提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・18
~瑞鶴・アニマルシュー~
トラウマ、という物がある。外的・内的要因に関わらず肉体的又は精神的に大きな衝撃を受けて長い間その要因に囚われてしまう事を言う。艦娘の中にもそのトラウマが色濃く残る者は多い。潜水艦に苦手意識があったり、夜に異常に怯える者が居たり、特定の艦娘が近くに来ると急に恐怖に駆られたり……とまぁ、様々なトラウマを抱えている。今回のチケット獲得者もそんなトラウマ持ちの一人だったりする。
「……ねぇ、提督さん」
「なんだ?」
「私、シュークリームが食べたいって言ったわよね?」
「あぁ、言ったな」
テーブルを挟んでこちらをジト目で睨んでいるのは瑞鶴。去年に引き続き今年もチケットを手にしたラッキーな奴だ。流石は幸運艦の面目躍如、といった所か。しかし、そんな彼女は今頬を膨らませてジト目でこちらを睨んでいる。明らかにご機嫌斜め、といった雰囲気だ。若干可愛いと思ってしまった俺は末期かもしれんが。
「それに、可愛い形してたらもっと嬉しいな~って言ったわよね?」
「あぁ、言ったな。確かに言った」
「じゃあ……」
プルプルしながら握り締めた拳をダン!とテーブルに叩き付けて更に叫んだ。
「何でシュークリームが鳥の形してんのっ!?」
そう、瑞鶴の目の前にあるシュークリーム。ただのシュークリームではなく白鳥の形を象ったスワンシューと呼ばれる代物。そんなブツが瑞鶴に嘴を向けて編隊を組んで鎮座している。漣辺りならすぐさま『こっちみんな』とでもツッコミを入れている事だろう。
「提督さん。提督さんまで私を苛めて楽しいの?そうなの?」
瑞鶴がこちらをジッと見つめてくる。若干ハイライトさんが消えかけている気がする。
「藪から棒に何を言い出すんだお前は」
俺は努めて冷静に答える。うっかり、『うん、すっげぇ楽しい』と言いかけたのは内緒だ。
「いやもうイヤミにしか見えないんですけどこれ」
「シェー?」
「そのイヤミじゃないってば!もうっ!……そりゃあね、しょっちゅう七面鳥七面鳥言ってる私も悪いけどさぁ」
「いや、スワンシューは白鳥であって七面鳥じゃねぇぞ?」
「見れば解るよ!?それだって鳥にトラウマあるのは提督さんだって知ってるクセに」
ぶぅ、とむくれる瑞鶴。
「スワンシューはヨーロッパだと高級菓子なんだぞ?作るのが手間だし」
「それは解るけど……何も鳥の形にしなくても」
「実はな?お前のトラウマ払拭の為にスワンシューを提案してくれた奴がいてな」
「まさか……」
「加賀の奴がな、そろそろトラウマなんて卒業しろとよ」
「やっぱりかいあの万年発情空母!」
いや、その呼び方は幾らなんでも酷すぎると思うぞ?
「ちくしょ~……あの青いの、いつか泣かす!」
「文句はいいつつも、食う事は食うのな」
「だってこのシュークリームに罪はないもん?美味しいし」
むぐむぐやりながら喋る瑞鶴。ほっぺにカスタード付いてんぞ。
「まぁ、スワンシュー作ってたら何かノッて来てな。他のも作ったんだよ」
「え、ホント?見せて見せて!」
《ウサギさんシュー》
普通に丸く焼き上げたシュークリームに、木の葉型に成形したチョコを2つ刺して耳に。チョコペンで顔を描けば完成。
「確かに可愛いけどさぁ……」
「何だよ?」
「なんで全部ショボーン(´・ω・`)顔?」
「え、可愛いだろ?」
「……このアンニュイさが否定できないわ」
《クマさんシュー》
こんがり焼き上げたクッキーシューに、白いクッキーを貼り付けて口の周りを表現。チョコペンで顔を描き、チョコチップか小さめのココアクッキーで耳を付ける。
「うーん、何というか……普通?」
「リアルな熊の顔描いてやろうか?」
「……提督さんならやりかねないから止めとくわ」
《ねずみシュー》
涙型に焼き上げたシュー生地の上にホワイトチョコでコーティング。チョコペンで顔、尻尾を描いたらコーンフレーク等で耳を付ける。
「なんか多摩が好きそう」
「猫扱いするとキレるぞ?あいつ」
「キレるとヤバそうだから黙っててね?」
「お、おぅ」
《わにシュー》
エクレアのように楕円形に焼き上げたシュー生地を半分に切り、中にクリームやフルーツをトッピング。上半分で蓋をして、クリームとチョコで目を付ける。
「ホント器用だよね提督さん」
「しかしこう、ワニが沢山並んでると叩きたくなるな」
「ワニ〇ニパニック?」
「それ以上いけない」
《ひよこシュー》
スフレで胴体を作り、その上にシュークリームを乗せる。チョコペンで目を書き、スライスアーモンド等で嘴や羽を付ければ完成。
「可愛すぎて食べられないんですけどこれ」
「そうか?」ユビサシ
「ん?」←妖精さんがひよこシューの頭からかじりついている
「容赦ないわぁ妖精さん」
「まぁ、甘い物と見ると見境ないからなぁ」
「う~……食べすぎたかも」
「はいはい、少し休んどけ」
そう言ってソファに横に寝かせ、上着をかけてやる。
「あ~……提督さんの温もり感じる♪」
「変態臭いぞお前」
「へ、変態じゃないもんっ!」
必死に顔を赤くして否定する瑞鶴だが、その顔はユルユルに弛んでいるあたり、当たらずも遠からずってトコか。
「まぁ、そんな事で俺は引いたりしねぇけどな」
そんな程度でオンナに幻滅する程、俺の愛情はヤワじゃねぇぞ?
「そっか、提督さんもかなりの変態だしね」
「おい」
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