水の国の王は転生者
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第三十八話 リュエージュ防衛戦・後編
夜も開け切らない頃、リュエージュ市とそれを包囲する反乱軍との間の地中では、反乱軍がジャイアント・モールを呼ばれる巨大モグラを使役してリュエージュ地下に大きなトンネルを掘らせていた。
「よしよし、どんどん掘れ」
『ブキュ』
マクシミリアンが指摘した通り反乱軍の工作部隊が、昼間の戦闘後にトンネルの掘削作業を開始し、日にちが変わる頃にはリュエージュ自慢の城壁まで数メイルまで迫っていた。
だが、マクシミリアンはその工作作業を察知し早速工作部隊への襲撃を命じた。
ゆっくりと城門が開けられ、十数名の襲撃部隊が出てくると、地面の下の僅かな音も逃さないように地面に耳を当て始めた。
「……何か聞こえるか」
「僅かですが聞こえます……真下です!」
「よし、直ちに攻撃開始!」
襲撃部隊兵士は、魔法やスコップで地面に穴を掘り始めた。
数分足らずで真下のトンネルにたどり着くと、それぞれの穴に松明と硫黄の入った袋を放り投げた。
たちまちトンネル内に有毒なガスが充満し始める。
「ぐはぁっ! げほげほ!」
「目が、目がぁ~!」
有毒ガスに耐えられなくなった敵工作隊は、襲撃部隊が掘った穴から一斉に顔を出した。
顔を出した敵に襲撃部隊はスコップや大槌で殴りかかった……死のもぐら叩きの始まりだ。
「オラ、死ね!」
「ぎゃあ!」
人間とは一方的な状況になると何処までも残忍になれる。
襲撃部隊は愉しむように、死のもぐら叩きを続ける。
その襲撃部隊には、先日カリーヌ夫人がカトレアと共に連れて来た元誘拐犯二人が居た。
「よし、この作戦の戦功で。かつての領地を取り戻すぞ!」
「おぉぉ~っ!」
「あわよくば褒美も貰おう。」
「皮算用だけど問題ないよね」
2人はリュエージュ市に連れて来られたものの、何もすることが無く暇を持て余していた。このままではフェードアウトしてしまうと、危機感を募らせ今回の作戦に志願した次第だった。
『プギ?』
「あ、ジャイアント・モールだ!」
「大物だ! 殺れ!」
『プギィーッ!』
ジャイアント・モールの悲鳴が闇夜に響く、哀れな工作部隊は穴からか頭を出して殴り殺されるか、トンネル内で松明の煙と硫黄で中毒にかかって死ぬかの二つしかなく、逃げ出せたものは一人も無く、襲撃部隊にジャイアント・モール共々血祭りに上げられた。
……
反乱軍の企みに潰したマクシミリアン軍は、そのまま睨み合った状態で時間だけが経った。その間、マクシミリアン軍は城壁の修繕を終え、初戦での勝利とトンネル作戦を潰した事で兵の士気も高かった。
そんな中、一向に動こうとしなかった反乱軍が突如動いたのは5日後の事だった。
反乱軍は初戦の攻勢で多くの逃亡兵を出したが、未だに規模は大きく、マクシミリアン軍に最後の戦いを挑んできた形になった。
反乱軍が動いたと聞いたマクシミリアンは、すぐさま司令部に顔を出すとグリアルモントが参謀らと協議を行っていた。
「敵の状況は?」
「反乱軍は西門方向に回り込み、大攻勢の様相を呈しています」
「大攻勢? 具体的には?」
「軽竜騎兵で偵察した所、反乱軍は航空兵力を全てを投入して、文字通りの大攻勢をかけてきました」
「敵は全兵力を投入したのか」
「御意。さらに敵は周辺の商人と接触して、竜や幻獣に食わせる食料の買い付けを行ったと、クーペ殿のスパイ網から報告が上がりました。その為、敵竜騎兵の士気は旺盛で、さらに精鋭を投入すると予想されます」
「詳細は分かった。それで我が軍の対策は?」
マクシミリアンの問いにグリアルモントが答えた。
「敵の飛行を邪魔する為に、ラザール殿の協力を得て閉塞気球なるものを急遽作らせました」
閉塞気球とは、航空機の針路を邪魔する為のアドバルーンの様なものだ。
「だが飛行の邪魔をするだけだろ?」
「ご安心下さい、閉塞気球を巧みに配置し、一部の閉塞気球に探知を施し敵が近づいたら爆発する実験兵器もございます。私に良い策がございますし、そして何より、我が軍の竜騎兵隊の士気は旺盛でございます」
「負ける要素は無いという事か」
「敵は侮ることは厳禁ですが、我が方の負ける要素はございません」
「結構……これが最後の戦いになるだろう。この戦いが我々の勝利に終われば新しい時代が来る。その為にも皆の奮闘努力を期待する」
『御意!』
……
反乱軍は、情報どおり航空戦力で攻勢を仕掛けてきた。
風竜や火竜にグリフォン、レアな物だとワイアームといった幻獣に乗って攻勢を仕掛けてきた貴族達。
見た目は、いかにも大攻勢な雰囲気だったが、高スピードの風竜の隣に鈍重なバジリクスが平行して飛んでいるの見てマクシミリアンは、
「あれでは烏合の衆だ」
と呟いた。
「その様ですね……直ちに迎撃を」
グリアルモントは、相槌を打ち部下達に迎撃の命令を出した。
対するマクシミリアン軍は、数では反乱軍に劣るものの、火竜と風竜を分けて編成し、風竜を駆る軽竜騎兵で撹乱し火竜や各幻獣を駆るメイジと地上の部隊とで攻撃する戦法を取った。
「あれは……」
マクシミリアンが見た先には、先日と同じ塔に執事のセバスチャンが居た。彼が手に持っている銃は先日塔に配置していた対戦車ライフルだった。。
マクシミリアンは知らなかったが、セバスチャンの得物は『ボーイズ対戦車ライフル』という場違いな工芸品で、.55口径のモンスターライフルだ。
セバスチャンはあの対戦車ライフルで敵の航空戦力を狙撃するつもりのようだった。
……
リュエージュ上空で、本日最初の戦闘が開始された。
囮役の軽竜騎兵が、一撃離脱戦法を慣行すると、反乱軍は軽竜騎兵に釣られる形になり軽竜騎兵を追撃した。
「竜を任されているのに、早々に逃げ出すとは見下げ果てた奴らだ」
敵竜騎兵が逃げ出した軽竜騎兵達を嗤った。
空軍の花形である竜騎兵は、誰もがプライドが高く、指揮官の命令も平気で破る事も多々あった。
マクシミリアンの編成した軽竜騎兵は、屈強さや魔法のレベルで選ばれたわけではなく、第一にいかなる命令にも服従する絶対的な忠誠心が必要とされた。
軽竜騎兵は、リュエージュ上空に上げられた閉塞気球を避けながらある空域へ誘導する。
敵航空戦力は、高い錬度を誇っていて閉塞気球を難なく避けて軽竜騎兵を追った。
そんな時、敵の火竜騎兵が一つの閉塞気球を避けると、探知の施された閉塞気球が大爆発を起こした。
「うおおお!」
「なんだ!」
爆風に巻き込まれた敵航空戦力はの一部は、リュエージュ市の塔や建物に激突し市内に被害が出てしまった。
「ちょ……」
「火薬が多すぎましたな。後でラザール殿に報告しないと」
絶句するマクシミリアンの側で、グリアルモントは紙にレポートを書いた。
「被害が出たぞ、どうするんだこれ!」
「市内に被害が出たのは遺憾です」
「遺憾って……」
「お言葉ですが、一切被害を出さずに戦争に勝つなど不可能にございます」
「言ってる事は分かるが、僕達の過失で市内に被害を出しては信用に関わるだろうに」
「殿下、間もなく敵が我らの用意した罠に飛び込みますぞ」
(コイツ……)
話を逸らしたグリアルモントに、内心舌打ちを打ったマクシミリアンは、視線を敵が飛び込んだ東門に向けた。
「グリアルモント、お前の言う秘策って何なんだ?」
「逆にお聞きしますが、殿下は東門に何がおありか覚えておいででしょうか?」
「東門というと……ああ、300リーブル砲か」
グリアルモントは頷くと、マクシミリアンと同じように東門に目をやった。
……
東門の城壁は、他の城壁より厚く作りがしっかりしている。
その理由は300リーブル砲の巨砲の衝撃に耐えられるように設計されているからだ。
その300リーブル砲の周りでは、すぐにでも発砲できるように砲兵達が物陰に隠れていた。
「敵、間もなく予定空域に到着します」
「仰角も全て計算どおりです」
「打ち合わせじゃ、味方の竜騎兵が急上昇したら発砲だ」
「了解」
ジリジリとした焦燥感が砲兵達を襲う。
そして、味方の軽竜騎兵が急上昇をして、敵航空戦力が300リーブル砲の射程内に現れた。
「撃てぇぇぇぇぇーーーー!」
ズガァァァーーン! と腹の底が押し上げられるような衝撃が砲兵達を襲った。
300リーブル砲の巨砲から放たれた砲弾は、『ぶどう弾』と呼ばれる一種の散弾で、マスケット銃の小弾が詰まっている様がぶどうに似ている事からそう呼ばれ、本来は近距離用の対人兵器でだった。
大量の小弾は、空中の風竜やグリフォンなどの比較的外皮の薄い幻獣には効果覿面で、殆どの高スピード低装甲の幻獣が撃ち落された。
「よし、次のステップに入る」
グリアルモントが命令を出すと、今まで逃げ回っていた軽竜騎兵が空中を返す刀で急降下し、混乱した敵の航空戦力に襲い掛かった。
軽竜騎兵が襲撃を加えると、ミニエー銃を持った歩兵達が軽竜騎兵の攻撃の合間をぬって発砲し、息つく暇もない攻撃に戦力を減らしていった。
セバスチャンの対戦車ライフルも火を噴いた。
最初の標的は、鈍重で装甲の厚そうな巨大ドラゴンだ。他の幻獣とは一線を画しており、おそらく火竜種だと思われるがとても巨大だった。
轟音と共に放たれた徹甲弾は、乗っていた貴族諸共ドラゴンを易々と貫通した。落ちてゆく貴族の上半身は無い、即死だろう。
他にも数発、幻獣ごと貴族を狙撃するとマガジン内の弾を撃ち尽くしたのか『ボーイズ対戦車ライフル』を置き、別の大型ライフルを取り出した。場違いな工芸品は『拾い物』で、予備の弾薬は無く作る技術も確立されていない為、基本的に使い捨てだった。
新たに取り出した場違いな工芸品は『デグチャレフPTRD1941』、地球の旧ソヴィエト製の対戦車ライフルだ。
セバスチャンは先ほどを同じように全弾撃ち尽くしては、新たなライフルに変えて戦い続けた。
各員の奮闘のおかげで、散々に打ちのめされた反乱軍は、退却しようにも軽竜騎兵が追撃を掛け、それぞれの魔法と銃身の短いカービン銃(非ライフリング)で反乱軍の航空戦力は完全に壊滅した。
地上、空中の見事な連携にマクシミリアンもご満悦だった。
「お見事、と言っておこう」
「この戦闘で敵の航空戦力は壊滅したようです」
「これでリュエージュ市内に直接攻撃される事は無くなったな」
「御意」
「市内への被害の事だが、グリアルモントのいう事にも一理ある。よって被害に関しては王国の名の下に保障させる。これからもその辣腕を振るってくれ」
「ありがとうございます」
☆ ☆ ☆
翌日、航空戦力を失った反乱軍は、全ての軍勢を投入してきた。
駆け足で城壁まで迫る敵兵達は、最早戦術も糞もなく何が何でも城壁にたどり着こうという、反乱軍司令官の思考放棄にすら見えた。
そして、それを虎視眈々に待つマクシミリアン軍。そんな彼ら戦闘前カップ一杯のワインとドーナツが支給された。
戦闘前だが少量のアルコールを摂取して、緊張を和らげる事が狙いだった。ドーナツは小麦で作った白パンを油で揚げ砂糖をまぶした簡単なものだ。
兵士達の中には貧農出身の者も多く、祭りの時ぐらいしか甘いものが食べられない者も居た。その為、大変好評で士気も大いに高まった。
いよいよ近づく反乱軍にマクシミリアン軍の戦意は上々だ。
「いいか、敵は絶え間なく突撃してくる。射程内に入り次第発砲せよ」
「了解!」
下士官の命令に兵たちは応えたが、一部の兵士達は少し緊張していた。アルコールの力を持ってしても緊張とは無縁ではいられない様だった。
「そろそろだ。射撃用意っ」
……ゴクリ。と誰かが喉を鳴らした。
土煙上げ駆け足でさらに近づく反乱軍。
「よし! 撃てーっ!」
パパパパパン!
ミニエー銃が一斉に火を噴いた。
「うわっ」
「ぐうっ」
バタバタと倒れる敵兵達、しかし後ろから次々と別の兵士が迫ってきた。
「撃て撃て!」
……倒しても倒しても、次々を現れる敵兵。
何度も言ったが、ミニエー銃は前装銃の為に連発は出来ない。
そこで、マクシミリアンが、三段撃ちの戦法をグリアルモンドに提案した。
リュエージュ城壁では、ミニエー銃を持った兵士が列をなしており、城壁や銃眼から発砲した兵士は最後尾に移動すると、後ろに控えていた第二列の兵士が前に出て発砲。第三列、第四列と、最終的に第六列まで戦列を作って攻撃させた。
ライムラグの少ない射撃が、次々と火を噴き、敵兵が倒れていった。
反乱軍も負けじと、倒しても倒しても次々兵士がと現れ、城壁との間隔は徐々に狭まってきた。
「メイジ隊、準備!」
グリアルモントの命令で、メイジたちが銃兵の後ろに控えた。
「メイジ隊、『ファイヤー・ボール』詠唱始め!」
メイジ達が一斉に『ファイヤー・ボール』の詠唱を始めた。
「次の銃兵の発砲後、敵最前列に対し『ファイヤー・ボール』一斉射!」
パパパンッ!
と銃兵が発砲を終え、控えていたメイジ達が前に出た。
「よし、『ファイヤー・ボール』放て!」
『ファイヤー・ボール!』
放たれた魔法は駆け足で迫る敵兵に次々と直撃、多くの兵士が火達磨になった。
「我らもゴーレムを!」
これに対抗して反乱軍側も5体の巨大ゴーレムを作り突撃させた。
「敵ゴーレム5体!」
「300リーブル砲は?」
「東門の300リーブル砲を、反対方向の西門へ向けて撃つのは無理だそうです」
「ならば24リーブル砲の水平反射を!」
「既に砲撃準備は整っています」
「では、砲撃開始!」
24リーブル砲が次々と発射された。
砲弾は8割がたゴーレムに当たったが、身体の一部が軽く崩れただけですぐに再生してしまった。
「駄目か!?」
「敵ゴーレム更に近づきます!」
「メイジ隊は『エア・シールド』で敵ゴーレムの城壁への到達を妨害せよ!」
『エア・シールド!』
メイジ隊が共同詠唱で無数のエア・シールドを張り、敵ゴーレムが城壁に取り付く事を阻んだ。
「おお!」
「流石、貴族様」
「がんばれ! 貴族様!」
やんややんやと兵士が、メイジ隊を応援した。
以前のトリステイン、いやハルケギニアでは一切見られない光景だった。
ゴーレムは城壁に取り付かこうと、エア・シールドで出来た空気の壁を押し潰そうと、押し合い圧し合いしていると一発の銃声が鳴り響いた。
銃声の後、城壁に取り付こうとしたゴーレムを音を立てて崩れ落ちた。
崩れた巨大ゴーレムの近くに、ゴーレムを作り出したメイジなのだろう。派手な服を着た男の死体が土山の隣に転がっていた。
「どうした!?」
「グリアルモント殿! あれを!」
仕官の1人が市内の塔を指差すと、そこにマクシミリアンと執事のセバスチャンが居た。そしてセバスチャンの手には別の対戦車ライフルが持たれていた。対戦車ライフルで、しかも徹甲弾で人を撃つなど勿体無いし外道極まりない気もするが、先日使用していたスコープ付きKar98kは弾を撃ちつくしてしまい、他に狙撃できる銃が無かったからだった。
「先ほどの銃声は誰が?」
「執事のセバスチャン殿だろう。いやはや流石は元メイジ殺し、凄い腕前だ」
セバスチャンは、次々とゴーレムを作ったメイジを狙撃した結果。5体居た巨大ゴーレムは全て土に戻った
「いいぞセバスチャン。これで敵ゴーレムは全滅だ」
「お褒めに預かり、恐悦至極……」
塔の上のセバスチャンはマクシミリアンに向け一礼をした。
マクシミリアンが塔の上から反乱軍の状況を見てみると、指揮官と思しき貴族達が動揺していた。
どうやらあの5人のメイジは彼らにとっての切り札だったようだ。
「敵は浮き足立っている、畳み掛けるチャンスかも……」
マクシミリアンは呟いた。
「殿下、例のロケット砲陣地より、狼煙が……」
「ラザールか、この状況を見て畳み掛けるつもりのようだな」
マクシミリアンの言うとおり、地平線の先のロケット砲陣地から無数の煙が打ち上げられると、その煙は空中で弧を描く。
ヒューヒューヒューと、甲高い唸り声を上げて百を越すロケット砲弾が反乱軍に向けて雨の様に降りかかってきた。
「うわぁぁぁぁーーーーっ!!」
「ぎゃぁぁぁぁーーーーっ!」
『地獄』という言葉がこれほど似合う光景は無いだろう
逃げようにも、ロケット弾の飽和攻撃に反乱軍は為す術もなく、ロケット弾の雨は、2万の反乱軍を貴賎問わず平等に肉片へと変えた。
マクシミリアン軍が、目の前の惨状に呆然としている頃、グラモン伯爵に指揮された王党側の諸侯軍が来援した。
「諸侯軍参上! 栄光あるトリステイン王国に弓引く反乱軍ども! このグラモン伯が相手になるぞ覚悟は良いな!」
と威勢よく口上を垂れたが、目の前の光景に振り上げた腕で頭を掻いた。
「……これでは、我々の出番が無いではないか」
グラモン伯だけではない。
モンモランシ、グランドプレ等々、王党側についた諸侯の面々がこの光景を見ていた。
「あれは魔法なのかね? グラモン伯」
モンモランシ伯がグラモン伯に問うた。
「あれは魔法では無い。確か、『カガク』と言ったか」
「ううむ、凄まじい威力だが少々やり過ぎではなかろうか」
「……忌々しいが時代が変わったということか」
困った顔でグラモン伯はそう答えた。
諸侯軍が、反乱軍の状況を遠くから見て、手を拱いていた時、援軍の来援を待っていたマクシミリアン軍の別働隊が攻勢をかけた。
ダグーに率いられた別働隊は、6リーブル騎兵砲8門を素早く展開し、大混乱に陥っている反乱軍に砲撃を加えた。
反乱軍にとっては泣きっ面に蜂だろう。
ここでロケット砲陣地の放火が止んだ。どうやら備蓄のロケットを全て撃ち尽くした様だった。そこに、ダグーの絶妙のタイミングで、反乱軍に銃撃をかけた。
地獄から開放されたと思った矢先の銃撃に、最早反乱軍に規律は存在しなかった。
……
「降伏だ! 降伏しよう!」
「何を勝手に降伏しようとしている! 我らはまだ戦えるぞ!」
「いやいや、ここはまず、逃げ……後退すべきだろう」
元々、大して戦略も無く、無理やり蜂起させられた感のある反乱軍。軍内は常に意思の不一致が見られた。
「そもそも私は反乱なぞしたくなかったんだ!」
「何を今更! 栄光あるトリステイン貴族なら覚悟を決めろ!」
「何か食い物は無いか? ここ数日何も食べてないんだ」
完全にグダグダの反乱軍。
「みんな、お前らの責任だ! 責任を取れ責任を!!」
一人の貴族が杖を振るった。
「ぐわぁ!? 何をする!」
そんな反乱軍幹部は、遂には内ゲバを始めた。
「……何やってんだ、あいつら」
遠くから反乱軍の同士討ちを見て、思わず呟いたマクシミリアン。
「殿下、これは好機では?」
「これは、カリーヌ夫人」
マクシミリアンの居る塔の天辺に、カリーヌ夫人がマンティコアを駆って現れた。
「そうですね……諸侯軍や別働隊も来ていますし、僕も好機だとは思います。ですが、この戦闘の責任者はグリアルモントです。彼の意見を聞きましょう」
「御意」
マクシミリアンは、セバスチャンらを連れグリアルモントの居る司令部に移動した。
司令部ではグリアルモントやジェミニ兄弟たち参謀らが追撃の為の協議をしていた所だった。
「これは殿下」
「状況は?」
「現在、敵追撃の編成中です」
「僕が言わずとも追撃するつもりの様だったね」
そこに一人の家臣がやって来た。
「報告します! 王軍が来援! 国王陛下御自ら指揮されておられるようです!」
「父上まで来たか。グリアルモント!」
「御意、直ちに我々も打って出ましょう」
いよいよ、戦闘は最終局面に入った。
……
ロケット弾の飽和攻撃で大混乱に陥った反乱軍に、諸侯軍と王軍が雪崩れ込み、そこに烈風カリンと、リュエージュ市に篭もっていたマクシミリアン軍も加わった。
「賊軍よ! 王太子殿下の名の下に、我が杖によって成敗されるが良い!」
仮面を被ったカリーヌ夫人はマクシミリアン軍の先鋒を請け負った。その状況を一言で現せば、それは『蹂躙』だった。
「うーむ、カリーヌ夫人張り切ってるな」
「お母様も今までの鬱憤が溜まっていたのでしょう」
マクシミリアンが塔の上でカリーヌ夫人の武勇を見ていると白衣姿のカトレアが現れた。
「カトレア」
「申し訳ございませんマクシミリアンさま。駄目と言われているのに来てしまいました」
「ま、気持ちは分かるよ、僕も何度か会いに行きたかった事もある」
クシミリアンは、自分が座る木箱の隣にハンカチを置いて、カトレアに座るように促した。
「お隣失礼いたします」
カトレアはちょこんとマクシミリアンの隣に座った。
「僕らの結婚式は内乱のせいで延期になったけど、この戦いが終われば一緒になれるよ」
「そうですね。でも……」
カトレアは、烈風カリンに蹴散らされる敵兵を見て悲しそうな顔をした。
「どうしたカトレア。人が死ぬところを見て気分が悪くなったか?」
「いいえ、マクシミリアンさま。この戦争は避けられなかったものなのか、それが気になりまして」
「う~ん、それは分からないな。そもそもこの戦争の発端は僕の責任だけど、だからと言って回避できたとは思えない。起こるべくして起きた……そう僕は思っている」
「避けられなかった戦争ですか?」
「まあね……敵もトリステインを愛していたんだ。彼らの犠牲は無駄にはしない」
実際、反乱軍の幹部がトリステインを愛していたかは議論の余地があるが、マクシミリアンは敵の名誉のためにそういう事にしておいた。
その間にも、烈風カリンの『カッター・トルネード』で兵士達は薙ぎ払われ、逃げようにも周りを王軍と諸侯軍に囲まれて逃げられない。
完全に包囲された反乱軍は、貴族幹部は殆どが討ち死し、捕虜になった兵士達は、戦後労働力として例の如く北部開発区へと入れられた。
一部の貴族は降伏してきたが裏切り者は赦される事は無く、結局処刑されこうしてトリステイン内乱は終わった。
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