世界をめぐる、銀白の翼
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第三章 X《クロス》
破壁
聖王教会
瓦礫と煙がところどころに散る廊下にて――――――
「アクセルシュート!!」
「ちょこざい!!」
バパァン!!!
なのはと理樹が、クロコダイルアンデットと交戦をはじめ、すでに五分。
ヴィヴィオは医務室で理樹のバリアに入って隠れていて安全だ。
すでに火事も収まっており、この場でこいつを倒せばそれで終わりだ。
しかし、まだ倒せずにいる。
正直に言おう。この状況は異常だ。
あの「エースオブエース」高町なのはに、「薄緑の翼」直枝理樹が二人掛かりで挑んで倒せていないというのは。
「攻撃が効かない・・・・!?」
「室内だからディバインバスターはできないし・・・・」
そう、この室内においての戦闘が、一番のネックだった。
攻撃のなのは、防御の理樹と、戦闘が始まった瞬間に二人は瞬時に自分の持ち分を理解し、実行していた。
だが、なのはの攻撃は基本的に砲撃魔法だ。
距離が近くては近接戦闘になり、そしてそれはなのはにとってあまり得意である分野ではない。
だからと言って距離を取ろうにも大きな攻撃では建物ごと吹き飛ばしてしまうので却下。
いつも使っているのはカウンターバインドで相手をとどめ、距離を取る戦法―――だが、バインドがあっさりと砕かれて不可。
強いバインドを練ればいいのだが、そうさせてくれる相手ではない。
ゆえに、こうして押しとどめる程度しかできていないのだが・・・・
「会話をする・・・ということは上級・・・ってやつだね」
「なんでここにアンデットが・・・そもそもアンデットは全部封印したんじゃ!!?」
「そんな会話はいいから、そこを退け。全く・・・この二人がいるとは思ってなかったが、やっぱりめんどくさいことになったな」
この二人をして「面倒くさい」で片付けるこのアンデットは、確かに強かった。
この状況というのを差し引いても、このアンデットはおそらく、自分たちとまともに戦えうるだろう。
『なのはさん。僕があいつを引き留めるから、ヴィヴィオちゃんをここから避難させてください』
『・・・大丈夫?』
『僕は最硬の翼人だよ?「世界最強」だってまともに傷つけられなかったこの壁なら大丈夫!!』
『・・・・・じゃあ、お願い!!』
ダッ!!
念話でそう言った会話を取りかわし、なのはがヴィヴィオのもとにUターンして走りクロコダイルアンデットの前に理樹が立ちふさがった。
「む・・・逃がしたくはないな!!」
「僕を突破できると思ってるの?」
フォン、フォン・・・フォンフォンフォンフォン!!!
走り出そうとするクロコダイルアンデットの前に立ち、うっすらと青い粒子をためた掌を流すように構える理樹。
クリスタルのような外見の小さな盾が連続で現れ、理樹が完全に臨戦態勢に入った。
ここから先は通さないという、確かな意思がそこにある。
「さぁ、かかってこい!!」
「舐めやがってぉおぁ!!!」
そうして、クロコダイルアンデットが理樹にとびかかっていき、その巨大なアギトで喰らいついていった。
体を捻り、理樹の体を左右から挟むようにして上顎と下顎を閉じるクロコダイルアンデット。
理樹は自分の体をバリアで作った箱に入れ、それを難無く防いでいた。
「かみつくだけじゃ、このバリアは壊れないよ」
「ほぅか?でふぁこふしほう!!」
ではこうしてやろう、と言ってクロコダイルアンデットがそのまま顎を持ち上げた。
それによって、理樹は「箱」の中で横倒しにされる。
「う、わ!?」
「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!!!!」
ギリギリギリギリギリ!!!
そしてとてつもなく大きな軋みを起こしながら、クロコダイルアンデットの牙と理樹のバリアが火花を散らす。
その目の前で起こるスパークに、理樹が眼を眩ませながらも、その硬度に驚愕していた。
並みの武器でこのバリアを全力で攻撃した場合、その反動で武器の方が破壊されることが多い。
それほどまでに硬いのだ。
それに対し、これほどに責め立て、ヒビ一つ入らないその強靭なあごと堅牢な牙。
しかも、それだけには終わらなかった。
「轟オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
ギャオッ、ゴゴォ!!!
クロコダイルアンデットはそのまま理樹を壁や地面に叩きつけ、さらなる衝撃を持って破壊しにかかった。
いくらなんでも、これでは理樹もたまったものではない。
バリアからビリビリと振動が伝い、それが空気を伝って理樹を直接叩きつけているのだ。
「うゥゥウウウあ!?こ・・・れは・・・ちょっと・・・!?」
叩きつけ、ブン回し、顎の筋肉を収縮させる。
その動作が、ついにこの生物の持つ能力を、最大最恐にまで引き出す技にまで到達した。
グルンッッッ!!!ゴガガガガガガガガガガ!!!
時に
デスロール、という技を知っているだろうか。
ワニが標的にかみつき、その体を引き千切ろうとする際に用いる技である。
その動作は豪快にして破壊的だ。
標的に噛みつき、身体を回転させることでただえさえ強靭なあごの力をさらに増大させ、相手の身体を引き千切って息の根を止めるというものなのだから。
そして、その動作をこいつができないわけもなく・・・・
ゴゴン、ゴゴンゴゴン、ゴゴンゴゴンゴゴン!!!!!
ゴガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッ!!!!
「い!?」
「ガアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオ!!!」
回転する視界。
すっとんでいく景色。
もはや方向などわからない。
最初に自分が立っていた向きもわからくなるような回転に、理樹が頭を押さえながら箱の中で小さな悲鳴を上げていた。
そして、ついに
ビギッッ!!!
「ば・・・そんな!!」
理樹のバリアに、ヒビが入った。
「そ、そんな・・・この壁が・・・・!!??」
「死ねぇぇぇぇええええええええええええ!!」
「ッ!?流動!!」
理樹のバリアに牙が食い込み、もう少しで破壊されるというところで理樹がバリアを流動させて顎から脱出した。
が、デスロールの最中にそれをしたために理樹の体はきりもみ回転しながら吹き飛び、どっちが上で下なのかもわからないまま壁に叩きつけられ、その壁の向こう側にまで突っ込んだ。
ガラガラと崩れるがれきの穴から、理樹の腕がだらりと垂れ下がる。
「フゥ・・・フゥ・・・まさか、ここまでやらねばならんとは思わなかった・・・だが・・・」
理樹が突っ込んだ穴をちらりと見、そしてクロコダイルアンデットがクイ、と少し上の方を見て、何かを察知するかのようにしてから、肩を落として踵を返した。
「離脱された・・・・か。ち、結局のところこいつに邪魔されたということか・・・・む?」
忌々しそうにつぶやき、理樹に止めでも刺そうとしたのかそちらに足を進めようとしたクロコダイルアンデットだが、何かを感じ取ってからさすがに今の消耗した状態では分が悪いと思ったのか、その場から即座に消えた。
「ぐ・・・あ・・・・・・せn・・・・戦艦・・・・承・・・認・・・・」
《(ピピッ)コード認証。直枝理樹、承認いたしました》
「これで・・・あっちは・・・・なんとか・・・・な・・・(ガクリ)」
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「理樹さんからの承認確認しました」
「やっと来たか・・・・・では、行こうか!」
「真人君、謙吾君、エリオ君、スバルさん!!これより消火に移ります。水圧に吹き飛ばされないよう、直ちに脱出してください!!」
「謙吾さんたちは大丈夫ですか!?」
『敵は倒しました!』
『今から脱出する!!』
『なあ、あれなんだったんだ?筋肉的に弱かったぞ?』
『こちらスバル!要救助者と接触!今から脱出します!!』
『こちらティアナ』
「ティアナさん!!来てたんですか!」
『爆発火災って聞いたからね。急いで来たのよ。それで、地下一階でマリアージュと遭遇。多分これから交戦に入るわ』
「わかりました。ではスバルさんはウイングロードで脱出を。ティアナさんも放水のタイミングでそこを離れてください」
『わかった!!』
『了解!』
「メイン駆動炉、オールクリア」
「全消火冷凍弾、装填完了」
「エネルギー、78%使用可能」
「反重力エンジン、問題なし」
「パイプライン、問題なし!!」
「了解。起動システム、機動エンジン、オールグリーン」
「行くぜ・・・空中移動戦艦「瞬風」・・・起動、発進!!!」
ゴォン・・・・・!!!!
エリオたち三人がビルから飛び出し脱出した瞬間、海の底からそんな重い駆動音が聞こえ、徐々に海面が盛り上がって行った。
そしてその山になった海面がはじけ飛び、そこから巨大な戦艦が姿を現しそのまま空中にまで飛び出していった。
「あ、あれは!!」
「空中移動戦艦「瞬風」。「EARTH」の地下で作られてしたのが、やっと完成したんだ」
「で、今回それを持ってきたってわけだ」
「あの名前は・・・・・」
「・・・ああ、そういうことだ」
「消火冷凍弾、発射!!」
「発射!!」
ドドドドドドドドドドドンッ!!!
瞬風の操舵室で恭介が号令をだし、流れるようにミサイルが飛び出して行ってビルに着弾。
その瞬間に着弾したところから白い煙が上がっていき、急速冷凍して炎を消していく。
「ほとんどの方が避難していて助かりました」
「だな。じゃないとこの弾は使えないから」
「スバルさんの脱出を確認!!・・・・え?」
「どうした!?」
「担がれている・・・きゅ、救助者の男性が、喉にナイフを突き立てて・・・!?」
「じ・・・さつ・・・?」
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「あんた、早くここから離れないと溺れ死ぬわよ?」
『関係ありません。私は一つではありませんので』
「? どういうこと?」
炎上していたビルの地下一階
そこで、ティアナはこの一連の事件の犯人であろう人物、マリアージュと向き合い立っていた。
相変わらずのスピーカーから出ているかのような音声。
人間と話している気がしない。
『私という個体が消滅しても、また別の個体が、彼女を探し出すでしょう』
「彼女?・・・・別の個体?・・・あなたは一体・・・・」
『トレヴィア・グラーゼの居場所は知れました。いまこそ我らにイクスを取り戻すとき。邪魔をしないでください』
「ッ!?」
そこまで言って、マリアージュがティアナに向かって走り出してきた。
手に持った剣を突き出し、その喉を引き裂こうと突進してくる。
が、ティアナはとっさに地面に倒れ、仰向けになって頭上を越えていくマリアージュに向かってクロスミラージュからの弾丸を放った。
バチュン!!
「え?」
「ォ・・・・・」
そして、その弾丸はマリアージュの股を抜け、脳天から飛び出して天井に当たった。
一番驚いているのはティアナだ。
この弾丸は非殺傷設定の弾丸なのに、一発撃っただけでここまで人体を貫くなんてことはありえない。
ティアナを越え、少し行ったところでマリアージュが止まる。
立ち上がり、その姿を見るティアナだが、その瞬間彼女の困惑の表情が、驚愕の表情へと変わった。
「え・・・液体!?」
『新たなるマリアージュたちよ・・・我らが主を・・・みつ・・・け・・・』
ドロッ!!!
ティアナが驚くのも無理はない。
マリアージュは彼女の目の前で立ち止まって振り向いたと思ったら、突如としてどろりとした液体になって溶けてしまったのだから。
『ティアナさん、一階と二階部分に放水を始めます。そこは危険なので、脱出してください』
そこで、ティアナに西園からの連絡が入り、その液体を少しだけ瓶に入れてその場を離脱した。
キーワードは、そろった。
解くための鍵は、あの天才科学者だ。
to be continued
後書き
さて、今回は理樹の戦いを終わらせ、火事のほうも終結させました。
蒔風
「で、スバルの目の前で救助者が自殺・・・か。この点は原作と変わらないな」
自殺される現場が違いますけどね。
蒔風
「俺でも傷一つ入れられなかった理樹のバリアをかみ砕きに来るとは・・・恐ろしいアンデットだな。クロコダイル」
そうなんです。
上級アンデットは恐ろしい。
半端ない強さですから。
蒔風
「そして戦艦。「船」って言うのはこういうことか」
名前は言わずもがなです。
イメージとしては「ランブリング」です。
蒔風
「ゴジラファイナルウォーズに出てたやつか」
ああいう特撮怪獣映画はこういう時に便利ですね。
蒔風
「次回、ところ変わってクラウドの戦い」
ではまた次回
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