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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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第2章:異分子の排除
  第46話「因果応報」

 
前書き
長らく(?)お待たせした報いの時です。
 

 






       =out side=





「....なるほど。事情は分かった。」

 桜、ユーリの話を聞き、千冬は頷く。
 なお、一夏に発言権は与えられなかったようだ。

「とりあえず、勝手に出撃した事から桜は10枚の反省文。...ただし傷を完治させてからな。エーベルヴァインはしばらくの間専用機の使用禁止だ。暴走だからそれ以外の罰はない。」

「学園で解析して治すのか?」

「いや、学園だけでは限界がある。こちらからワールド・レボリューションに要請するつもりだ。...あいつを呼び寄せるか、お前に頼んでもいいが。」

 エグザミアは番外世代...つまり、作ったワールド・レボリューション以外では構造が把握しきれていないため、暴走の原因を解決する事もできない。
 そのため、千冬はこの際桜か束にでも頼もうかと検討していた。

「...それで、だ。一夏、貴様には専用機の没収、無期の自室謹慎、そして反省文50枚の罰を課す。...せいぜい、自分が何をやらかしたのか反省する事だな。」

「なっ...!?」

「なに、この臨海学校の間はまだ自由だ。」

 冷たく言い放たれた言葉に、一夏は戦慄する。

「...“なぜ自分が”とでも言いたそうだな。」

「っ...。」

「...人一人を刺し、任務に支障をきたした。おまけに、自分勝手な理由と行動付きだ。それだけやって、この程度はまだ軽い方だ。」

 もう、家族として、姉として大目に見る事はない。
 今回の件で、千冬の意志は固まっていた。

「...分かりやすく言い換えようか?お前は殺人未遂な上、何人もの人間を危機に晒したんだ。...正直、このまま警察にでも突き出すつもりだった。」

「ぅぐ.....!?」

 何も反論できない事に、一夏は息を詰まらせる。
 誰か自分に味方はいないのかと、目を泳がせるが...。

【...悪いけど、さ。もうISにも乗せないよ。】

「....え?」

 待機状態の白式から声が聞こえた事に、一夏は驚く。
 そして、待機状態の白式の輝きが失われてしまう。
 それと同時に、桜の懐から球に羽が生えたような物体が出てくる。

「...そいつは...。」

「もう正体をばらすのか?白。」

【これだけやらかした奴を乗せるなんて、やだもん。】

「...そうか。」

 桜の周りをクルクル旋回しながら言う白に、桜は“仕方ないな”と頷く。

「改めて紹介するよ。こいつは白。...まぁ、白式のコアの意志だ。」

【よろしくねー。】

 あっさりとした紹介に、ユーリは“やっぱりやらかしていた”と思い、千冬に至っては慣れたのか、特に驚きもしなかった。

「な、な....!?」

「...お前のする事だ。もう驚かん。まぁ、預かっててもらおうか。機体の方を没収するだけでも十分だからな。」

「いいのか?そんな軽い扱いで。」

 驚きに言葉が出ない一夏を余所に、千冬は随分と甘い判断を下す。

「....教師として...いや、学園という一組織の一員として間違っているのは重々承知だ。....だが、今後お前は...。」

「オーケー、皆まで言うな。これ以上は突っ込まん。」

 何か感情を抑え込んだような声色の千冬に、桜も察する。
 これは、桜に対して掛けられる教師として最後の情けなのだと。

「...すまない。話が逸れたな。それでは、事情聴取は終わりだ。」

「......。」

「一夏、逃げようなどと思わない事だ。自分の犯した責任は自分で取れ。」

「っ....。」

 その言葉を最後に、全員がその部屋から出て行った。















「俺は....。」

 その日の夜。消灯時間前の海岸の崖に、一夏は佇んでいた。

「くそ....!」

 “なぜ思い通りにならない”...そんな思いが一夏の中を駆け回る。
 悉く自身の予想を打ち砕かれてなお、一夏は自分勝手な思いを抱いていた。





「―――そんなに“原作”に沿っていないのが不満?」

「っ...!?」

 その時、後ろから聞き覚えのある声を掛けられ、一夏は思わず振り返る。

「た、束さん...!?」

「ホント、懲りないね君。未だに諦めていないなんて。」

 冷たい目で見てくる束に、一夏は上手く言葉を出せない。

「正直ね、“原作”とかはどうでもいいんだよね。...でも、その“原作”に沿うためかは知らないけど、私たちを洗脳なんてしてさ....覚悟できてるの?」

「ひっ....!?」

 明らかに怒っている。そんな雰囲気の束に一夏は怯える。

「な、なんで“原作”の事を...。」

「ネットに存在する二次創作の小説などにある、ゲームやアニメの世界に神やそれに近しい存在によって転生するジャンルを“神様転生”と呼ぶ。そして、その“転生者”はそのゲームやアニメの知識を“原作知識”と呼ぶ。...どう?間違っているなら訂正どうぞ。」

「なっ....!?」

 間違ってなどいない。認識の違いによる細かい相違点はあったとしても、大体の意味合いは一切間違っていなかった。

「馬鹿だねー。いくらアニメや漫画の世界の中でも、同じようにネットなどがあるのなら、これまた同じように二次小説なんて腐るほどあるに決まってるじゃん。」

「あっ....!?」

「尤も、私たちにとって、この世界がアニメや漫画の世界だなんて、思える訳ないんだけどね。それで?“物語の主人公様”はこれからどうするつもりなのかな?」

 これでもかと皮肉を込め、束は一夏に言う。

「.......。」

「ま、どうしようもないよねー。ISには乗れない。企みは悉く阻止。おまけにこれからの君に対する信用はガタ落ちだからね。」

 事件について秘匿されるも、噂はどこから漏れるかは分からない。
 例え漏れていなくても、おそらく束が噂を流すつもりなのだろう。
 それはさすがの一夏にも理解できた。

「さーて!そろそろネタばらしと行こうか!なぜ、君は途中までちーちゃんやこの私さえ洗脳できたのに、こうも失敗したのか!なぜ、こうも“原作”と違う展開が起こるのか!...そして、なぜ私がここまで詳しいのか!....さぁ、どれから聞きたい?」

「っ......。」

 聞きたいが、聞きたくない。
 そのような葛藤が一夏の中を駆け巡る。
 しかし、束は返答を待たずに答え始めた。

「まず一つ目の答え!...そんな結果をさー君や“世界”が認めなかったから。お前の洗脳は、世界の意志そのものが拒絶したんだよ。そして、さー君に力を与えて洗脳が解けるようになり、お前の洗脳は使えなくなった。」

 陽気に喋るかと思えば、威圧するように冷たく言い放つ。
 それほどまでに、束は一夏に敵意を持っているという事だ。

「そして二つ目!...この世界の運命は、“原作”なんかとは違うから。というか、さー君やあっ君がいる時点で違う事が起こるなんて当たり前。と言っても、一部は私が違うようにしたんだけどね。敢えて“原作”に近く、それでいて違う展開にしたんだよ。」

 それは、考えれば言う必要もないほど簡単な事実。
 “原作”に存在しない要因がいる時点で、変わるのは至極当然だ。

「そして最後!...教えてもらったんだよ。さー君にね。そしてネットでそういう小説を調べれば、出るよ出るよ。...“原作”とかばっかり言って、その世界の人達の気持ちを理解していない“主人公様”がね!」

「っ....!」

 今にも掴みかかりそうな勢いで束は言い放ち、その気迫に一夏はビビる。

「まぁ、所詮は二次創作の話。“そういう話”として捉えれば普通に楽しめるよ。....でもね、実際に同じような考え方でいるのは我慢ならない。私たちは、物語の登場人物じゃないんだから。」

「...なら....なら、なんであいつらと俺で扱いが違うんだよ!あいつらだって、俺と同じ転生者なはずなのに.....っ!?」

 ようやくそこで言い返す一夏だが、その言葉が束の琴線に触れる。

「...さー君とあっ君が転生者?....お前なんかと一緒にするなよ。例え転生者でも、お前と同じじゃない。どうせ騙されているだけだとかほざくつもりなんだろうけど、この束さんやちーちゃんを欺けるとでも?“分かる”んだよ。ちーちゃんも私も、お前が天才とも違う異質さを持ち合わせていた事を、とっくの昔に気づいていたんだよ。」

「っ、ぐ....!?」

 胸倉を掴まれ、息苦しくなりながらも束の言葉を聞かされる一夏。

「それにさ、さー君はお前の洗脳のせいで死に掛けたんだよ。...どう責任取るつもり?」

「ひっ....!?」

 このまま崖にでも突き落そうと言わんばかりな束に、一夏は怯える。

「まぁ、ちーちゃんに散々言われて、ここまで打ちのめされたんだし、このまま私が手を下すまでもない...か。君はもう、取り返しのつかない所まで来たからね。」

「えっ....?」

「私に見逃されなかった方が良かったと思える人生にようこそ。...それじゃあ、軽蔑と憐みに囲まれた生活を楽しんでいってね。」

 そういって束は崖を飛び降り...そのままどこかへ行った。
 取り残された一夏は、ただ茫然としていた。

「....くそ....。」

 弱々しく一夏は悪態をつき、座り込む。

「なんで、俺がこんな目に遭わないといけないんだよ...!」

 せっかく主人公に転生したのに、全く上手くいかない。
 その事に、ただ憤りを感じていた。







       =秋十side=





「因果応報って奴だな。なぁ、“兄さん”よぉ?」

「っ...!てめ...!」

 束さんが去って行ったのが見え、俺はあいつに声を掛ける。

「束さんに散々言われてたみたいだな。まったく同情もしないが。」

「うるせぇ!なんで俺と違っててめぇは悠々といるんだ!俺と同じ転生者の癖に!」

 束さんと違い、俺には強気で食って掛かってくる。

「...転生者とか以前にさ、俺の“居場所”を奪っておいて、何言ってるんだ?...いや、それだけじゃない。箒や鈴、マドカ、千冬姉に束さん...皆を洗脳しておいて、なんのお咎めなしな訳がないだろ?」

「ぐっ...!?」

 掴みかかってきた所を軽く押さえ、そういう。

「それと、俺は転生者じゃない。桜さん...いや、この世界の神曰く、“織斑秋十”という肉体はイレギュラー...急遽創られた体らしいがな。だから、才能がなかった。」

「何を...!」

「イレギュラーだとか、転生者だとか、まるで異物のような扱いをしてるようだがな、“世界”にとって一番の異物はお前なんだよ。」

 つい最近、桜さんから聞かされた。
 こいつが転生者という存在だという事。桜さんが色々知っている訳。
 ...そして、俺の事も。

「なぁ、紛い物の“織斑一夏”。俺から奪ったその体の使い心地はどうだ?」

 ...そう。俺は本来なら、“織斑一夏”として生まれるはずだった。
 だが、こいつがいたせいで俺はそこから追い出され、“織斑秋十”という器に収まった。

「は.....?」

「別にさ、この際本来の体が奪われたとか、そういう恨みはねぇよ。俺が“織斑秋十”になり、お前に居場所を奪われたからこそ、今の俺がいるからな。」

 最初はこれ以上ないぐらいに恨んでいた。何せ、家族や幼馴染を洗脳してたからな。
 だが、皆が戻ってきて、その恨みは消えていた。

 だから....。

「これはケジメだ。桜さんと束さんは、これから行方を晦まし、俺とマドカは“織斑”へと戻る。その前に、お前の気持ちをはっきりさせておかないとな。」

「っ......!」

 拡張領域から木刀を二本取り出し、片方を投げ渡す。

「剣を取れ。お前がどうしたいか、言ってみろ。俺が決着を着けてやる。」

「くっ.....!」

 目の前に転がる木刀を見て、あいつはしばらく動かない。
 だが....。

「死ね...!この野郎がぁ!!」

「....はぁ....。」

 すぐさま木刀を取り、俺へと斬りかかってきた。
 ...そうか、そっちを選ぶか...。

「だったら、俺も容赦はしない。」

 斬りかかられたのを、俺は正面から受け止める。
 ...桜さんに教わった四属性は使わない。使うのは....。

「シッ!!」

「ぐっ...!?」

 ...こいつと対等の条件となる、篠ノ之流だ。

「剣を取った...つまり、お前はまだやめるつもりはない訳だ。」

「うるせぇ!!」

「...一度だけでなく、何度でも頭を冷やす必要があるな。」

 ...まったく、桜さんの影響を受けてるな...。
 ここまで冷めた思考ができるなんて...。

「(殺すつもりはない。...いや、その覚悟が俺にはないだけか。なら...。)」

 もう、こいつの太刀筋で俺が恐れる事はとっくにない。
 そのまま、崖から離れるように誘導していき...。

     カァアアン!

「.....!」

「っ!?」

 下からの切り上げで、態と木刀を弾き飛ばさせる。
 素手となった俺は、すぐさま木刀を持つ手首を左手で掴み...。

「ふっ!」

「がっ!?」

 引き寄せ、右手で押し、柔道の要領で倒す。
 下は岩なので、それだけでもダメージはあるだろう。

「くそ...!」

「...まったく...。」

 倒した際に、木刀を踏みつけて反撃されないようにし、弾かれた木刀をキャッチする。

「もう、お前は俺には勝てんよ。今のでわかっただろ。」

「ふざけんな!俺は一夏だ!主人公だ!てめぇなんぞに...!」

「...はぁ。」

 ついに駄々をこねるように喚き始める。こうなると、何を言っても無駄だ。
 俺は、踏んでいた木刀を蹴る事で弾き、それを回収して立ち去る事にした。

「何でもかんでも好きにしようとした末路だ。這い上がりたいなら、借り物の力じゃなく、自分で勝ち取るんだな。少なくとも、俺はそうしてきたぞ。」

 この剣の技術も、全部努力して身に付けた。
 そして、今ここにいるという事実も、ほとんど勝ち取ってきたものだ。

「....自室謹慎を終えた時、少しでも考えを改めているのを祈っているよ。...ま、その様子だと期待はできないがな。」

 最後にそう言って、俺は自分の部屋に戻った。





「おう、お帰り秋十君。」

「桜さん!...怪我はもう大丈夫なんですか?」

 部屋に戻ると、桜さんがそこにいた。
 腹を刺されたはずなのに、まるで平然としていた。

「束の治療用ナノマシンがあるからな。既に動ける程度には治ってるさ。」

「そうですか。」

 束さんのマシンに、桜さんのスペックならもう大丈夫なのだろう。

「...これから、どうなるんですか?」

「俺とユーリちゃんのISのスペックは露見したと言ってもいいだろう。そして、その上でエグザミアが暴走したとなれば...会社の立場は確実に悪くなる。」

「.......。」

 ...それは、少し考えればわかる事だ。
 俺が知りたいのは、その先の事で...。

「聞き方を変えます。...束さんと桜さんは、どうするつもりですか?」

「.........。」

 さっきまでの聞き方では、おそらく答えてくれなかっただろう。
 しばし沈黙した後、桜さんは答え始める。

「予定が早まったが...世界を変える。」

「...随分と、大きく出ましたね...。可能なのが笑えませんし...。」

 立場が悪くなる前に動くという事か...?いや、これは...。

「ユーリちゃんも連れていくことになるが....秋十君には...いや、ワールド・レボリューションには被害を出さないつもりだ。」

「俺達の安全を確保するために、動くという訳ですか...。ユーリを連れていくのは、その方が安全だからですか?」

「ああ。ユーリちゃんはこのままだと会社以上に立場が悪くなる。...なら、俺達が利用していた事にすればいい。」

「それは....!」

 自分たちを悪役にする事で、ユーリに矛先が向かないようにする。
 ...そういう事になる。

「帰ってきた時にも言いましたが....大丈夫なんですか?」

「まぁ、何とかなる...じゃ、納得しないよな。」

「当たり前です。」

 いくら桜さんや束さんでも、今回ばかりは納得しない。

「小を切り捨て、大を救う。一人でやれる事には限界がある。」

「....?」

「....つまりは、ユーリちゃんは大丈夫でも、俺達も大丈夫とは限らない。」

「....!」

 返ってきた答えに、俺はさすがに冷静ではいられなくなる。

「そんなの...そんなのってないですよ!!どうして、どうして桜さん達がそんな目に遭う必要が...!」

「至極真っ当な意見だな。...だけど、世界を動かすにはこれぐらいの事を仕出かさないとダメだ。ISの存在で勢い付いた女尊男卑の連中は止まらない。」

「それで、桜さんが標的になるのはおかしいでしょう!?」

 頭では理解している。だけど、それでも否定したかった。

「人間は例外的なものを排斥する。少数で世界を変えようとしても、圧力に潰されるだけだ。」

「ですけど...!」

 わかっている。分かってはいるんだ....!

「...秋十君、今日は色々あったから休め。」

「うぐっ...!?」

 首筋を叩かれ、俺の意識は遠のく。

「...俺達はやめない。止めたいのであれば、俺の言った事を思い出してくれ。」

「さ...く..ら..さ...........。」

 聞こえなくなっていく桜さんの声。
 だが、俺にはどうしようもなく、そのまま意識は闇に呑まれていった。









   ―――...目が覚めた時、既に桜さんの姿はなかった。











「...あいつなら、私の所にも来た。“じゃあな”と一言だけ言って出て行ったな。」

「...止めなかったんですか。」

「止められる訳がないだろう。」

 朝、桜さんの姿がない事を千冬姉に伝えると、そんな返答が来た。

「...残ったのは...。」

【.....。】

「白だけか...。」

 むしろ、なぜ白は残ったのだろうか?
 桜さんを慕っているのだから、ついて行くと思うが...。

「...なぁ、桜さんはどこに行ったんだ?」

【........。】

「.....ま、答えてくれないよな。」

 俺の傍にはいてくれる....が、決して桜さんについては何も言わない。

「せめて、なんで残ったか教えてくれるか?」

【...かつての夢を想い起こし、追い続ける人達を見届けろって、お父さんが言ったから。】

「夢を想い起こし...。」

「追い続ける...だと?」

 想い...起こす...夢...追う....?

「...まさか....。」

「想起...夢追...それってつまり...。」

 あの桜さんの事だ。無意味な言葉を残すはずがない。

「...俺達に、何かを為せと言うのか...。」

【そういう事だね。】

 一体、桜さんは俺達に何を望んでいるんだ...?

「...とにかく、秋十は部屋に戻れ。あいつがいなくなった事は私から伝えておく。...考えるのは学園に戻ってからでも遅くはないはずだ。」

「......わかった。」

 とりあえず、今ここで悩んでも仕方ないだろう。
 そう思って、俺は一度部屋に戻り、臨海学校のスケジュール通りに動く事にした。







「.......。」

「話は聞いたよ秋兄。」

「マドカか。」

 学園に戻った翌日、俺は一人になった自室で考えていた。
 そこへ、マドカがやってくる。

「一応、先日のあの事件は口止めされているけど、やっぱりどこかからか情報が洩れているみたい。既に桜さんやユーリのISのスペックの事がバレてる。」

「大方、どっかの国が見てたんだろう。それを、自分の所の生徒に教えた。」

「幸い、ユーリは人望があったからそこまで大変にはなっていないけど、桜さんは一組以外だと結構噂になっているよ。」

 桜さんの事は千冬姉から“行方不明”という事にされた。
 その事も相まって、桜さんの事で根も葉もない事が言われている。

「...ユーリの精神状態は?」

「なのはやキリエ達がいるおかげで、大事にはなってないよ。だけど、時間の問題。桜さんがいない今、悪意はユーリに集中するだろうね。」

「早めに手を打つべきか...。」

 ユーリだけじゃない。徐々に会社の評判も悪くなっていく。
 桜さんが何か手を打つだろうけど、それまで持つかどうか...。

「一部の女尊男卑の連中がうるさいよ。千冬姉を中心として鎮圧を行っているけど、あまり効果がないみたいだし、秋兄も気を付けて。」

「桜さんに加えて、あいつの処遇だからな...。了解した。」

 桜さんはともかく、あいつのせいで俺にも飛び火している。
 今更、女尊男卑の思想程度で揺らぐ俺ではないが、面倒臭いのには変わりない。

「とりあえず、なのはと簪がユーリを連れてくるから、合流して一緒に食堂に行こう。」

「分かった。できるだけ一緒に行動しておいた方がいいしな。」

 ユーリの精神上、悪意に晒されないようにしたいが....難しいしな。
 幸い、ユーリを味方する人物は各クラスに一人はいる。
 おかげでサポートがしやすい。

「それと、シャルも連れて行った方がいいと思うよ。」

「同じ会社に所属しているからな。確かに、標的にされるかもしれん。」

 早速呼びに行くとするか。





「桜さん....。」

「...大丈夫なのか?」

「一応は...。」

 合流して、食堂で朝食を取る。
 ユーリがずっと落ち込んだ状態で桜さんの名前を呟いていた。
 悪意に晒されるよりも、桜さんがいないショックの方が大きい....いや、逆か。
 悪意に晒され、その上桜さんがいないから、ここまでの状態になっているのか。

「たった一つの事件でここまでになるなんて...。」

「...俺達がどれだけ桜さんに助けられていたのかがよくわかるな...。」

 女子生徒の一部から俺達に敵意を向けてくるのがわかる。

「(キリエさん達には千冬姉や山田先生がいるから大丈夫だとして...何かしらの対策を早く立てておかないとな...。)」

 そう考えていた時、食堂にあるテレビモニターが全て映らなくなる。

「なに...?」

「壊れたの?」

 突然テレビが暗転し、ノイズが走り始める。
 その事に皆が騒めくが....。

【はろはろー!皆、元気でやってるー?】

【今日は大事な知らせがあるから、全世界のテレビ媒体をハッキングしたぜ!】

 そこに映った二人の天災に、完全に静まり返った。







 ...行動を起こすにしても、何してるんですか二人とも...。









 
 

 
後書き
次回、2章最終回です。

桜たちは日本語で喋っていますが、外国での映像にはきっちりその国の言語の字幕が付いています。なんだこの無駄な高性能さ...。 
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