| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

外伝
  外伝《絶剣の弟子》⑨

 
前書き
今回は間の話の感じなので少し短めで。
開幕から我慢しきれなくなったヤツがひょっこり登場します。 

 
 


 家を出て、電車に乗り、病院の最寄駅で降りたところでハタと気づく。

(何時に検査なんだ……)

 時刻はもう昼頃。早起きしなきゃいけないと言うことから、検査は午前中に始まることになる。ひょっとするともう終わった頃だろうか。
 とりあえず、向かうだけ向かってみる。ここは、都会と街の中間のような雰囲気で、街路樹が多く植わっているのでコンクリートジャングルといった印象は受けない。遠くに車の交通の音を聞くが、どちらかと言うと静かな雰囲気だった。
 場所はすぐに分かった。それなりに大きな病院らしく、駐車場も広い。
 駅からここまで人は疎らでユウキさんとは勿論すれ違わなかった。

「……行ってみるだけでも」

 ばったり会えるかもなどと言う淡い期待をこの時点で捨て去り、エントランスに入っていく。正面に受付、横に休憩所があって人がそれなりにいる。特に見咎められることもなさそうだったので休憩所に入って行き、隅の方の席に腰を降ろす。と、そのすぐ後入院着を来た、恐らく少し年上の青年が近くに腰掛けた。

「ふぅ……」

 リハビリ中なのか、歩行訓練機が脇に置いてある。その人はため息を1つ吐くとそれから手を離して後ろの壁に背を預けた。リハビリが必要な入院となると、かなり大怪我をしたのだろうか。もしかしたら、ユウキさんについて何か知っているかもしれない。

「……あ、あの」
「ん?俺か?」
「は、はい。あの、変なことをお聞きするようですが……ちょっと前まで僕と同い歳くらいの女の子がここに入院してませんでしたか?」
「同い歳か。君は……高校生か?」
「はい。高1です」
「……ふむ」


 その青年は何故か、考えるそぶりよりこちらをじっと観察している。まるで、南光という存在そのものを見透かすように。
 流石に居心地が悪いので、少し距離を取りつつ青年に声をかける。



「……あの」
「ああ、すまない。心当たりはないな。ただ、関係者以外は入れない病棟に入院していた10代の子が最近ニュースで話題になった程度だ……その子のことではないだろう?」

 青年は全部分かった上でその可能性を否定する方向で返して来た。この何気ない会話の時点で主導権を取られたことに少し動揺と緊張感を覚えつつ、それでも話に乗るしか道はない為青年にそれを否定してみせる。

「……その子のことです」
「ほう」

 青年はわざとらしく眉を吊り上げると、改めてこちらをじっと見つめた。その無言の圧力にはこちらに対する警戒心が含まれている気がした。それは当然とも言えるがしかし勘に近いが、この青年は病院関係者程ではないながら、俺の知りたいユウキさんについての情報を持っているような気がする。しかしその腹の内は中々読めず、相手に取り付かせないようなやり難さを感じた。

「何故、彼女のことが知りたい?」
「……俺は……彼女に伝えなければ、謝らなければならないことがあるんです。それで……今朝思い立って……ここを調べて、来ました」

 青年は俺の答えを聞くとスッと目を細め、こちらに向けていた圧力を緩めると、少し違った雰囲気で尋ねてくる。

「そうか。君は……仮想世界で彼女に会ったのかな?」

 間違いない。この人はユウキさんを知っているし、事情を理解してる人だ。

「そうです。アルヴヘイム・オンラインというゲームで知り合って……その、色々助けてもらっていて……昨日もオフ会で会ったんですけど……」
「なるほど。今日になって言いたいことができた、と。しかも仮想世界ではなく現実で」
「は、はい。あの……もしかーーー」

 ーーーして貴方もALOプレイヤーでユウキさんの仲間ですか、という本来の目的から若干逸れた話題にシフトしかけた時、突然近くで声が挙がった。

「あれ?ライト?」
「っ⁉︎あ……ゆ、ユウキさん。こんにちは……」

 噂をすれば影が指すというが、まさに話題の渦中の人物がやって来る。車椅子を押してるのは凛とした雰囲気を纏った小柄な女性だが、こちらも入院着を着ていることから、青年と同じように怪我で入院していると見られる。

「……えーと、どうしたの?具合悪いの?」
「え、いや……そういう訳では……」
「おう。2人ともお帰り……さて、揃ったところで少し話を整理するか」

 ユウキさんと車椅子を押している女性に挨拶をした青年は、混沌としてきたこの場をとりあえず鎮める。

「ユウキと君は、知り合いなんだな?」
「うん、そうだよ。ライトはALOでのボクの弟子!」

 と、ユウキさん。確かにそうだが、改めてそういう風に宣言されるとどこかこそばゆいような気もする。

「そして昨日からは私の弟子でもあります」

 突然口を開いた女性がごく真面目な顔でそんなことを宣う。もちろんこんな人は知らないのだが、その雰囲気には心当たりがあった。

「……あ、もしかして……セラさん?」
「はい。そうですよ。ユウキお姉様は歳下ではありますが、お兄様の()()()ですので、昨日も言った通り義理の姉です」
「あーなるほど義理ってそうい……って、こん……⁉︎え、えぇ⁉︎」

 思わず声を大きくし、青年の方とユウキさんを何度も交互に見てしまう。
 混乱する俺を青年の人はやれやれ、とため息を吐くと落ち着けのジェスチャーをしながら言った。

「待て待て。1つずつな……まあ、そういうことだ。俺がその婚約者で……セラの兄だ」

 …………ダメだ。頭が痛くなって来た。昨日の夜発覚した衝撃事実にプラスアルファで理解の許容範囲に限界が近い。

「あー、つまり簡単に言うとだ。俺たち3人は家族で、3人揃ってALOプレイヤーで俺とセラは最近ちょっと怪我して……俺は少しゲームをお休み中って訳だ。比較的軽傷のセラも、俺は言わずもがな、昨日は外出許可が出なかったんでオフ会は行けなかったんだ……他に何かあるか?」

 自分を中心とした人間関係ではなく、既にある人間関係として再度認識すれば、段々と落ち着きを取り戻す。

「いえ……すみませんでした。取り乱して」
「気にすることはない。直球に可燃物を投下するセラが悪い」

 その言葉にセラさんは不服そうにしているが、特に何かを言ったりはしない。かと言って悪びれた様子も無いが。きっとアレはわざとやったのだろう。

「それで、ライトは今日はどうしたの?学校休み?」
「う……えっと、学校は休みました。今日はその……ユウキさんに話したいことがあって」
「リアルで打ち明けたいことがあってここを調べて来たんだと。俺たちがいない方がいい話なら、席を外すが?」

 多分、この人たちには気を使う必要は無いのかもしれないが、2人きりの方が話し易くはある。しかし、会ったばかりの人、それもユウキさんと並ならぬ関係の人を差し置いて2人で話して良いものだろうか、と悩んでいると、ユウキさんが車椅子を自分で動かしながら俺の隣までやって来た。

「ボクへの話なら、まずはボクが聞くよ。それが話して良いことなら、2人にも話すから。それで良い?」
「ああ」
「お兄様が良いのでしたら」

 2人はあっさりと頷く。あるいは、俺の葛藤を見透かされて気を使われたのかもしれない。
 解散の雰囲気の中、隣に座っていた青年がふと思い立ったように向き直り、手を差し出してくる。

「そう言えば、俺は自己紹介がまだだったな。仮想世界では"レイ"と言う。そのうち遊ぼう」
「あ、はい。ライトです……そうですか、あなたが」
「……お前ら何吹き込んだ」

 レイさんの手を握り返しながら、ユウキさんとセラさんを見てみればごく自然にそっぽを向いている。主にレイさんのアレやコレを吹き込んだのはユウキさんだが、それを指摘するのも野暮だろう。

「んんっ、まあ、あれだ。こいつは見た通りの危なっかしいやつだから、頼んだぞ」
「分かりました」

 その言葉に不満を表すユウキさんを尻目に、レイさんは少し微笑んだ。
 第一印象は少し怖かったけど、案外話してみればそうでも無いことが分かる。今度はALOで会うと約束し、レイさんとセラさんと別れると、俺とユウキさんは揃って病院を出た。










「それで、話って?」
「あ、はい。その……」

 どこから話そうか暫し思案した後、思い切って話し出す。5年前、自分があの学校でユウキさんの姉と友達で、あの時何をしてしまったのか、ということを。
 紺野藍子という女の子を異性と意識し出したのは、多分小学4年生の終わり頃だった。きっかけは特に無いが、多分、席が近くなることが多く趣味も似通って居たからかもしれない。当時は、それが恋愛感情だということは分からなかったとは思うが。
 彼女とは色々なことを話した。好きな本のこと、食べ物のこと、勉強のこと、友達のこと、そして家族のこと。
 互いに薦めた本を読み合って、感想を言って笑い、食べ物の話をしてその日の給食のメニューが気になり、勉強の話は多少の熱の差はあっても、まあ概ね有意義だった。友達の話をして、実際に会って、共通の友達になった子もいる。
 家族の話は、彼女が嬉しそうに話すのを聞いていることが多かった。俺は、自分の家族があまり好きではなかったので多くは話さなかった。代わりに、彼女が大好きな家族の話を聞くのがとても好きだった。その時の彼女の心からの笑みが、とても好きだった。
 そして、学年が上がってひと月経った頃、あの噂が流れた。
 それが広まった日、教室は恐ろしい空気が流れていた。息苦しかった。周囲から紺野さんに注がれる視線は、恐怖と嫌悪、悪意。当時、通路を挟んで紺野さんと隣だった俺は何日かは、その空気に抗って彼女の近くに居続けた。怖くはなかった。寧ろ、怒りを感じていた。何故なら、彼女がキャリアだという病気については、去年の今頃学んだものだったからだ。それによれば噂で流れているような「吐いた息で感染する」だの「触ったものに触れたら感染する」などというものが専らの嘘だということは明白だからだ。おかしいと思った子も居なくは無い。しかし、その時の噂の効力は強すぎたのだ。デタラメが真実になった。
 俺もまた、親にそのデタラメを洗脳するように吹き込まれ、当時それに抗う術を持たなかった俺は、理性と相反するように行動してしまうようになった。ただ、心が弱かった故に。
 紺野さんがやがて、フェードアウトするように居なくなった後、俺は激しく後悔した。最後まで彼女の悲しそうな目で俺を見る姿が消えなかった。例の発作が時折起こるようになったのは、この頃からだ。しかし、それもまた時が経つにつれ頻度が減っていき、よっぽどのことが無ければ起こるようなことは無くなった。

「……俺は、謝りたいです。ユウキさんに言っても仕方ないし、ユウキさんはこんな俺のことなんか、もう見たくはないかもしれないですけど、それでも……」

 つらつらとそんなことを語る俺をユウキさんは黙って見ていた。見透かすような視線ではなく、俺が何を語るのかそれを問うような視線だ。

「それでも……ごめんなさい。俺は、ユウキさんのお姉さんを裏切りました」
「…………そう」

 病院近くの公園に一旦寄り、そこで並んで座って話していた。乾いた喉をペットボトルの水で潤し、一言だけ発したユウキさんとの沈黙が解けるのを待つ。彼女は視線を前に戻して目を開けたままじっと何かを考えている様子だった。
 2分か3分経った頃、ようやく口を開くと、予想に反して明るい口調で言った。

「……まあ、なんていうかな。昔のことは言っても仕方ないし、ボクはライトのこと、許すよ」

 それから凝った体をほぐすようにぐぐっと伸びをしてからまた口を開く。

「後、多分……ライトが考えている程、姉ちゃんはライトのこと怒ってないし、むしろ気にしてたと思う」
「え……?」
「その時は別の人……というかレイのことだと思ってたんだけど……姉ちゃんは時々『私たちの病気のこと分かってくれる人もいた』って言ってて。今思うと、それきっとライトのことかなって」
「……俺は、別に……分かってた訳じゃ」
「それに、多分ライトが姉ちゃんの初恋の人だし」
「…………え?……ええっ⁉︎」

 少し、いや、かなりおかしな発言がユウキさんの口から出てきた気がする。今日2度目の思考停止。

「多分、そうかな。うん……ミナミ君、だよね?ライトって」
「……………あの、その。その話はかなり興味あるんですけど、本題から逸れるので……今度、時間があるときに……」

 恥ずかしがり屋だなぁ、とからかうような目を向けてくるユウキさんにいいですから、と強引に話を戻す。

「うーん、でもボクから言うとすれば……ライトにはお礼を言わなくちゃかな」
「いやそんな……」
「ううん。姉ちゃんとボクがキャリアだっていう噂が広がった後も姉ちゃんが学校行けてたのも、ライトが居たお陰だよ」

 ユウキさんの言葉はまるで……俺が被って来た加害者だという後悔を洗い流していくようだった。綺麗さっぱり消えるわけではないけれども、長く肩に乗っていた荷が降りるような、途端に世界が色付くような、そんな気分になっていった。
 本当に本人がそう思っていたかは今となっては確かめる方法は無い。しかし、ようやく前を向いて歩ける、と。
 そんな気がした。








 その夜の修行はALOでつけてもらうことにした。

「良いのか?」
「ええ。やっぱり、体感覚を同じにした方が効率が良いと思いますので」

 ここの所、毎日2時間はALOにログインしていたので最初は少し違和感があったが、カイトさんが来る前に少し体を動かして感覚を調節しておいたおかげでで違和感は少なくなった。

「……何かあったのか?」
「そうですね。個人的なことですけど、胸の支えが取れたというか。色々整理が付きました」
「そうか」

 それどころか、いつもより体が軽い。感覚が鋭敏になっていて、剣や盾の感触がいつもよりしっかりしている気さえする。

「ふっ……‼︎」

 気の向くまま、剣で仮想の空気を切り裂く。剣閃は理想の軌跡をなぞり、確かな手応えと共に停止した。

「調子良さそうだな」
「……自分でも驚いてます」

 おもむろにカイトさんがこちらに向かって歩き出し、虚を突くように刀を鞘走らせる。途端、世界がスロー再生のように減速し、銀閃が顎の下めがけて迫ってくるのが見えた。

(防ぐのは無理。躱すだけなら、なんとか……!)

 下がって避けるには時間が足りない。故に、首を横に傾けギリギリで回避する。

「お」
「危ないですよ!」

 続く剣閃も何とか回避すると、今度はこちらから斬りかかる。カイトさんは斜め下からの切り上げを涼しい顔で避け、再び攻撃に転じてくる。この攻撃には身構えていたのでちゃんと反応できる。左腕を胸の前に引き寄せ、盾で刀による突きを弾いた。

「なんだお前、中々やるじゃねぇか」
「……偶々、ですよ」

 今までとは異なり、格段に動けるようにはなったが、どう動けば良いのかはまだ全然分からない。それを学ぶためにこうしてカイトさんたちに協力してもらっている最中で、言わばこれはようやくスタートラインに立った状態だ。決して慢心はしてはならない。

「おし。じゃあ段々とギア上げてくぞ。反撃も思いつくまま叩き込んで来て良いからな!」
「はい、お願いします!」

 今の抜刀術も全然全力ではなかったらしく、カイトさんが仕切り直してからは段階的に攻撃のスピードと鋭さが増して行った。その猛攻の一瞬の間隙にこちらの反撃を割り込ませて、なんとか一撃を入れようとするがそれは中々決まらない。その部分についてのアドバイスは当然貰えなかったが……ALOを始めてから恐らく初めて、自分の技術が成長したと実感した時を過ごすことが出来た。





 
 

 
後書き
次回が外伝ラストになります。
多分、連続でSAOの方の更新をすると思います。


それから昨晩、とあるSAO二次作者コミュニティで少し話題になったのですが、自作品の見せ所がどこかという。
お気に入りの話はどこだということになりまして、拙作はデュエル大会の話とダンジョン・デート編かなぁ、と思ったのですが。
読者の皆さん的にどの辺が楽しかったのか、少し気になりました。
某お茶の人にその人の作品で自分の好きなシーンを伝えたところ、「文章が下手な時のことだから恥ずかしい」と言われました。
拙作でも言えることですが、序盤SAO編の時とかは書き方も人称もめちゃくちゃで本当に読み難いし、展開描写もまるで足りてないなどと酷いものですが。それが段々といい方向に変わっていくのも含めて二次創作物の特徴であり、作者も楽しむべきところなのではないかと思います。
そんな訳なので、読者の皆さんのお気に入りの話や場面はどこなのか。今後の参考にもしたいので教えて頂ければと思います。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧