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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第93話「事件解決」

 
前書き
長いようで短い、怒涛の戦いも終わり、後は事件の後始末です。
記憶改竄がなくなった今、司の境遇をどうしよう...。
 

 






       =司side=







 もう、助からないと思っていた。死ぬことだって覚悟していた。
 だって、そうでもしないと、皆死ぬ所だったから。

 ...でも、こうして、私たちは皆無事に帰ってくる事ができたんだ...。

「っ.....!」

「うぇっ!?ちょ、どうした!?」

 いきなり泣き出した私に、優輝君は困惑する。

「な、何かおかしい所とか....。」

「...ううん...嬉しいんだよ...。こうして、無事に帰ってこられたのが。」

 諦めてた。自分なんていなければいいと思ってた。
 でも、優輝君がそんな考えを全部払拭してくれた。“絶望”から、引っ張り出してくれた。

「ありがとう、優輝君。...ありがとう、皆。」

 心からの言葉を、皆に述べる。
 今までずっと悩んでいたのが、嘘のように心が軽かった。

「とりあえず、これを食べて栄養を補給しておきなさい。」

「あ、はい...。」

 プレシアさんから、病院食のような栄養補給を目的とした料理を受け取る。
 病院食という事で、前世の事を思い出すけど、今までのような恐怖感はなかった。

「ほぼ半年間、一切の食事がなく、しかも動いてなかったから身体機能が著しく低下している。...しばらくはリハビリを兼ねた療養生活だな。」

「半年...そっか、そんなに時間が経ってたんだ...。」

 実感は湧かない。でも、上手く動かせない体と空腹がそれを物語っている。
 第一に、ジュエルシードの力が尽きたら死ぬはずだった時点でお察しだ。

「そういえば、ここって...八束神社?」

「ああ。ここには霊脈が通ってるからな。その霊力を使って、ジュエルシードの代わりに生命力を補っているんだ。」

「ふーん....?」

 なんというか、私がいない間に優輝君達は新しい力の使い方を手に入れたみたい。
 霊脈だとかは多分クロノ君とかも詳しくは知らないだろけど、意味がわからなかった。

「あ、そうだ。ジュエルシードは...。」

「あたしが持ってるよ。なんか、輝きを失ってるけど...。」

 葵ちゃんがそういってジュエルシードの一つを見せてくる。
 確かに、ジュエルシードに本来あるはずの輝きがなくなり、どこかくすんでいた。

〈力を使い果たした...という訳です。しばらくは使用不可能でしょう。〉

「そっか...。」

 ...ずっと、私のために頑張っててくれたんだから、休ませないとね...。

「なにはともあれ、一命は取り留めたけど、まだ霊脈がなければ死んでしまう。だから、しばらくはここにいないといけないけど...。」

「...えっと、それってどれぐらい?」

 今の私は生命力が自分で補えない状態。
 その生命力が戻るまでなのだろうけど....それ、絶対に一日ではすまないような...。

「...あー、那美さん経由でしばらくここに住まわせてもらうようにするか。」

「また巻き込んじゃったね...。」

 那美さんといえば、この神社で巫女のアルバイトをしていた...。
 ...って、“また”って事は、私がいない間にも巻き込んだのだろうか?

「霊脈を扱える人もついていた方がいいし、ここは...。」

「あたしとかやちゃんと優ちゃんの内一人はいたほうがいいね。」

 なんだかトントン拍子に事が進んでいる...。
 ...まぁ、私はここから身動きが取れないのだから話に入れないのは仕方ないけど...。

「...こちらの方でも、色々と報告書を纏めないといけない。....事件が終わったからと言って、まだ一安心はできないな。」

「....そうだな。」

 クロノ君のその言葉に、優輝君が真剣な顔つきで相槌を打つ。
 ...あれ?事件の報告をするだけなら、忙しいとはいえそこまで真剣に...。

「...あー、司、君はつい先ほどまで、ほぼ全ての人の記憶から消えていた。それは分かっているか?」

「...うん。私がそう願ったから...。」

 でも、今はそれは解けているはず...。...あ...。

「...気づいたみたいだな。その記憶改竄が消えたという事は、“聖奈司は半年間存在が消えていた”という事になる。...そんな事、知れ渡れば大騒ぎだ。」

「そ、そうだった...。」

 私自身、死ぬつもりだったから、そんな事を一切考えてなかった。

「あの“闇”の集合体...アンラ・マンユについてもそうだし、ここまでの大規模な記憶改竄は犯罪だ。...このままでは、司は次元犯罪者になる。」

「なっ.....!?」

 クロノ君の言葉に優輝君も驚く。...もちろん、私も驚いている。

「大規模な記憶改竄、ロストロギアの無断使用...これだけでも条件は満たしている。」

「だけど、(聖司)がいなければアンラ・マンユは倒せなかった!」

「僕としても司が次元犯罪者になるのはおかしいと思ってる!」

 正当性があっても、法律が許してくれない...そんな感じなのだろう。

「事件の全容を見れば、この事件の一番の功労者は優輝と司だ。...特に、最後は司がいなければ確実に僕らは死んでいた。」

〈...付け加えさせてもらえば、マスターが心を閉ざしていた状態だったからこそ、アンラ・マンユを今まで抑え込めていました。〉

「...え、ちょっと待って、シュライン。それ、どういう事...?」

 聞き捨てならない情報が聞こえ、思わずシュラインに聞き返す。

〈...無自覚だったのですか?...いえ、それも当然ですか...。〉

「シュライン...もしかして、アンラ・マンユがいる事に気づいてたの?」

〈いえ、アンラ・マンユがマスターを依代にしていた事にすら気づけていませんでした。...ただ、依代にしていた割には動きが少なかった事から、推測したまでです。〉

 ...つまり、それが事実かどうかは分からないんだ...。

〈少なくとも、マスターの“迷惑を掛けたくない”という想いが、今までアンラ・マンユの動きを抑えていた事はほぼ間違いないです。〉

「そ、そうなんだ...。」

 自分勝手な想いだったけど、それも役に立ってたんだ...。

「...思わぬ情報も手に入ったが、司が悪意を持って事態を引き起こした訳ではない事も踏まえ、僕個人としては司を“被害者”として扱おうと思っている。」

「被害者...?」

「...なるほど、ね。」

 いまいちピンと来ないけど、優輝君にはわかったみたいだ。

(聖司)はアンラ・マンユを今まで抑え込み、そして僕らと協力して力尽きるのもお構いなしに討ち破った...。その過程で、記憶改竄が起こってしまった。...って所か?」

「その辺りが妥当か。ついでに、MVPであることも強調すれば、犯罪者扱いにはならないだろう。」

「え、え?二人とも...?」

 これではまるで、私が犯罪者にならないように情報をでっち上げてるような...。

「か、管理局が捏造していいの!?」

「...いや、待って司。...これ、嘘は言ってないよ。何一つ。」

 ユーノ君がそういって、私は固まる。
 そして、二人が言っていた事を思い出す。

「アンラ・マンユを抑え込む....その過程で記憶改竄...。」

〈抑え込んでいた事はほぼ事実です。状況証拠のみですが。そして、抑え込む際に自身の存在ごとという事で、その代償として記憶改竄。....嘘にはなりませんね。〉

「た、確かに...。」

 私がやった記憶改竄は、“聖奈司”という存在を少しずらすものだ。
 認識をずらし、対象を認識できなくなる認識阻害の、存在バージョンだ。
 そうする事でアンラ・マンユの動きを制限していたというなら...嘘ではない。

 ついでに言えば、ジュエルシード...ロストロギアの無断使用も、“緊急時な上、必要だった”という事なので、早々それだけで犯罪者扱いにはならない。
 正当防衛みたいなものだし。

「な、なんか...せこくない?」

「自覚はしている。」

 あ、自覚はしてるんだ。...そういう問題じゃないけど。

「まぁ、任せてくれ。かつてのジュエルシード事件の時のフェイト達のように、無罪を勝ち取ってみせるさ。」

「よし、任せたぞクロノ。」

 ガシッと握手する優輝君とクロノ君。
 ...二人って、こんな感じだったっけ?特にクロノ君。

「“どうしてそこまでしてくれるのか?”って顔だね、司。」

「え?あ、うん...。クロノ君とか、もっときっちりしてたのに...。」

 私が疑問に思っていた事にユーノ君が気づいてそう言ってくる。

「まぁ、理由としては...皆司に少なからずお世話になってたからだよ。...もちろん、僕もね。」

「....お世話に...?」

〈マスターは細かい事から大きい事まで色々手助けしていたでしょう?その事です。〉

 ...ほとんどが些細なお手伝いとかだったけど...。

〈小さな積み重ねが、こうして確かな“絆”となるのです。...貴女の優しさは、こうして貴女を助けたいと思うに至らしめるものなのですよ。〉

「....そっか...。」

 まだまだ卑屈になるかもしれない。
 だけど、こうして私は皆に助けられた。...私にいて欲しいと思って。

   ―――あんたなんかに....幸せなる権利なんてないわよ....!

「っ.....。」

 あの日、あの時、言われた言葉が再び蘇る。
 優輝君曰く、あれは一時の気の迷いから出た言葉で、本心ではないらしいけど、それでも私の心に強く残っている言葉だ。

「ねぇ、優輝君。」

「ん?なんだ?」

 だから、一つ確かめておきたかった。優輝君の口から聞きたかった。

「....私、幸せになっていいのかな?」

「...当たり前だろ?第一、幸せになっちゃいけない奴なんてどこの悪人だよ。」

「...ふふ...。」

 さも当然かのように、優輝君は言い切った。
 だけど、それは私の心に未だ残っていた“負の想い”を完全に消し去ってくれた。

「な、なんだよ、いきなり笑い出して。」

「んーん、なんでもない。」

 優輝君は、いつだって私の“親友”でいてくれた。
 その事が嬉しくて、つい笑みがこぼれてしまったようだ。

「むぅ....。」

「........。」

「優輝も罪な子ねー。」

「そうだなー。」

 ....なんか、外野からの視線が...。

「...あれ?そういえば、そちらの二人は...?」

「....あ、(聖司)は知らなかったっけ?...僕の両親だ。プリエールにいたんだよ。」

 優輝君の両親...?え、あの行方不明になってた...?

「え、ええええええええええええええ!!?」

 いつの間に、とか、リンディさんや桃子さんみたいに若々しい、とか。
 色々な驚きを込めて、私は大声を上げてしまった。







「じゃあ、僕らは事件を纏めてくるよ。」

「ああ。...父さん、母さんも頑張って。」

「もちろんよ。」

「優輝も達者でなー。」

 ...あれから少し経ち落ち着いた私たちは、とりあえず後始末を終わらせる事になった。
 優輝君、椿ちゃん、葵ちゃんはここに残り、他の皆は一度アースラに戻るそうだ。

「司、後でリニスも来ると思うわ。労わってあげなさい。」

「あ、はい。...リニスも私のために頑張ってくれたみたいですしね。」

 プレシアさんの言葉に、私はしっかり頷く。
 優輝君たちの話によると、リニスは私のために相当奮闘したらしい。
 ...それだけ、私が心配だったみたいだ。

「.....司さん、また、詳しい話をしに来るわ。」

「う、うん...。よ、よろしくね?」

 なぜかジト目で私を見ながらそう言ってくる奏ちゃん。
 私を助けに来る前に、優輝君が魅了を解いたらしいけど、どうしてこんな事に...?

「霊力、かぁ...。私にそんな力があったんだ。」

「また機会があれば教えるわ。...まずは後始末を終えないといけないけど。」

 そしてアリシアちゃん。彼女も魅了が解けたみたい。
 私が助かったのがそんなに嬉しかったのか、終始ニコニコしていた。
 ...魅了が解ける前よりも明るくなってない?

「はぁ...アンラ・マンユについてと、ジュエルシードの情報をまた無限書庫で纏めないといけないのか...。疲れるだろうなぁ...。」

「僕も手伝えたら手伝いたいが...そう簡単にそっちまで行けないからな...。」

 ...ユーノ君はユーノ君で、これからあるであろう仕事に気分が滅入っていた。
 優輝君もそんなユーノ君が心配なのか、手伝えたら手伝おうとしてるし。

「事情聴取のため、少ししたら管理局の方へ行かないといけない。それまでに体の状態を元に戻しておいてくれ。」

「うん。...学校に復帰は、まだかかりそうだね。」

「すまないな。ケジメはつけておかないといけないからな。」

 既に半年くらい学校に行ってない上に、記憶改竄があったとはいえ無断で休んでいるも同然になっている。...授業内容はともかく、成績とかが...。

「家の事情とか言って、色々誤魔化さないといけないか...。」

「家と言えば、お父さんとお母さんが...。」

 二人は魔法を知っているから、事情を説明すれば何とかなるかな。
 ...それよりも、帰って顔を見せないと心配される...。

「...すまないが、さすがにそっちの事情にまでは手は貸せないな。」

「大丈夫だ。士郎さん達と相談しながら何とかするさ。」

「さらっと士郎を巻き込むのね。いや、彼なら“裏”についても知っているのだけど。」

 優輝君の言葉に、椿ちゃんが突っ込む。
 確かに、士郎さんを巻き込むのはちょっと...。

「...長くなったな。じゃあ、司の事は任せたぞ。優輝。」

「ああ。そっちも任せる。」

 そういって、クロノ君たちはアースラへと戻っていった。
 残ったのは、私と優輝君と椿ちゃん、葵ちゃんだ。

「....あ、そうだ優輝君。」

「ん?どうした?」

 目が覚めてからずっと気にしてた事で、優輝君に声を掛ける。

「私の事は、“司”って呼んで。前世の“聖司”じゃなく、今までのさん付けでもなく。...もう、私は“聖奈司”だから。一人称も“私”だしね?」

 助けられた時は気にしてなかったけど、やっぱり事件が終わってからだと気になるしね。

「あー、そういえばずっとそっちで呼んでたか...。重ねて見てたからなぁ...。...ま、()がそういうのなら、そうするよ。」

「うん。」

 別に、“祈巫聖司”を忘れる訳ではない。これはただのケジメだ。
 過去の事を、もう必要以上に引きずらないための、ケジメ。

「んー、なんだかあたしたちじゃ入り込めない感じ...。」

「前世からの親友なんだから、仕方ないわよ。」

 葵ちゃんと椿ちゃんが蚊帳の外になってる...。
 二人が言ってた事が私にも聞こえたので、少し気恥ずかしくなって顔を伏せる。

「...あー、じゃあ、僕は家に戻って適当に何か作ってくるよ。夕食も近いし。」

 “食材残ってたかな?”とか言いつつ、優輝君は一度家に向かっていった。
 必然的に、椿ちゃんと葵ちゃんは残される。...気を遣われたのかもしれない。

「あちゃ、気を遣われたね。これは。」

「う...わ、悪かったわよ...。」

 二人もそれに気づいたのか、なぜか私に謝ってくる。

「べ、別にいいよ...。私も蚊帳の外にしちゃってたし...。」

 優輝君が“優輝君”だと分かって、やっぱり再会の嬉しさがあったんだと思う。
 だから、むしろ蚊帳の外にした私と優輝君の方が悪いんじゃないかな?

「...優ちゃんが必死になって助けようとするのもわかるかな。」

「え....?」

 唐突に葵ちゃんがそういう。

「優ちゃんから司ちゃんの前世の事は大体聞いたんだ。」

「...助けられなかった親友と、優輝は悔やんでいたわ。」

「そっか...。」

 だから“今度こそ”と思って、あそこまで必死に...。

「羨ましいわね。そこまで想ってもらえて。」

「あ、かやちゃんヤキモチ~?」

「ばっ、ち、違うわよ!?」

 すぐに葵ちゃんがからかい出す。...この二人は相変わらずだなぁ...。

「(でも....。)」

 だけど、少し引っかかった事がある。
 ...二人の表情が、どこか後悔していたような...。

「(そういえば、二人の過去って誰も知らないよね?一体、何が...。)」

 きっと、何かがあった。...そんな予感がした。

「ん....?」

「あれ?魔法陣?」

 そこで、すぐ近くで魔法陣が発生する。転移魔法だ。
 ...と、いう事は、転移してくるのは...。

「司!」

「わぷ...リニス...。」

「良かったです。こうして帰ってきてくれて...!」

 さっきクロノ君が帰り際言っていた通り、リニスが来た。
 そして、転移してくるなり抱き着いてきた。

「...?彼はいないのですか?」

「あ、優輝君はちょっと夕食を作りに...。」

 優輝君の事を聞いてきたので、今はいないと伝える。
 ちなみに、私は先程栄養補給のための食事をしたが、お腹はまだ空いている。

「...あの、いつまでこうしてるの...?」

「...もうしばらく、このままでお願いします。司がこうして帰ってきてくれたのが、今は何よりも嬉しいのですから...。」

 優しく抱擁したまま、しばらく時間が流れる。
 椿ちゃんと葵ちゃんも空気を読んでか邪魔はしてこないし、必然的に無言で私は居たたまれない状態が続いた。



「作ってきたぞー。...って、やっぱりリニスさんも来てたか。」

 しばらくして、優輝君が戻ってくる。
 さすがにその時にはリニスも落ち着いて、適当に雑談していた。

「...?手ぶらにしか見えないけど...。」

「ああ、それなら....っと!」

 優輝君が御札を数枚取り出し、それを縁側に置くと、全てが夕食や食器に変わった。

「食べ物だから一回限りだけど、僕の創造魔法と霊術を合わせればこの通りってな。」

「便利だねー。」

「武器や霊力を仕舞う術式を応用したのね。」

 湯気が立ったりしてる事から、おそらく状態を固定していたんだと思う。
 ...やっぱり優輝君は凄いな。

「それじゃあ、司が帰ってきた事を祝って、ささやかながらも...乾杯。」

「カンパーイ!」

「乾杯。」

 飲み物を注ぎ、優輝君がそういって皆で料理を食べる。
 ...って、何気にリニスの分も用意してたんだ。さすが優輝君。

「....それにしても、本当に無茶をしましたね。」

「ん?...ああ、腕の事...。まぁ、こうまでしないとアンラ・マンユは倒せなかったので。」

 リニスが優輝君の腕を見てそういう。
 優輝君の腕は、矢を放った際の代償でボロボロになっており、今は痛覚をある程度遮断する事で使えるようにしているだけらしい。
 実際は、どんな魔法を使っても簡単には治らない程ひどいみたいだけど...。

「神力を無理矢理使ったのだから、仕方がない事よ。司の療養と一緒に、霊力を循環させて治していきなさい。」

「治せるってだけマシって事かな。」

「ええ。本来なら消し飛んでるわ。」

 ...あっさりと椿ちゃんは言ったけど、私は背筋がゾッとした。
 代償とはいえ、もしかしたらあの時点で優輝君の腕は...。

「確率がゼロじゃなければ、その僅かな可能性を引き当てればいいだけだ。」

「え...?」

「...だろう?」

 まるで私の考えを見透かしたように、優輝君はそう言った。
 馬鹿みたいと、一蹴されそうな言葉なのに、何故か説得力を感じた。

「...まぁ、治せるからいいのだけど、できるだけそういう事態にならないようにしてよね。」

「“できるだけ”止まりな時点で、僕の事よくわかってるじゃん。」

「ゆ、優輝がいつもそうだからよ!分かる分からない以前よ!」

     ポンポポン

 ソッポを向く椿ちゃんだけど、少し花が咲く。
 “わかってる”って部分が嬉しかったんだろうなぁ...。
 でも、心配しているのは本当だから、自重しようね優輝君?

「....わかってるよ。」

 私の思いが通じたのか、優輝君は申し訳なさそうに私にそう言った。

「...今、目で通じ合ったよ。」

「通じ合いましたね。」

「そこ、何ひそひそやってるの。」

 葵ちゃんとリニスが何かひそひそ話し合っている。
 僅かに聞こえた内容から、私たちを茶化しそうなので、釘を刺す。



「...まぁ、とりあえずしばらくはここで療養だ。僕から那美さん経由で話を通しておくし、士郎さん達や司の両親にも伝えておくよ。」

「うん。...優輝君はいいの?」

 しばらく雑談した後、優輝君が今後の事を切り出す。

「何が?」

「いや、私に付き合ってたら家にあまりいられないから...。」

「別に。思い入れがないとかそういう訳じゃないけど、親友といる時間も大事だ。それに、また勝手に死にそうになられちゃ、こっちが困る。」

「うっ....。」

 そう言われると弱い...。

「体調自体はほんの数日で元に戻せるだろうけど、問題は身体能力だな...。僕の腕を治していくついでに、色々サポートするから、一緒に頑張るか。」

「うん。」

 霊脈の力のおかげで、私は衰弱する事はない。
 だけど、普通に走ったりする事すら、今は不可能だ。
 食事をしている今でさえ、体をあまり動かせないくらいだし。

「まぁ、僕以外にも椿や葵、リニスさんもいる。...色々頼ってくれ。」

「うん。...改めて、よろしくね。」

 軽く笑って、私と優輝君は握手を交わす。
 親友(聖司と優輝)として、そして新たに親友(司と優輝)を始めるため。













   ―――....大丈夫。...もう、絶望に呑まれたりはしない。













 
 

 
後書き
3章ハッピーエンド!
もうちょっとだけ後日談を挟んで、閑話からのキャラ紹介。そして次章に入ります。
...つまりまだもうちょっとだけ3章は続きます。 
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