Muv-Luv Alternative 帝国近衛師団
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第六話
前書き
オブラートに包みながら、慈悲のある心でお読みください!お願いします!
帝国斯衛軍衛士養成学校に入学して一ヶ月がたった。
正仁とレグルスは、最初はその家柄と容姿から浮いた存在ではあったが次第に馴染んでいった。
いや、むしろ中心になっているのかも知れない。
朝、教室に入ればレグルスは真っ先に真衣のもとに行く。
「月詠さんおはようございます!結婚してください!!!」
「おはようさんレグルスはん。嫌や」
「ちくしょおおおぉぉぉぉぉ!!!真壁お前のせいだ!!」
「何故そうなるんですか!?」
もはやこのやり取りは、いつもの光景と化していた。
入学式の日以来、毎日欠かさずレグルスは真衣に告白し続けている。まずは朝、教室に入ってから挨拶しながらの告白。これは必ず行っている。そして事あるごとに告白している。真衣に向かっての言葉は大抵、愛の告白である。
最初は冗談たぐいとしてクラスメイトに受け入れられたが、レグルスは至って本気であり、それにクラスメイトが気がつくと笑いの種から、尊敬の眼差しへと変わっていた。
彼の心は鋼か何かで出来ている。
不屈の精神の持ち主。
愛の戦士。
などなどレグルス本人は知らないだろうがそんな異名を付けられていた。そして容姿に対する偏見もこのクラス内では完全に消えていた。
因みに真壁が襲われているのはいつものことなので誰も気にしていない。
そんな日常を見ながら正仁は考えていた。
(武家にも派閥というものがあるのだな……武家も一枚岩ではない。この事だけでも知り得たことはいずれ必ず役に立つな)
この一ヶ月、正仁の目にはその様なことが写っていた。表向きは五摂家である斑鳩崇継に従っている。もちろん上級生も従っている。だが、それは形だけであり真の忠誠心からくる物ではない。崇継に心の底から忠誠をしているのは、今レグルスに海老反り固めをされている真壁とこの場にはいないもい一人だけだ。その他の人間は従っていた方が得だからという理由だろう。しかし五摂家には斑鳩・煌武院・斉御司・九條・崇宰の五家がありそれぞれの分家、家臣がいるため派閥が自然と出来ている。そしてこの派閥構造はこの学校の生徒にも当てはめることが出来た。
「正仁、何を考えているんだ?」
「斑鳩か。なに山城の事を考えていたのさ。今日はいつ殴りこんでくるのかな?」
正仁がそう言うと斑鳩はニヤリと笑った。じつに楽しそうな顔であった。出会って一か月しかたっていないが斑鳩がニヤリとすると碌なことが起きない事は正仁は知っていた。
「さてさて、いつ来るのだろうな?」
「知っているなら教えて欲しいのだが」
「それをしたら面白くないだろ?」
毎日襲われる身にもなれ!、と正仁は目の前で笑っている斑鳩に言おうとしたが教官が教室に入ってきたのでやめた。
朝礼が終わると、授業が始まる。
「え~、BETAの正式名称は、人類に敵対的な地球外起源種、英語に直すと、Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human raceと言うのは前回の授業で教えたな?今回はその種類と特徴を主に教えて行くぞ」
教壇に立っている教官が黒板にチョークで書き込んでいく中、正仁はそれをノートに写し書きしながら、自分の弟である成仁の事を考えていた。
モビルスーツの開発に励んでいる成仁とは、入学してからの一か月は全くもって顔を合わせていない。
兄として弟のことが心配で仕方がなかった。
しかし昨日、成仁から手紙が届いた。まずは無事である事に安堵した正仁だったが、内容には驚いた。
成仁は今、広島県の呉市に居るそうだ。
学校は用事で休学していることになっているらしい。まあ一か月ぐらい休んでも成仁の頭なら成績は心配することはないだろう。
呉市にある呉海軍工廠内の一角にてモビルスーツの開発をもう始めているらしい。
試作一号機の設計は既に完了し、海軍戦術機開発部門や新大和工業、石河島播磨重工業の技師たちと共に作業を行っている。武装についても帝国製鋼所の技師と共に設計をしているそうだ。試作一号機は年内の完成を目指しており、三年以内にモビルスーツの完成を目指している。
また北海道にもモビルスーツの開発・実験・生産を行う工廠と演習場を建設と整備を極秘で行っているらしい。こちらは陸軍の予算で進めているが、帝国製鋼所なども出資して官民一体として進められているため今のところ抗議などはないらしい。
成仁は大人だらけの環境なのだが、そんなことなど一切気にせず、機械技術について存分に話せる相手が多くて嬉しい、自分のやりたいことをやらせてくれる軍人・各企業の技師たちに感謝している、などの内容が手紙に書されていた。
「父上や閑院宮殿が陸軍を伏見宮殿、桂宮殿が海軍を押さえているのか……」
そう一人周りに聞こえないように呟くと、目の前の授業に集中した。
教官が黒板に張られているBETAが描かれている表式を示しながら講義を行っていた。
「いいか!1987年現在、BETAは七種類が確認されている。一つ目は突撃デストロイヤー級だ。BETA群の先鋒を担う多足歩行大型種であり、前面に頑強な装甲殻を持ち、既知七種のなかでも最大の防御力を誇っている。さらに最高速度約170㎞/hに達する前進速度による衝角突撃戦術も脅威である。面制圧での生存率が高く、装甲殻は相当な硬度を持つ上に再生能力を有している。基本的には側面もしくは背後からの攻撃が推奨されている。この突撃級の波を超えれば、次はこいつらが来る!」
次に指で示したのは、サソリのような形をしたものだった。
「こいつは要撃グラップラー級だ。BETA群に於ける大型種の約6割を占める多足歩行種で、防御力や対人探知能力にも優れる、BETA戦力の中核をなしている存在だ。頑強な前腕を最大の武器とし、前肢はモース硬度 15以上、例えるならダイヤモンドよりも遙かに固い腕を持っている。その前肢を駆使した近接格闘能力と、正面に対する防御力が高い。そのため突撃級同様に側面もしくは後方からの攻撃が推奨されている」
要撃級から手を離すと次に赤く、口があるものに手を当てた。
「そして一緒にやって来るのが戦車タンク級だ!BETA群中最大の個体数を誇る中型の多足歩行種であり、戦術機の装甲すら噛み砕く強靭な顎を持つため、大破した、あるいは多数の戦車級に取りつかれて動けなくなった戦術機が衛士もろとも「喰われる」。「最も多くの衛士を殺したBETA」だ。
最大速度約80㎞/hに達する機動力の高さと極めて高い対人探知能力、そして数十から数百以上の群体で行動するという特徴から、近接戦闘は可能な限り回避することが推奨されている」
その説明を聞いてから改めて戦車級の姿を見ると、元から気持ち悪い見た目がさらに気持ち悪く見えた正仁だった。
教官による座学が終わると昼食をはさんでから教練が行われる。
まずグラウンドを走らされる。これは教官が良し!というまで走らされるので非常に辛い。
が、もう慣れた。
しかし予想外だったのは、二クラス合同で行われることだった。俺たちはAクラスそしてBクラスには……
「まてえぇぇぇぇぇぇ!!!」
「お前は本当に根性があるな!?山城!」
山城貞久がいる。
山城は、白の家柄である外様武家の出身でありその三男である。二人の兄は共に斯衛軍に所属し、親戚も斯衛軍人が多い。そんな家に生まれた為、政威大将軍と五摂家に対する忠誠心が極めて高く、武家としての誇りが強い。
そして冷徹そうな外見とは裏腹に後先考えず感情的になりやすい性格である。
「山城!いい加減に諦めたらどうだ!?教官も呆れているぞ!」
「将軍殿下と斑鳩様、並びに五摂家に対しての謝罪が先だ!」
「要らない者を要らないと言って何が悪い!武家という時代遅れなど不要だ!斯衛軍なんぞ必要もないし予算の無駄遣いだ!」
「さらに謝罪を要求する!謝罪をしろ!!」
「拒否する!」
先頭集団の先を走っている正仁だがその後ろにぴったりと山城が付いている。
何故こんなことになっているのか?
それは先週、正仁が食堂でレグルス、真衣、斑鳩、真壁と食事をしている時に、斑鳩が正仁にある質問をした。
「正仁は、武家が嫌いなのか?」
斑鳩は正仁の武家嫌いという噂を確かめるためと興味本位で聞いたが、正仁はこう答えた。
「ああ、大嫌いだ。一人残らず根絶やしにしたいぐらい嫌いだ」
たいした声の大きさではなかったが偶然にも、耳がよく、近い位置で食事をしていた山城が聞いてしまった。
山城は立ち上がり正仁に向かって怒鳴った。
「貴様!斑鳩様に何たる口の利き方か!謝罪をしろ!」
怒鳴られた正仁もいきなりの事で驚いたが、斑鳩と真壁の方が驚いていた。特に真壁は顔が白くなるほどである。たかが外様武家が皇族相手に怒鳴ったのだから仕方がないとは言える。
斑鳩でさえも山城の発言を止めようとしたが、それは出来なかった。
「謝罪なんぞするものか!嫌いなものを嫌いと言って何が悪いか!ついでに言うと将軍も元枢府も要らん!」
正仁が言い返してしまったからだ。言い返された山城も顔を赤くしながら反撃する。
「貴様ぁ!将軍殿下まで愚弄するか!この逆賊が!」
「逆賊だとぉ!?皇帝陛下の臣下である私が逆賊だとぉ!?では貴様は朝敵だ!陛下には向かう賊だ!」
「何だとぉぉ!?」
その後、お互い手を出そうとしたのでレグルスや斑鳩などに止められ、なんとかその場は収まったが、事あるごとに山城は正仁に対し謝罪を要求し、襲い掛かっている。
そして今に至る。
「謝罪しろ!」
「嫌だ!」
相変わらず走りながら怒鳴り合っている二人だが、その二人よりも遙か先を走っている二人の男女がいた。
「月詠さん!結婚してくださぁぁぁぁぁい!!!」
「嫌や」
「じゃあ婚姻届けに名前を書いてくださぁぁぁぁぁい!!!」
「それも嫌や」
「では僕と夫婦の契りの誓約書にサインをしてくださぁぁぁぁぁい!!!」
「嫌や。それ婚姻届けと一緒やろ」
「ならば―――」
もはや見慣れた光景の一部になりつつあるレグルスが真衣のあとを追う姿だった。いつものようにレグルスの求婚をニコニコと笑いながら拒否する真衣。それでもめげないレグルス。このやり取りは教官も何度も注意したがレグルスは止める気が全く無いのでもう諦めた。
しかも毎回この二人が最先頭で走り続けて、教官も文句が言えないほどであるため黙認している。
「改めて見るとあの四人の体力は異常だな」
「ええ、そうですね」
先頭を激走している四人とは違い、しっかりと教官の指示のもと走っていた斑鳩と真壁は若干呆れながら呟いた。
しかしながら斑鳩は心底楽しそうな笑みを浮かべている。
「こんな面白い者が傍にあるとは、幸運だな」
そう笑いながら斑鳩は言った。
このようなことが毎日起こり、喧嘩もしながらそれなりに充実した日々を送っていった。
そして時が立ち、季節が変わり冬となった。
正仁とレグルスは、京都の斯衛軍衛士養成学校ではなく広島県の呉にその姿があった。
公務という名目で東洋一の軍港の一角に車で向かっていた。
車の外には戦艦や巡洋艦、駆逐艦、潜水艦などが停泊しているのが見える。それなの光景を目に焼き付けるようにじっと見てる正仁に対して、レグルスは落ち込んでいた。理由は真衣に会えない為であるので正仁は何も言わない。
なぜ二人が呉にいるのかというと、成仁に呼ばれたからである。
成仁から来た手紙には「出来た!」とただそれだけが書かれていたが、正仁には何が出来たのかすぐに分かり、急いで呉に来たのである。
海軍工廠の敷地内に入るもしばらく車は走り続けた。そして車はやがて一つの格納庫へとたどり着く。
車から降りた二人を出迎えたのは、成仁と数人の技師たちだった。
「久しぶりだね!兄ちゃん!レグルス兄!待ってたよ!さぁ早く行こう!」
「元気そうで良かったぞ成仁。嬉しいのはわかるが少し落ち着け」
「目の下真っ黒だが大丈夫なのか?」
興奮気味の成仁に不安がる二人だったが、何故か成仁に手を引かれながら格納庫の奥へと進んでいった。
「これが……モビルスーツ……」
目の前に立っている巨人を見ながら正仁は呟いた。そして見た感想は困惑であった。成仁が書いたモビルスーツの設計図とは大きく見た目が異なっていたためである。
正仁と同様にレグルスも何と言っていいか言葉を探している状況である。
確かに目の前の巨人は人型であり、戦術機並みの巨体で、撃震以上に太く頑丈そうな腕部、外部からのダメージを防ぐための分厚い装甲がなされているが、二人の目には実戦で使える物には見えなかった。
むき出しのエンジンを背負い、戦術機のような可動兵装担架システムもなく、跳躍ユニットすらなかったからだ。
「なあ、成仁」
「なに?兄ちゃん?」
「これ、実戦に使えるのか?」
この正仁の疑問に成仁は即答した。
「使い物にならないね!こんなポンコツじゃあまともに戦えないよ」
笑顔で答えた。だがその答えを聞いた正仁とレグルスはますます分からなくなった。それが顔に出ていたのか成仁がそれについて話し始めた。
「この機体はあくまで試作一号だよ。なんのノウハウもないところからいきなり戦闘マシーンを造るなんてできないし、造れたとしてもそれは良い性能を発揮しない。だからまずはノウハウを獲得するためのお試しとして造ったんだ。で、ついでに試作だけじゃもったいないから作業機械としての能力を付けた結果……」
「こうなったと……?」
「そういうこと!」
なんとなく納得ができた二人、それを知って改めて巨人を見ると何となくカッコよく見えてきた。
「こいつに名前はあるのか?」
「一応、MS-01っていう名前があるけど、厳密に言ったらまだモビルスーツじゃないからMW、モビルワーカーってみんなで呼んでるよ」
「モビルワーカー……か」
「今動かせるのか?」
「今は動かせはしないけど目は光らせれるよ」
そう言うと成仁と周りの技師たちは準備にかかった。何故か皆、ウキウキとニヤニヤとしながら作業に当たっている。
準備が完了すると成仁は二人のもとへ戻って来た。
「じゃあ顔を見ててね。お願いします!」
その瞬間に一つの明かりが灯った。
「一つ目なんだな」
「頭部センサーの単眼型可動式カメラ、『モノアイ』って名前だよ!」
嬉しそうに言う成仁とカッコイイと思ったのだろう笑顔になっているレグルス、そして真剣な眼差しで一つ目の巨人を見つめる正仁。
「早く本物のモビルスーツが見たいな」
それは表情とは裏腹にとても穏やかな口調だった。
1988年 4月
日本帝国陸海軍は新大和工業・石河島播磨重工業・帝国製鋼所と共同開発をしたモビルワーカー、正式名称MW-01 01式を正式に採用し量産を開始した。
後書き
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