堕天少女と中二病少年
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堕天使と黒騎士、失敗する
「ハーッハッハッハッハッ!!」
放課後。我は学校の屋上にて黒刀を振り回していた。
「ハーッハッハッハッ!」
遠足? 取るに足らぬ行事!
「ハハ……ハッ……」
刀を振り回す腕が止まる。すまぬ、見栄を張った。我はいましがた窮地に陥っている。6限目に担任が言い放った遠足の話がトリガーだった。「四人以上の班を作ること」。ここに何の問題が、だと? つまり我は班に所属することができなくてだな……。
我――黒騎士は基本的に孤高なる存在。よって入れてもらうよう媚びるなどできまい。逆だ、我自身が仲間を集めなくてはならなかった。
で、それを試みたのだが――クラスの民々は顔を引きつらせて遠慮を決め込んできたのだ。何故なのか。「この黒騎士と共に、新天地を踏みしめることを志す者はいるか!?」と、最高の募りをかけたというのに。
そういうわけあって、我は帰還できずにいる。担任いわく「班ができていない人は、誰かに入れてもらうまで極力下校しないように」だそうだ。だが我の同士はいない。どうすれば……。
「いや、まだだ!!我にはこの凛々しき容姿と強さがあるではないか! 男どもは我が力に嫉妬するので不可能やもしれぬが、女ならなんとかなるはず! よし、いざアピールしに教室へ――」
「バカじゃないの?」
「へあっ!?」
なんと残酷なのだろう、絞り出した気合に対して全否定の言葉が飛んできた。
「バカだと!? 誰だ、そんなことをこの黒騎士に面と向かって口にするのは……おっ」
屈辱を覚え、声の発された方へと我が視線を動かすと、
「見事なまでに自惚れてるわね」
そこには呆れた様子の堕天使がいた。やはりお前か。
~~‡~~‡~~‡~~
早いもので蒼かった空には赤みが差してきている。時々吹くそよ風が肌をひんやり刺す。春といえども、未だ夕刻は侮れない冷えっぷりだ。
「堕天使」
「なによ」
「このごろ我とお前はよく行動を共にしている。そのせいか最近、一部の民に妙なレッテルを張られかけているのだ。お前とは組まんぞ?」
「頼んでないわよ!」
我と堕天使は運動場で部活動に励む者達をぼんやり眺めながら、念話を交わしていた。一般人には何も聞こえやしないだろう。
「ハァ、お前も我のような集団と相反する者かと思っていたが……どうやらそうではないらしいな」
「オンリー……えっ? あなたの話し方ってひねりすぎてて、たまに何を言っているかわからなくなるんだけど。流石のヨハネでもついていけないわ」
「これだから堕天使は。要するに、ちゃんと班には所属できたのだろう?」
「いいえ。ヨハネが美しすぎるからかしら……私もすっかり取り残されてしまったわ」
大袈裟に天を仰ぎ悲劇的に振る舞い、挙げ句奇妙なポーズを取る堕天使。なるほど、彼女の堕天使としての器量は悪くないものだと我は認めていたのだが……駄目だったのか。民々は我らのような特殊因子に妬みでもあるのだろうか?
「けれど、美しすぎるって……ぷっ……それは違うだろう……」
「笑うなぁーっ! 湧丞だって一人のくせに!」
軽く小馬鹿にして笑うと堕天使の奴がムキになった。彼女をからかうのはなにかと面白い。ただ、班に入れていないから焦っている!とか勘違いされても困る。
我はおちょくるのを止め、脚に渾身の力を込める。今までもたれていた柵の上に跳躍して飛び乗り、
「一人、か。それは認めるが――我がちょいとアピールすれば、所詮班問題など塵同然なのだ!」
カッコよく解説してやった。すると堕天使は感心したように「おおっ」と歓声をもらした。
「イイ身のこなしっ!!」
「え、そっち?」
まあ、結果的に誤認は免れたのでよしとする。
――と、突如だった。扉をけやぶる音が轟いた。
「コラーッ! お前ら、屋上に許可なく入ってるんじゃないぞ!!」
「ひっ!?」
そして立て続けに怒鳴り声。我は何事かとそちらに注目する。堕天使は反応するなり呻き、盾にするように我の後ろに隠れた。
スポーツ刈りの頭、がっしりとした体格、動きやすそうな服装……不意に登場したのは体育教師だった。おそらく校則違反で我らを取り締まりにきたのだろう。
「これは指導が必要だな……!」
体育教師はポキポキと拳を鳴らし、おもむろに近付いてきた。その光景ははまるで悪党が襲ってくる絵面のようだった。
~~‡~~‡~~‡~~
「まったくもって間抜けだな、我もお前も」
「ふん!」
我と堕天使と、あとは精々自習で残っている者ぐらいしかいない物音少なき教室に、カリカリと筆の営みが響く。
職員室にて戒めを受した我らは教室に戻り反省文を書いていた。ノルマは400字詰めの原稿3枚分。あの体育教師め、許せぬ。
「あーもう! 忌々しいほどの量ね……まさに地獄より課せられし灼熱の試練ッッ!」
堕天使がほざき、筆を手放した。相当に苦痛らしい。わからんでもないがな。
「黙って筆を動かせ。このままでは苦行が終わらぬぞ?」
「……わかってるわよ」
渋々、といった様子で堕天使は机の真ん中にふちに放られたペンを握っ……
「堕天使奥義――」
「早 く や れ」
「つれないわねぇ」
いや、安堵すればこうだ。彼女は油断ならぬ。
この後も堕天使はちょくちょくと攻撃を仕掛けてきたり、話しかけてきたりしたものの――我らは(主に堕天使が)騒がしく反省文を進めていったのだった。
「終わったぁ~~」
「やっとか。遅かったな」
「湧丞が早すぎるのよ」
「いいや、お前がのろい」
永き闘いだったが、そんなこんなで――空に夜のとばりが微かに堕ち始めた頃、我らは苦行を成し遂げた。堕天使はふやけたわかめの如く、ぐったりとしていた。まあ疲れるのも無理はないか。我も肩あたりをこった。
「さあリトルデーモン、地上を抜けて魔界へ飛び立つわよ」
「帰還するということか。よかろう」
堕天使の号令に我は快く頷く。ちょうど我も彼女に帰還を切り出そうと――
「……って、我らは未だ班問題を解決していないではないか! 帰還できぬぞ!?」
「あっ」
「学校の民々は殆どもう家に行ってしまっている……よな?」
「うん、そう……ね?」
「「急げ~~~~っ!」」
この後我らは散々校内を疾走するはめになった。
なお班問題は――翌日、幸いにもまだ決まっていない民々がクラスにいたので事なきを得た。ちなみに堕天使とは一緒の班に配属された。ちくしょうめ。
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