビックリなのです…」
「…自分で撃ったのにビビっちゃ駄目でしょ…」…と、まあ期待を裏切らない結果を、この後も次々ララは披露してくれた。

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「そんな…おかしいのです…ララに合う武器が無いなんて…」
「あ、アハハハ…」

ララの物言いにリアさんも苦笑しかでない。

それはそうだろう。大半の武器でやらかして武器が悪いなんて言われたら、反応に困ってしまう。

ふと店内を見ると、珍しい武器があったので訊いてみる。

「リアさん、コレは?」
「あっ、ソレ?お姉さんの最新作、関節剣『アスクレプス』!出来立てホヤホヤだよ?」

陳列されていたのは蛇腹剣とも称される使い手の腕が要求される一品。正直、僕には合いそうにない。…が、

「ソレです、ソレなのです!ララはソレを買いますっ!」

ララの発言にリアさんは絶句した。腕もだがお金はあるのか?

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買うにせよ使い勝手を見なければ、とのことで、リアさんは気分上場なララに付き添い、ダンジョンでお試しすると店を閉じてしまい、メンテナンスを言いそびれてしまった。

ならば他をと思ったが、腕の良い職人を知っているわけでもないので、素直に人に訊こうと僕もダンジョンに、今日は気分を変えて『塔』に行ってみようと歩き出す。

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「へぇ、此処が『塔』の受付…メカメカしいね」

塔の受付も僕が普段潜るダンジョンと造りは大差無いが、此方の方がより機械的だ。機能が自動化されているのか、受付の人も少なく、大抵の作業は機械が請け負っている。

その違いに目をやっている僕に冒険者達が気付き、にわかにざわめきだした。

『ヨーンだ…』
『根城は向こうだろ?何で此方に…』
『塔も攻略開始か?』

推測する冒険者を見ながら、話せそうな冒険者を探す。…んん?

『おいおい、ヨーンの奴よりによって…』
『物好きだな、変わり者に接しに行くなんて』

何か言われているが関係無い。僕は『この人』と話してみたい!

「お侍さん、時間良い!?」
「…某でござるか?」

僕はリアルな侍に出会った。

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「…その、あーてぃふぁくと?とやらや、得物の手入れを出来る者を探しに来たでござるか…むぅ、某刀剣に心得はあれど、残念ながら魔の類いに疎く…、申し訳ないでござる!」
「そんなに謝らなくても大丈夫だよ。それより、『ハヤテ』の話を聞きたいんだけど…」

場違いな程浮いた格好の侍、ハヤテと名乗った彼は、親子二代でこの塔を探索する冒険者らしい。腰に下げた日本刀もかなりの業物のようで、数々の魔物と困難を切り伏せた相棒だとか。

「塔に挑む日々に苦痛はござらん。某自らが選んだゆえ。しかし、厄介になっているお宿の食事が…」
「問題なの?質?量?」
「味も量も十分でござる。しかし…しかし某!米を食べたいのでござる!!」
「あー…」

ハヤテの嘆きに納得した。僕が生活する近辺は和洋折衷、割と色々な食事が出来る。しかし、この塔の辺りは完全に西洋風、和が全くないのだ。

純和人間のハヤテには辛い環境だろう。

「父が先んじて冒険者を退き、軟弱なと憤りもしたでござるが、今なら父が去った気持ちも分かる…!銀シャリと味噌汁の献立がこれ程恋しいとは…!」

悲嘆を隠さないハヤテだが、親子共々ダンジョンの方に足を向けるという選択を何故しないのか。

「某、極度の方向音痴で…、少し歩くだけで自分が何処に居るか分からなくなるでござる
…」

コレには言葉を返せなかった。

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「英司殿!美味、美味でござる!久々の米…、某の五臓六腑を癒しているでござる!!」
「落ち着いて。ご飯は逃げないから…」

ハヤテの嘆きを見るに見かねた僕はまたもや女将さんのお世話になり、ハヤテに久しぶりの和食を提供していた。目にうっすら涙を浮かばせながら、嬉しそうにハヤテは箸を運んでいる。

「英司殿、店主殿!この馳走の恩、ハヤテは絶対に忘れませぬ!」
「またおいで、泊まりに来たら用意してあげるよ!」

ハヤテが深々と頭を下げ、女将さんは照れ臭そうだ。僕も連れてきた甲斐があった。

お米の力かどうかは分からないが、ハヤテの雰囲気が変わった気がする。明るくなった感じだ。

方向音痴なハヤテの為に再び塔の受付まで戻ると、夕暮れになっていた。

「今日は本当に感謝するでござる!」
「ハヤテも明日からまた頑張ってね」

ハヤテと別れ、家路につく。別れ際に餞別と『御守り』を貰ったが、縁結びの御守りとは洒落が効いている。

その日の眠りは、とても気分の良いものだった。

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後日、改めてリアさんにメンテナンスしてもらった武器でダンジョンを探索している僕は、そろそろ100階以降に挑戦しようと、リビングアーマーを殲滅したフロアを越え、巨大な扉の前に立っていた。

扉は侵入を拒むように閉ざされ、鍵穴もなく、力任せに開きそうもない。だが僕にはアーティファクトがある。

「壊せないなら溶かせば良いよね」

ホット・ペッパーの熱線で扉に人が通れるだけの風穴を開ける。扉の先には長く深い階段が。慎重に下っていき、階段が終わった先の通路抜けると、

「も…、『森』…!?しかも明るい…!日差しがあるのか!?」

眼前に広がるは緑豊かな森林地帯。あり得ないことに、ダンジョン内部なのにお日様が木々の隙間から見える。

異様な実態に退却を選択する。僕の独断で探索するのはリスクが高過ぎる、報告し、まとまった人数での方が確実と踵を返そうとしたその時、足の傍に『矢』が突き刺さった。

「ニンゲン…!遂に降りてきたか!」
「『長』に伝えろ!ニンゲンが来たと!」

僕に敵意満々なその意思、それは、

「『エルフ』…、ラビル族を考えれば居て当然か…」

木々の上から矢をつがえ、警戒しながら僕を見る尖った耳の美丈夫達。

ダンジョンの100階の先にはエルフが住むようだ。 
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