Muv-Luv Alternative 帝国近衛師団
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第五話
前書き
オブラートに包みながら、慈悲のある心でお読みください!お願いします!
一九八七年 春
国防省 小会議室
今日ここに五人の軍人、三人のメーカー重役、そして一人の子供がテーブルを取り囲むように座っていた。
「………これ本当に成仁が書いたのか?」
「はい、僕が考えて書きました」
智忠の問いに笑顔で答える成仁。改めてテーブルに広げてある設計図に目を落とした。
信じられない……
それが成仁を除くこの場に居る全ての人間の気持ちだった。
「昔から賢いと思ってはいたが、まさかこれほどとは……」
ため息交じりでそう言った博恭。
「私も最初見せられた時は驚きました。次の日もう一度見ても驚きましたが……」
父親である隆仁も未だに信じられないといった様子だった。
「では諸君の意見を聞きたい。彩峰大佐、貴官から意見を聞かせてくれ」
この場での最高階級を持っている博恭が司会として話を進め、最初に陸軍の彩峰萩閣大佐に意見を求めた。
「はっ。率直に申しますと、戦術機ではなく違う概念を持って描かれた設計図だと推測します」
「そうです!戦術機ではなくモビルスーツです!」
萩閣が戦術機とは違うと指摘するとよほど嬉しかったのか、声を上げ目を輝かせながら萩閣を見た成仁。逆に呆気に取られた萩閣だったがすぐに話を再開した。
「その……このモビルスーツはまず歩行を前提としているように見受けられ、戦術機と比べると格段に機動力が劣るかと」
「その点については解決策が出来たので大丈夫です!」
「……………私からは以上です」
終始、成仁に呆気に取られていた萩閣だった。
「うむ、では次に小沢大佐、君の意見を」
次に意見を求められたのは、博恭や智忠と同じ海軍所属の小沢久彌ひさや。
「ハッ。自分も彩峰大佐と同様ですが……このモビルスーツと言うものは戦術機と比べて機動力がなくBETAには通じないと思いますが、解決策があるのであれば通用するかと思われます」
久彌も萩閣同様な事を考えていた。
しかし萩閣も久彌も、この図面を見て『戦術機と変わらないのであれば、わざわざ作らなくてもいいのでは?』と内心思っていたが、相手が相手なため、口にはしていなかった。
「では新大和だいわ工業、石河島播磨重工業、帝国製鋼所のお三方の意見をお聞きしたい」
博恭の言葉で、三人の男たちは椅子から立ち上がり直立不動の姿勢になり、額に大量の汗をかいていた。それもそのはず、目の前に
「では、まず新大和工業の菊原静雄が御説明させていただきます!」
新大和だいわ工業の代表は、三人の中でも最も若く三十代になったばかりの若者であった。
「この図面を見る限り、全くもって新しい概念によって設計されております!そしてこのモビルスーツなる物は、図面を見た限りでも戦術機の数倍以上の頑丈な骨格と装甲厚を兼ね備えている事が分かります!」
そう菊原が言い切ると、隣に立っていた石河島播磨重工業の代表である平野鉄二が意見を述べ始めた。平野の容姿は四十代ではあるが白髪が多く、鷹のような鋭い目つきをしている。
「我が社はエンジン、艦艇などを数多く製作、生産してきた経験がございます。そしてその経験から見て、この図面に書かれておりますモビルスーツの背中にもエンジンが搭載されております。しかも見る限り相当な推力を持ったエンジンです。これによってモビルスーツは戦術機には劣りますがある程度の機動力が確保できると言えます」
最後に帝国製鋼所、見事に髪の毛が全て白髪で、丸眼鏡とちょび髭といった容姿の井上賞がニコニコと笑いながら口を開く。
「骨格や関節が戦術機以上に頑丈であれば、戦術機には装備できないような兵装を持たせることが出来ますな。我が社は主に砲などを製造していますので、造れと言われれば直ぐにモビルスーツ専用の装備を造りましょう」
民間企業の三人の意見を聞いた、五人の軍人たちは驚いていた。成仁が描いた図面が戦術機よりも優れている部分があると改めて分かったからだ。
父である隆仁も戦術機よりも同等かそれ以下と思っていたぐらいであったから、軍事兵器を造る専門家たちがここまで賞賛するとは思っていなかったからだ。
「そうか……」
司会を務めている博恭はそう呟くと目を瞑り腕を組んで黙ってしまった。
重苦しい空気が流れていると思えば、そうでは無い。成仁は可愛らしい笑みを浮かべ、菊原は目を充血させ興奮気味、平野は少し口の端を上げて機嫌がよく、井上は相変わらずニコニコと笑っている。
それからちょうど十分、博恭は目を開け腕を解き椅子から立ち上がり、一人ひとりの目を見てから、最後には成仁を見つめた。そして言った。
「モビルスーツ、造ってみるか」
この日、この小さな会議室において新たなる人型機動兵器モビルスーツの開発計画が始まった。
勝手に決まった。
正仁は腕時計を見た。
「今頃、成仁と父上は伏見宮殿たちの説得中か……」
「どうなるんだろうな?造らせてくれるか?」
「さあな……伏見宮殿の事だから極秘で勝手に進めたりとかしそう」
「それはそれで面白そうだな!」
隣にいるレグルスと話ながら正仁はある場所に立っていた。正確に言えば整列していた。そして二人とも同じ白い制服を着ている。しかし周りに立っている少年少女も全員白い制服を着ている。その白い制服を着た少年少女たちの視線は、二人に集中していた。
「なぁ、正仁?」
「どうしたレグルス?」
「何でコイツら俺たちのことを見てるんだ?こっちは見せもんじゃないぜ?」
レグルスが言いながら周りを睨むと視線が減った。
「俺たちが珍しいんだろうよ。俺は皇族、お前は見た目、だから気になるんだろう」
「そんなんでジロジロ見るなよ…気持ちが悪い」
正仁の答えに露骨に不機嫌な顔になるレグルスだった。
しばらく立つと、生徒たちになる少年少女たちの目の前のステージに一人の初老の男性が上がった。そして演台の前に立ち喋り始めた。
「本日は、晴天に恵まれ春の暖かい風を感じる良い日に、帝国斯衛軍衛士養成学校入学式を挙行するにあたり---」
そう、今は帝国斯衛軍衛士養成学校の入学式の真っ最中だった。
緊張した表情の者や、やる気に満ちあふれている者、不安な顔をしている者などなど様々な少年少女たちがこの場にいた。
そんな中に正仁とレグルスはいた。二人の顔は緊張もしていなければ、不安にもなっておらず、やる気も見えない普通の顔をしていた。
そして長い挨拶が終わり入学式の全行程が終了し、たった今新しく生徒になった少年少女たちは各クラスごとに分けられ、それぞれの教室に案内された。
正仁とレグルスも指定された教室に入り、自分の席についた。幸い正仁もレグルスも同じクラスで、席は隣同士だった。席の位置は、窓側の一番前でレグルスはその後ろである。
「俺とお前は同じクラスだな」
「別々なクラスだったらどうしようかと思ったぜ……」
「それと………」
正仁は言葉を止め、ちらりとドア側の方向を目つきをきつくしながら見た。
そこには一人の少年の周りに多くのクラスメイトが集まっていた。その少年の名は斑鳩崇継。武家五摂家の斑鳩家、嫡男である。
「大層な人気者だな。五摂家というだけで。レグルスはどう思う?………レグルス?」
斑鳩に対しての嫌味を言い、レグルスに意見を求めたが答えが返ってこなかった。後ろに座っているレグルスを見ると
「………」
口を開け何かをじっと見ていた。正仁は何度か声をかけるも反応しない為、仕方が無くレグルスの視線の先を見た。
そこには崇継の姿もそれに群がる少年少女も無く、一人の少女が座っている姿があった。少女の姿は、腰まで伸ばした緑っぽい髪に丸メガネ、そして何故か小太刀の手入れをとても楽しそうにしていた。
「何で、こんな所で刀の手入れを……というよりも何で刀を持っているんだ?武家だから持ち込んでいいのか?」
そのような事を口にしている正仁に対してレグルスは、その少女を見つめたままだった。そんな二人のもとに、ある程度の話を終えたのであろう斑鳩崇継が一人の少年を引き連れて来た。
斑鳩は、正仁の正面に立ち、深く一礼し、それに習い後ろの少年も深く一礼した。
「お初にお目に掛かります有栖川宮正仁殿下。自分は斑鳩家嫡男の斑鳩崇継と申します」
「そうか……。私は有栖川宮正仁であり皇族ではあるが、堅苦しいのは嫌いだ。友人のように接してくれればこちらとしてはやりやすい」
「ハッ。では………なんと呼べば良いのかな?」
「いちいち有栖川宮と呼ぶのは面倒だろう。正仁で良いぞ」
「では正仁とお呼びしよう。よろしく正仁」
「こちらもよろしくな、斑鳩」
意外にも二人のやり取りは何の険悪な雰囲気などなく、ごく普通の友人関係になった。しかし正仁の内心は腸が煮えくりかえるような思いだった。
(誰がお前と友人になるものか!!今すぐぶっ殺してやりたいわ!!!)
対して斑鳩も有栖川宮の武家嫌いはある程度耳に入ってきていたので顔は爽やかな笑みを浮かべているが内心は非常に警戒していた。
(ふむ、雰囲気はうまく隠せてはいるが、目が笑っていないのは丸分かりですよ。殿下)
こんな二人をそっちのけでレグルスは未だに小太刀の手入れをしている少女を見ていた。
「でだ斑鳩、お前の後ろに立っているのは誰だ?」
「これは私の古くからの友人だ」
「真壁介六助と申します」
「うん、よろしくな真壁。……斑鳩一つ聞いて良いか?」
「ん、何だ?私の趣味のことか?」
「いやそれも気になるが、あの人は何だ?」
そう言い、正仁の視線は斑鳩からメガネの少女に移り、斑鳩も少女の姿を確認するとため息を出した。
「あれは…その……赤の家柄である月詠家の長女なんだが…色々と問題がある」
「問題?何が問題なんだ?とりあえず呼んでくれないか?俺の親友がずっと見ているんだが……」
正仁の後ろにいるレグルスは先程と何ら変わらずじっと見つめていた。それを見た斑鳩は若干顔を引きつらせながらも、その少女を呼ぶことにした。
「月詠、ちょっとこっちに来てくれないか?」
そう斑鳩が聞こえるように大きめの声で言うと、少女はこちらに気づき、小太刀を鞘に入れて、机に置くのではなく、そのまま手にして近づいてきた。
そして正仁、レグルス、斑鳩、真壁四人の前に止まり、少女は口を開いた。
「なんや?斑鳩はん?うちに何のようなん?」
非常に訛っていた。そして五摂家相手に様ではなく、はんという言葉使いで、正仁も口を大きく開いて驚いた。それに対し斑鳩はため息だけした。もう慣れているようだ。
「月詠、こちらのお方は有栖川宮正仁殿下だ。お前と話がしたいそうだ」
「ふ~ん……」
月詠は、驚くことも敬意を払うこともせず、ジロジロと正仁の身体の隅々まで見始めた。
正仁はただ動かず、月詠の観察を終わるのを待ち、斑鳩と真壁は月詠が粗相をしないか心配しながら終わるのを待った。
「うん。ええやん。うちの名前は月詠真衣や。よろしゅうな正仁はん」
「こちらこそよろしく。月詠」
「真衣でええよ~」
なにがいいのかは分からないが、とりあえず真衣とは良い友達になれそうだ。何故か分からないがそう思った正仁だった。
「月詠さん!!!」
後ろにいたレグルスがいきなり大きな声を上げ月詠を呼んだ。声が大きかった故にクラスの全員がレグルスに視線が集まった。
「なんや?えっと~……何さん?」
「正仁の家でお世話になっている、レグルス・ヴォルフルムと申します!」
「そか~よろしゅうなレグルスはん」
「ハイッ!よろしくお願いします!月詠さん!!」
真衣は普通に会話しているが、正仁もレグルスを初めて見る斑鳩も、レグルスが興奮していることが一目で分かった。なぜ興奮しているのかは分からないが正仁は落ち着かせようとした。
しかし
「月詠さん!!」
「どうしたん?レグルスはん?」
「僕と………僕と!!」
「結婚してください!!!」
レグルスの放った言葉に、教室が凍り付いた。
そして正仁も斑鳩も真壁も凍り付いて思考が停止していた。
この教室にいる全ての人間が凍り付いていた。
しかし唯一月詠真衣とレグルス・ヴォルフルムだけが動いていた。
レグルスは、赤く震え、汗が滝のように出ている。
対して真衣は先程と変わらない表情で口を開いた。
「嫌や」
そういった。しかも笑顔で。しかしその言葉で教室の人間は現実に引っ張り戻された。
その答えを聞いたレグルスは、少し自虐的な笑みを浮かべ窓を開け、窓枠に足をかけて、外へ飛んだ。
「何やってるんだお前は!?」
ギリギリで正仁がレグルス足を掴み、何とか紐無しバンジーは阻止された。しかし体の殆どが外に出ているため宙ぶらりんの状態で正仁も半身飛び出している。因みにここの教室は四階である。
「離せ!正仁離せ!死なせてくれ!」
「暴れるな!本当に落ちるから暴れるな!斑鳩、手伝ってくれ!」
「分かった!」
「離せえ!生き恥は曝したくなーい!武士の情けを許してくれーッ!」
「死に恥を曝そうとするな!」
そんなはちゃめちゃな状況を本当に心の底から楽しそうに笑う真衣だった。
1987年、欧州各国政府が英国とグリーンランドへ避難。BETA群の本格的な西進に抗しきれず、難民の欧州大陸脱出を支援するためポルトガル領内に踏みとどまっていた各国政府が、英国領やグリーンランド、カナダなどに首都機能を移設。
日本、琵琶湖運河の浚渫工事が始まる。インド亜大陸の戦況悪化を重く見た日本帝国は、かねてより国連から要請されていた大陸派兵の検討を開始。それに伴い、帝国軍参謀本部直轄の国内展開専任部隊として本土防衛軍を創設するなど、将来予想されるBETA本土進攻への対応を開始。琵琶湖運河にも再び脚光が浴びせられ、浚渫工事を着工。大阪湾・伊勢湾-琵琶湖-敦賀湾を結び、帝国海軍が保有する紀伊級戦艦や30万tクラスのタンカーも通行可能とするため再整備された。
米国、F-18 ホーネットを配備開始。ソ連、MiG-25 スピオトフォズを配備開始。
国連、日本帝国及びオーストラリアの常任理事国入り。常任理事国が米英仏ソ中日豪の7カ国になる。
但し、日豪の拒否権は20年間(2007年まで)凍結。
そして7月。
米国のニューメキシコ州ホワイトサンズにて。
五次元効果爆弾(通称G弾)の起爆に成功した。
だがこの年、日本にて極秘計画が動き出した。
MS開発計画。
日本帝国は静かに、アメリカ合衆国は大きくBETAに対抗するべく動き出した。
後書き
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