提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・14
~加古・ココア~
スイーツチケットの抽選は完全に運任せ(まぁ、俺が仕込む事もあるが)。たまには2年連続で引き当てたりする奴もいたりするのだ。
「しかし……本当に良かったのか?リクエストがココアだけってよぉ」
今回のチケットを持ってきた加古も、去年チケットを引き当てた艦娘の一人だ。去年は餅が食いたいと言われて餅つき機引っ張り出したが、今年は何故かココアのみという妙な注文だった。勿論、たかがココアといえど手は抜いていない。高級なココアパウダー(ミルクココアの素じゃねぇぞ)を煎ってから少量の牛乳で練ってペーストにし、ホットミルクと砂糖を加えて伸ばす。こうする事で香り高くカカオの味もする美味いココアが淹れられる。
「あぁ、うん。ありがとう、大丈夫……」
いつもの加古らしくもない、歯切れの悪い返事。何だかモジモジしてるし、顔も若干赤い。まさかとは思うが……
「加古、お前具合が悪いんじゃねぇか?」
「うえあ!?そそそ、そんな事ないよぉ!」
「……そうか?だって折角のスイーツチケットをココアだけとか。どう考えても不自然だろが」
しょうがねぇ、確かお茶請けに金剛が焼いたスコーンか何かあったと思ったし、出してやるかと立ち上がろうとした瞬間、
「あ、あああ、あのさぁ提督!」
「あん?」
「良かったら……これ!食べてみてくれないかな~なんて…」
尻すぼみに小さくなる声。突き出された加古の手には簡単にラッピングされたお菓子が収まっている。
「こりゃ……クッキーか?」
中身はクッキーらしい。市販の物にしては不格好なので、恐らくは手作りだろう。
「い、いっつも世話になってるしさ?たまにはこっちが提督に作ってプレゼントってのも、いいかな~とか思ってさ?」
ははぁ、成る程な。
「それでココアだけ、なんて妙な注文だったワケか。んじゃ早速頂くとしようか?」
執務室に、ボリボリと咀嚼する音が響く。俺が食っている様子を、固唾を飲んで見守っている加古。折角のココアも冷めてしまっているが、それは黙っておこう。さて、忌憚の無い意見を言った方がいいものなのか……
「ど……どう、かな?提督。美味しい?」
「……ハッキリ言って良いのか?」
「う、うん」
ごくり、と生唾を飲み込む加古。
「味は悪くない。しっかりと計量して作った証拠だ」
ぱあぁっ、と顔が明るくなる加古。
「ただ、生地を練り過ぎだな。味から見てバター結構入ってるはずなのに、しっとりとしてねぇ」
「うっ!」
「それに、オーブンの温度設定が高すぎたな。ちょっと焦げてて、変な苦味がある」
「ううっ!」
「それに……小麦粉の種類間違えてねぇか?やたらボソボソするし、薄力粉じゃなくて強力粉使ったんじゃねぇか?」
「ううううぅ~……」
俺が指摘する度に胸に不可視の刃が刺さったように押さえ付けていた加古だったが、しまいには泣き始めてしまった。
「だってぇ、見ながら作った料理の本には小麦粉としか書いてなかったから小麦粉なら何でも良いのかと思ってさぁ……」
メソメソ、グスグスと泣きながら失敗のワケを語る加古。
「だったら周りに聞けよ。プレゼントする相手の俺にゃあ聞けなかったかも知れんが、古鷹とか間宮とか、相談する相手は居たろ?」
「だ、だってさぁ……アタシが相談に行くと皆して『あらあら、まぁまぁ』ってすげぇ生暖かい笑顔でニヤニヤしてるんだよ?すげぇ恥ずいじゃん」
「Oh……」
フォローしてやろうと思ったが、何故だかその光景がありありと目に浮かんでしまった。ウチの連中はどうして、そういう純情を放って置いてやれないのか。恐らく知り合いは『間違いなく、お前の悪影響だ』と言うに決まってるので口には出さないが。
「だからさ、クッキー位アタシ一人の力で作ってやる~って作ったらこのザマだよ……ゴメンね提督、もういいよ。こんな失敗作無理して食べなくtーー」
「ありがとよ、加古」
「ふぇ?」
「初めて作ったんだろ?それも、誰にも教わらずに。そりゃ失敗位するだろうよ」
実際、俺も料理をやり始めた頃は今じゃあ思い出しただけで悶え苦しみそうなレベルの失敗をしたりしている。
「正直な、金剛以外に料理やら菓子をプレゼントされた経験って殆どねぇんだわ。ほら、俺寧ろ作る側だし?」
俺の発言にプッと吹き出す加古。
「だからよ、毒突いちまったがすっげぇ嬉しいぞ、加古」
そう言いながら俺はもう一枚クッキーを手に取り、口に放り込んだ。何枚も食べてると、案外この歯応えがクセになってきている……かもしれない。
「だからよ、心が篭ったこのクッキーはすげぇ美味い。改めてありがとな、加古」
「うん……うん!」
「さてと、折角のココアも冷めちまったな。淹れ直して来るけどお前も飲むか?」
「勿論!美味しく淹れてよね!」
「……あいよ」
料理は愛情!と語る料理研究家が昔居た。正にその通りだと思う。だから失敗をしていようと加古のクッキーは『美味い』のだ。ましてや、俺に惚れてるオンナの手料理だ、有り体に不味いとは言えないさ。
『まぁ、金剛のオリジナリティ溢れる料理とか酷すぎるのは別として、な』
「あ~……ココアって落ち着くわぁ」
「だろうな。純粋なココアパウダーにはリラックス効果がある成分が含まれてるんだ」
ココアの原料であるカカオ豆には『カカオ豆テオブロミン』という香り成分が含まれている。こいつは自律神経の興奮を抑え、リラックス効果と集中力増強の効果があるとされている。受験勉強や残業の時なんかにはホットココア、オススメだったりする……ただし、リラックス効果が強いので飲み過ぎると眠くなるが。
「あれ、提督何入れてんの?」
「これか?これは八角とシナモンスティックだ」
「え、そんなの入れて美味しいの?」
実はココア、色々な物をチョイ足しすると劇的に美味しさが変わる飲み物だったりする。折角だし、加古にも教えてやるか。
《ココアにチョイ足しオススメレシピ》
(ココア+生クリーム)
まぁ定番。喫茶店なんかでもホイップクリーム浮かべてまろやかさをアップしている所は多い。ただし、入れるならちゃんと乳脂肪由来の生クリームにすること。※植物由来のクリームだとねばつくぞ!
(ココア+シナモン等のスパイス類)
インドのマサーラー・チャイ、という飲み物を知っているだろうか?スパイスと一緒に紅茶葉を煮出してミルクで割って飲むミルクティーである。これはそのココア版だと思ってもらえるとイメージしやすいかもしれん。ココアペーストを作り、伸ばす為のホットミルクを作る時にスパイスを加えるのだ。オススメはシナモンやチリパウダー、カルダモン、クミン、八角など。一時期流行った生姜入りココアの様に、身体も暖まるし香りも良い。寝る前とか、リラックスしたい時に。
(ココア+ジャム)
暖かいフルーツチョコの様な味わいになる。ロシアンティーに抵抗が無いと美味しく飲める。低糖の物だと薄味になるため、濃い目のジャムを選ぼう。イチゴジャムとか、アプリコット、マーマレードなんかオススメ。
(ココア+マシュマロ)
アメリカだと定番の飲み方らしいぞ、これ。砂糖を入れずに淹れたココアにマシュマロを浮かべて溶かしながら飲む。マシュマロは水飴とメレンゲが主成分だから口当たりまろやかになるし甘味も十分。実際、美味い。
※ここからは酒テロ注意報、20歳以下は真似しないように!
さぁ、こっからは俺の領分。ホットココアを使ったカクテルレシピをご紹介。……何、ココアと酒が合うのかって?何を今更。俺も何度か使ってるだろ?クレーム・ド・カカオ。ありゃココアパウダーを混ぜたリキュールなんだぜ?だったらホットココアが酒に合わねぇ道理はねぇだろ。
(ホット・ココアスキー)
安直なネーミングは勘弁してくれ。『銀〇伝』のヤン・ウェンリー提督は紅茶にブランデー入れて飲んでたが、こっちはココアにウィスキーだ。作り方は簡単、ホットココア(甘いのがいいならミルクココア)にお好みのウィスキーを好きなだけ。入れすぎると不味くなるから加減はしろよ?元々ウィスキーのツマミにチョコは定番だからな、マッチしない訳がない。
(ホットココア・ラム)
こっちもココアにラム酒を足すお手軽レシピ。ただし、こっちはミルクココア推奨。ラムのキツさをミルクが和らげてくれる。ラムの香りとアルコールがココアの味わいを引き立てて、何ともムーディな飲み物に化ける。彼女とか奥さんと飲んでみよう。盛り上がるぜ?居ない奴は……まぁ、頑張れ。
(ホット・キャラメル・チョコ・ココア)
濃い目に作ったホットココアに、キャラメルリキュールと先程言ってたクレーム・ド・カカオをどぼどぼ入れて温めた物。寧ろ酒がメインなので飲み過ぎ注意。カルーアミルク同様、甘いが度数が高いので潰れやすいぞ。……女を酔い潰そうなんて悪い事を考えた奴、怒らないので出頭するように。
とまぁ、ココアに酒は合う訳だな、うん。そして当然寝坊助の加古に飲ませ過ぎれば……
「う~ん……てぇとくぅ♡……グゥ」
こうなるよな、そりゃ。まぁいいさ、臍が見えてるから隠してやってと。暫く寝かせといてやろう。数時間後、帰ってこない加古を心配して迎えに来た古鷹に預け、一件落着……かと思いきや、翌日俺の前で腹丸出しで寝てた事実を知らされた加古が引きこもり状態と化したのは、また別の話。
後書き
いやぁ、はしゃぎすぎました。他の話より2000文字くらい多くなってしまいました。何故かって?つい先日、プリケツ……ゲフンゲフン、プリンツに続いて加古ともケッコンしたんですよ、えぇ。そのきっかけは去年のホワイトデー企画で加古の話を書いた時に加古が可愛く思えてしまいまして……ちょっとレベリングを張り切りましたw
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