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Muv-Luv Alternative 帝国近衛師団

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第七話

 
前書き
それではオブラートに包みながら、慈悲のある心でお読みください!
どうぞ!
 

 
 

 

 正仁とレグルスが帝国斯衛軍衛士養成学校に入学してから一年が経ち一九八八年。

 一年生では座学と基礎体力向上のために費やされていたが、二年生からは本格的な軍事訓練が行われるようになる。
 もちろん戦術機に乗るのはまだまだ先の事で、小銃での射撃訓練、ナイフによる近接戦訓練、背嚢を担いでの長距離行軍などである。




 そしてその訓練の一環として正仁たちは今まさに剣道をさせられていた。






「クソっ!」

 上段から振り下ろした竹刀は、あっさりと躱された。それでも追い打ちをかけるが躱されるか、弾かれるかのどちらかで決して相手に届くことはなく、全てむなしく空を切るだけだった。

 そして苛立ちと疲労から、元から大振りだった剣筋がさらに大きくなり構えが乱れた。
 それを直すのを待ってくれるほど相手は甘くなく、頭上から大きな衝撃が落ちてきた。

「それまで!」

 教官の合図をもって試合は終了し、二人は壁際へと移動し、入れ替わるように新たな試合が始まった。




 壁に背を付け楽な姿勢となり面を外した。

「フゥー!フゥー!フゥー!」

 先に面を外したのは正仁で、先ほど派手に一本を取られた。そして少し遅れて面を外した人物を血走る目で睨み付ける。

「どうした?そんなに興奮して?」

 ニヤニヤとしながら正仁の目を見たのは、斑鳩であった。

「知っていてそれを聞くのか貴様!」
「いやいや、私は正仁がなぜそんなに興奮しているのかが分からないだけだが?」

 正仁が興奮、もとい怒りに満ち溢れている理由を知っているのにもかかわらず、とぼけたように言う。

「お前に勝てないからだ!」

 そう正仁は怒鳴った。
 勝てていない。
 入学してから剣道で一度も斑鳩に勝てていないのである。確かに負けなかった事はある。しかしそれは引き分けであり勝利したのではない。
 正仁は入学してから初めて剣道を行った。それに対して斑鳩は幼き頃から剣道を習っているため、その実力差は歴然としている。
 そのことについて文句を言っているのではない。
 武家・・に負けていることが我慢ならないのだ。しかもその中心である五摂家に負けるのが悔しくて仕方がない。
 正仁にとっての武家は、百害あって一利なしと言う言葉通りの存在であり、いずれ叩き潰さねばならない敵である。
 その敵に何度も敗北し一度も勝利出来ていないことが何よりも屈辱だった。

「まあ、落ち着け。剣道で私に負けても、射撃訓練の成績はお前の方が上だろ」
「上は上でも僅差だろ!」
「しかし上には変わりない」

 そう斑鳩に言われると苦虫を潰したような顔になったが反論はせず、そっぽを向いた。
 しかしその向いた視線の先にはいつもの光景があった。

「………いつ見ても酷い光景だ」
「ああ、そうだなだから私は見ないようにしている」

 斑鳩は正仁が向いている方向とは逆を向き見ないようにしていた。いつも行われている光景だが何ともひどい光景なので見ないようにしている。



 その光景とは……




「あ~ん……もう終わってしもうたわぁ~」

 とても残念がっている竹刀を片手に一本ずつ持った真衣がいた。それだけならまだ良い。足元に二十人近くの屍が転がっているのが問題だった。
 力なく倒れている彼・彼女らは、本当に死んでいるように動かなかった。この中に真壁と山城も含まれている。彼ら二人も相当な腕前であり、斑鳩同様に正仁に負けた事はない。その他の者も幼少期から竹刀に触れているので実力はある。

 しかし真衣に対しては全く歯が立たず、一撃で沈められていった。だが例外はいる。
 唯一、真衣と相対して立っているのが……

「月詠さん!結婚してください!」

 案の定レグルスだった。
試合が始まった瞬間、レグルスは真衣に向かって突っ込んで行き、倒された。その十数秒また突っ込んで行き、また倒された。また十数秒後に突っ込んで行き倒される。それをひたすら繰り返していた。そして突っ込んで行く時には必ず求婚の言葉が飛び出す。
 そして真衣は

「嫌やわ」
「あふん!」

 笑顔で拒否しながら竹刀を叩きつける。普通の人間ならば悶絶する痛みだが何故かレグルスの顔は笑顔になっている。

 その地獄絵図が如き光景を何度も見せられていた。

「相変わらず真衣は強いな……。なあ斑鳩」
「何だ?」
「何故真衣はあんなに強いんだ?素人の目から見てもあの強さは異常なように見えるが」
「ああ、異常だな。そして何故月詠があれだけ強いのかは私にもわからん……。一つ噂話をしよう」

 斑鳩は腕を組みながらある話を正仁にし始めた。

「紅蓮醍三郎という赤の家柄の武家が居た」
「父上たちからその人物の事は聞かされた。武家の人間としてはまともな分類に入るそうだ」
「話の腰を折るな。……その紅蓮郷三郎はとても強い。とてつもなく強い。百人一度に相手をしても勝ったと言うぐらい強い」

 話を聞いていた正仁は思わず呟く。

「化け物か何かだな」
「……その怪物と月詠は一度試合をしたことがあるそうだ。しかも十歳のころに」

 正仁たちの年齢は今年で十三歳、三年前の出来事である。

「その当時から異常な強さだったそうだ。師範などに苦戦せずに勝てたらしい……が、さすがに紅蓮殿には勝てなかったらしいが、それでも相当追い込んだらしい……。ま、それほど噂が立つほど強かったようだ」
「……何だか人間離れしているな」
「そうだな……。一部の者は月詠の事を鬼子と呼んでいるらしいが、あの態度が原因だな」

 斑鳩の言葉にすんなりと納得した正仁。あの態度とは、真衣には武家として当然あるべき政威大将軍や五摂家への忠誠心は一切ない。赤の家柄である月詠家の長女として生まれ、徹底した教育が施されたにもかかわらず、そのような感情は一切身につかなかった。正仁の目から見ても異常に見えた。それを見てきた結果だろうか真衣の妹とは、非常に真面目で、将軍と五摂家、特に煌武院に対する忠誠心が厚いそうだ。

「なるほどな。強さの理由は分からんが我々が束になっても勝てないことは改め分かった。しかし……」
「どうした?」

不満そうな顔になった正仁に斑鳩が問いかける。

「この訓練、意味があるとは思えない」
「なに?」
「貴様ら武家ならいざ知らず剣道もやったことの無かった素人である私が果たして刀を握って人を切れるのか?それが戦術機ならば長刀を持ってBETAを切れるのか?私はうまく切れないと思う。あんな扱いにくい兵器を万人が使いこなせるとは思えない。絶対に使えない者が出て来る。もっと手軽で誰でも使い方が分かり、強力な武器を使った訓練の方が良い」

 正仁の持論を黙って聞いていた斑鳩だったが、言われて気づいた。刀がどれだけ使いにくい兵器なのかを。幼い頃から鍛練を積んでいる武家ならば、刀の間合いを把握することも、どのように攻撃すれば良いのかも分かっている。しかし正仁は全く知らなかった。最近になってやっと間合いが掴めてきたばかりである。養成学校に入学し、一年やっていてこれなのだから、徴兵された人間たちではもっと時間がかかるのは明白である。
戦術機の装備の一つである74式近接戦闘長刀を用いた訓練でも同じく時間が掛かるだろう。刀はけして万人向けの武器では無かった。

「ではどんな武器なら万人が使いこなせると思う?」
「ん……。手斧なんかはどうだ?ただ振り下ろすだけで標的を沈黙させれるし、どんな国でも斧やそれににたような物はあると思うが?」
「手斧か……」

 案外良いかも知れない。そう思った斑鳩だったが

「やはり私は刀が良い。使い慣れているからな」

 そう答えを返した。
 そしてその答えにもの凄く腹が経った正仁だったがあることを思い付いた。

(もしかしたら真衣をこちら側に引き込むことが出来るのでは……)

 そんなことを頭の片隅で考えつつ、真衣とレグルスのじゃれ合いを見ていた。





 広島県 呉市 呉海軍工廠 第39番格納庫兼MS開発場

 主任研究室



 部屋にはカタカタとパソコンのキーボードを叩く音と、鉛筆で何かを書いている音が交互に響いていた。
その音の発生源である一人の少年以外部屋には誰もいない。

 時折、パソコンのキーボードを打つ手を止め、何かを書き、また打ち始める。これを繰り返していた。

 そしてしばらく経つと、完全に手が止まり、顔を天に向けてしまった。

「こんなもんかな~?」

 少年、成仁は一人呟き、パソコンの画面に目を向けた。

「ん~~~。やっぱり試作機止まりだね。技術習得のために詰め込みすぎた」

 そう言うと、成仁はマウスを動かし違うファイルを開いた。

「こっちは今の技術でも出来るけど……。量産には時間がかかるよね~。でも連装砲だから火力あるし、戦車だからラインにさえ乗せれれば大丈夫か」

 そう結論づけるとそのファイルを閉じてまた別のファイルを開いた。

「これは理論は確立したけど……実際に照射されるまでは分からない。しかも今のままだったらコスト面が酷い。何とかしないと」

 そう言うとまた違うファイルを開いた。

「ん~~~。やっぱりホバークラフトの方が移動しやすいよね。海も陸も移動できるし、結構大きいの作れるしこれは大丈夫」

 そしてファイルを閉じて最初に開いておいたファイルに戻った。

「………不安だ。不安でしかない。人類史上初めての試みが盛り沢山だなぁ……」

 そのファイルに表示されているのは、人型の兵器ではあるが、現在開発中のモビルスーツとは違いモノアイではなく、デュアルアイであった。そしてその他にも銃のような物に筒型の棒のような物、それに盾が映し出されていた。

「自然環境にどのような影響を与えるのかも、試験しないといけないし、人体への影響も考慮しないと……」

 そう言うと成仁はファイルを閉じた。そしてパソコンの電源を落とし、部屋を出て行った。





 向かった先は格納庫だった。そこには一体の巨人が佇んでいた。
 モノアイには光がなく、ただじっとしており動かない。
 01式と比べると全体的にスマートになり、より人型に近い。

「明日は起動実験。ちゃんと動いてね」

 そう成仁は巨人に言った。その表情はとても楽しそうであった。







1988年

日本、教育基本法全面改正。
衛士の育成を主眼に置いた全面的な法改正。
義務教育科目の切り捨てや大学の学部統廃合が始まる。

国連、トライアッド演習実施。
国連宇宙総軍と米国戦略軌道軍は光線属種の迎撃基準を検証するための物質投下試験を合同で実施。積載物の内容に関らず、落着予測地点付近の重光線級のみが迎撃を行い、一定距離以遠では一切反応しないことが判明。詳細原理は不明ながらも、低軌道衛星、HSSTの定常的な配備を大きく後押しする結果となる。

米国、国連に次期オルタネイティヴ計画案を提示。
オルタネイティヴ3に見切りを付けた米国が次期予備計画の招集を待たず、新型爆弾(G弾)によってハイヴを一掃する対BETA戦略を計画案として提示。
G弾を限定的に使用し外縁部のハイヴを攻略。
G元素の獲得→G弾の量産というサイクルを繰り返し、最終的に大量のG弾による飽和攻撃でオリジナルハイヴを含むユーラシア中心部のハイヴを一掃するというもの。

香月夕呼14歳、因果律量子理論の検証を始める。






1989年 2月
日本帝国陸海軍・新大和(だいわ)工業・石河島播磨重工業・帝国製鋼所がMW-02 02式を発表。01式と同様に採用される。





 
 

 
後書き
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あと書き溜めが無くなったので、完全な不定期更新になります。ご了承と首を長くしてお待ちください。
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