魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第3章:再会、繋がる絆
第92話「優しさの報酬」
前書き
前回後書きに載せれなかった技を↓
連鎖相乗…イメージとしては電池を直列に繋ぐ感じ。文字通り相乗効果で威力が上がる。
サクレ・ぺネトラシオン・クラルテ…サクレ・クラルテの貫通力をさらに上げたバージョン。もちろん威力も上がっている。
ミョルニル…グリモワールに載っている魔法の中でもトップクラスの威力を誇る魔法。ただし燃費が悪い。膨大な魔力によって発生するプラズマを纏った極太の砲撃を放つ。ただし、あまりの威力なため、反動で腕が焼け爛れる。ちなみに雷神トールとは関係ない。
今こそ、道を拓く時…“しんめいいちや”。神刀・導標を矢として用いた弓の一撃。残り僅かな神力ではあったが、その威力はやはり神に匹敵する。
天翔ける、巫女の祈り…天巫女一族の最終奥義。ジュエルシード全てを使い、魔力を充填した上で、詠唱してから放たれる。その“祈り”による光はこの世全ての“負”の感情すらも浄化する。...なお、洗脳とかの状態異常は治さないので、これを使っても魅了は解けない。
さて、ようやく3章のラスボスは倒しました。後は...。
―――....そうですか。ですが、理解しておいてください。
―――........。
―――例えアンラ・マンユを滅した所で、貴女は....。
―――.......。
―――...死にます。生命を維持するジュエルシードの力が尽きて。
―――生命を...維持...。
―――半年もの間、何も口にせずに生きるなど、人間には不可能です。
―――そっか...それをジュエルシードが...。
―――魔力でコンディションを保っていました。貴女を助けるために。
―――それが、なくなると...。
―――一気に栄養失調を引き起こし、衰弱死します。
―――...だから、“死”を?
―――はい。
―――.....いいよ。それで、この状況を打破できるのなら。
―――...では、私たちも赴きましょう。
―――待って、どうすればいいの?
―――私が言わなくとも、ジュエルシードが教えてくれます。
―――え....?
―――...まぁ、自ずと分かる事です。急ぎましょう。
―――.....うん。
=優輝side=
綺麗な...どこまでも綺麗な光が、全てを包み込む。
僕らを呑み込まんとしていた“闇”の砲撃はその光を前に打ち消され、アンラ・マンユと呼ばれた“負”のエネルギーの集合体ですら消し去った。
「.....勝った....のか....?」
光が晴れ、何も肉眼で確認できなくなって静まり返った空間で、クロノがそう呟く。
『...魔力反応...消失!やったよ...やったよ皆!!』
「“闇”の力は感じない...確かに、消し去ったわね。」
エイミィさんと、椿の言葉に、ようやく“倒せた”という実感が湧いてくる。
他の皆も同様だったのか、一気に喜び始める。
「は、ぁ....っ....!」
〈...お疲れ様です。マスター。〉
「...うん...。やったんだ...私...。」
隣で今回の最大の功績者である司がへたり込みながらそういう。
「いっつつつつ....。」
〈しばらくは絶対安静ですね。マスター。〉
「だな...。」
僕は僕で、先程放った矢の一撃の反動による痛みに悶える。
まるで焼け爛れたような腕。...まぁ、身に余る力を放ったからな。
「...シャル。大丈夫か?」
〈.............。〉
弓の役割を果たしたシャルに声を掛けるが、返事は返ってこない。
当然だ。強制スリープモードになり、待機形態の十字架は罅が入っているのだから。
〈私の見た所、コアの損傷によるデータ破損はありません。〉
「そうか...っつ....。」
痛みを我慢しながらも、人間でいう所の後遺症がない事に安心する。
「緋雪に悪いな...。」
〈緋雪様なら、きっと許してくれますよ。〉
...そうであれば...いいな。
まぁ、あいつの事だ。むしろ、使ってでも助けるように言いそうだな。
「とりあえず、アースラ内に戻ろう。皆、魔法陣に乗ってくれ。」
それぞれが手を取って喜び合ったりする中、クロノがそういう。
一つの次元世界と化していたとはいえ、本来ここは次元の狭間のような場所。
いつまでも生身で外に居られないからな。
「ゆ、優輝君、その手...大丈夫なの?」
「ん?...あー、しばらくは使い物にならないかな...。普通に焼け爛れたのと違って、神の力を生身で使った代償だから、治すのにも手間がかかるし。」
司に心配され、状態を軽く説明する。
...まぁ、実際はこれ以外にも魔力が枯渇してるんだけどね。
「それよりも、僕らも乗るぞ。」
「あ、うん...。」
僕らもクロノが用意した転移の魔法陣に乗る。
そして、転移しようと魔法陣が輝いた瞬間....。
「....ぁ......。」
「っ、おい?どうした...?おい!?」
力が抜けるように、司が僕の方に倒れ込んでくる。
同時に、彼女の周りに浮かんでいたジュエルシードも輝きを失って落ちる。
―――....それはまるで、糸が切れた人形のようだった...。
「おい...!しっかりしろ...!おい!!」
転移が終わり、僕は倒れ込んだ司に必死に声を掛ける。
そんな様子に、喜んでいた皆も気づいて駆け寄ってくる。
「クロノ!医務室の手配を!」
「分かった!」
「椿、葵!霊力で応急処置はできるか?」
「分からないわ!まず、容態を確認しないと...!」
クロノに医務室への手配を頼み、僕が運びつつ椿に容態を診てもらう。
...だが、触れただけでわかる。これは、途轍もなく危険な状態だと。
「(触れただけで確認できるのは...明らかな、身体の衰弱。しかも、現在進行形だ。まるで、ダムが決壊したかのような速度で...。)」
そこまで瞬時に判断した所で、床に落ちているジュエルシードが目に入る。
葵に目配せをして、拾ってもらう。
「...輝きを失ってる...。まるで、力を使い果たしたような...。」
「まさかだとは思うが、ジュエルシードがずっと体調を維持していたのか...?」
「....その通りよ。彼女、人としての機能がどんどん失っている...。」
完全に意識を失った彼女に刺激を与えないよう、丁寧且つ迅速に運ぶ。
そんな中で立てた推測だったが、軽く容態を診た椿がそれを裏付ける。
「霊力や魔力で応急処置は!?」
「できる...けど、焼石に水よ!」
「ないよりはマシだ!」
ここまで来て、死なせる訳にはいかない。
僕自身の霊力も振り絞り、椿に譲渡する。
「頼む...生きてくれ...!」
椿が霊力で生命力を高めるのを見て、僕は祈りながらも医務室へと急いだ。
例え代償で腕を痛めていようが、今はそんなの関係なかった。
「.....手は尽くしました。しかし....。」
「私も診たけど、助かる可能性は....。」
医務室にいる医師の人と、シャマルさんがそういう。
「そんな...!」
「司!」
なのはや、織崎が悲痛な声を上げる。
...正直、僕だってそんな声を上げたい。
「どんなに手を尽くしても、衰弱する速度が速すぎます。生命力を保つ事が、できないのです...。」
「今までは、ジュエルシードが補っていたんだと思うわ。でも、最後の魔法でジュエルシードの魔力を使い果たして、機能を失ったから...。」
「っ.....!」
その言葉に、心配で医務室までついてきたほとんどの人が悔しそうに俯く。
...“助からない”。そう、思ってしまったのだろう。
「嘘...嘘だよ...!何とかならないの!?」
「...情けないですが、これ以上は...。」
なのはが医師に食って掛かるが、医師はただ申し訳なさそうにする。
既にアースラにある医療機器は使える物全て使っているのだ。
「リインフォース...!」
「...ダメです。夜天の書に、彼女を助けられるような魔法は...。」
はやても諦めきれずにいるが、何もできない。
「優輝さん...。」
「...無理だ。グリモワールにも生命力を大幅に回復させるような魔法は...。」
奏が僕を頼ろうとするが、僕も何もできない。
第一に、魔力が足りない。例えそんな魔法があっても、魔力が足りなければ意味がない。
空気中の魔力を吸収するにも、その吸収するための魔力すら残っていない。
「司!目を覚ましてくれ!司!!」
「お、落ち着いて、神夜...!」
織崎に至っては、錯乱したかのように縋りつこうとする。
なんとかフェイトが抑えているが、力の差で長くは持ちそうにない。
「っ...シグナム、ヴィータ。悪いけど神夜を外に連れて行ってくれ。」
「...わかった。」
「放せ!放してくれ!」
「暴れんなっての!あたしたちじゃ、どうしようもねーんだ!」
何を仕出かすかわからないと見かねたクロノが、シグナムさんとヴィータに指示を出す。
バインドを使ってまで、二人は織崎を外へと連れだした。
「........。」
「優輝...?」
皆が悲しむ中、僕はそっと眠る彼女の手を握る。
...触れるだけでもわかる。椿と葵が霊力で命を繋ぎ止めているが、それでも持って10分超えれるかわからないぐらいだ。
それほどまでに、既に彼女の体から生命力が消えていた。
「...僕はここに残るよ。なのはとか、子供は外に出ておいた方がいいよ。....死ぬ瞬間なんて、見たくはないでしょ?」
「っ...優輝さん...!」
奏が、声を震わせながら僕の名前を呼ぶ。
きっと、今の僕はほとんど感情が顔に出ていないのだろう。
...それほどまでに僕も精神が追い詰められているのに、彼女は気づいたようだ。
「...私が連れて行きます。」
「私も行こう。主や神夜を外に放ってはいられない。」
なのは達を連れ、リインフォースさんやシャマルさん、アルフさんも出ていく。
残ったのは魅了に掛かってない人だけになった。
「奏、アリシア。二人も...。」
「...ううん。私は見届けるよ。」
「...私も。例え、悲しくても...。」
アリシアと奏はどうやら残るらしい。
既に悲しみで顔が歪んでいるのに、意地を張っちゃって...。
「...それに、まだ、諦めてないでしょ?」
「なに...?」
アリシアが、まるで見透かしたようにそう言い、クロノが少し驚く。
「...驚いた。いつの間にそんな観察眼を?」
「ただの直感だよ。...でも、合ってるでしょ?」
「...まぁ、ね。」
アリシアの言葉を肯定しながら、僕は一度立ち上がる。
...そう。ずっと、医務室に入ってから考えを巡らせていた。
どうすれば助けられるのか。
どうすれば生命力を補えるのか。
マルチタスクをフル活用し、超高速で僕は思考を巡らせていたのだ。
「シュライン、聞いておきたい。どうしてこうなった?」
〈...天巫女の全力を出し尽くしたからです。つまり、単純にジュエルシードの力を使い果たしたため、マスターの生命を維持する機能が停止しました。〉
「やっぱりか...。」
大体は予想していた。
第一、あれほどの“闇”を祓ったんだ。力を使い果たしただけで済んだ方が凄い。
「じゃあ、その生命力を補えばいいんだな?」
〈はい。そして、足りていない栄養を補給すれば、自ずと回復していきます。〉
マルチタスクを使いながら、どうすればいいか高速で考えていく。
「椿、葵。霊脈を使えば補えるか?」
「...ええ。でも、そこまで持たないわ。」
...つまり、霊脈がある場所...八束神社まで彼女を生き永らえれば良い訳だ。
「条件は理解した。後は、それを満たす手段だ...!」
自身の記憶を探り、何か手はないか探す。
グリモワールにそのような魔法が載っていないのは既に理解している。
載っているのは、どれも傷などを癒すもので、“生命力を補う”魔法ではない。
「...もう、大切な奴が目の前で喪うのは嫌なんだよ...!」
「優輝...。」
一度目は、志半ばで斃れた。
二度目は、目の前で自分を庇って殺された。
三度目は、結局助けられずに、自ら殺した。
四度目は、目の前まで来たのに、結局届かず仕舞いだった。
...その四度目を覆してまで、ここまできたんだ...!
「絶対に...助ける!!」
時間が足りない?手段がない?そんなの関係ない!
そのための“創造魔法”だろうが...!
「何か、何か手があるはずだ...!」
そう。それこそ、アニメとかにある奇跡のような手段が...。
....“アニメのような”....?
「そうだ...!」
そこで僕は一つの手段を思いつく。
「.......。」
その手段を実行すべく、脳内で術式を組み立てる。
...僕は転生者だ。一度は死に、そして生まれ変わった存在だ。
僕の場合はそれが二回あった訳だけど...今はそれは関係ないので置いておこう。
Fateというゲームやアニメ、漫画に“宝具”と呼ばれる切り札が存在する。
大体がとんでもない攻撃力や、特殊能力を持っている。
それは、その宝具の持ち主が歴史に残るような事象を基に存在している。
そして、その宝具を持つ存在は“英霊”と呼ばれる...一度死んだ英雄だ。
中には反英雄となる真逆の存在もいるが、今は割愛する。
英霊と転生者...どちらも“一度は死んだ存在”だ。
そして、僕は過去に“導王”として歴史に名を遺した。
...つまり、Fateで言う英霊の条件を満たしているのだ。
フィクションだから意味がない?
いや、特典として使えたり、僕自身も“熾天覆う七つの円環”を模倣した事がある。
模倣できたという事は、どこかにFateの世界が存在しているという事。
...まぁ、詳しい話は置いておこう。
簡潔に言えば、僕自身に“英霊”としての条件を当て嵌める。
そして、宝具を使えるようにする。
恥ずかしい話だが、導王としての僕は“導きの王”などと称えられていた訳だ。
民を導き、絶望から希望へと変える。そんな偉業が逸話として遺っている。
これだけで、“英霊”としては十分...!
「(この世界に同じのがあるかは分からない、“別の世界のルール”。普通、それを自分に当て嵌めるのはやり方すら一切分からない事だ。だが...。)」
―――“創造魔法”は、それを可能にする...!
「優輝...!?」
“カチリ”と、何かが切り替わる感覚に見舞われる。
魔力は使っていない。創造“魔法”とは言ったが、使ったのは“創造”の性質だけ。
性質を扱うだけなら、魔力は一切使わない。
「優輝の存在の格が、上がった...!?」
「一体何をしたの優ちゃん!?」
椿と葵が驚愕する。...尤も、その間も延命行為は続けてくれていた。
まぁ、二人が驚くのも無理はないかな。
荒唐無稽な話に思えるが、“世界の意思”に意識を傾け、Fateの世界のルールを自身に適用させ、存在を“受肉した英霊”に昇華させたのだ。
「(導王としての“宝具”を使えば、多分司は救える。だが....。)」
...ここまで来て、単純且つ、今はどうしようもない問題に突き当たる。
「....魔力が、足りない....っ!」
「なっ...!?ここまで来てか!?」
せっかく光明が見えたのに、それを閉ざされる。
クロノも、そう思ったのか驚いていた。
「くそっ...!くそっ....!ここまで来て...!」
このままでは目の前で死んでいくのを見るしかなくなる。
それだけは嫌だと、必死に考えを巡らせる。
「もう、親友を目の前で見殺しにしたくはないんだよ...!」
...だけど、どれだけ思考を巡らしても解決策は見えない。
こうなったらと、無理矢理にでもリンカーコアを活性化させようとする。
「っ、待て優輝!それをすれば君の命が...!」
「知った事か!それに、確実に死ぬ訳じゃない!」
クロノの制止を振り切り、リヒトを宝具として使用するため、魔力を振り絞ろうとする。
「....優輝さん。」
「奏?なんだ....っ!?」
その時、奏が何かを差し出してくる。それを見て、僕は目を見開いた。
「...優輝さんの偽物との戦いが終わった時、貰ったままで残ってた...。」
「.....!」
あの時、まだ使う機会があるだろうと、奏にあげた魔力結晶。
その残りが、まだ奏の手にあったのだ。
「....使って。これで、司さんを...。」
「........。」
“奇跡”は、既に一度司が起こした。アンラ・マンユを倒すという“奇跡”を。
それと、今ここに司を助ける手段が確立したのは、皆が起こした“奇蹟”だ。
「...見せてやるよ。“導王”の奇跡を...!」
―――そして、もう一つの“奇跡”を、ここに起こそう...!
「んっ...!」
魔力結晶を奏から受け取り、それを無理矢理飲みこむ。
幸い、魔力結晶は宝石のような形をしているから、喉で刺さる事はない。
「ちょっ、優輝!?」
「元々、この魔力結晶は僕の魔力でできたものだ。だから、無理矢理にでも飲みこめば、そのまま僕の体に馴染み、魔力が回復する。」
例え、回復するようにする魔力がなくても...な。
「リヒト!」
〈...今回ばかりは、見逃します!〉
リヒトが杖の形態に変わる。...これが本来のリヒトの姿だ。
「っ....。」
杖を握る手が痛む。...が、今は我慢だ。
時間もない。すぐに取り掛かる。
「...我が身は、人を導きし者。世を照らし、護るべきものを護りし光を持つ者。悪を敷き、善と為り、絶望を消し去る力を手に。導きの光をこの身に...!」
かつて、今世において初めてリヒトを使った時の起動ワードを呟く。
それと同時に、魔力が迸る。
「導きの時は来た!我は希望を紡ぎしもの!救われぬ者に救いを、報われぬ者に報いを与えよ!我が力、我が光は、人々の希望となろう!」
僕を中心に魔法陣が広がる。
本来ならもっと範囲が広くなるが、今回は部屋いっぱい程度に狭める。
「我が名は導王...導王ムート・メークリヒカイトなり!導きの力を以って、今、汝の“絶望”を打ち砕こう!」
リヒトが光に包まれ、それに呼応するように司の体も光に包まれる。
...そして、最後の言葉を紡ぐ。
「導きの光よ、今ここに!“導きを差し伸べし、救済の光”!!」
―――“奇跡”が、“絶望の未来”を蹂躙する。
リヒトの柄が床を打ち、魔法陣が光り輝く。
魔力が迸り、金色の光が司を優しく包み込む。
その光は、まさに“希望の光”。人を“未来”へと導く光だった。
衰弱し、血色の悪くなっていた顔はみるみる内に元に戻っていった。
「生命力が...!」
「これなら、もうしばらくは持つよ!」
ずっと霊力を流し続けていた椿と葵がそういう。
「クロノ!アースラを八束神社へ!そこで生命力を補う!」
「分かった!」
クロノにそう言って、アースラを八束神社へ向かうよう指示してもらう。
「っ.....!」
「優輝、その腕...。」
「大丈夫...!」
杖を握り続ける手が痛み、母さんが心配してくる。
「治るのが少し遅れるけど...それで親友の命が救えるのなら惜しくはない...!」
「手が空いている人は栄養補給になるものを用意して頂戴!それと、魔力が少しでも残っている人は八束神社に転移するための魔法を!」
アースラが地球に向けて動き出し、椿が指示を飛ばす。
地球にアースラが着くのに約10分かかり、その間に休めば転移一回分の魔力は回復する。
「奏、魔力は残っているか?」
「...まだ、魔力結晶がいくつかと少しだけ...。」
「借りるぞ!」
宝具を維持するため、奏と一時的にパスを繋いで魔力を借りる。
宝具に集中するため、魔力結晶での回復は奏任せだ。
「アリシア!ちょっとこっちに来て頂戴!」
「えっ!?何!?」
「深呼吸して、気を落ち着けておきなさい。」
椿がアリシアを傍に呼び寄せ、少しの間霊力を流すのを中断する。
もちろん、その間は僕が椿の肩代わりをする。
「霊力を借りるだけなら、これで...!」
「な、何を...!?っ、椿、これって...。」
「貴女の霊力を借りてるのよ。少しの間我慢して頂戴。」
椿も僕と奏のようにアリシアとパスを繋ぐ。
霊力を借りられるのは、体力を吸われるのに近いので、感覚はあまりよくないだろう。
「私に、そんな力が...?」
「理由は詳しくは知らないわ。でも、今はそれがありがたいの...!」
“自分も役に立てる”。そう思ったのか、アリシアは霊力を譲渡するのに集中した。
「優輝のおかげで、完全に安定しているわ...!これなら、確実に霊脈まで持つ...!」
「それがこの宝具の力だからな...!」
この宝具がなければ、未だに衰弱の方が早かっただろう。
だけど、この宝具は“絶望”を打ち破るのには最適だ。
最善の未来を掴むため、この宝具は因果すら凌駕する...!
「着いたぞ!」
「転移!急げ!」
クロノの声と共に、母さんと父さんが転移魔法を発動する。
ちなみに、外で待機している皆には、リニスさんが説明しに行っており、だが邪魔をしないように抑えているらしい。
「転移、八束神社!」
魔法陣が僕らを包み、僕らは八束神社の境内裏へと転移した。
「光輝!結界!」
「ああ!」
「椿!霊脈を!」
「分かったわ!」
転移してすぐに父さんが認識阻害の結界を張り、椿が霊脈を弄る。
痛む腕を無視し、司を抱えて神社の縁側に寝かせる。
「っ、繋げたわ!これで....!」
「...安定...か.....っ!?」
「優輝さん...!?」
「っ、助かる...。」
霊脈の力が司に流れていき、生命力を維持するのを確認して宝具を解除する。
同時に、力が抜けて奏に支えてもらう事になる。
「栄養補給になるものを持ってきたわ!」
「ありがとうございます!」
プレシアさんが栄養補給となる医療品及び、料理を持ってきた。
料理は目覚めてからだとして、医療品を使っておく。
「後は...。」
霊脈から少し霊力を貰い、それを用いて心臓に軽く衝撃を与える。
心臓マッサージ代わりだ。手でやると今の彼女の体にはそれでも酷だからな。
「ん....。」
「ああっ!?」
「優輝!?...って、人工呼吸か...。」
さらに、人工呼吸もしておく。
アリシアがなぜか驚いているが、緊急事態だから無視だ。
「.....っ、ぅ....こほっ、こほっ....。」
「.....!」
「司!」
司が弱めの咳をして、目を覚ます。
「...優輝...君....?」
「良かった...!目を覚ましたんだな...!」
抱き締めはしない。彼女の体に負担がかかるし、僕の今の腕じゃあね...。
だけど、そうしたい程、僕らは嬉しかった。
「...私...確か...。」
〈はい。マスターは、マスターが覚悟した通りに、確かに生命力の維持が途切れ、衰弱死を迎えようとしていました。〉
シュラインがそう説明する。...やっぱり、死ぬのを覚悟してたんだな。
「だったら...どうして...。」
「皆が、君を助けるために頑張ったからさ。」
“なぜ助かったのか”。そういう彼女に、クロノがそう答える。
「...皆が...?」
「....まぁ、あれだ。」
色々説明が必要だが、簡潔にまとめるとすれば...そうだな。
―――お前自身の、“優しさの報酬”って訳だ。
「だから、遠慮なく受け取れよ。親友。」
後書き
優輝の英霊(?)化…Fateでの英霊になる条件を自分に当て嵌め、自身を“受肉した英霊”とする事で、宝具を使用可能にした。別の世界のルールなため、本来は不可能だが、そのルールを“創造”した事で、適用させる事に成功した。理論を一切無視した、“考えるな、感じろ”作戦でやった、まさに荒業である。
導きを差し伸べし、救済の光…ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
導王ムート・メークリヒカイトが英霊として存在した場合の宝具である。
対象の人物及び場所にとって、最善の状況に持っていく事ができる宝具。
その力は、因果逆転に似通っており、発動したが最後、運命を覆す事すら容易い。
デバイスのフュールング・リヒトを杖形態にして初めて発動可能。
またfateかよ(今更)。
今回行った事は別の世界のルールを自身に当て嵌め、fate世界での“宝具”を習得したと言った感じです。普通に使う魔法などより、逸話として昇華した宝具の方が効果が高いという事で、優輝はこの手段を選びました。かなり強引ですけどね。自分じゃ、これが限界だったんです...。
正直、王の財宝持っている帝なら、霊薬とかで助けられる可能性があるとか言わないで...。
ほら、ドラ〇もんでも使える道具をなぜか使わない時があるし...。
ちなみに、設定的に全員がその事を失念している感じです。...というか、ギルガメッシュ本人じゃないから把握しきれてないという...。
さて、ようやく解決して、後は後日談です。
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