魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第3章:再会、繋がる絆
第90話「おかえり/ただいま」
前書き
このままだと第3章が2章分の長さになりそう...。
=out side=
優輝が置き土産に広域殲滅魔法を放った後、椿たちは...。
「っ、数が減ったわ!このまま抑え込みなさい!」
「砲撃魔法、広域殲滅魔法が使える者は撃ち続けろ!少しでも多く仕留めるんだ!他の後衛組は適格に撃ち落とせ!前衛はその討ち漏らしの処理を!」
椿の言葉に、クロノが一気に指示を出す。
すぐさま役割を分担し、泥から溢れる偽物を抑え込む。
「ユーノ!ザフィーラ!シャマル!こちらの攻撃の合間から飛んでくる攻撃の防御は任せた!王牙!君はとにかく攻撃を続けろ!近づく必要はない!」
「了解!」
「けっ、言われなくてもわかってらぁ!!」
いくら強い者を再現したとはいえ、所詮は偽物。当然強さは劣化している。
一体一体の攻撃さえ対処できれば、後は手数で対抗すれば抑える事は可能だった。
『っ、ようやく繋がった!』
「エイミィか!?そっちの状況はどうだ!?」
瘴気のせいで繋がらなかった通信が、ようやく繋がるようになる。
並の戦闘員だけしか置いていないアースラの状況を、クロノは尋ねる。
『平気!こっちに残ってる人員だけでも凌げるし、まだ優輝君が張った障壁にアースラのシールドも残ってる!』
神降しが解けてしまったとはいえ、設置型としてアースラの前に張った優輝の障壁は、未だ残り続けていた。それだけでも、相当な防御力を誇る。
「そうか。なら、そのまま持ち堪えてくれ!こっちも何とかする...!」
『了解!頑張って!』
通信を切ると同時にクロノは待機させておいた魔力弾と砲撃魔法を撃ちこむ。
「っ、緋雪と優輝の偽物...!椿!葵!」
「分かったわ!」
「任せて!」
一部の緋雪と優輝の偽物が攻撃の合間を抜け、戦線に打撃を与えようとする。
そこで、椿と葵が前に出て対処をする。
「はぁっ!」
「シッ...!」
椿が優輝の、葵が緋雪の偽物を担当する。
受け身に回る事で、何とか椿は攻撃を受け流し、その間に葵が緋雪の偽物を倒す。
蝙蝠になる事で後ろに回り込み、レイピアで突き刺すと同時に作り出したレイピアでさらにめった刺しにする事で消滅させる。
間髪入れずに葵が椿の援護に回り、数の差で優輝の偽物も倒す。
「次...!神夜!」
「任せろ!」
他の偽物も攻撃の合間を抜けてくる。今度は神夜が前に出て切り刻む。
力が強いため、大抵の相手ならば防御の上からでも切り裂いた。
「あれは...。...っ、なのは!はやて!あの羽を持つ偽物を堕とせ!奏!今抜けてきた黒騎士を頼む!」
クロノがユーリとサーラの偽物が抜けてきたのを確認し、すぐさま指示を出す。
唯一脅威を覚えているからこその迅速な対応だった。
「っ...!“ディバインバスター”!」
「来よ、白銀の風、天より注ぐ矢羽となれ!“フレースヴェルク”!!」
「はぁっ!」
なのはとはやてが砲撃魔法を放ち、奏が泥の黒騎士と切り結ぶ。
「嘘っ!?」
「耐えられた...やと!?」
「くっ...!」
だが、砲撃魔法は羽...魄翼の防御で耐えられ、奏は剣戟で押し負ける。
「(さっきまでは一掃してたから気づかなかったけど...。)」
「(この偽物、めっちゃ堅い...!)」
「(...まずい、一体に手間取ったら....!)」
一体一体に時間は掛けられない。そう思って三人は再び攻撃を繰り出そうとする。
「....シュート!」
「っ....!クロノ...!」
だが、三人の攻撃でできた隙を突くように、魔力弾が二体の偽物の頭を貫く。
...クロノが倒しきれない事を想定して既に手を打っておいたのだ。
「リニス!」
「お任せください!」
しかし、それでも時間をかけてしまった。
それを補うようにリニスが前に出て、備えておいた術式を開放する。
「“三雷必殺”!!」
三筋の雷の砲撃が重ねるように連続で放たれる。
広域殲滅魔法程ではないが、確実に偽物の群れに穴を開けた。
「優香さん!光輝さん!椿!葵!」
「っ....!」
「任せて!」
その砲撃魔法で散らばった偽物を、四人が的確に倒していく。
...一見すると、一進一退の攻防だが、それでもジリ貧だった。
優輝の魔力結晶がいくらか残っているとはいえ、これでは魔力が持たない。
それを、クロノや椿など、場の状況を把握している者は気づいていた。
「(優輝のようにジュエルシードのバックアップもない...!何か、手を打たなければ、このまま押し負けてしまう...!)」
「(優輝...!まだなの...!?もう持たないわよ...!)」
未だに戦線は破られていないものの、長く持たないのは見て取れた。
徐々に司令塔にもなるクロノと椿に焦りが募っていく。
―――....その時、
―――最深部から一つの光が迸った。
「っ....!?」
「あれは....。」
その光が現れた瞬間、泥の偽物は踵を返すように最深部へと向かっていく。
「なっ!?いきなりなぜ...!?」
「優輝さん...!」
いきなりすぎるその行動に、クロノが戸惑い奏は優輝の身を心配する。
「....優輝、なぜ、貴方が....。」
「...かやちゃん?...もしかして...。」
全員が偽物の動向に戸惑う中、椿だけは別の事に戦慄していた。
「....神力...神降しは解けたはずなのに...。」
「......!」
そう、本来人の身に神力は扱えない。神降しなどの特殊な条件を除いて。
だから椿は驚いたのだ。
また、葵も迸った光が普通の光ではないと気づいていたため、同じように驚いた。
「....今は気にしたらダメね。....ふっ!」
「椿!?」
気持ちを切り替え、椿は最深部へ向かおうとする偽物に矢を放つ。
「少しでも優輝の負担を減らすのよ!幸い、こちらには見向きもしないわ!」
「そうか...!全員、攻撃だ!できる限り殲滅しろ!」
残った魔力や霊力を振り絞り、椿たちは泥の偽物を倒し続ける。
“優輝がやってくれる”。そう信じて....。
=優輝side=
「........。」
辺り一帯から偽物が押し寄せる。
先程までと違い、全ての偽物が僕へと襲い掛かってくる。
「っ....“光円斬”!」
目の前から来た攻撃をバック宙の要領で躱し、回転するように刀を振るう。
...それだけで、周囲の偽物は全て消え去る。
「ちっ....!」
攻撃力が上がっても、他はそのままだ。数で押し切られる可能性もある。
そのため、すぐにその場から動く必要があった。
「.....!」
目の前に次々と絶え間なく偽物が押し寄せるが、片っ端から斬り伏せる。
神力を用いて創り出したこの刀は、泥の偽物と一切拮抗せずに斬る事ができる。
「くっ....!」
ギィイイン!!
回避も攻撃も間に合わなくなった攻撃を、手元に引き寄せた器のみとなったシュラインの槍で受け止めて防ぐ。
「....これがジュエルシードだという事、忘れるなよ?」
―――“Twilight Spark”
受け止め、威力を完全に殺した瞬間に、槍を元のジュエルシードの形に戻す。
そして、ジュエルシードの魔力を開放して砲撃魔法で一掃する。
砲撃魔法によってできた群れの穴に一気に飛び込み、再び刀を振るう。
「(単純に斬り伏せてあいつを助けるのは物量差的に不可能!...なら、そうなるように定めればいい。)」
元より、この刀はそれに特化した刀...!
単純な火力なら、この刀は神力で創り出したにしては弱すぎる。
だけど、この刀の本領は別にある。
「...導け、皆が望む、未来へ!」
僕の言葉に呼応するように、僅かに刀が光る。
その瞬間、レールに沿って動くかのように体が軽くなり、動きに補正がかかる。
「....その身に刻め、“瞬閃”!!」
途轍もない速度で動き、一気に偽物を切り裂く。
これは、本来なら神力で身体強化をしなければ使えない技だ。
しかし、威力を捨てて速度に特化すれば、天巫女とかつての僕の力を宿し、霊魔相乗とジュエルシードの力を合わせれば再現できる。
「......!」
...これが、この刀の力の一端。
望むべき未来へ、“導く”力だ。
「...導王流奥義“刹那”....!」
しかし、いくら切り裂いてもすぐに湧いてくる偽物。
再び全方位から襲い来る偽物に、的確にカウンターを与え、倒す。
「っ.....!」
ジュエルシードの魔力も全力で使用し、偽物を消し去っていく。
だが、それでも視界全てに偽物がひしめいている状態だ。
...正直、気持ち悪い。
「(これほどまでの過剰な反応...この刀か...!)」
僕がこの刀を創り出した瞬間、偽物の動きが変わっていた。
...それほどまでに、この刀は“泥”にとって危険なものなのだろう。
「....はっ...!邪魔、するな...!」
だが、そんなのは知らない。知る必要もない。
僕はただ、あいつを助けるだけだ。...だから、邪魔をするな。
ギギギギギギギギギギギィイン!!
「はぁああっ!!」
ありったけの剣を創造して撃ち出し、同時に刀で一閃する。
偽物の波を押しのけるにはまだ足りないが、それでも相当な数を切り裂いた。
「(相手していたらどんどん離される!ここは....!)」
“一点突破に限る”。そう断じた僕はただ前に進んだ。
襲い来る偽物を次々と屠り、後ろからの攻撃はジュエルシードで相殺する。
「見せてやるよ。この刀の本当の“力”を....!」
“導く”力で動きに補正がかかる。
偽物を踏み台にしつつ、上へと跳び上がり、司の位置を確認する。
「“因果確定”...!拓け!僕らの望む、“未来”への道を!!」
周りの偽物を切り裂いてから、僕は刀を投げた。
...そう、この刀の本領は、“望む未来への標になる”事だ。
ただ切れ味がいい訳でもなく、絶大な力を持つ訳でもない。
道標となり、そこへ導く...それだけの刀だ。
...故にこそ、この状況で本領を発揮する。
この刀は、僕が創り出した唯一無二の武器だ。だから、銘はない。
だが、名付けるとしたら....。
―――導く標となる刀...“神刀・導標”だ。
『.......!』
司の驚いた声が頭に響く。
...そう、僕が投げた先は、司の足元。
そして、投げた事により、そこまでの射線上には穴ができている。
偽物も、司を覆う“闇”にすら穴を開けていた。
「は、ぁっ.....!」
そこへ向けて、僕は宙を蹴って一直線に進む。
ただ愚直に、妨害するもの全てを無視して。
「リヒト!カートリッジ、フルロード!!」
〈Jawohl!!〉
リヒトをグローブから剣へと形を変え、込められているカートリッジを全て使う。
さらに、魔力結晶を三つ使い、ジュエルシードの魔力も収束させる。
「ぁあああああああっ!!」
偽物が襲い掛かってくる。それをジュエルシードから放つ砲撃で薙ぎ払うが、当然それだけでは足りない。
「っ.....!」
いくつもの攻撃が僕の体を掠めていく。...いや、一部の攻撃は浅く当たっている。
それでも、僕は一直線に跳ぶ。...あいつを助けるために。
「邪魔、だっ!!」
ジュエルシードから一際大きな魔力を迸らせ、偽物を薙ぎ払う。
...だが、圧倒的に手数が足りない。
「ぐ、っ....!」
頭を狙った攻撃を辛うじて躱す。その際に頭を掠めるが、気にしない。
「っ.....!?」
だけど、これ以上は行かせないとばかりに、司の偽物が立ちはだかる。
また、司を覆う“闇”から“手”が伸び、僕へと迫る。
「(回避は...不可能!迎撃...ジュエルシードは全て全力稼働...!被弾...構うものか!既に“道”は拓いた!後は...そこを通る!)」
圧縮された魔力が、“闇”から迫る“手”が僕を襲う。
だが、それに見向きもせず、僕は突き進む事にした。
ダメージは避けられない。しかし、全速力なら致命傷は避けれる。
弾幕の合間を縫い、掠めるように潜り込めば....!
「ぁっ.....!?」
...その瞬間、僕の目と鼻の先に圧縮された魔力が現れる。
回避は元より不可能。せめて直撃は、と思うが、それも避けれそうになかった。
「っ.....!!」
いくら反則的な強化をしているとはいえ、無防備に攻撃を喰らえば死ぬ。
回避も防御も不可能。本来なら、諦めるだろう。
.......だが....。
―――“道”は拓け、“因果”は定めた。...“未来”は、既に確定した...!
ドンッ!!
「っ...!」
僕を狙う偽物が、消えるように抉り取られる。
また、僕を襲っていた攻撃も、全て打ち消された。
「(あれは....!)」
視界に映るのは、司の周りを淡い光を放ちながら漂うジュエルシード。
僕が今持っているものではなく、先程まで僕を襲っていたジュエルシードだ。
「(....は、はは....!)」
自然と、笑みが浮かび上がる。
...あのジュエルシードとやり合っていた時、僕はなんて思っていた?
“暴走している”?....とんでもない勘違いだ。
「(やっぱり、司を護るためだったんだな...!)」
先程まで僕を攻撃していたのは、壊れかけの彼女の心を守るため。
途中から攻撃してこなくなったのは、彼女の身の安全を最優先するため。
...そして、僕を助けたのは、僕が彼女を助けると確信したから。
...そう、全て...全て彼女のためにジュエルシードは動いていた。
暴走?ありえなかった。元よりジュエルシードは天巫女の所有物。
一度封印され、そして天巫女の力が猛威を振るった時、正常に戻ったのだろう。
「ナイスだ...ジュエルシードォ!!」
...これで、障害はなくなった。
僕は剣を振り上げ、魔力の収束を終わらせる。
「はぁああああ.....!」
―――それは、民の希望となる光。人を導く輝き。
―――“導王”として振るった剣の、もう一つの姿。
―――希望となり、民を導き、人を救う聖剣。
その名は....!
「“来たれ、導きの光よ―――!”!!」
リヒトを、司の目の前に突き立てるように地面に刺す。
その瞬間、光の紋様が広がり、辺りを極光が包み込む。
「.....ぁ.....。」
「.....!」
“闇”が祓われ、司の姿が露わになる。
「...っと...。」
「...優輝、君....。」
“闇”から解放された事で、倒れ込みそうになる司を抱き留める。
「....色々言いたい事はあるけど...。」
「.......。」
目を合わせ、今一番言いたい事を口にする。
「.....おかえり。」
「っ....!...うん...!ただいま...!」
涙を溢れさせ、司は感極まった様子で僕の言葉にそう返してくれた。
「...さぁ、帰るぞ。皆が待ってる。」
「...うん。」
司の顔は先ほどまでのように、虚ろな表情ではない。
心の憑き物が落ちたように、晴れやかになっていた。
「っ....!」
「え....。」
無事に終わらせた。そう思って帰ろうとした僕らの前に、“泥”が流れてくる。
先程の極光で、広範囲の“泥”を消し去ったはずなのに、また湧いて出てきたのだ。
「...あの“穴”。お前の絶望が開けた訳じゃなかったのか...。」
「...うん。あれは、知らないよ...。」
「まぁ、ジュエルシードの意思がわかってから、薄々そう思ってたけどな。」
あれほど主が大事なジュエルシードが、防衛を最優先にしていた。
司の絶望が開けたのなら、せめて害がないようにするはずなのだ。
それなのに守ったという事は、また“違う”代物なのだろう。
「さっきの魔法で“泥”はほとんど消し去った。...でも、連発はできないんだ。」
「後少しなのに...?」
先程の魔法によって、最深部となる“闇”はだいぶ薄れていた。
...まぁ、薄くなる代わりに広範囲に広がったから、最深部の“殻”は健在なんだが。
「ああ。....だから、手伝ってくれるか?」
「え....?」
彼女の手を握り、シュラインがその手に槍として展開される。
「僕は今、天巫女の力を宿している。...と言っても、所詮は偽物だ。本物には遠く及ばないし、それではジュエルシードの力も発揮しきれない。」
「...ジュエルシードなら、行けるの?」
「ああ。確実にな。」
何しろ、全力ならば神に匹敵する力を持つんだ。
弱まった“闇”程度、祓えるだろう。
「...わかった。私にできるなら...。」
「できるさ。僕にだってできたんだから、本物ができないはずがない。」
「........!」
僕がそういうと同時に、全てのジュエルシードが淡い輝きを放ち始める。
そして、僕らの周りを旋回しながら、徐々に輝きを増していく。
「...祈りを込めて、願うんだ。あの“穴”を閉じるようにな。」
「分かった....!」
彼女の体を抱き寄せ、意思を重ねるように目を閉じる。
泥の偽物の気配が辺りに湧いてきたが、それよりも早く決める。
「祈りを束ねし、願望石よ....。」
「今、天の杯となりて、願いを叶えよ...。」
頭に浮かんでくる詠唱文を紡ぐ。
...そう、これはジュエルシードの...天巫女の本当の力...。
祈りを束ね、その想いを増幅し、現実に反映させる...!
「「さぁ、“絶望”を祓え―――!」」
―――“我、聖杯に願う”
その瞬間、神話の“聖杯”を幻視した。
光が溢れ、“泥”が蒸発して消えていく。
“穴”も閉じられ、最深部を覆う“殻”も消え去った。
「凄い...!」
「はは...さすがだな...!」
僕だけでは、こんな事はできなかった。
本物であり、何よりも彼女の“優しさ”があるからこその光だった。
「皆...!」
「...帰ろう。」
「...うん!」
鞘を創造し、神刀・導標を仕舞って腰に下げて、司にそう言った。
“殻”が消え去り、世界を構成する“闇”も完全に崩壊していた。
視界の奥には、クロノや椿たちが僕らを待っていた。
「光の道...?」
「...綺麗...。」
そこへ導くように、ジュエルシードが光の道を作り出す。
...まったく、大盤振る舞いだな。
「歩けるか?」
「た、多分...っ!?」
歩き出そうとする僕らだが、司が足をもつれさせ、こけそうになる。
...まぁ、無理もない。半年程歩いていなかったのだから。
「ちょっと失礼するぞ、司。」
「え...きゃっ!?」
左手で首の辺りを支え、右手で膝の裏を支える。
...所謂“お姫様抱っこ”だ。
「ゆ、優輝君!?にゃにを...!?」
「いや、歩けないのなら運ぶしか...というか、噛み噛みだったな今の...。」
驚きのあまり噛む彼女に、僕は平然と答える。
...あぁ、恥ずかしいのか。まぁ、これはな...。
「負んぶだとそれでもお前に負担を掛けるからな。身を預けるこっちの方がいいんだ。」
「そ、そうかもしれないけど...!」
恥ずかしがる司だが、ある事に気づいて顔を強張らせる。
「優輝君...血が....。」
「ん?...あぁ、攻撃の中を突っ切ってきたからな。」
体中を攻撃が掠ったため、所々血が出ている。
「...ま、お前を助けれた事に比べれば安いもんだ。」
「.......。」
暗い顔をされたので、創造した魔力の手でデコピンをする。
「そんな思い詰めるな。お前がそう暗い顔をされたら、僕も困る。」
「ご、ごめん...。」
「ほら、申し訳なさそうにするのも禁止。親友なんだから、もっと頼れ。」
光の道を進みながら、僕は彼女にそういう。
...すると、突然僕の体から力が抜ける。
「っ...!?」
「優輝君!?」
「...悪い。体に掛けていた強化が全部解けたから力が抜けただけだ。」
「そ、そっか...。」
嘘はついていない。でも、体への負担は大きいため、今も体中が痛い。
...けど、これ以上は心配掛けたくないからな。
「優輝!司!」
「優ちゃん!司ちゃん!」
いつの間にか、光の道をだいぶ進んでいたのか、椿と葵が出迎えてくれた。
「よいしょっと。...皆、持ち堪えてくれてありがとう。」
司を降ろし、とりあえず皆にお礼を言う。
「そ、そんなの、今更じゃない。」
「そうだよ!皆、司ちゃんを助けようと思ってたんだから、持ち堪えるのは当然だよ!」
“ありがとう”という言葉に照れ臭そうにする椿に、“当然”と答える葵。
決して楽な戦いではなかったのに、二人は元気だった。
「...ほら。」
「....皆...。」
司の肩を叩き、一言だけでも喋らせる。
「....ただいま。」
「「「「「...おかえり。」」」」」
「皆....!」
一言。たった一言だったが、それでも充分だ。
...それだけでも、彼女は“救われた”と、実感できたのだから。
「.....。」
「.....ふっ。」
隣で感動のあまり泣く親友を後目に、父さんや母さん、クロノ達と目が合う。
そして、互いに薄く笑い、“成し遂げた”と共に思いあった。
『感動の再会の所悪いけど、皆をアースラに回収するよ!』
「アリシア。...そうだな。ここも崩壊しかけている。」
アリシアから通信が入り、僕らの足元に魔法陣が現れる。
「さぁ、帰ろうか。お前がいるべき場所に。」
「...うん...!」
そして、僕らはアースラへと転移した。
「司~!!」
「あ、アリシアちゃん...!?」
転移でアースラに戻るなり、アリシアが司に抱き着いてくる。
「ストップだ。アリシア。」
「え~?」
「今、司はジュエルシードで平常を保っているに過ぎないんだ。早く体の調子を戻さないといけないから、あまり無理を掛けるな。」
そう、彼女が半年もの間、飲まず食わずで生きられた理由はジュエルシードだ。
ジュエルシードが栄養関連の問題を補っていたという訳だ。
だから、今すぐにでも医務室に連れて行った方がいい。
「あー...なら、しょうがないかな...。」
「ごめんね?」
「ううん、私の方こそ。」
「まったく...。」
...呆れる反面、そんな気楽になれるようになったんだと、そう思えた。
―――....そうして、無事に事件が終わる。....そう思っていた。
「っ!?魔力反応増大...!これは...嘘!?こんな事って...!?」
崩れていく“闇”を監視していたエイミィさんが、驚愕の声を上げた。
「艦長!“闇”が―――」
―――....その瞬間、途轍もない衝撃がアースラを襲った。
後書き
光円斬…“神刀・導標”を使って繰り出す回転切り。シンプルな技だが、武器が武器なため、それだけでも相当な威力を誇る。
因果確定…“そうなる”ように因果を定める事。因果逆転と似ているが、飽くまで自分からそこへ向かう状態から放たなければ成立しない。
神刀・導標…優輝が創り出した唯一無二の刀。所謂神器なため、既に並外れた切れ味を持っているが、その本領は“望む未来への標になる”事。因果逆転にも等しい力は、導きの王たる優輝にふさわしいだろう。
来たれ、導きの光よ―――!…優輝が振るう切り札魔法のもう一つの姿。人を導き、人を救い、希望を与える。そんな光を放ち、邪悪を全て祓う。優輝が“導王”たらしてめた魔法の一つである。
我、聖杯に願う…ジュエルシード&天巫女の本領。願いを叶える聖杯を顕現させ、その力を以って“絶望”を祓う。
ヘブンズフィールはそのまんまFateが元ネタです。なんか、ジュエルシードと聖杯って似ているので...つい...。
そして、まだ終わらない戦い。
まぁ、あれだけ“別の存在”を仄めかしてたのでね...。
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