ドリトル先生と悩める画家
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第三幕その七
「そのことは心に誓っています」
「そういえばゴッホの影響はありますが」
先生は画家さんの絵を見て答えました。
「違いますね」
「そう思われますか」
「ゴッホの絵の具の使い方ですが」
「それでもですか」
「タッチや他の多くの部分がです」
「僕のものですか」
「そうだと思います」
こう言うのでした。
「僕としては」
「そうであればいいですが」
「はい、しかしスランプだからですか」
「普段よりもです」
「描く様にされていますか」
「立ち止まっても仕方がないので」
ご自身でもそう考えているというのです。
「ですから」
「だからですか」
「そうです、何としてもです」
こう言うのでした。
「抜け出たいので」
「描かれますか」
「苦しいですが何もしないと」
「より一層ですね」
「苦しいですから」
それでというのです。
「描いています」
「描かれたくないと思われることは」
「常に思っています、正直描くだけでもです」
それこそというのです。
「辛いです、ですが」
「それでもですか」
「何もしない方がずっと辛いので」
「描かれていますか」
「そうしています、何とかです」
「スランプをですね」
「抜け出たいですから」
何としてもというのです。
「僕は描いでいきます」
「そうですか」
「そして何としても」
「抜け出ます、自分で」
強い声で言ってです、画家さんは筆とパレットから手を離さないのでした。先生はそうしたものを見てです。
思うところがありました、ですがそれは今は言わない様にしてそうしてです。ふとこうしたことを言ったのでした。
「あの、お名前は」
「僕のですね」
「何といいますか」
「はい、太田喜一郎といいます」
「太田さんですか」
「この大学の芸術学部に所属しています」
「学生さんですね」
先生は太田さんにさらに尋ねました。
「そうですね」
「はい、二回生です」
このこともです、太田さんは先生にお話しました。
「美術学科でこうしてです」
「絵をですね」
「描いています」
そうしているというのです。
「中学から美術部でして」
「絵を描かれていましたか」
「小学生の時からです」
まさにというのです。
「もうずっと描いてきました、何度か賞も取りました」
「それは凄いですね」
「いえ、凄くはないです」
「そう言われますか」
「こうして自分の描きたい絵を描けない」
太田さんは苦々しいお顔で言うのでした。
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