堕天少女と中二病少年
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堕天使と黒騎士は今日もほのぼのとする――と、思いきや?
我が“堕天使“の存在を知ったのは――――なにも進級したあの日が最初ではない。そもそも我らは同じ学校に通っているのだ、1年生の時期にも廊下や屋上で見かけることくらいはあったものである。
ただ決定的に違ったのは……そのときから奴は既に彼女は堕天使で、当時我が黒騎士ではなかったということ。
我がそれに目覚める最終的なきっかけは、ダンジョンにあった黒刀であった。
しかし、我に一般人であることへの疑問を抱かせるようにさせた全ての原点は――。
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現在の刻は、午前の授業が終焉したことによりもたらされた昼休み。そんな中、我はここ――数多の本棚が四方八方に並んでいる教室よりも遥かに広大な部屋、学校の図書室にてある本を探し求めていた。
「本当にあるのだろうな?」
我慢が限界に達した我は棚をきつく睨みつけた。というのも、休みになってからすぐにここへ駆けつけて探索を開始しているというのに……まったく見つかる気配がないためだ。
……もちろん図書委員に訊くのが早いのは承知している。ただ! そんなことは黒騎士のプライドが許さないッ!! 自力で成し遂げてこそ意味があるのだ!!
――このままではじきに休みが終焉してしまうが、最後まで足掻いてみるか。
ほこりっぽくもどことなく優しい、室内の落ち着く匂いが鼻腔をほのかに癒してくれるが、それで集中を切らしてはいけない。我は改めて気を引き締め、これでもかというほど棚の中に詰まっている幾冊の本をひとつひとつ目で追った。
「……あ」
ぐにゃりと思考が鈍くなる。我の鼓動が高鳴る。イヤでも興奮がそそり立ってくる。
それらしき本が、目に留まったのだ。
「はああああっ!!!」
我は脇目も振らず、迅速にそれを引き抜いた。
「おお……!」
頬が緩んだ。正真正銘探していたものだったのだ。その本の題名は――『神話武器大全』。
我は思わず、
「ハーッハッハッハッハッ!! これで我は黒騎士として次なる段階へと躍進できるわけだ!!」
と、燃え盛る火炎の如く高揚した心情を吐露してしまい、
「図書室では静かにしてください!」
入り口付近のカウンターで番をしている図書委員に咎めを受けたのであった。
教室に帰還すると、堕天使が机に突っ伏していた。放置してもいいが、一応声をかけておくことにする。
「戻ったぞー……寝ているのか?」
反応した堕天使はジトーっとした目線をこちらに向けて「おかえり」と呟いた。
「そう拗ねるな。不気味に笑っていた方が、堕天使としても輝くのではないか?」
「拗ねてないけど。あと『不気味』は余計よ」
慰め、効力なし。これはどうやら拗ねているとみてよさそうだ。
「なんだかお前には悪いことをしてしまったようだな」
「……どこ行ってた?」
「ん? ああ、図書室さ。赴く必要があったのだ、許せ堕天使」
「それならそうと言ってくれればよかったじゃない……」
「ハハハ……何処の馬の骨とも知れぬ奴に、こいつを先取りされては困るのでな」
口を尖らせる堕天使に、我は借り出してきた『神話武器大全』を見せつけた。表紙に載っているきらびやかな杖を目にして、彼女の目の色がさっと一瞬変わる。
「ふーん? そ、そんなもののために図書室に~?」
だが堕天使はバレバレの意地を張って誤魔化した。相変わらず素直じゃない堕天使である。
「我はこれから弁当を食するから、なんだったらその間に読んでいてもよいのだぞ?」
「リ、リトルデーモンがどうしてもって言うなら……」
「ならば、どうしてもだ。頼んだぞ堕天使」
「えへへ……わかったわ!」
ここまでの曇りっぷりが嘘のように彼女の表情がぱあっと明るくなった。堕天使は嬉しげに我の提案に乗ると、我の手にある本を素早く取ったのだった。
「読みたかったのだな……」
我は彼女に聞こえぬ程度に我はからかいごとをこぼし、弁当箱の蓋に手をかけた。
我は彼女――津島善子のリトルデーモン。始業式の日にあった一件を経て、この関係に至ったのである。今はあれから半月過ぎたが……なんだかんだでうまくやっている。堕天使の扱いにも慣れてきたしな。当初苦労したことといえば、学校の中でことあるごとに堕天使がリトルデーモンと我を呼ぶので、民々に誤解を生むことぐらいだった。
――イレギュラーになった学校生活も、もうお手のものさ。
なんて思っていたせいか、油断していたのだ。
この日の6限目――ロングHRの時間に担任教師が宣言したことに、我は大きく取り乱すはめになった。
「もうすぐクラスの親睦を深めるための行事、遠足がありますね。『単独行動は禁止』ということでこの時間内で皆さんには班を作ってもらいます。最低でも四人以上でお願いしますね」
「よ、四人……?」
それは堕天使も、また然り――。
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