IS~夢を追い求める者~
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第2章:異分子の排除
第45話「想起・桜」
前書き
傍から見ればただの内輪揉めな状況。
これも全部束って奴の仕業なんだ!(違
=桜side=
「全く...セカンドシフトまでしてるとはなぁ...。」
追いついてみれば、完全に秋十君達が劣勢だった。
幸い、箒ちゃんがワンオフを覚醒させたおかげで持ち堪えていたみたいだが。
....これも、織斑がいたからなんだろうなぁ...。
「エグザミア・U-D....番外世代にしては、最終世代でも簡単には敵わない力だな。」
「桜さん...すみません、俺達じゃ...。」
「あれは分が悪い。実質無限のエネルギーだ。数か質、どちらかで圧倒しなければ絶対に勝てない単一仕様だからな。」
数なら物量で、質ならその戦闘技術でSEを削り切るしか、勝ち目はない。
どちらも足りなければ、ジリ貧になるだけだ。
ましてや、セカンドシフトしたからか、ワンオフの効果が上がっている。
本来ならワンオフは、セカンドシフトしてからの力なため、制限が解除されたって所か。
「.....勝てるんですか?」
「おいおい...俺の本気を忘れたか?...いや、見せた事なかったな。」
「っ....!」
俺にとって、今の世代のISではむしろ拘束具になる。
だが、この想起は違う。想起は束が俺だけのために創り、俺だけのために調整してある。
「まぁ、とりあえず....!」
ギギギギィイン!!!
「っ....!?」
明らかな隙を晒していた俺達に、魄翼が迫る。
しかし、俺はそれを一気に切り裂き、防ぎきる。
「“水”と“風”を宿す...その真髄にかかれば、こんなもんだ。」
「あの魄翼を...いとも容易く...!?」
「全員、離れて防衛に徹してくれ。さすがに庇いながらは戦えん。」
「は、はいっ!」
すぐさま秋十君とマドカちゃんが箒を連れて下がり、他の皆も避難させた。
織斑もついでに回収されたから、これで実質一対一だ。
「【......。】」
「...飽くまで織斑を排除するつもりか?」
「【...その通りだ。】」
「ったく、過保護な上に頑固だな。」
U-Dとしては、おそらく俺はあまり傷つけたくないのだろう。
そうすればユーリが傷つくって分かっているからな。
「...いや、違うか。」
しかし、想起による解析を試みると、それは違うと分かった。
「...止めて欲しいんだな?」
「【......。】」
「単一仕様、“砕けえぬ闇”。...なるほどな。こんな所で思わぬ欠陥があるとは。」
常にSEが増幅し続ける能力。それこそ、上限を無視して...だ。
...それを止める方法は、戦闘不能になる他ない。というのが、解析の結果だった。
「後でドクターと博士と共に調整してやるよ。今は...俺が相手になってやる。来い!」
「【...すまない。】」
刹那、俺のブレードと魄翼がぶつかり合う。
その直後に逸れるように魄翼を受け流し、その上に乗ってさらに間合いを詰める。
「全力でぶつかって来い!俺も久しぶりに本気が出せるんだ!」
「【.....!】」
今までの想起の動きとは段違いな動きだ。
ほとんど生身と同じような動きをする上に、そのスピードは今の赤椿を上回る。
「はっ...しゃらくせぇ!!」
―――“羅刹”
接近する俺から距離を離そうと、弾幕が張られる。
だが、その全てをブレード一本で切り裂く。
「ちっ、折れたか。次!」
ギギギギギィイン!!
「はぁっ!!」
キンッ!!
ブレードが折れ、予備に切り替えるとともに迫る魄翼を弾ききる。
そのまま間合いを詰め、“水”を宿し一閃。一気に切り裂く。
「【っ...!】」
「無駄だ....っ!?」
ギギギィイイン!!
SEを利用した障壁さえも、桜の前には無駄...となるはずだった。
しかし、有り余るエネルギーを使ったからか、障壁は何重にも張られていた。
これには、俺も意表を突かれ、突破しきれずに終わる。
「秋十君達...あまり削れてなかったのか...。」
皆がそれなりにSEを削ったりしていれば、こうはならなかっただろう。
...それほどまでに、苦戦していたという訳か...!
「ちぃっ...!」
ライフルを乱射しながら、その場から飛び退くように離れる。
そこへ襲い来る魄翼と射撃。ライフルを使っていなければ相殺も難しい。
「(斬り裂いても埒が明かない...!)」
グレネードをばら撒き、全てをライフルで撃ち抜く。
目暗まし代わりに爆発させ、距離を取る。
「っと...想像以上にきついな。さすがセカンドシフトと言うべきか...。」
まさか俺でも押されるとは思わなかった。
「大技を撃たせる隙は与えない!」
“風”を宿し、一気に接近。
魄翼が振るわれるが、“水”と“土”を宿し回避、もしくは受け流す。
「“水”でも阻まれるなら...全て破るまで!」
“火”を宿し、魄翼を切り裂く。これで四属性全てを宿した。
「“四気乱閃”!!」
俺に魄翼の攻撃といくつもの光球が迫る。
その全てを、俺は切り裂き、障壁にすら斬撃を届かせる。
「はぁああああっ!!」
何重にも展開され、零落白夜でさえ通用しない程の障壁。
それを一太刀で数枚斬り、何度も斬りつける。
バギィイン!!
「っ...!ちぃっ...!」
ブレードが斬撃の負荷に耐え切れず、折れる。
すぐさまライフルを盾にし、魄翼の攻撃を利用して間合いを取る。
「体も機体もついて来ているのに、武器が付いてこないな。」
四属性全てを宿すと、すぐにブレードが折れる。
おまけに、機体がついてきていると言ったが、厳密にはまだ足りない。
「エネルギーを使い続けろ!俺が全て相殺してやる!」
「【....!】」
途端に展開される弾幕。それに対し、予備のブレードとライフルを構える。
とにかく余分なエネルギーを消費させる。
そうしなければ、障壁が多すぎて突破できない。
「っ....。」
...それに、苦戦する訳はそれだけじゃない。
体はついてくる...とは言ったものの、万全ではないからだ。
そう、織斑に刺された傷は治り切った訳じゃない。塞がっただけだ。
つまり....。
ギギギィイイン!
「ぐ、ぅ.....っ!」
弾幕に混じり、魄翼が振るわれる。
それをブレードで逸らすが、ついに傷が少し開いてしまう。
「【ぁ.....!】」
「っ...おいおい、ユーリちゃんに感化されるなよエグザミア...。お前がユーリちゃんと同じ感性になったら、ユーリちゃんの隙を補えないだろうが。」
軽口を叩くように俺は言う。
そして、弾幕を凌ぎきり、その場から飛び退く。
「俺を傷つける事に遠慮するなよ?」
ユーリちゃんと共にいたからか、エグザミアの意志も俺を傷つける事を遠慮している。
...だけど、そんなユーリちゃんの好意を利用する真似はしたくない。
「ふっ....!」
「【....!】」
“風”と“水”を宿し、魄翼を避けながら接近。
障壁を斬りつけ、即座に追撃の魄翼を回避し、弾幕もライフルで相殺する。
「想起....!」
さらに振るわれる魄翼を受け流し、ライフルで相殺できない弾幕はブルーティアーズをSEを使用して再現し、撃ち落とす。
「はぁあああっ...!」
障壁を斬りつけ、魄翼を躱し、弾幕を相殺する。
細かく立ち回り、小さい範囲で攻防を繰り広げる。
「ふっ、ぐっ...!はぁっ!」
さすがに、俺でもそれは苦戦する。
相手は実質無限のエネルギー。対して、俺は負傷している。
やはり、怪我が響いているようだ。どうしても、エネルギーを削り切れない。
「ちぃっ....!」
ギィイイイイン!!
魄翼を受け流すも、大きく後退し、間合いが開いてしまう。
「想起!」
すかさず放たれる弾幕を、ライフルで軽減し、ブルーティアーズを再現して相殺する。
....まずいな。SEも心許なくなってきた。
「....しょうがない。今更出し惜しみなんてするもんじゃないな。」
ここまでは“俺”の全力。
ここからは、俺と“俺の翼”との全力だ。
「....想起。」
〈セカンドシフト〉
既に、条件は揃えてあった。
...だが、ここまですれば俺は周囲に“脅威”として見られるだろう。
尤も、それはユーリちゃんのエグザミアも同じだ。
ならば、死なばもろともだ。
「...付き合ってやるよ。世界がどうユーリちゃんを見ようと、俺は味方でいるぞ。」
「【......。】」
ユーリちゃんの返事はもちろん、エグザミアも返事はしない。
...だけど、今の言葉は届いているはずだ。
「凛として舞い散れ....桜よ!」
「【っ....!?】」
―――“桜花戦乱”
桜の花びらが舞うかのように、魄翼を躱しながら斬りつける。
直後、魄翼は切り裂かれ、障壁も数枚切り裂く。その間、僅か3秒。
「全力で羽ばたけ、想起・桜...!」
「【セカンドシフト....!?】」
再びエグザミアへ突貫する。
すぐさま魄翼が振るわれるが、それに巻き付くような軌道で躱す。
同時に、ブレードも振るい、障壁を切り裂く。
「貫け....!」
「【なっ....!?】」
幾重にもなり、“水”を宿してさえ通らなかった障壁を、貫く。
相手がエネルギーを使うのなら、こちらもエネルギーをブレードに纏わせるだけの事だ。
「ようやくまともなダメージが入ったか。」
「【.....!】」
振るわれる魄翼に対し、想起の特殊武装を開放する。
「咲き乱れろ!」
―――“桜吹雪”
エネルギーで構成された、桜の花びらのようなものが舞い散る。
それらは、魄翼に触れた瞬間に弾け飛び、魄翼に使われているエネルギーを打ち消す。
「【いくら最終世代と言えど、それほどの力、SEが持つはずが...!】」
「ああ。だから、ちょっとチートを使わせてもらった。」
そういって、俺は想起に繋げられた一つの機器を見せる。
先端はまるで棘のように尖っており、何かに刺す事ができるようになっている。
「俺と束で開発したエネルギー吸収機だ。ISの武装として取り付けられる。」
「【私のエネルギーを....!?】」
そう。これでエグザミアの攻撃からエネルギーを掠め取っていたのだ。
ちなみに、尖っているとはいえ、態々刺す必要はない。そっちの方が効率はいいが。
「そういう訳だ。....いい加減、終わらせようぜ。」
「【っ....!】」
宙を蹴り、俺は駆ける。
そんな俺を迎撃しようと、エグザミアは今までよりも苛烈な攻撃を仕掛けてくる。
「―――その動きに風を宿し、」
迫りくる魄翼と弾幕をバレルロールの要領で躱す。
その疾風の如き動きは易々とは捉えられない。
「―――その身に土を宿し、」
躱しきれない一撃を受け止め、剛力で切り裂く。
第三世代でさえ受け止めれない攻撃も、今の俺に掛かればこの通りだ。
「―――その心に水を宿し、」
流水の如き動きで、追撃をふわりと躱し、一気に間合いを詰める。
その際に、すれ違う攻撃は切り裂いておく。
「―――その技に火を宿す。」
ついにエグザミアの目の前に躍り出る。攻撃を全て凌ぎきり、絶好の機会だ。
すかさずブレードにエネルギーを込め、烈火の如き攻撃を繰り出す...!
―――“九重の羅刹”
「【ぁ...ぁあああああああああ!?】」
「終わりだ。」
―――“乱れ桜”
九重の連撃に魄翼はもちろん、障壁もほとんど切り裂く。
だが、それで終わりではない。
間髪入れずに二つ目の技を繰り出し、SEを一気に削りきる。
「四つの力を束ね、切り裂け...!」
―――“四気一閃”
そして、最後に四属性を宿した一閃を放ち、トドメを刺す。
刹那、エグザミアの絶対防御が働き、同時にワンオフが一時停止する。
「束!」
【分かってる!コア・ネットワークからアクセスして、エグザミアのワンオフの解析は既に行っているよ!そっちからもお願い!】
「了解!」
だが、それで戦いが終わる訳ではない。
確かに、最初はエグザミアの過保護さによる暴走だったが、今は“砕けえぬ闇”の欠陥により、エネルギーを消費し続けれなければいけない状態になっている。
だから俺が一気にSEを削ったのだ。
「ぅ....。」
「っ、ユーリちゃん!」
「桜、さん....?」
そこで、ようやくユーリちゃんが目を覚ます。
「わた、し...一体、何を...。」
「ユーリちゃん、今は落ち着いて、エグザミアの制御に集中するんだ。」
「え...っ...!」
砕けえぬ闇が一時停止したとはいえ、すぐに再起動する。
事実、ユーリちゃんが目を覚ました時点で再起動してSEが回復し始めていた。
「ワンオフ....アビリティ...!?」
「俺と束で解析中だ。できるだけ止めてくれ。」
「は、はい....!」
状況は分からなくても、ユーリちゃんは俺の言う通りに行動する。
「っ....!」
「想起!エネルギーを吸えるだけ吸え!」
戦闘でも使っていた機具を使い、出来る限りSEを回復させないようにする。
「さ、桜さん...!抑えきれませ...!?」
「際限ないだけじゃなく、増幅量も上がっている...!?」
既に想起のSEは全快した。だが、吸収する量よりも増幅する速さのが上だった。
「すまん、少し痛いけど、我慢しろよ...!」
「っ...ぐ、ぅぅ....!」
至近距離でライフルを連射し、回復しようとするSEを削る。
その衝撃でユーリちゃんが苦しむが、今は我慢だ...!
「束ぇ!!」
【解析完了!!強制停止、行くよ!】
寸での所で射撃を止め、同時にエグザミアが解除される。
強制的にエグザミアを待機状態に戻したのだ。
「ひゃぁっ!?」
「っと...。大丈夫か?」
「は、はい...。」
落ちそうになったユーリちゃんを受け止め、何とか無事に終える。
「(なんとか無傷か...。)」
「...ぇ...っ...!?」
ユーリちゃんが無傷な事に安心していると、そのユーリちゃんが驚いていた。
「さ、桜さん...血、が...。」
「...あー...織斑にやられた傷だな。」
「まさか、この状態で....。」
ユーリちゃんの顔色が悪いな....。まぁ、俺が刺されたのが原因で暴走したし...。
「....はぅ....。」
「あ、気絶してしまったか...。」
やはり精神的に耐えられなかったのか、気絶してしまった。
「桜さん!」
「おお、皆か。見ての通りだ。」
秋十君を筆頭に、皆が寄ってくる。織斑だけ離れているが。
「その力は...。」
「...表舞台にはいられなくなるな。」
そして、秋十君は今後の俺について、ある程度察していたようだ。
「まぁ、何とかなるさ。とりあえず、帰還するぞ。」
そうして、俺達は無事に帰還した。
=out side=
「....圧巻、ですね...。」
「.....。」
秋十達のISからの通信を通し、千冬達にも桜の戦いは見られていた。
「最終世代としての力を開放し、おまけにセカンドシフト。いくら傷が開いたとはいえ、今のさー君には誰も勝てないね。」
「だが、これほどの力...。」
「...うん。会社だけじゃない、学園にもいられなくなる。」
そして、この後どうなっていくのかも、千冬達は理解していた。
「でも、さー君は覚悟の上だよ。元々、ゆーちゃんのエグザミアがあれほどの力を見せた時点で、ワールド・レボリューションの立場は悪くなる。」
「........。」
「ちーちゃんは気づいているからこの際言うけど、ワールド・レボリューションの社長は私。集めた社員の半分は、女尊男卑の風潮で職を失くした人やその家族だよ。」
「所謂寄せ集め...と言う訳か。」
“言い方は悪くなるが”と付け足し、千冬は言う。
「...と言っても、皆優秀だよー。それこそ、私がいなくてもやっていけるぐらいにね。...つまり、皆女尊男卑の風潮のせいなんだよ。」
「それを変えるため...なるほど、“ワールド・レボリューション”とはよく言ったものだ。...だが...。」
「当然代償も伴う...世界を変えるだなんて、ISの価値観を変える程だからね。世界中から狙われるよ。私みたいにね。」
束も世界唯一ISコアを作れる人物として、手配されている。
それと同じように、このままでは会社も狙われてしまうのだ。
「もちろん、根回しはしているよ。...世界の矛先は、私とさー君だけになるようにね。」
「束、お前....。」
「それがあの紛い物のせいで無茶苦茶!おかげでゆーちゃんも危なくなっちゃったよ。」
“やれやれ”といった風に束は肩を竦める。
「想起・桜....。」
「私の、原点にして最強のISの一機だよ。“想起”から、ISは始まったんだよ。」
山田先生が、映されている想起のデータを見て呟く。
その呟きを聞いた束が、意気揚々と答える。
「最初に創り出した三機のIS...私と、さー君、そしてちーちゃん。ISの“起源”となる想いを抱いた三人の分のISを、私は創ったんだよ。」
「最初...!?」
「“宇宙に羽ばたく”...その想いを起こすための三機の“想起”って訳。」
「...つまり、後二機、想起が存在する訳か?」
まるで娘を自慢するかのように、束は千冬の言葉を肯定する。
「まっ、束さんのマル秘IS話は置いといて....戻ってくるよ。」
「....そうだな。」
部屋にある通信機が示す、秋十達の位置が浜辺を示していた。
そう、秋十達の帰還である。
「じゃあ、私はもう行くね。」
「...これからどうするつもりだ?」
「そうだねー。予定より早めて、世界改革に向かうつもりだよ。...あ、そうだ。止めたければ止めればいいよ?今のちーちゃんや、IS学園に止められるならば...ね。」
そういって束は普通に部屋から出ていく。
誰も止められなかったのは、やはり止められるとは思っていなかったからだろう。
「世界中のヘイトを集めるつもりか...あいつら...。」
“世界を変えるためなら悪にだってなってやる。”
そんな覚悟を、千冬は束から感じていた。
「さて、よく無事に帰ってきてくれた。福音に続き、ハプニングがあったものの、それを解決できた事は喜ばしい。」
「冬姉がまともに誉めた...!?って痛ぁっ!?」
「織斑先生だ。」
戻ってきた秋十達に、労わりの言葉を掛ける千冬。
マドカはそれに驚き、思わず本来の呼び方で呼んでしまったせいではたかれる。
「お前たちはとりあえず部屋で休んでいい。...だが、織斑、篠咲兄、エーベルヴァイン。お前たち三人は聞かねばならん事がある。篠咲兄の治療とエーベルヴァインの検査もあるしな。」
「っ....。」
「まぁ、傷口開いてるからなぁ。今も痛いのなんのって。」
「私はエグザミアの事...ですよね。」
千冬の言葉に、桜とユーリは妥当だろうと了解する。
「俺は...。」
「無断で出撃、尚且つ作戦の妨害だ。今まで課した罰よりも重いのを与える。...ましてや、人一人を殺しかけた事、お咎めなしだとは言わんな?」
「うっ.....。」
誰かに助けを求めようと目を泳がせる一夏だが、誰もそれに応えようとしない。
むしろ、敵視するように睨んでいた。
「....大丈夫なんですか?」
「ん?まぁ、大丈夫だろ。」
秋十に心配される桜。
この時、怪我についてか、これからの事についてかは、口に出さなかった。
どちらの意味にしても、桜は“大丈夫”だと言ったからだ。
「ついてこい。機材の類は既に配備してある。」
千冬の指示に従い、三人は別室に移動する。
「ドクター、社長から通信がありました。」
「なに?」
一方、ワールド・レボリューションにて、ジェイルが束からのメッセージを受け取る。
「....そうか。もう動くのか。」
「どうしましょうか?根回ししておいた事で、私たちが狙われる事はないようですが...。」
「ククク...愚問だねウーノ。」
ばさりと白衣を翻し、ジェイルはウーノに向き直る。
「世界改革なぞ、まさに私が追い求めていたものだよ!自身の手で世界を変える...直接でないにしろ、その一端を担うなど、今後あるだろうか!?」
「...ついて行く気ですね。」
「当然さ!」
まさに悪役と言わんばかりの邪悪な笑みに、ウーノは溜め息を吐く。
「助手以前に、娘としてドクターの性格は理解しています。妹たちもついて行くかは別として、反対はしないでしょう。...しかし、例の計画はどうするのですか?」
「あぁ、VRゲームの事だね?安心したまえ。既に私がいなくなっても完成する。それに、ちょくちょく手を出したりはするさ。」
「...そうですか。」
ジェイルの言葉に、諦めたようにウーノは言う。
「グランツ博士にこのことは?」
「話していないさ。だが、束君や桜君には気づかれているだろうね。」
「...と、いう事は...。」
「ついて行く事は了承済み。グランツ君には...サプライズという事にしておこう。」
「ドクター...。」
悪戯を思いついた子供のように言うジェイルに、ウーノは呆れる。
「しかし、ふむ....。」
「どうしたのですか?」
「いや、本来の歴史ならば、私やグランツ君はどうしていたのかと思ってね。」
「....はい?」
唐突な話題に、ウーノはついて行けずに首を傾げる。
「以前、桜君や束君に教えてもらった事さ。この世界には、イレギュラーが混じっている。異物ともいうね。その存在が原因で、本来の歴史を辿っていない...との事さ。」
「そんな荒唐無稽な...。」
「証拠はもちろんない。だが、その方が面白そうではあるけどね。」
近くの窓から、どこか遠くを見るジェイル。
「本来の流れから外れてしまったのを、彼らは戻そうとしている。世界改革は、元の世界に戻そうとする行為でもあるのさ。」
だから、それだけの覚悟をしている。...そう、ジェイルは言外に語った。
「ドクター...。」
「まぁ、世界にとっては悪となるが、結果として偉人になるレベルの偉業を成し遂げるというのも、ロマンがあるがね!」
「.......。」
いつもよりもカッコよかったと思ったが、結局変わらないと思ったウーノだった...。
―――世界が変わるまで、あと少し...。
後書き
実はスカさんの下りは文字数稼ぎです。(おい
何気に三人が計画していた事を忘れかけていたので再確認として少し出番を与えました。
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