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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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第2章:異分子の排除
  第44話「近付く報い」

 
前書き
一方一夏は....的な話です。アニメ12話のアレです。
尤も、白式は一夏を見限ってるも同然ですが。
 

 





       =out side=





「........。」

 秋十達がユーリと交戦している頃、桜と同じように応急処置を受けて眠っている一夏は、不思議な空間に佇んでいた。
 青く澄み渡るような空に、白い雲。それを綺麗に反射させる足元の水面。
 所々に枯れ木や石がある...そんな空間。そこに一夏はいた。

「(ここは....。)」

 見た事はない...だが、知ってはいる光景に、一夏は内心ほくそ笑む。
 目を向ければ、すぐそこに白い髪に、帽子にワンピースと、全てが白い少女がいた。

「(....原作と違うやられ方だったが、これであいつらを見返せる...!)」

 一夏にしてみれば“覚醒イベント”であるため、あまり戸惑いを見せずに少女に近づく。
 これで秋十や桜に一泡吹かせられると、そんな考えを持って...。

「...........。」

「....え、あれ...?」

 近づくと、少女はどこか遠くを見つめ、無言でその場から消える。
 その事に、一夏は戸惑った。

「(無言...?なんでだ...?)」

 一夏にとって、本来ならばそこで少女は一言呟いているはずなのだ。
 “呼んでる。行かなきゃ。”と。
 だが、戸惑う一夏を余所に、景色が移り変わる。
 昼の光景から、夕焼けのような光景へと。

「.......。」

 多少の差異はもうこの際に気にしないと、一夏はその空間内での太陽へと目を向ける。
 そこに、一夏と向かい合うように一人の女性が立っていた。
 大剣をすぐ横の地面に刺し、まるでISを纏っているかのような姿だった。

「.....力を欲しますか?」

「....!」

 その女性は、語り掛けるように一夏にそう言った。
 それに対し、一夏は頷く。

「なんのために?」

 続けられた問いに、一夏は“原作”と同じように答えようとする。
 しかし...。

「“原作”がそうだったんだから、当然だろ。....っ!?」

「......。」

 口が勝手に動き、違う事を口走る。

「な、なんで...!?」

「....この世界は本心を曝け出す空間。心を偽ろうと、無駄です。」

「なっ....!?」

 どこか呆れたように、女性がそう言い、一夏は驚く。

「...所詮は私たちを物語の存在としか捉えていなかったのですね。」

「ちが....!」

「何が違うの?」

 女性の言葉を何とか否定しようとするが、背後に現れた白い少女に遮られる。
 景色もまた変わり、一夏の場所を境に青空と夕暮れで二分した光景になる。

「お母さんを洗脳して、本当の乗り手の立場を奪って...まるで道具みたいに。」

「全て自身の思い通りになると思って行動していた...なんとも滑稽ですね。」

「っ、ぁ....!?」

 責め立てるような言葉に、一夏は言葉を詰まらせる。

「力が欲しければあげるよ。ただ、お父さんに喧嘩を売って、お母さんの怒りを買った貴方が、無事に終われると思わないでね。」

「報いの時はすぐそこまで迫っています。今のうちに、覚悟しておく事ですね。」

「ま、待て!」

 言いたい事だけ言い、二人は一夏の前から姿を消す。
 一人取り残された一夏は、ただ頭を抱えるしかなかった。







「.......。」

 むくりと、一夏は治療のために寝かされていたベッドから起きる。
 先ほどの夢の中での記憶はない。

「....ははっ...!」

 だが、受けた肉体ダメージがなくなった事と、“原作”の知識から、白式がセカンドシフトしたのだと確信して笑みを浮かべる。

「今行くぜ...待ってろよ...!」

 そう呟いて、一夏は部屋を出て行った。
 白式から、既に見限られている事を忘れて....。



「.......。」

 ...そして、桜がそれを見ていた事にも、気づかずに...。







「....よし、傷は塞がったな。」

 部屋を出て行った一夏を呆れたような目で見送った桜は、すぐにベッドから起き上がる。
 そして、傷の具合を確かめ、束によって塞がっている事を確認する。

「“白”。」

【行くんだね?】

「まぁ、止めないとな。」

 一夏の夢の中で姿を見せた後、白式...白は桜の持つ媒体に意志を移動させていた。
 そして、桜は体の調子を一通り確かめた後、同じように部屋を後にした。



     ガラッ

「なんだ!今は作戦ちゅ...桜!?」

「状況はどうなってる?」

 桜はそのまま千冬達がいる部屋へ行き、状況を尋ねる。

「お前、出て来ていいのか?」

「教師としての口調が崩れてるぞ。...まぁ、束のおかげだ。」

「いえーい!」

 桜の言葉に束がサムズアップしてドヤ顔をする。

「それで、状況は?秋十君達がいない所を見るに....ユーリちゃんを止めに行ったか。」

「...知っていたのか?」

「あの俺が気絶する寸前、ユーリちゃんが叫んでいたのが聞こえたからな。エグザミアの意志を考えると、ある程度は予測できる。」

「...桜の言った通り、今はエグザミアと交戦中だ。」

 千冬の返答に、桜は“やはりか”と言って少し何かを考える。

「...仕方ない、か。」

「さー君。」

「悪いな。」

 短く簡潔に桜と束は何かのやり取りをする。

「なんの話をしている。」

「後で束にでも聞いてくれ。すぐにでも出た方がよさそうだ。」

「何...?」

 千冬が何の事が聞くが、桜ははぐらかして秋十達のいる場所へ向かおうとする。

「織斑の野郎が先走りやがった。それに、エグザミアのワンオフの効果が予想通りなら、秋十君達でさえ厳しいかもしれない。」

「なっ....!?」

 一夏が勝手に再出撃した事、秋十達でも勝てないかもしれないという事。
 その二つに千冬は驚く。

「...だから、さー君は全力を出すつもりだよ。“想起”の本当の力も使ってね。」

「そうなれば俺は生徒としていられなくなるかもしれない。...そういう訳だ。」

「待て桜!」

 千冬の制止を無視して、桜は秋十達のいる場所へ向かう。

「(紛い物が...!勝手な事をしてくれる...!)」

 桜は心の中で一夏に対し悪態をつき、浜辺に行ってISを展開する。

「来い!“想起”!」

 瞬時にISを纏い、桜はすぐさま飛び立つ。

「リミットリリース!全制限解除だ!」

 その言葉と共に、想起の全スペックが上昇する。
 そのスペックは第三世代を軽く凌駕する程だった。
 完成されたIS...最終世代となる想起は、現行のISのスペックを全てにおいて上回る。

「待たせたな。全力で羽ばたくぞ!」

 さらにスピードを上げ、桜は秋十達の下へと急いだ。







「【遅い。】」

「ぐぅっ...!?」

「はぁっ!」

     ギィイイン!!

 魄翼によってマドカが弾き飛ばされ、すかさずフォローに入った秋十の攻撃も、エネルギーによる障壁であっさりと受け止められてしまう。

「(これが“闇”の気質の力...!)」

「(“水”を宿した攻撃でも通じないなんて...!)」

 ただのエネルギーの障壁であれば、“水”を宿せば切り裂く事ができた。
 しかし、“闇”を宿すエグザミアの障壁及び魄翼は、その“水”を宿した攻撃ですら、衝撃を吸収するかのように防いでしまう。

「【堕ちろ。】」

「っ...!セシリア!!」

「きゃぁあああああっ!!」

 弾幕が展開され、狙われたセシリアは躱しきれずに被弾してしまう。

「いい加減に...しなさいっての!!」

 そこへ、追撃を阻止するために鈴が双天牙月を投擲し、さらに龍砲を撃ち込む。

「っ、通じない...!?」

 しかし、それさえも魄翼によって防がれてしまう。
 弾かれた双天牙月をキャッチしながら、鈴はその事実に戦慄した。

「【......。】」

「まずっ....!?」

     ドン!ドン!

「立ち止まらないで!」

「助かったわ!」

 セシリア同様、弾幕を展開され、鈴も被弾しそうになる。
 そこへ、シャルロットによる援護射撃が入り、間一髪助かる。

「ぎっ...がぁっ!?」

「秋兄!」

「っ、避けろマドカ!」

「しまっ....!」

 魄翼で秋十が吹き飛ばされ、一瞬そちらに気を取られたマドカも吹き飛ばされる。
 前衛二人がやられ、次に箒が狙われる。

「くっ....!」

 振るわれた魄翼を間一髪で躱し、間合いを取る。
 まともに攻撃を受けれないのは、秋十達を見て分かっているため、回避に徹する。

「ちっ...!相殺しきれないか...!」

「まずいよ!このままだと箒が...!」

 ラウラとシャルロットが援護射撃をするが、エグザミアの弾幕には及ばない。
 箒の回避も限界が近付き、被弾しそうになるが...。

     ドドドドドォオオン!!

「させない...!」

 ミサイルを放った簪が斬りかかる事で、それを阻止する。

「っ....!」

「それ以上は、やらせませんわ!」

 簪は魄翼をギリギリで躱し、復帰したセシリアの援護を利用して間合いを離す。
 間髪入れずに同じく復帰した秋十達が仕掛け、エグザミアを吹き飛ばす。

「くっ、手応えが悪い...!」

「あんまりダメージを与えれてなさそうだね...。」

「元よりSEを一気に削らないといけない。これでは意味がない...!」

 既に何太刀かはエグザミアに当てている。
 しかし、そのダメージは与えた傍から回復されてしまっていた。
 秋十の言う通り、一気に削らなければ無意味なのだ。

「一気に削るとなれば...!」

「...一発が限度だよ。」

「了、解っ!!」

 “ドンッ”と、空中を蹴り出したかのような勢いでエグザミアに秋十は接近する。
 マドカの単一仕様を当てるために、全員で隙を作りにかかった。

「援護だ!」

「了解ですわ!」

 射撃を得意とする面子が援護射撃を繰り出し、秋十の進路を妨害させまいとする。
 しかし、その射撃は全て魄翼に防がれ、そのまま秋十に魄翼が振るわれてしまう。

「っ....!」

 その魄翼をバレルロールの要領で躱す秋十。
 だが、追撃を躱す事が難しくなる。

「こっちだ!」

 そこへ、箒が背後から襲い掛かるようにブレードを振るう。
 緊急時という事で第三世代仕様にまで制限を解除した紅椿は、既に他のISの速度を上回る。
 そのスピードを利用して、気を逸らそうと背後から襲い掛かったのだ。

「はぁああっ!!」

     ギィイイイイン!!

 “火”と“土”を宿した斬撃で斬りかかり、魄翼と拮抗する。
 “水”を宿していない以上、魄翼を切り裂く事は叶わない。
 ...だが、秋十にとってはそれでよかった。

「今だ!」

「きょっこーざん!!」

 秋十の背後から回り込むように小さな影が飛び出し、U-Dの背後から斬りかかる。
 小さいながらも途轍もないスピードに、魄翼の対処がギリギリになる。

「撃ち抜け...!“ブラストファイアー”!!」

「【っ....!?】」

 さらに、もう一つ影が飛び出し、U-Dの正面から熱線を浴びせる。
 しかし、それはSEを使った障壁に阻まれる。

「頭上注意だ。吼えよ!“ジャガーノート”!!」

 それすらも読んでいたと言わんばかりに、頭上から闇色の光が降り注ぐ。
 魄翼と障壁で守りを固めるU-Dだが、それを押し潰すような爆発を引き起こす。

「ナイスだチヴィット!さぁ、仕上げだ...!」

 小さな影...そう、チヴィット達は、ずっと秋十の背後に張り付いていた。
 そして、隙を突いてレヴィが気を逸らし、シュテルが防御行動をさせ、ディアーチェがさらに隙を作り....最後に...。

「万象を断ち切る...!“四気一閃”!!」

 四属性全てを宿した一閃が放たれる。
 火の如き苛烈さと、水の如き流麗さ、風の如き速さ、土の如き重さを兼ね備えたその一撃は、魄翼と障壁をいとも容易く切り裂いた。

「マドカ!!」

「任せて!」

 さらに、遠距離組が逃げ場を断ち、最後にマドカにトドメを任せる。
 マドカの単一仕様であるならば、一撃でSEを削り切る事ができるからだ。

「“エクス.....!」

 ブレードを構え、エネルギーを収束させる。
 この一撃を放てば、マドカはほぼ戦闘不能になる。
 故に、外せない一撃。



   ―――.....だが、それを意図せず阻む者がいた。



「はぁあああっ!!」

「なっ...!?」

 いつもと少し姿の違う白式を纏った一夏が、不意打ちの如くU-Dに斬りかかる。
 そのせいで、マドカの攻撃を放つタイミングを逃してしまう。

「待たせたな!俺がいればもう大丈夫だ!」

「っ...!こんの大馬鹿が!千載一遇のチャンスを...!」

「あ?何言って...。」

「くっ...!」

 不意打ちの一撃で油断していた一夏を庇うように秋十が魄翼の一撃を防ぐ。
 意表を突いて作り出したチャンスは、既に潰えていた。

「【AI達で隙を作ったのは見事だ。しかし、残念だったな。】」

「ぐ、ぅ....!」

「なっ!?無傷!?」

「ぐっ...!?」

 驚く一夏を余所に、U-Dは魄翼で秋十を吹き飛ばす。

「【...お前だけは絶対に逃がさない。】」

「がっ....!?」

 そのまま魄翼で一夏を殴りつけ、さらに鷲掴む。
 形のない武装だからか、魄翼の形は巨大な手に変わっていた。

「【ユーリの心に傷を負わせ、ユーリの想い人を傷つけたお前を、私は許さない。】」

「な、なんの事だ...!?」

 まるで自覚のない一夏は、そのまま海に叩きつけられるように投げられる。
 そこへ、U-Dはエネルギーの槍を投げつける。

「ちっ...!“ブラックバード・シザーハンズ”!!」

 その槍を切り裂くように、秋十は体勢を立て直して四撃を叩き込む。

「皆!」

「【....!】」

 マドカの声に応えるように、全員が射撃武器でU-Dを牽制する。

「引っ込んでろ!お前のせいでこうなっているんだぞ!」

「なっ...!?ふざけんな!お前の方が...!」

「...桜さんを傷つけた事、私たちも少々...いえ、かなり頭に来ているのです。....大人しくしなさい。さもなくば容赦なく頭を撃ち抜く。」

 秋十の叱責に反抗する一夏だが、頭に突きつけられた杖がその言葉を遮る。
 シュテルが脅すように後頭部にルシフェリオンを突きつけていたのだ。
 それだけではない。レヴィがバルフィニカスを首にかけるように、ディアーチェがエルシニアクロイツを喉元に突きつけていた。

「シュテるん語調が変わったねぇ~...そういう訳だよ。死にたくなければ大人しくしてなよ。」

「下郎が。この場に及んで状況を悪化させるのに気づかぬか。塵芥にも劣るな。」

「なっ....ぁ...!?」

 助けに来たと思えば、裏切られた。
 一夏にとってはそう思えるような状況だが、実際、乱入するタイミングがあまりにも悪すぎたため、状況を悪化させる者としてしか見られていなかった。

「秋兄!!」

「っ!ぁあっ!!」

 そこへ振るわれる魄翼。
 秋十は咄嗟に“水”と“土”を宿し、迎撃を試みる。
 しかし、いくらか軽減はできたものの、一夏やチヴィットごと吹き飛ばされる。

「(せっかくのチャンスは潰えた...。だけど、外したって訳ではない。...もう一度、隙を作るしかない!)」

「【...堕ちろ。】」

 光弾をばら撒き、さらに巨大化させた魄翼を振り回す。
 その攻撃範囲は、その場にいる全員を巻き込む程だ。
 魄翼を防ぐのはもちろんのこと、足止めさせる訳にもいかないので光弾も防げない。
 全員が、それぞれ回避するしかなかった。

「...おい、まさか...。」

「この出力...間違いないよ...!」

 何とか躱したものの、秋十とマドカは先程までより苛烈になっている事に気づく。
 そして、エグザミアの白色の部分が赤色になっていた。

「...セカンド...シフト...!」

「唐突すぎる...まさか、既に条件を満たしていたの!?」

 セカンドシフトができたが、今の今まで敢えてしていなかった。
 そう考えたマドカだが、すぐに思考を中断させられる。

「速っ...!?」

「マドカ!」

 一気にマドカに接近し、U-Dは魄翼を振るう。
 反応しきれず、弾かれる形でマドカは吹き飛ばされる。
 むしろ、よく直撃を避けたとも言える程の不意打ちだった。

「ぐ、ぅっ....!?」

 続けて秋十にも魄翼が振るわれる。
 それに対し、秋十は咄嗟に“水”と“土”を宿し、受け流す事でダメージを減らす。
 しかし、その攻撃のあまりの重さに、それでもSEは削られ、追撃には耐えられそうにない。
 セシリア達がさせまいと射撃を繰り出すが、まるで小石を扱うかの如く弾かれてしまう。

「まだ...まだぁっ!!」

「【.....!】」

     ギィイイン!!

 圧倒的物量相手に、それでも秋十は踏ん張る。
 精神を研ぎ澄まし、強く、それでいて流水のように魄翼を受け流す。

「(今!)至近距離なら...どうだ!!」

 一瞬隙ができた事により、すかさず秋十はライフルを展開して撃ち込む。
 しかし、それはエネルギーの障壁に阻まれてしまう。

「ダメ....かっ!!」

 効かないと理解した秋十は、“風”と“水”を宿し、魄翼を利用して間合いを取る。
 SEを少し削られるが、まだまだ秋十は戦えた。
 ....が、間合いを離したのが失敗だった。

「【....終わりだ。】」

「なっ.....!?」

 前衛である秋十がいたからこそ、U-Dは魄翼を使っていた。
 マドカが吹き飛ばされ、秋十が離れた今、援護射撃が効かないU-Dにとって大規模攻撃のチャンスでしかなかった。

「あんなの...ISでありえますの!?」

「まずいぞ...!あれは回避しきれない...!」

 展開される、数えるのも馬鹿らしくなる程の弾幕。
 全てがSEを利用して作られた弾であり、あまりの多さに秋十でさえ動きを止めてしまう。

「全員、離脱....!」

「【遅い。】」

 ....絶望が、秋十達を襲った。

「がぁああああっ!?」

「きゃぁあああああ!?」

 放たれる弾幕に対し、秋十達は協力する事さえ許されないまま、回避を求められる。
 だが、あまりに数が多く、秋十を含め全員が被弾する。

「ぁ....がっ...!?」

 それは、茫然としていた一夏も例外ではなく、戦意喪失させられる程だった。

「な、なんなんだよこれ...。」

 “原作”と違う。こんなはずじゃなかった。
 様々な思いが一夏の頭を駆け巡る。その中でも多くを占めていたのは、絶望だった。

「こ、こんな事あっていいはずが...!」

 白式は確かにセカンドシフトしていた。
 しかし、それでも戦力に大きな差があったのだ。

「シュテル!レヴィ!ディアーチェ!」

「全員...無事か!?」

 秋十達も、通信を使い、互いの安否を確認していた。
 チヴィット達はエネルギーがほぼなくなり、秋十達のSEも残り僅かになっていた。

「こ、これ以上の活動は不可能です...。」

「...格納領域に避難しててくれ。」

 チヴィット達を格納領域に避難させ、秋十はU-Dを見る。
 弾幕を放った後だからか、さすがに硬直時間があるのかと思うが...。

「まずい....!」

 それは、全くの勘違いだった。
 二度目の高エネルギー反応を感知し、秋十達は戦慄する。
 防御や迎撃、及び阻止は不可能。回避は可能だがどれほどの被害が出るか分からない。

「(四属性を宿して、切り裂くしか...!)」

「...お供するよ、秋兄。」

 そう理解した故に、身を挺してでも迎撃しようと、秋十は構える。
 マドカも少しは威力を減らそうと、ワンオフを構える。

「秋十!?マドカ!?」

 自身を犠牲にしてでも防ごうとする二人に、箒が気づく。
 それと同時に、自身の無力さを痛感してしまう。

「(私がいた所で、何も変わらない...変わらなかった...!)」

 自分が増えた所で何も状況が好転していない事が、箒は悔しかった。

「(何か、何か私に...私にしかできない事は...!)」

 限定的なものであれば、束が紅椿の性能を引き上げてくれるだろう。
 しかし、今はそれを行っても意味がない。

「っ―――!(姉さんは言っていた...!紅椿の単一仕様はエグザミアに似ていると...!)」

 そこで、束の言っていた事を思い出す。
 似ている...という事は、少なくともSEが回復すると考えたのだ。

「...紅椿...どうか、この場だけでもいい。私に...いや、私たちに力を貸してくれ...!」

 それは、一種の懇願に近い想いだった。
 自身が使いこなせないと言っておきながら、その力に頼るなどと、虫のいい話だと箒も理解していた。...だが、それでも頼らなくては勝てないと思ったのだ。

「っ.....!」

 ...しかして、その想いに、紅椿は応えた。

「秋十!マドカ!!」

 すぐさま箒は二人に近づき、そして触れる。

   ―――単一仕様、“絢爛舞踏”

「箒....!?これは...!」

「エネルギーが...!」

 すると、夢追と黒騎士のSEが急速に回復する。
 正しくは、増幅させる事で回復に見えているだけなのだが、今はどちらでも変わりない。

「これなら...!」

 回復し、マドカが構えなおすと同時にU-Dから砲撃が放たれる。
 戦闘開始にマドカが相殺した砲撃よりも威力は高く、生半可な攻撃では防げないが...。

「はぁぁあああああ!!」

   ―――単一仕様、“エクスカリバー”

「万象を断ち切る...!“四気一閃”!!」

 マドカが単一仕様で威力を弱め、秋十が完全に切り裂く事でエネルギーを霧散させる。

「助かった箒...!」

「いや...私でも助けになれたのなら嬉しい。」

 絶体絶命のはずだった攻撃を相殺できた事に、秋十は箒に対して礼を述べる。
 箒は謙遜しているが、箒がいなければ確実に二人は堕とされていた。

「...だけど、まだ終わってないよ。」

「...そうだな。」

 助かったとは言え、強力な攻撃を防いだだけに過ぎない。
 そう思い、秋十達が構えなおした瞬間...。

「【.....!?】」

「あれは....!?」

 U-Dに多数の光弾とミサイル、そして不可視の弾が飛来する。
 U-Dは咄嗟に魄翼でガードするが、少しはダメージが通ったらしい。

「ブルー・ティアーズに龍砲...それに山嵐!?」

「待って!三人共飛んできた方向にはいないよ!?」

 その武装を持っている三人をマドカは見たが、本人たちも驚いていた。
 “それならば誰が”と、秋十が攻撃の飛んできた方向を見る。

「...桜さん?」

 夢追が表記する見知った機体...想起の項目に、秋十はそう呟く。

「そうか...想起は、他の武装を再現する事が...!」

 そう、先程の攻撃は全て想起が再現し、繰り出したものだった。
 その事に気づいた秋十達の下へ、桜がやってくる。

「...よくここまで持ちこたえた。...後は俺に任せてくれ。」

 静かに自分たちにいう桜の言葉に、秋十達は言葉を返す事もなく頷く。
 その雰囲気だけでもわかる程の、“強さ”を感じ取れたからだ。





「...決着と行こうか。いい加減、ユーリちゃんには目覚めて貰わないとな。」

 天才と最強を兼ね備えた存在が、戦場へと舞い戻った。









 
 

 
後書き
四気一閃…四属性を全て宿した一閃。言葉にすればこれだけだが、その一撃の威力は、桜でも不意を突かれたら防ぐのは困難。(防げないとは言ってない)

正直秋十の夢追をセカンドシフトさせてもよかったけど...展開上組み込めなかったです。
その代わり次回で桜が全力を見せてくれますから...! 
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