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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘とスイーツと提督と・17

~沖波・あんまん~

「て、提督……本当に私が甘い物なんか食べていいんでしょうか?」

「あん?何言ってやがる、そのチケットだってちゃんと自力で引き当てたんだろ?なら問題ねぇじゃねぇか」

 少し肌寒さを感じるようになってきた頃、沖波の奴がチケットを持ってやってきた。なんでも、本当にこれを使っていいものかどうか、半年以上悩んで持ってきたらしい。

「いえ、どうしても過去のひもじい頃の記憶が抜けきらなくて……それで、3食美味しいご飯が食べられているのに、甘い物まで食べるなんで贅沢過ぎるかなって」

 たま~に居るんだよな、この手の娘は。昔の記憶が先に立ってしまい、贅沢は敵だ!質素倹約こそ美徳!みたいなタイプ。別にウチは困窮してない(寧ろ遊んで暮らせる位の蓄えはあったりする)し、貧乏性な所は直してやりたいのだが。

「沖波」

 顔をずいっと近づける。

「は、はい?何でしょうか」

「考えすぎなんだよ、お前は」

 そう言いながらほっぺをムニッと摘まむ。

「ひゃあ!ふぇふぇふぇ、ふぇいふぉふ!?みゃみしゅりゅんれひゅか!」

 困惑する沖波をよそに、尚もムニュムニュと揉んだり引っ張ったりを繰り返す。

「ひょ、ひょっぺをもみゃにゃいでくだひゃい~~~っ!」

 終いには悲鳴を上げてたが、気にせず5分間揉み続けた。いい感触だった。



「うぅ……もう、ちょっと赤くなっちゃったじゃないですか」

 ヒリヒリするのか、赤くなったほっぺを両手で抑えたまま若干涙目の眼をこちらに向けてくる沖波。その表情にちょっとゾクッとしたが、今は置いておこう。

「あのなぁ、ウチは沖波を含め皆の活躍のお陰で黒字経営なんだよ。その成果の労いでやってんだ、お前が気に病むような事はねぇの」

「で、でも……」

「四の五の言わずに食え、ほらっ」

 バカやってる間に蒸し上がった『それ』を、沖波の目の前に突き付ける。

「こ、これは……って前が見えない!湯気で眼鏡が~!」

「何というか、テンプレな反応どうもありがとうって感じだな」

 作ったお菓子はあんまん。沖波に聞いても食べたい物を答えなかったので、仕方なしに姉妹達に聞き込みをして食べたそうな物をチョイスして作った物だ。

「大丈夫か、ホレ眼鏡拭き」

「あ、ありがとうございます……って、これはあんまんですか!私大好物なんです!」

「だろうな、沖波の姉妹に聞いたら『コンビニ行くと必ず買ってくるから多分好物だ』って言ってたんだよ」

 それを聞いた瞬間、赤くなっていた沖波の顔が更に赤くなった。

「い、いただきます!」

 恥ずかしくなったのか、照れ隠しにあんまんにかぶりつこうとする沖波。

「あ、バカそれ出来立てだから中身がーーー」

「あっつううううううううう!」

 やりやがった。何か沖波、お前から五月雨と同じドジっ娘のアトモスフィアを感じるぞ。

「そりゃ出来立てだからな、中のあんこは凶悪なレベルで熱いだろがよ……ほれ、烏龍茶」

 悶え苦しむ沖波に苦笑いを浮かべつつ、グラスに氷を入れた烏龍茶を出してやる。沖波、涙目になりながらもグラスを受け取り、一息に飲み干した。

「はぁ……死ぬかと思いました」

「轟沈理由:あんまんなんて報告書に書けねぇから、それは勘弁してくれ……」

 ウチの鎮守府の伝統芸能なのか?食べ物絡みで轟沈しかける奴がたまにいるのは。




「ふ~っ、ふ~っ……はむはむ、やっぱりあんまんは美味しいです♪」

 少し冷めて食べやすくなったのか、少しずつかじってポワポワしている沖波。何というかこう……小動物系な癒しを感じる光景だ。何となく、栗鼠(リス)とかハムスターっぽい。

「あんまんも美味いがな……個人的にはピザまんとかカレーまんの方が好きだな俺は」

 そんな事をぼやきつつ、蒸籠から取り出して2つ目のあんまんにかぶりつく。因みに今回用意したあんまんは3種類、つぶあん、こしあん、黒ごまを練り込んだ黒ごまあんの3つだ。

「あぁ、ピザまんとかカレーまんも美味しいですよね」

「だろ?あの手軽な感じがいいんだよな」

「でも、ご飯の前にアレを食べちゃうとお腹が膨れてしまうので、あんまり食べないんですよ」

 まぁ、それは胃袋の小さい駆逐艦ならではというか。

「まぁ、ウチの連中は艦種に限らず食べる量に差があるからな。あんまり気にはすんなよ?」

「あ、ハイ。その辺はもう……浜風さんとかみたいになりたくないですし」

「あん?何でいきなり浜風の話になるんだ?」

「だって、浜風さんお風呂から上がって体重計に乗る度にこの世の終わりがやって来た!みたいな顔をするんですよ?」

「あ?あ~……成る程」

 浜風のそのリアクションには思い当たる節がありすぎて困る。あの娘は駆逐艦なのによく食べるのだ……その辺の軽巡なんぞ目じゃない位には。

「ま、それも人それぞれだ。寧ろ夕雲型は痩せすぎじゃねぇかと俺ぁ心配してんだぞ?」

「え、そうなんですか!?わかりました……姉さん達にも伝えておきますね!」

「お、おぅ……」

『何だか嫌な予感がするが……気のせいか?』

 後日、夕雲から「提督はもっと肉感的な女性がいいんですってね?ふふふ、善処するわ♪」と妖艶な笑みを浮かべて言われ、軽く悶絶したのは内緒の話。
 
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