魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第3章:再会、繋がる絆
第89話「本当の気持ち」
前書き
どんどん優輝がボロボロになってますが、諦めない系主人公の宿命ですので♪(ゲス顔)
その代わり、一時的な強さもどんどん高まっていきます。
―――....本当は、わかってた...。
―――私は、本当は生きていたいって...死にたくないってわかってた。
―――でも、それはダメなものだと思っていた。
―――両親に大きな迷惑をかけて、恨まれて。
―――そんな私なんて、死んでしまえばって思った。
―――...でも、それでも、救われたかった。
―――私だって、誰かに助けてもらいたかった。頼りにしたかった。
―――親に殺された時、私は理不尽だと思った。
―――...理不尽に殺されたのだから、生きたいと思うのは当然だった。
―――それを、私はただ抑え込んでいただけ。
―――......死にたくない.....。
―――....ねぇ、緋雪ちゃん...私、間違ってるかな...?
―――...皆を拒絶して、死にたがっていたのに...。
―――“救われたい”って思うの、間違ってるかな....?
―――...ねぇ、優輝君...。
―――...こんな事、仕出かした私を、まだ友達と思ってくれる...?
―――...“親友”だって、暖かく迎えて、くれる、かな....?
―――....嫌だよ...。
―――....もう、嫌だよ...。
―――....もう、暗い所にはいたくないよ....!
―――....助けて....。
―――助けて....優輝君.....!!
=out side=
「何、あれ...!?」
触手による攻撃が治まり、訝しんでいた椿が気づく。
最深部の“殻”から、泥のようなものが溢れ出てきた事に。
「偽物...!?しかも、この数は...!?」
その泥が広がると、そこから大量の偽物が湧いてくる。
その量の多さに、その場にいる全員が戦慄した。
「っ....!今すぐアースラに救援を要請しなさい!!」
「分かりました!」
咄嗟に椿が矢の雨を降らせ、リニスにそう指示を出す。
慌ててリニスはアースラへと追加戦力を要請しに行った。
「葵...!」
「時間を稼ぐ....事すら難しいよ!」
「そう...!」
集団戦や、圧倒的戦力差との戦いの経験がある椿と葵が前に出る。
しかし、無限に湧いてくる偽物からすれば、そんな事をしても無意味だった。
「ぐ...ぁあっ!?」
「くっ...!多すぎるわ...!それに、強い...!」
一体一体が、雑魚とは間違っても言えない程の強さ。
その事実にさらに椿たちは戦慄する。
「なんだよこれ...。こんなの、ありえる事なのかよ!?」
「...現に今起こっている。だが、これは...!」
「...優輝さん....。」
ヴィータも、シグナムも、奏も。目の前の出来事に動揺していた。
ピシャアアアアン!!
「っ...相殺された...!...そう、私の偽物もいるから当然の事よね...。」
プレシアも強力な雷魔法で攻撃するが、複数の自身の偽物に相殺されてしまう。
「全員、後退しつつ牽制を!接近は絶対にダメよ!」
「皆、偽物はともかく、泥そのものには触れないで!...あれ、全部“呪い”の類に匹敵するよ!対策がないと、触れただけで心が蝕まれる!」
椿と葵が即座に判断を下し、全員が後ろに下がりながら遠距離攻撃で牽制する。
二人は“闇”の性質に近い存在である“幽世”に関わった経験から、泥の性質を見ただけで見抜き、触れないように警告する。
「優輝...!」
「優ちゃんはどうなっているの...!?」
「分かれば苦労しないわ...!」
今優輝がどうなっているのか、式姫のパスを確かめても、二人にはわからなかった。
ただ、明らかに中もこのようになっていると、半ば確信していた。
「(まずい...!まずいまずいまずいまずいまずいまずい...!!)」
「(優ちゃんの魔力結晶を使って呪黒剣を連発しても、全然効果がない...!)」
後退しながら...というよりも、半ば逃げている状態に、さしもの椿と葵も慌てる。
他の者に至っては、完全に恐れをなしていた。
「プレシア!相殺されてもいいわ!全力のをお願い!」
「っ...わかったわ!!」
椿がプレシアに指示を出し、巨大な雷が偽物達に迫る。
だが、椿の言った通りそれは相殺されてしまう。
「...穿て、“弓技・螺旋-真髄-”!!」
最大限の霊力で矢を作り、射る。
真髄に至る螺旋状に霊力が渦巻く矢が、偽物の群れを穿った。
「爆ぜなさい!」
そして、椿はその霊力を爆発させ、時間を稼ぐ。
「これで....っ!?」
爆発させた際の煙幕の中から、神夜の偽物が現れる。
すかさずそれを葵が防ごうとして...上空からの雷の砲撃魔法が偽物を吹き飛ばす。
「間に合いました...!」
「闇に沈め...“デアボリック・エミッション”!!」
上空を見上げれば、そこにはリニスとアースラに待機していた者達がいた。
そして、はやてがリインフォースとユニゾンし、広域攻撃魔法を放った。
「アースラからの支援砲撃も頼んでおいた!っ、安心はできないが、持ち堪えるぞ!」
「っ...“ハイペリオンスマッシャー”!!」
また、気絶した者を連れて行ったクロノ達も戻ってきており、その気絶していた皆も既に目を覚まし、同じように駆け付けていた。
アースラから放たれた支援砲撃に続くように、なのはも砲撃魔法を放つ。
「(ここで駆け付けてくれたのは助かるわ。....でも。)」
「(それでも、足りない...!)」
確かに強力な援護にはなるだろう。...だが、無意味だった。
相手は偽物と言えど、その量は椿たちの人数を比べ物にならない程上回る。
一体一体が弱体化していようと、束になれば...。
「効いてない...!」
「くそっ、もう一度だ!」
数が多いためか、あの帝さえも勝手に突っ込まずにずっと射出攻撃を続けている。
それでもなお、数に負ける程、多勢に無勢だった。
ドォオオオオオオン!!
「っ...!今度は何...!?」
そこへ、大きな爆発音が轟く。
椿が何の音か確認すると、最深部の一部分が爆発の煙に包まれていた。
「....優輝....!?」
そして、そこには吹き飛ばされ、体勢を立て直す優輝の姿があった。
=優輝side=
―――.....声が....助けを求める、声が聞こえた....。
「っ......!」
それは、聞き間違いない...聞き間違えたくない、司さんの声だった。
「そう、だ.....!」
目の前に広がる無残な光景に、罅が入る。
「僕は....!」
どこからともなく、11個のジュエルシードが僕の周りに集まる。
そして、手元にはシュラインが握られていた。
「僕は...絶望に呑まれてなんか、いられないんだっ!!」
瞬間、ジュエルシードから魔力が迸り、見ていた光景が崩壊していく。
しかし、その罅で開いた穴から、闇色の手が伸びてくる。
おそらく、あれが絶望に引き込んでいたのだろう。
....だけど、今更そんなの関係ない。
「其れは全ての害意、全ての禍を防ぐ我らが魂の城....我らの意志は、何人たりとも侵させぬ!....顕現せよ!!」
―――“魂守護せし白亜の城”!
闇色の手を、絶望に引き込む世界を、僕を呑み込もうとする泥を、吹き飛ばす。
「我が魂を守りし白亜の城...この程度では破れん!!」
僕を守る光は、さらに輝きを増し、近くにいた泥の偽物を吹き飛ばした。
〈マスター!〉
「っ!」
ギィイイン!!
織崎の偽物が斬りかかってきたのを、リヒトの警告と共にシュラインで防ぐ。
その反動で、先程の光で穴が開いた場所から、僕は外へと吹き飛ばされる。
「嘗め、るな...!」
すぐさま体勢を立て直し、偽物の追撃を受け流す。
その際にだいぶ後退したが、それはまた突っ込めばいい。
「“セイント・エクスプロージョン”!!」
ジュエルシードの魔力を使い、周囲の偽物を薙ぎ払う。
これで一瞬の隙ができた。だが、突破する力がない。
「(でも、そんなのは関係ない!)」
―――力が足りない?
そんなもの、絞り出せ。
―――それができなければ?
外から持ってくればいい。
―――どこにもそんな力がなければ?
...全て、“創造”すれば事足りる....!
―――それができる可能性なんて絶無なのに?
...でも、“0”じゃない...!
「行くぞ....止めてくれるなよ、リヒト!!」
―――“霊魔相乗”
体内の霊力と魔力が螺旋状に混ざり合い、互いに高め合う。
...緋雪との決戦でも使った、反則技だ。
「優輝!?」
「優ちゃん!?」
遠くから椿と葵の驚く声が聞こえた。
目がいいから、僕が何をしたのかが見えたのだろう。
「...まだだ。まだ、足りない!」
あの緋雪の攻撃を受け止める程までに強化ができる、霊魔相乗。
それを使っても、まだ足りないと僕は確信していた。
「力を...かつて得た、導王の力を今ここに!」
―――“Anhalt auf⁻Überlappung⁻”
変身魔法と併用し、かつての僕の力を自身に上乗せする。
他の者を再現するのと違い、これは元々僕自身の力だ。
おまけに、司さんの力の上にさらに上乗せしている。...その力は、絶大だ。
「が...!?ぐぅ....!?」
だが、その分の負担も大きい。
ジュエルシードの魔力で負担を軽減しているとはいえ、霊魔相乗の上にこれだ。
力を宿しただけで既に相当な負担がかかった。
「(まだ...だ。馴染んでない...!)」
...負担がかかる理由は、僕の体に力が馴染んでいないからだ。
だからこそ、馴染ませようとする。
「っ......!」
....その時...。
「ぁ.....!?」
“何か”の背中を、幻視する。
「っ....く、ぁ.....!」
視界が切り替わり、世界が止まったかのような感覚に見舞われる。
...いや、事実止まっているのかもしれない。
辺りは全て真っ白。何もない景色へと変化している。
「っ......!」
体中に突きつける風のようなもの。
暴風の如きソレに、僕は前に顔を向ける事すらままならなかった。
...否、これは暴風ですら生温い。一種の“暴力”だ。
「.........!」
...その中で、“彼”は平然とそこに立っていた。
記憶にはない人物。だけど、“誰よりも知っている”ような、そんな感覚を覚える。
白いマントに、装飾品がついた黒を基調とした服。
僕より少し長い黒髪を持ち、導王の僕と同じくらいの体格だった。
どこか、僕に似た雰囲気を持つ“彼”は、僕の方へ少し振り向く。
―――....ついてこれるか?
「っ....!」
顔はなぜか見えない。声も聞こえない。
だけど、僕に向けてそう言った事だけはなぜかわかった。
「.....はっ....!」
口から薄い笑いが漏れる。
...“ついてこれるか?”だって....?
「...これでも元導王だ...!導きの王であるならば、人の前に立つのは当然...!」
体中に突きつける“暴力”を退けるように、しっかり前を向く。
「....お前の方こそ、ついてこい...!!」
―――......そうか.....。
僕の言葉に、“彼”は満足そうに微笑んだ。
―――....ならば、“可能性”を示せ。
そして、そんな言葉を残して僕の前から消える。
刹那、“暴力”が消える。それどころか、景色も全て元に戻った。
真っ白な景色はなくなり、泥の偽物達が僕へと襲い掛かる所だった。
「っ....!」
霊魔相乗、アンハルト・アウフの二重掛け、ジュエルシードの使用による体の負担はいつの間にか完全に消えていた。
...馴染んでいる。そう確信した僕は、即座に行動を起こす。
「っ...“偽・瞬閃”...!!」
ギギギギギギギギギギィイン!!
迫りくる僕や葵、奏、織崎、シグナムさんの偽物による攻撃を全て受けなし、弾く。
それだけではなく、弾き返した瞬間に斬り、偽物を一気に倒す。
「“創造開始”....薙ぎ払え!!」
巨大な剣を上空に大量に創り出し、それを偽物達へと射出する。
牽制となったそれは、偽物達を少しの間だけ足止めする。
「来たれ!新星よ!!」
〈“Komm,Nova〉
5個の魔力結晶とジュエルシードの魔力を利用し、周囲を極光で埋め尽くす。
「『....足止め、頼んだよ。』」
『優ちゃん!?っ....絶対、連れ戻してよ!』
「『当然...!』」
後方にいる皆に念話を飛ばし、返ってきた葵の念話にそう返す。
そして、極光が治まると同時に、僕は一つの弾丸になった。
「っ、ぁぁっ....!!」
今までの敵の攻撃を躱す際のスピードとは比べ物にならない。
神降しの時とまでは行かないが、それに迫るスピードで突き進む。
「邪魔だ!!」
目の前を遮るように偽物が現れる。
だが、そんなのお構いなしに僕は突き進む。
武器が振るわれれば、シュラインで後ろへ受け流し、柄で叩いて加速。
魔力弾が来れば、躱して踏むことで、さらに加速。
砲撃魔法ならば、逸らして受け流し、追いかけてくる偽物を撃墜する。
「突き貫け、“貫く必勝の魔槍”!!」
そして辿り着く最深部の“殻”。
ジュエルシード三つの魔力を束ね、プリエールでも放った魔法を繰り出す。
「置き土産だ...!遠慮なく受け取れ!」
―――“Evaporation Sanctuary”
最深部の“殻”に開けた穴に入る前に、振り向きざまに広域殲滅魔法を放つ。
本来は自身を中心にして放つ魔法だけど、ジュエルシードで無理矢理扇状にする。
「っ、見かけないと思ったら、ここに集中してたのか...!」
最深部に再び戻ると、多くの司さんの泥の偽物が見えた。
その瞬間、偽物が一気に襲い掛かってくる。
「は、ぁっ!!」
織崎の偽物の攻撃を逸らし、カウンターの掌底で吹き飛ばす。
吹き飛ばした事で後続の偽物の足止めをし、後ろから迫る椿の偽物の矢をキャッチする。
間髪入れずに回し蹴りを放ち葵の偽物を蹴り、飛び退きつつ奏の偽物を魔力弾で倒す。
「っ....!」
ドンッ!!
そのままさらに飛び退くと、寸前までいた場所を圧縮された魔力が通り過ぎる。
司さんの偽物の仕業だ。どうやら、他の偽物はお構いなしらしい。
「ふっ...!」
ギィイイン!!
両サイドから僕の偽物と、記憶にない黒騎士の剣を受け止め、そのままいなす。
すぐさま短距離転移でその場から離れ、霊力で牽制代わりに衝撃波を放つ。
近くにいた偽物は退けたが、そこへ圧縮された魔力が迫る。
...だけど。
「もう、見飽きたんだよ、それは!」
パギィイイン!!
霊力を込めた拳により、圧縮された魔力は砕け散る。
司さんを再現した暴走体で散々苦戦した圧縮魔力が、今ではこの通りだ。
「は、ぁっ!!」
ギギギギギギギィイン!!
シュラインを待機形態にし、霊力を纏った拳で次々と放たれる圧縮魔力を破壊する。
もちろん、それだけでは他の偽物を無視する事になるので...。
「っ、らっ!」
飛び退き、飛んでくる砲撃を逸らし、剣を受け止める。
ついさっきまで凌ぐのに精一杯だったが、今ではただただ煩わしい。
「邪魔、するな!!」
―――“Komm,Nova”
極光を放ち、一気に偽物を消滅させる。
...さぁ、隙はできた。後は...!
「司さん!!」
『.....!』
目の前に佇む、中に司さんがいる黒い塊に、再び呼びかける。
僅かな反応が返ってくるが、それは魔力の衝撃波となるだけで、それ以上はない。
....だから。
「....っ、いい加減にしろよ、聖司ぃ!!」
『っ....!?』
前世の名前で、僕は彼女を呼ぶ。
すると、今までとは違う反応が返り、虚ろだった司さんの意識が覚醒したのがわかった。
『なん、で....。』
「...いつまでも、一人で背負ってるんじゃねぇよ!」
どうして、と彼女は思っているだろう。
今まで、似ているだけの別人だと思っていた相手が、本人だったのだから。
「っ....!」
だが、いつまでも呼びかける暇はない。
すぐさま偽物が復活し、僕に襲い掛かってくる。
「ジュエルシード、薙ぎ払え!!」
攻撃を躱し、受け流した後に、ジュエルシードの魔力で薙ぎ払う。
そのままシュラインを地面に突き立て、護るようにジュエルシードで薙ぎ払い続ける。
『どうして、なんで、“ボク”の名前を....。』
「...僕が、お前の知っている“志導優輝”だからに、決まっているだろう...!」
偽物達の攻撃は止まない。ジュエルシードが薙ぎ払う事で応戦しているが、それでも抑えきれずに、流れ弾や何体かの偽物が何度も飛んでくる。
だが、全て受け流し、カウンターを放つことで吹き飛ばす。
僕の偽物辺りは受け流すだろうが、その反応速度を上回って掌底を放っている。
『なんで...なんで、この世界に....。』
「...なんでだろうな。...だけど、きっとお前を助けるためだと、僕は思うぞ。」
なんとなく。ほんのなんとなくだが、僕は助けを呼ぶ声に“導かれた”気がする。
緋雪の時も、彼女の時も。だから、こうして無茶までしてここに立っている。
『っ...また、私が....!』
「...お前のせいじゃない。」
...そう。いつもいつも、こいつは一人で背負いすぎている。
まるで、僕が無茶をする時のように。...だからこそ、親友になったんだろうな。
「...何もかも、自分のせいにするな。いなくなればいいなんて思うな。」
『でも!私のせいで迷惑を...!』
「人は...誰しも、迷惑をかけるものだ。」
一人で生きていくなんて、そんな事できる訳がない。
前世の僕や、今世での僕と緋雪だって、周りの助けがなければ生きられなかった。
緋雪と支え合って生きなければ、生活なんてできなかった。
「誰かに迷惑をかけて、その分だけ誰かを助けて...。そうやって支え合って生きていく。それが人間だ。...だから、迷惑だなんて気にするな。」
『っ.....。』
...届いている。僕の声は、確かに彼女に届いている。
自意識過剰かもしれないが、やはり前世からの知り合いという事が大きいのだろう。
『でも...でも、そのせいで、お母さんとお父さんは....!』
「......。」
聖司の両親。聖司を殺した直接的な要因の二人。
...優しい聖司なら、そう思うのも無理はないだろう。だが...。
「...お前が死んで、しばらく経った時、逮捕されたお前の両親と会話したんだ。」
『....!』
「...そしたら、お前の両親、懺悔してたよ。“どうしてあんな事してしまったのか”ってな...。」
ストレスにより気を病み、その結果が聖司殺害だったのだろう。
だから、一度逮捕されて落ち着き、そして後悔したのだろう。
「親が子を大事にするのに、理由はいらない。...結果はともかく、お前は両親に相当大事にされていたんだよ。...それこそ、精神をすり減らしてでもな。」
『ぁ.....。』
結果こそが悲惨なものだが、それでもあの両親は彼らなりに大事にしていたのだろう。
『...ホントに、私がいてもいいの....?』
「ああ。皆、お前の帰りを待っている。」
『こんな事しでかして、散々迷惑を掛けたのに...?』
「それを補う程の“優しさ”が、お前にはある。お前に救われた奴は、山ほどいるんだよ。....もちろん、僕もその一人だ。」
前世で、一人で暮らしていく事になった時、度々聖司に助けてもらっていた。
今世だって、小さな事だがよく手助けをしてもらっていたしな。
「だから、いつまでも引き籠ってるな。お前がいるべき場所は、ちゃんとある。」
『っ....。』
彼女を覆う“闇”が薄まる。
だが、それを阻止しようと、偽物の勢いが強まる。
「シュライン!!」
〈はいっ!!〉
そこで、僕は切り札を切る。
ジュエルシードからシュラインの人格が消え、槍は形だけのものとなる。
そして、当のシュラインは、彼女の手元へと戻る。
『シュライン...!?』
キィイイイイン...!
“闇”の中から微かに光が溢れ、偽物の動きが弱まる。
その間に僕は周囲の偽物を薙ぎ払い、再び呼びかけを再開する。
「シュラインも、ジュエルシードもお前を助けようとしている。リニスさんだって、お前を助けようと今も戦っている。」
『.......!』
「お前が誰かを不幸にしたくないと思うなら、それこそ戻ってこい。お前がいない方が、僕らは不幸だと、そう言ってやるぞ。」
『ぁ....ぅ.....。』
聞こえる声に、涙ぐむ音が混ざる。...泣いているんだな。
「....帰ってこい、“親友”。」
『っ...優輝、君.....!』
その瞬間、辺りの“闇”が嫌がるようにのたうつ。
魔力の衝撃波がいくつも発生し、僕はそれを片っ端から相殺する。
『優輝君!?』
「っ....願え!お前の願いを!お前の、“本当の気持ち”を打ち明けろ!!」
『ッ――――!』
襲い掛かる偽物を受け流し、吹き飛ばすが、ついにその場に留まれなくなる。
シュラインが彼女の手元に戻った事で、こちらの力が弱まったからだ。
だけど、僕は大声で彼女にそう呼びかけ....。
『....助けて。....助けて、優輝君!!』
彼女の本当の気持ちを、聞き入れた。
「はぁっ!!」
―――“セイント・エクスプロージョン”
ジュエルシードを用いて大爆発を起こし、少しの隙を作る。
その間に、僕は“力”を手繰る。
「“創造、開始”....!!」
掌にその“力”を集め、一つの武器を創造する。
「...基本骨子、創造。構成材質、選定...!」
その“力”は、霊力でも、魔力でもない。
僕の中に僅かに残った残滓にして、“可能性”。
神降しが解除された時に残った、“残りカス”...!
「“創造展開”!!」
そう、僕は“神力”を以ってして、ここに勝利を導く武器を創造する!
「....任せろ、司。」
....そう言って構える僕の手には、一振りの“刀”が握られていた。
後書き
Überlappung…“重複”。アンハルト・アウフをした上で、さらに重ね掛けをする際のワード。
偽・瞬閃…間違っても瞬閃と同じとは言えない程劣化しているため、偽りの瞬閃として放った優輝の技。反則級の強化の重ね掛けにより、瞬閃には及ばないものの相当な速さで切り刻む。
創造展開…開始が展開になっただけ(アインザッツは展開のドイツ語)。いつもは省く手順を、最後まで通した場合この呪文が最後に来る。
当然最後の呪文はFateの士郎を参考にしています。(他にも参考にした描写が)
さぁ、ようやく長い戦いにも決着が着きます。
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