ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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外伝
外伝《絶剣の弟子》⑧
前書き
ライトの修行の始まり始まり(始まるとは言っていない)
『と、言うわけでライト。お前に対人戦闘のノウハウを教えてやる。男なら降りかかる火の粉は自分で払え』
そうカイトさんは言って何かのアドレスを書いた紙を渡してきた。
オフ会を楽しみ、また会う約束をして家に帰ったのは夕方の6時頃。夕飯の支度をし、早めに風呂に入って据え置き端末を立ち上げる。いつもはレポートを書く程度にしか使用しないものだが、今日はインターネットに接続すると渡された紙のアドレスを打ち込んでみる。
すると、画面にアミスフィアを接続して起動させるように指示が出た。
「…………」
いかにも怪しい指示だが、大丈夫なのだろうか。変なウイルスに感染しなければ良いが……
「まあ、その時はその時で……」
どうせしばらくALOは出来ない。仮に感染しても、修理に出していた方が自分の中のゲーム欲求も納得するだろう。
無線LANでPCとアミスフィアを接続し、それを被るとバイザーに見知らぬIDとパスワードらしき英数字の羅列が並んでいた。そしてPCの画面はいつの間にか黒色に変わり、バイザーに映った文字を入力しろと言うかのように、白い枠が画面の中心に表示されていた。
「…………」
毒を食らわば皿までというが、どうやらこれは実際に口にしてよく噛まなければならないらしい。
IDとパスワードを入力し、しばらくするとアミュスフィアにファイルがダウンロードされた旨のメッセージがバイザーに表示された。ファイルの中には圧縮されたソフトが入っており、それが自動で展開されていく。2分ほどでそれは終了し、PCにもアミュスフィアにもそれ以上何もメッセージは表示されなかった。
「……えと、これかな?」
アミュスフィアの中の保存データの中から新しくダウンロードされたファイルを選択、その中のソフトを起動する。ロード完了、といつもALOを起動した時と同じ表示が出る。
「……リンク・スタート」
恐る恐る、それでも仄かな期待も含んで、俺は謎のVR空間?へ旅立った。
「お待ちしておりました」
目を開けると、目の前にはシルフの女性が立っていた。髪は少し色の鈍い金髪。それをポニーテールに結わえ、シルフの固有武装の貫頭衣とその下にレザーアーマー。得物であろう刀は鞘を払った抜き身の状態で持たれていた。
「えっと……確か、セラさん?」
「はい。お久しぶりです……と、言っても本当は昨日会える予定だったんですが、少々事後処理に手間取ってしまって」
「あー……」
あの時は驚きの連続でうっかり聞き逃していたが、よく思い出せばユウリさんがセラさんの名前を出していた気がする。
「……すみません、なんか俺のこと狙って来た人たちの相手なんか」
「いえ。あのままでは貴方だけでなくオラトリオ・オーケストラにも被害が出たので。それは現在のALOのパワーバランス的にあまり好ましくありません」
今日のオフ会で少し聞いた話なのだが、現在ALOで最大の目的はアインクラッドの攻略。これを積極的に進めているのが、オラトリオ・オーケストラと後2つある大手ギルド、各種族固有の攻略隊、中規模ギルド少々といったところらしい。ここで問題なのが各勢力のリソース争いだ。ボス戦での利益を独占しようとするオラトリオ・オーケストラ以外の大手ギルド2つは同盟を組み共謀して、長時間の狩場の占拠やエリアの封鎖など非マナー行為を行う。一部中規模ギルドの面々はこれに、ある種の《上納金》を払ってこのおこぼれを貰うことで、甘い蜜を吸っているわけだ。しかし、何らかの理由でそこから摘み出された中規模ギルドはアインクラッド攻略への参加が制限されてしまい、結果として他との差が開いてしまうのだ。
この状態を是としないのが、各種族の攻略隊とオラトリオ・オーケストラなのだが、各種族の攻略隊は立場的に少し弱い。というのも、アインクラッドは全域が中立域で各種族の権力が及ぶことはない。それはつまり、武力以外の秩序が存在しないという意味で、大手ギルドの非マナー行為を糾弾したければ剣を交える覚悟を持たなければならない。しかし、攻略隊は正規軍のごく一部だけである為ギルド連合と比較すると人数が少ないのに加え、そもそも中立域の治安維持をするメリットが種族全体の利益を考えると薄い。かと言って中立域のしかも旨味ある狩場を独占されるのは業腹だ。
そこで出てくるのがオラトリオ・オーケストラだ。人数こそ大手ギルドの連合に及ばないものの、個々人の戦闘力で圧倒的に勝っている。ギルドマスターであるカイトさんの方針で中立域の秩序維持に力を入れていて、大手ギルドの寡占を抑制し、広く一般プレイヤーの為に狩場を解放している。この行為に対してのネットでの評判は賞賛とブーイングと半々くらいだが、結果としてアインクラッド攻略に関して閉鎖的空気を作らずに済んでいる。
それが損なわれた時、情勢が良くない方向に暗転してしまうのは想像に難くない。
「あの、ところでセラさん。お訊きしたかったことが」
「はい、何でしょう?」
「俺と初めて会った時、どうして俺の名前を?」
「?ああ、聞いてなかったのですね。貴方の師匠、ユウキさんは私の姉です。義理の」
義理の姉。その発想は無かった。どういった関係で義理なのかは非常に気になるところだが、多分デリケートなことなので例の如くスルー。
「さて、ライトさん。こうして談笑しているのも構いませんが、まずこの場所の説明をさせて下さい」
「あ、はい。すみません……」
「では……」
曰く、この空間はセラさんやユウキさんの仲間内で使われる模擬戦の為の専用VR空間だという。使用するにはALOのセーブデータとサーバー管理者の認可が必要らしい。セーブデータから読み取った情報からアバターの容姿とパラメータを再現し、ALOとほぼ同じ感覚でアバターを操作することができる。俺の場合VRゲームはALOだけである為、フルダイブ後の姿がライトの姿であることにあまり驚かなかった。一方で、ソードスキルや魔法、各種スキルは実装されておらず、武装のスペックも擬似的に再現されているだけで本物とはほど遠いということだ。
「特に要望が多かったので、大きさや重さ、感触は出来る限り再現してありますが」
「……それでも凄いですね」
今はあまり使われていないというこの空間、以前はアインクラッドフロアボス戦の連携訓練に使用されていたという。何でも、22層にあるログハウスをアスナさんとキリトさんが欲しかったらしく、そこに到達するまで、2人は仲間たちと積極的にボス戦に参加していたらしい。
「では時間の許す限り打ち合いましょうか」
「はい………え?」
「行きますよ」
頭に鈍い衝撃を感じたと同時に、俺は宙を舞っていた。呆然としたまま墜落し、そのまま壁際まで床を滑っていく。
「ライトさんを襲ってくる相手はたくさん居るでしょう。それに比例して相手の得物や戦術の種類は増えていきます。貴方の戦い方の基礎は今までMob相手に培ったもので十分。ならば対人戦に必要なのは多様な相手にどう対応するか、です」
気を抜いていたとはいえ、今セラさんが俺を吹っ飛ばしたのが一体どういうものなのかは分からなかった。俺が立ち上がった時にはもうセラさんは技の残滓を解いている最中だったからだ。
「よって私たちは出来る範囲のあらゆる方法でライトさんに襲いかかります。それを覚えて下さい」
ヒュン、と音がした時はもう頭上から剣が迫って来ていた。ギラリと光るそれをALOで食らおうものなら真っ二つにされかねないが、ここでは多分、先ほどのような鈍い衝撃に変わるのだろう。
「くっ……!」
「それで、どうします?」
左手に装備した大盾を振り上げ、それを防ぐ。脳を震わせるような衝撃が体を突き抜け一瞬の間、意識に空白が出来る。それから復帰した時にはもう、顎下に向けて鋭い突きが迫っていたーーー
翌日。
「……はっ⁉︎」
朝、俺は家の床で倒れていた。一瞬、あの後寝落ちしたのかと慌てたが、記憶に刻み込まれた無数の剣閃と鈍い衝撃、それから明日はカイトさんが来るからという連絡事項を思い出して一先ずホッとする。
「……今何時だ」
時計を見れば後30分で家を出なければ学校に間に合わない。朝ご飯を軽く済ませれば十分に間に合う時間だったが……
「なんかダメだ」
一昨日と昨日と濃い時間を過ごしたせいか、体は元気でも精神は疲れ切っていた。特に出席日数などに拘りは無いので休んでしまおうと、体を起こす。
無断欠席だと心象も悪くなるので、きちんと連絡を入れ、ゆっくりと朝ご飯を作る。
それから一通りの家事を終わらせると、ベッドに倒れこみ、思考を停止する。疲れている時はあれこれ考えるより、こうやって思考をまっさらにしているのが一番だ。
瞼が重くなる。どうせサボったのだから二度寝も良いかもしれない、と考えそのまま意識を手放した。
「南君、ごめんね。ちょっと良いかな?」
「うん……?」
机に顔を突っ伏して寝ていた僕は顔を上げてゆっくりと辺りを見渡す。消しムラが目立つ黒板と、整理整頓の余り得意では無い担任の先生の机。その横にあるメダカの水槽。夕暮れの日が教室に差し込み、世界をオレンジ色に染めていた。
「戸締りするから、そろそろ帰ろう?」
「あ、うん。ごめん、紺野さん」
この子は紺野藍子さん。同じクラスで隣の席の女の子だ。本が好きで頭が良い。活発ではないけれど、愛想は良く落ち着いた雰囲気をしていて、誰にでも優しい。そして僕の、初恋の人だ。
想い人に恥ずかしい格好を見られた僕は赤くなりつつ席を立つ。その様子を微笑みを浮かべて見ている紺野さんを見てしまって余計に恥ずかしくなる。
「よく寝てたね」
「う、うん。ちょっと昨日、夜更かししちゃったかな」
そんな記憶はないけれど、妙に体が重い。まるで粘度の高い泥の中を歩いているようだ。それでも体は勝手に動き、勝手に言葉を紡ぐ。
「紺野さんは何時もこんな時間に帰ってるの?」
「ううん、今日は偶々。日直だったのと、図書館委員の仕事もあったから」
「大変だね……」
紺野さんは頑張り屋だ。責任感もあって友達だけでなく先生たちからの信頼も厚い。その為、色々な仕事を任されてしまう。彼女はそれを笑って引き受けるのだ。
「南君、何か悩みごと?」
「……え?どうして?」
「うーん……何となく、かな?」
僕の顔を少し見上げ、微笑みながら微笑みながら首をかしげる様子に頭の奥が少し刺激される。目の覚めるような刺激でぼんやりしていた頭が少し動いた気がした。
…………そうだ、この笑みは……ユウキさんと同じだ。2人はとてもそっくりだ。
「ユウキ……さん……」
「え?」
「あ、え、いや。何でもないよ」
「ユウキって言わなかった?私の妹のこと、知ってたっけ?」
「前に兄弟とか姉妹の話をしたことはあったと思うけど……」
「あ、そう言えばそうだったね。南君は一人っ子で、私みたいなお姉さんが居ればよかったなって」
「……そう、だね」
紺野さんとは去年小学3年生の時と今年の4年生の時とクラスが一緒だ。その話をしたのは確か去年の半ば頃だったか。当時、席が近くで周りのクラスメイトも互いに仲の良い人たちだったので紺野さんとも自然と話すようになったのだ。
だが、彼女と兄弟姉妹の話をした事実はない。相手に対する基本的な知識として、紺野さんには双子の妹がいるということを知っていた。紺野さんのような姉が欲しいという考えはあったが、それを口にしたことはない。
彼女は知るはずのないことを知っている。
自分を取り巻く泥が、密度を増した気がする。さっきよりも動きにくく、息が苦しい。
「南君?」
「……僕は……俺は……君を見捨てた」
「え?」
きょとん、と首を傾げる紺野さん。景色が歪んで、すぐに元に戻る。
いや、違う。周りにはクラスメイトや他のクラスの人たちがいっぱいだ。
皆んなが、あからさまに紺野さんを汚いものを見るかのような眼差しで見ている。昨日まで、彼女の周りには人がいっぱい居たのに、今は誰もが彼女を避ける。
俺は今度こそ間違わないと強く思い、足を進めようとした。しかし、足は鉛のように重く酷い倦怠感に見舞われていた。
「光君」
ぞわり、と首の後ろの毛が逆立つ。この世に生を受けてから最も近くで聞いて来た声。俺の意思とは関係なく、僕に言う通りの行動を強いる傀儡師の声。
「あの子に近づいちゃダメよ?悪いバイキンを持ってるんだから。休み時間になったら必ず手を洗ってうがいをするのよ。あの子が触ったものに触ったかもしれないし、吐いた息にバイキンがいるんだから」
「あ……ぁ……っ……」
首を振って逃れようとするも、耳から脳へ酷く不快な感覚とともにそれは刻まれていく。毎日、毎日、その言葉を刻まれた。カラクリ人形でしかない僕はその通りにしか動けない。
「南君……」
「っ‼︎」
彼女の声はとても弱々しくて、そんなこと一度だって無かったのに、縋るような声で。
「こんーーーっ⁉︎……ぁ……っ‼︎」
声が出ない。必死に、喉を震わせようとする。しかし喉は何かがつっかえたように動かない。
彼女は大きな人の円に囲まれながら、どんどんと離れていく。
「ーーーーー」
それでも、彼女の口の動きは読めた。確かに言った。そう……あの時も、言っていた。芯の強い、彼女が唯の一度だけ漏らした、弱音を。僕は、僕だけは聞いていた。聞いていて、何もしなかった…………
ーーー酷い夢を見た割には目覚めは穏やかだった。ただ、体は酷く怠く寝汗もびっしょりとかいている。ひとまず気合を入れて起き上がり、汗を流す。その間に思い出したことを整理する。
俺はかつて紺野藍子さんという女の子と知り合いだった。その人は今、俺がお世話になっているユウキさんのお姉さんだ。昨日の話の限り、藍子さんはもう亡くなっている……原因はきっとあのことだ。
「…………どうしようか」
必然、ユウキさんの病気に関する詳しい事情も色々と知ってしまったし、その後のこともある程度分かってしまった。
汗を流し終わり、着替えると頭を拭きながらスリープモードだったパソコンを起こす。確か最近、医療関係のニュースで少し騒ぎになった記事があった筈だ。
「……あった」
【医師・水城雪螺、薬剤耐性型AIDSの治療に成功】
水城雪螺はニュースでも偶に見かける有名人だ。完治不可、難病と呼ばれる病気の治療に当たり、幾つかの画期的な治療法を編み出した。しかしその多くはまだ事例が少なく、人体実験の域を出ない。無論、保険も適用されず、高額な費用がかかることもある。
今回の治療法もまだ正式に認可が降りていない中、本人の同意の元、特例として行われていた、とある。水城雪螺が行う治療ではよくあることだ。
その記事にはそれ以上の詳しいことはないが、後日の記事でそれが【横浜港北総合病院】に入院している10代の女の子に対して行われたことだったとある。プライバシー保護の関係からか、その子について他の情報は殆ど無く、後はこの治療法の理論や問題点、改善点などが挙げられているのみで、その後はいくら探しても女の子に関する情報は無かった。
しかしこれだけ分かれば、かなりこの女の子がユウキさんであるという確率は高くなった。
「……後は、聞いてみるしかないかな」
ここでその病院に行ったところで何か分かるとも言えないし、何より部外者に患者のプライバシーのことを話したりはしないだろう。ユウキさんだってとっくに退院しているみたいだし、偶然検査にでも来てない限りはーーー
『あー楽しかった!じゃあねライト。今夜、頑張って!』
『はい……かなり不安ですが』
『うーん、じゃあボクも一緒に……』
『こーらユウキ?明日検査なんでしょう?早く寝ないとダメだよ?』
『う……分かってるよぅ……ごめんね、ライト』
『いえ、気にしないで下さい』
…………そう言えば今日、検査だとか言っていたな。
それだけ考えると、急いで出かける支度を整え家を出る。
会ってどうするのか、どうなるのか。
俺が愚かだった為にしてしまった選択は変えられない。謝ろうにも本人はもう居ない。ユウキさんにそのことを話しても、どうということはない。むしろ、酷いことをするだと思われるかもしれない。しかし、
(隠しながら、一緒にいる方がよっぽど嫌だ)
言わないより、言う方がいい。その結果がどうなろうとも。必要がないのかもしれないけれど、俺が必要だと感じたから。
もし、ユウキさんが助けを必要としたら、今度は必ず俺がその手を取れるように。取る勇気を持つために。
今日、一歩を踏み出す。
後書き
こんにちは。
ちょっこちょこと書き溜めているのですが、最近別作品に浮気しているのでとりあえずSAOは一旦この辺でストップ。2ヶ月くらいしたらまた再開したいと思います。
さて、昨日SAOスピンオフ作品第2弾、渡瀬草一郎先生の『クローバーズ・リグレット』を買って読みました。
先生の作品は何1つ読んだことが無く、作風も知らなかったので少しだけ不安になりながらも読んだのですが、結果……
クローバーズ・リグレットは良いぞ(語彙消失)
まず普通に文章がうまいです。ストレスなく読むことが出来ます。メインキャラのナユタも魅力的なおっぱ……ヒロインです。
物語はスリーピング・ナイツ結成の地《アスカ・エンパイア》。発祥の地というだけで実は誰も絡んで来ないということではなく、キチンと物語に絡んで来ます。その辺で倦厭してた方はご心配無く。最近、《ユウキ好き》が過ぎて《ユウキ狂い》と賞賛(揶揄)される私が保証します。ユウキ狂いの余波でスリーピング・ナイツの面々も結構好きです。
詳しく知りたい方はもう買うしかないですね!さあ明日の朝一で本屋にGO。
一通りダイマしたところで今日はこの辺で。HRのレべリングしなきゃ←
質問、意見、感想などお待ちしております。
では〜
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