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決して折れない絆の悪魔

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竜の逆鱗

「鈴さん、間もなくですね」
「ええ、馬鹿春をボッコボコのギッタンギタンにしてやるわよ。リクエストがあるなら倒し方を聞くわよ!」
「取り敢えずボコボコにする方針で」

一夏、ミカ、セシリアは現在2組側のピットの鈴を訪ねていた。1組である彼らが2組側にいるのは少々問題があるがしっかりと2組の代表となった鈴の許可は取っているので問題はない。

「鈴、要る?」
「貰うわ、勝負事の前にこれは縁起良いからねング……あら当たりね」
「良かったね」
「ええ、益々縁起が良いわ!」

今日まで一夏とミカは鈴の依頼で模擬戦を行ってスパーリングの相手をして来た、鈴は二人の容赦ない戦いには一切怯まずに互角の戦いをするほどの強者である事に二人は喜びつつセシリアは驚いた。悪魔たちは接近戦主体で相手への懐さえ飛び込んでしまえばどうにもしようがあるが鈴のISは近接中距離に対応できるので相性的には良いからである。ブルー・ティアーズは懐に入られてしまっては厳しいので相性が悪い。

「そろそろ始まるね」
「それでは鈴さん、ご健闘をお祈りしております」
「ええありがとう」
「やっちゃえ」

鈴はミカから貰ったデーツを齧りつつ静かに呼吸を整えつつ精神統一をする、確かに相手は初心者で未熟な百春が相手。だが油断は禁物、油断は敗北を死を招く。未来院のサムスが勝ち続ける事が出来たのも慢心せず自分の力量を見極め相手を全力で迎え撃ち続けたからだと言っていた。その考え方に共感した鈴はそれを心の中心において過ごすようにしている、百春に手加減などするつもりはない。

第二アリーナへと飛び出した鈴を出迎えたのは満員の観客席から来る声、アリーナは超満員。通路にまで生徒が溢れだして観戦しているという話らしい、そのせいで一夏たちは観客席へと行けず許可を取ってピットのモニターで見られるようにして貰っている。そして向かい側から飛び出して来た百春を見た鈴は静かに瞳を鋭くした。

『両者、規定位置まで移動してください』

アナウンスの指示通りに浮かび上がった鈴は互いに約5メートル離れて向かい合った。

「鈴、絶対に負けねえからな。手加減もしねえぞ」
「随分余裕で。それにアンタが手加減なんて言葉を使えるなんて知らなかったわ」
「何だとぉ!?」
「あらら怖い怖い、これだからアンタは馬鹿なのよ」

ブザーすら鳴っていないが既に戦いは始まっている、そして鈴の言葉は正しい。相手はISの代表候補生、長い訓練などを積んだエリート。それとISを受領してそれほど長い時間が経っていない初心者ではキャリアが違う、そんな百春に手加減など出来る相手ではない。

『それでは試合、開始してください』

鳴り響くブザー、それが切れる瞬間に二人は動いた。瞬時に唯一の武装である"雪片弐型"を展開した百春だが展開した直後に目の前に巨大な青竜刀を振り被られていた、それによって構えていた雪片は強く弾かれる。なんとか初撃は防いだと思った百春に襲い掛かって来たのは真下からすくい上げるような青竜刀の一撃。

「グッ!!」
「アンタが私に手加減んんっ!?戯言ほざいてんじゃないわよ!!!」
「うわぁっ!!」

正に剣の乱舞、緩急を付けた剣の猛攻。縦横斜め鈴の手によって自在に角度が変えられている、既に何十という剣の一撃が続いている。慣れたくても緩急と角度が毎回毎回違い過ぎる為に全く慣れる事が出来る。ペースが全く握れない、此処は距離を取らなければ拙い……

「―――甘いのよ!!」

距離を取る事など解っていたと言わんばかりに両肩のアーマーがスライドし解放される、その内部の球体が発光したと思いきや百春は突然吹き飛ばされた。

「んがァぁっ!?」

見えないハンマーで殴り付けられたかのような凄まじい衝撃が襲い吹き飛ばされた百春は壁へと激突しそうになるが、暗闇に飲まれそうになるのを必死に耐えて急制動を掛ける。停止する事は出来たが逃がさないと言いたげな鈴が追撃を仕掛けて来た。

「グッ何なんだよ今の!?」
「教える意味なんてないわよ―――どうせ、何も解らずにアンタは負けるんだからねっ!!」

豪撃を仕掛けてくる鈴、それを何とか逃れるがまたもや見ない何かに殴られた。既にSEは300を切っていた、このままでは絶対に負ける……勝つには白式の切り札にかけるしかない……!!それには!!

「グッ!!」

自分の身体に負荷が掛かるほどに加速して後退、この速度なら見えない何かを放つ暇はないし恐らく届かないだろう。

「何をしようと無駄よ、アンタは終わりっ!!」
「(来たっ!!)」

思った通り鈴は見えない武器を使わずに加速して迫って来た、これなら使える!百春は限界まで出力を上昇させ、放出したエネルギーを取り込みそれを一気に開放した。一度放出したエネルギーを内部で圧縮して開放して爆発的な加速を生む技術『瞬間加速(イグニッション・ブースト)』。

「何ですって!?」
「貰ったぁぁぁぁぁっっっ!!!」

"瞬間加速"は代表候補生レベルが使う技術、これを奇襲に使えば優位に立つ事が出来る。そして自らのISのSEさえ攻撃に転用して放つ必殺の一撃である"零落白夜"、相手のバリアを無効化してダメージを直接与えるこの二つが嚙み合えばこの奇襲は一撃必殺の技へと昇華される。既に加速に入っている鈴は急制動を掛けて方向を変えても間に合わない、勝った!!!

「なぁ~んちゃって♡」

加速して向かって来る鈴は突然回転するように上方向へと向きを変えてバク転をするように移動した、あれだけの加速を一瞬で殺して方向転換を行ったというのかと百春は信じられないという表情をした。そして背後を取った鈴はそのまま百春の背中へとライダーキック並みの蹴りを放った。

「がああああ!!!」

真面にそれを受けた百春は地面へと落下し自らの"瞬間加速"で地面を削るように激突した。爆発的な加速で生まれたスピードによる激突と"零落白夜"の発動でSEは42にまで減少していた、全てが裏目に出てしまった。鈴は嘲笑う様に言葉を口にした。

「"瞬間加速"を使うのは驚いたけどそれだけよ、それに奇襲したいなら私をもっと煽って冷静さを欠かせないと意味ないわよ。じゃないと特殊無反動旋回(アブソリュート・ターン)で簡単に避けられるわ」

鈴が口にした特殊無反動旋回(アブソリュート・ターン)は急加速を行っている場合に使用する高等技術、一定方向に加速している場合にその加速を一瞬にして別方向へと転換して旋回し尚且つ発生する反動を0にするという高等技術の中でも高い難易度と危険性を持っているテクニック。成功さえすれば即座の方向転換や回避が可能だが失敗すればISに大きなダメージが残り操縦者も危険に陥る可能性がある、しかも加速中のスピードが高ければ高い程難易度は増していく危険な技。

「ぐ、ぐがぁ……」
「これで終いよ」

十二分に距離を取った状態で肩のアーマーがスライドする、空気を弾丸として発射する"衝撃砲"。空気の圧力を掛けて砲身を生み出し、余剰となった空気を弾丸として打ち出す武装。この距離なら十分に射程内だし仮に再び"瞬間加速"を仕掛けてきても十二分に対処出来る。最後の一撃を放とうとしたその時

ズドォォォォォォオオオン!!!!

突然大きな爆音と衝撃がアリーナ全体を襲った、衝撃砲ではない。最大出力で放ってもこれだけの破壊力なんて出せない、背後を見るとアリーナの中央にもくもくと土煙が上がりその中に何かが立っていた。アリーナのシールドを突き破って何かが侵入してきたとしか考えられない。ハイパーセンサーがアラートを鳴らしている、そんな事言われなくても解っている。

「百春試合は中止!!さっさと起きなさい!!」
「何を、言って……!!」

漸く立ち上がった百春は状況が理解できなかった、だが直ぐに理解した。ゆっくりと土煙の中からこちらへと歩いてきていた。そしてそれを見た瞬間、一夏やミカの悪魔たちを連想した。何故なら侵入者が全身を装甲で覆っているのだから。

全身を艶やかな黒の装甲で覆っているそれは通常のISより二回り大きい、バルバトスとアスタロトでもISより少し大きいというぐらいなのにそれを上回るサイズだ。その大型の為か一部のフレームは剝き出しになっている、酷く重厚で圧倒的な雰囲気を感じるのにその巨大さからかスリムのようにも感じられる。そしてその両腕には自らよりも巨大な二振りの斧を有していた。

「あれでアリーナのシールドをぶち破ったっていうの……?なんてパワーよ…」
「リ、鈴どうする……!?」
「取り敢えずアンタはさっさと逃げなさいよ邪魔よ!!!」
「な、何でだよ!?」
「アンタ自分のSEぐらい把握しなさいよ!!」
「そ、それでも言い方ってもんが!!」

警告をしたのに百春は何か気に入らないのか言い返すがその瞬間に侵入者はその斧を百春へと振りかぶった。鈴は百春をかばうように青竜刀で斧を受け止めるが……斧は刃の部分を切り裂き、刃の半ばまで刃が食い込んでいた。凄まじい切れ味に加えて巨体ゆえのパワー、防ぐだけなのにISの防御機構まで超えて身体まで軋むようだ!

「ぐうぅっ……!!(なんつう馬鹿力……!!)」
「鈴!!」
「馬鹿逃げなさい!!!」

鈴を助けようと侵入者へと切りかかる百春だが侵入者はその腕で百春を払うように殴り付ける、そのパワーで殴られた百春は壁へと激突する、鈴は彼の名を呼ぶがそれが災いしてパワーが一瞬緩んでしまい青竜刀が破壊され斧が迫って来た。

「(しまった……やられる……!!!)」

ガギィィィィン!!!

鈍い金属音が響く、鈴は何時までも来ない痛みに目を開けるとそこには静止した斧があった。何故斧が止まっているのか、それは……左右からそれを受け止めている者がいるからだ。

「おい鈴無事か、悪い遅くなった」
「んっ力強いね」
「っ……一夏にミカぁ!!」

バルバトスとアスタロト、その両名がメイスを使って斧を受け止めている。鈴を守るように。

「何こいつ、乱入者?」
「あん?なんだ乱入者か?ってそれ以外あるかよミカ」
「そだね」
「ああ如何でも良い、こいつを潰すぞ!!」
「解ったっ!!」 
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