魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第3章:再会、繋がる絆
第88話「溢れ出る“負”」
前書き
優輝が二次関数のようにどんどん強くなる...!
代償?...知りませんね(目逸らし)
=out side=
「接近は避けなさい!遠距離が得意な者はとにかく攻撃を封じるのよ!それができない者は無理しない程度に攻撃を引き付けなさい!私と葵が援護するわ!」
優輝が突入した後、椿たちに休まる暇はなかった。
まるでのたうち回るように、触手が振るわれ始めたのだ。
「優香!光輝!二人は引き続き気絶してる者を頼むわ。ただし、できればアースラにまで後退しなさい。そこまでの護衛は...クロノ!」
「分かった!」
既に司を中心として展開されている瘴気の塊の外部はボロボロになっている。
そのため、外に行けば行くほど攻撃の頻度も減るため、クロノ一人でも十分だった。
「っ!葵!」
「了、解!!」
ギィイイン!
振るわれた触手が攻撃を引き付けていたヴィータに当たる瞬間、葵が割り込んでレイピアで庇うように攻撃を防ぐ。
弾かれるように葵は吹き飛ばされるが、その反動でヴィータを抱えて跳んだ。
「なっ!?攻撃を利用して加速するとか器用だなおい!?」
「無駄口叩かない!次、来るよ!」
再び迫ってきた触手を、二人は躱す。
ちなみに、先程葵は自ら後ろに跳んでいたため、ダメージは少ない。
「拒絶や追い払うというより...苦しんでいる?」
「少なくとも、さっきまでとは違うね...!」
矢を放ち続けながら、椿は触手の動きを見てそう呟く。
攻撃を飛び退いて躱した葵が隣に立ち、その呟きに同意するように返事をした。
「それにしてもかやちゃん。後衛なのに前に出ていいの?」
「一人でも多く攻撃を引き付ける必要があるわ。...それに、優輝が無茶してでも助けようとしているのよ。私だって相応の働きを見せるわ。」
「それもそう...だね!」
ギィイイン!!
椿は躱し、葵は強力な一閃で触手を逸らす。
その間に、いくつもの砲撃魔法が触手に向けて放たれ、動きを何とか抑えていく。
「...だけど、それでもジリ貧だよ。」
「...わかってるわ。」
攻撃を引きつけつつ、椿は他を見渡す。
今の所誰一人と撃墜されていないが、明らかに押されているのが目に見えた。
「はぁっ!」
「でりゃああっ!!」
シグナムがシュランゲフォルムとなったレヴァンテインで触手を絡め、そこへヴィータの一撃を与えて攻撃を弾く。
二人で一撃。椿と葵でなければそれぐらいしなければ余裕を保てなかった。
しかも、それでさえジリ貧だ。
「....っ!!」
ギィイイン!
「“サンダーレイジ”!」
奏とリニスも連携を取り、互いにフォローし合いながらでないと攻撃を凌げなかった。
奏が受けた触手をリニスが二重に用意した魔法の片方で弾き飛ばし、もう片方で牽制している所を見れば、一人でも耐え凌ぐ程度はできそうだったが。
「っ、退いて!!強烈なのが来るわ!」
その時、椿と葵は、触手が一際大きな動きを見せるのを察知する。
すぐさま全員に指示を出すが、他の触手に邪魔され、一部は下がれなかった。
「葵!」
「防ぎきれないよ!」
「それでもよ!」
咄嗟に葵が庇うように立ち、椿が障壁を張る。
自分たちへの大ダメージを覚悟し、せめて逸らそうとして...。
ピシャァアアアアン!!
「っ、この雷は...!」
「プレシア...!」
巨大な雷が触手を直撃し、触手はボロボロになる。
すぐさま椿と葵は他の触手を弾き、雷を放った人物であるプレシアを見つける。
「援護に来たわ!...全員、怪我はないかしら?」
「何人か気絶しているものの、全員無事ですよ。プレシア。」
プレシアの現状確認に、リニスが返事する。
「そう...。...あの坊やは?」
「...あの中です。私たちはここで動きをできるだけ抑えています。」
「分かったわ。」
プレシアはそう呟くと、次の瞬間魔法を放つ。
即座に放ったとは思えない程の威力が触手を襲い、撃ち落とす。
「あの坊やが頑張っているのなら、こちらも頑張らないといけないわね。」
「....はい。」
再び触手は動き出し、椿たちは攻防を続ける事になる。
「(...優輝、こっちは何とか抑えて見せるわ。だから、早く助けなさい...!)」
椿はそう祈り、いつ終わるかわからない戦いへと身を投じて行った。
「っ、はっ...!」
ドォオオオン!!
ジュエルシードの魔力がぶつかりあい、相殺される。
しかし、暴走している方が数と展開速度が早いため、優輝は回避も強いられる。
「っ....!」
ギィイイン!!
そして、攻撃はジュエルシードによるものだけではなかった。
「...そりゃあ、そうだよな...!地球に来たジュエルシードは、全て誰かの姿を模していた...ここにあるジュエルシードができない訳はないよな...!」
優輝に斬りかかったのは、奏の姿を模した偽物。
それにつられるように、葵の偽物やプレシアの偽物も現れる。
「くっ...!」
ギィイン!ギギィイン!
シュラインを巧みに操り、奏の偽物の攻撃を弾く。
さらに、横から斬りかかってきた葵の偽物を短距離転移で躱し、即座に切り裂く。
「っと...!」
そこへ雷が落ちてくるので、飛び退いてそれを躱す。
「...っ、なっ...!?」
ギィイイイイン!!
しかし、そこで優輝は吹き飛ばされるように攻撃に弾き飛ばされる。
咄嗟に防御をした優輝を、防御の上から力任せではなく技術で吹き飛ばしたのは...。
「...誰、だ。お前は...。」
優輝にとって、記憶にない人物であった。
ウェーブの掛かった紺色の長髪を後ろで束ね、まさに騎士のような姿をしていた。
「っ....!」
明らかに修練を積み重ねたような、巧みな動きで優輝に接近する。
優輝は咄嗟にシュラインで攻撃を受け流そうとするが、受け流しきれなかった。
「それは...織崎のアロンダイト...!?」
形だけとはいえ、その偽物の扱う武器が神夜のものだと気づく。
...そう。その偽物は、記憶の封印により優輝が覚えていないだけで、以前優輝も会った事のある相手だった。
「ちっ....!」
サーラ・ラクレス...その偽物だけにかまけてはいられない。
他の偽物が攻撃を仕掛けてくるだろうと思った優輝は、創造した武器を周囲にばら撒く。
「(やっぱりジリ貧か...!)」
まともに相手をすれば、いくら天巫女の力を使っているとはいえ、勝てるはずがない。
改めてそれを認識した優輝は、一気に仕掛ける事に決める。
「っ、ぁっ....!」
〈“Boost”〉
動きを加速させ、サーラの偽物に斬りかかる。
「(っ...戦闘技術は僕と同等...いや、それ以上かもしれない。)」
しかし、サーラの偽物はあっさりと優輝が振るったシュラインを受け流す。
斬り返しで反撃されるが、優輝はシュラインの柄で受け止め、そのまま受け流す。
「(だけど...。)」
他の偽物の攻撃を凌ぐためにヒット&アウェイを繰り返す優輝。
そこで、優輝はサーラの偽物に対して気づいた事があった。
「(戦闘技術も高い。単純な斬り合いなら負ける。...だけど、それだけだ。)」
確かにその強さは目を見張るものがあった。
しかし、“それ以外”がまるで再現されていなかったのだ。
「...大方、知っている情報が少なすぎて再現できなかったって所だな!!」
〈“セイント・エクスプロージョン”〉
攻撃を受け流すと同時に、シュラインを地面に突き立てる。
その瞬間、魔法陣が展開されて大爆発を起こす。
ギィイイン!!
「っ....!」
だが、それを切り抜けてサーラの偽物は攻撃を仕掛ける。
咄嗟にシュラインで防いだ優輝だったが、シュラインは真上に弾き飛ばされてしまう。
「シャル!!」
〈“Aufblitzen”〉
しかし、即座に優輝はシャルを展開し、炎剣を用いて袈裟切りを繰り出す。
サーラの偽物はそれを防げずにそのまま切り裂かれた。
「っ...!」
ギギギギギィイン!!
そこへ、葵と奏の偽物が一気に斬りかかってくる。
連撃を主体とした二体の攻撃を、優輝は凌ぎきれずにシャルも弾き飛ばされる。
「甘い!!」
だが、優輝は即座に創造魔法で剣を二振り創造する。
手数を重視した優輝は、二体の攻撃をあっさり受け流し、一撃ずつ反撃する。
「吹き飛べ!」
―――“ショック・エモーション”
さらに、ジュエルシードから衝撃波が放たれ、二体を吹き飛ばす。
間髪入れずに優輝は二体を追いかけるように跳び、ちょうど落ちてきていたシュラインを掴み、地面へと突き立てる。
「爆ぜろ!」
〈“セイント・エクスプロージョン”〉
魔法陣が展開され、爆発を起こす。
偽物二体は防御魔法を使ったが、その上から吹き飛ばした。
「切り裂け、焔閃!!」
〈“Lævateinn”〉
さらに一歩踏み込み、シャルをキャッチして葵の偽物との間合いを詰める。
そのまま炎の一閃を放ち、葵の偽物を切り裂いた。
「終わりだ。」
最後に、斬りかかってきた奏の偽物の攻撃を受け止め、創造した剣を操って背後から突き刺して倒した。
「戦闘力は再現できても、戦い方が再現できてないな。」
優輝はそう吐き捨て、すぐさまその場を飛び退く。
「そっくりそのまま...お返しするぞ!」
―――“Reflexion”
目の前に雷が落ちてきた所を、優輝は術式を組んだ魔法陣で受け止める。
すると、その雷がそのまま跳ね返り、放った張本人であるプレシアの偽物に直撃する。
「おまけだ!」
それだけでは倒れないと思った優輝は、短距離転移で偽物の背後に回り、トドメを刺す。
「ふ、ぅ...っ...!」
一息吐いて、優輝はすぐさまその場から飛び退く。
すると、そこへ圧殺するように魔力が圧縮されて撃ち出されていた。
「っ....!」
優輝がふと司へと視線を向けると、“ソレ”が目に入り、さらに飛び退いた。
ドンッ!!
「く...っ....!」
寸前までいた場所に魔力が叩きつけられる。
その威力は、ユーノやザフィーラでも防げないとすぐに理解できるほどだった。
「.......!」
優輝は目まぐるしく視線を動かす。
その視線の先にあるのは、暴走したジュエルシードだ。
ジュエルシードが凄まじいスピードで動き、魔力弾や砲撃を放ってくる。
「っ、そこだ!」
13個のジュエルシードの内、一つの魔力を感じ取る。
それに向けて優輝もジュエルシードを翳し、魔力を相殺する。
「くっ....!」
縦横無尽に駆けまわりながら、回避しきれない攻撃を適格に相殺する。
...優輝にとって、まともに相手をして勝てる存在ではないのだ。
ただでさえ、神降しをしていても倒しきれなかった相手を、その時の力に劣る今では余程の無理をしなければ倒す事さえ不可能だろう。
...しかも、今回の戦いも“倒す”だけでは解決しない。
「は、ぁっ!!」
繰り出されるいくつもの自力では防御不可能な衝撃波。
それを掻い潜りながら、優輝は司へと再び呼びかける。
「司さん!」
『っ....!』
その瞬間、空間全体が揺らめき、優輝は跳んで空中にいながら地震に遭った感覚に見舞われる。
「っ、ぁ...!ジュエルシード!!」
キィイイイイン....!!
体勢が崩され、そこへ暴走したジュエルシードの圧縮された魔力が襲う。
それがわかっていた優輝は、シュラインを除いた11個のジュエルシードを用いてなんとか防御に成功する。
「(声には反応する...だけど、それ以上の反応がない...!)」
攻撃を躱し、凌ぎ、そしてまた声を張り上げる。
その声は確かに司の耳に届いていたが、反応はほとんどなかった。
しかも、声に対して僅かながらに反応を示す度に、空間の揺らめきに見舞われる。
「(精神が何かに呑まれて...以前より、さらに不安定になっている...?)」
神降しをしていた際に、優輝はある事に感付いていた。
...司に何かが取り憑いていると。
その“何か”に精神が呑み込まれたのだろうと、優輝は推測した。
「(なら、まずはそこから引きずり出す...!)」
〈“Boost”〉
身体強化をさらに高め、優輝は加速する。
本来なら凌ぐはずだった攻撃を置き去りにするように躱し、一気に司との間合いを詰める。
「司さん!」
『ぁ.....。』
水面に波紋が広がるように、空間に揺らめきが生じる。
その揺らめきは、優輝の声が司の心の殻を波打たせるかのようだった。
「シュライン!」
〈穢れなき光よ、我が身への干渉を打ち消せ。“Holy safety”〉
空間の揺らめきが優輝を捉える寸前、優輝は光を纏う事でそれを無効化した。
『わた、しは.....。』
「っ、司さん!」
『っ....!』
ようやく優輝に気づいたかのように、司は反応を返す。
しかし、何かに怯えるように、司は殻に篭るように闇を纏った。
「なっ....!?」
一際異質な魔力の揺らめきが起こり、空間に穴を開ける。
ただ“黒”を映すその空間の穴から泥のようなものが溢れ出てくる。
「(これ...全てが高密度の“負”のエネルギー...!?)」
その泥はまさに“負”を固めたようなもの。
黒く、何もかもを呑み込むかのような泥が溢れていく。
『ぁぁぁ....!ぁぁああ.....!』
―――“闇よ猛れ、負を満たせ”
司が苦しむように呻き、それに呼応するかのように溢れる泥の量が増える。
そして、その泥から湧くように、優輝も知っている人物たちの偽物が溢れる
「っ!なん、なんだ...!?あれは...!」
ジュエルシードから放たれる魔力を相殺ないし回避しながら優輝は泥を見て戦慄する。
なにせ、泥の色とはいえ、偽物が大量に発生したのだ。
「っ、ぎっ....!」
ジュエルシードを用いて優輝は障壁を展開する。
そこへ、泥の偽物の内、緋雪の姿をした偽物が斬りかかってきた。
「(力は....本物に迫るか...!)」
緋雪の偽物の攻撃を障壁があっさりと受け止めるが、間髪入れずに他の偽物が襲い来る。
“負”のエネルギーという事から、優輝は即座に流れ出ている泥には触れるべきではないと判断し、飛び上がる。
「これ、は....!」
まるでイナゴの群れのように偽物達が優輝へと群がる。
あまりの数に優輝も回避しきれないと判断し、ジュエルシードから魔力を解き放つ。
「キリがない...!」
ジュエルシード程の魔力放出となれば、偽物は一瞬で何体も倒せた。
しかし、それを上回る程のスピードで偽物は発生し、優輝へと襲い掛かる。
「っ、“アイギス”!!」
ピシャアアアアン!!
優輝は咄嗟に自身の魔力で障壁を張り、プレシアの偽物から放たれていた雷を防ぐ。
「っぁ...!薙ぎ払え!」
〈“Evaporation Sanctuary”〉
他の皆を守るために使った“サンクチュアリ”を攻撃魔法として放つ。
司の姿の暴走体も使っていた対象を蒸発させんばかりの極光が、偽物を薙ぎ払う。
「く...ぅ....!」
広範囲の偽物を全て消し去ったが、泥は再び溢れ、偽物もまた復活する。
「.....?」
再び襲ってくるまでの間、優輝は違和感を感じる。
それは、今まで続いていたものがふとなくなったような感覚...。
「(...ジュエルシードによる攻撃が...ない?)」
そう。司の所有するジュエルシードからの攻撃がなくなっていたのだ。
尤も、それを補う程の偽物が襲い掛かってくるが。
「(っ、今は関係ない...!それよりも、物量差で押される...!)」
いくらジュエルシードで消し去っても無限に湧き出てくる。
絶え間なく襲い来る偽物の猛攻に、優輝も回避が間に合わなくなる。
ギィン!ギギィイン!ドンッ!!
「ぐっ....!」
攻撃を受け流し、凌ぐものの、受け流しきれずに吹き飛ばされる。
その先には地面があり、既にそこは泥に埋め尽くされていた。
「っ、“セイント・エクスプロージョン”!!」
咄嗟に優輝は魔法を発動して吹き飛ばすものの、すぐに泥が溢れてくる。
すぐさま優輝はジュエルシードを操り、魔力を放出させる事で泥を祓う。
「(注意するべき偽物は緋雪とプレシアさん。それと見知らぬ...おそらく過去で会ったであろう騎士と魔力の羽を持つ少女...。後は椿と葵...そして僕自身か!)」
単純火力が高い者と、戦闘技術が高い者を要注意して偽物の猛攻を捌く優輝。
ちなみに、見知らぬ二人はユーリとサーラの事である。
「ぁああっ!!」
気合を込め、緋雪の偽物の拳をいなす。すぐさまそこから少し横にずれる。
すると、寸前までいた場所に雷が落ち、余波を霊力の障壁で防ぐ。
そこへ薙ぎ払われるユーリの偽物の魄翼を、むしろ利用して受け流して飛び上がる。
「っく...!」
ギィイイン!
そこへ斬りかかってきたサーラの偽物の攻撃を受け流し、その場から離脱する。
飛来する矢と魔力弾は創造した剣で撃ち落とし、背後から襲い掛かる葵の偽物を斬る。
さらに優輝は魔力弾を撃ち落とした際に椿やなのはの偽物の位置を把握しておき、そこに向けて創造した剣と砲撃魔法を撃ちこみ、ジュエルシードの魔力を収束させておく。
「...撃ち抜け!」
そして放たれた魔力は、今まさに襲い掛かろうとしていた神夜の偽物を撃ち抜く。
続けざまに奏の偽物の攻撃を受け流し、投げ飛ばしてアルフの偽物とぶつける。
間髪入れずにそこから飛び退き、シャマルやクロノの偽物が仕掛けたバインドを躱す。
「っ....!」
高速移動で接近してきたフェイトの偽物をいなし、続けてシグナムの偽物もいなす。
そこへ迫るユーノの偽物のチェーンバインドを躱して逆に掴み、引き寄せる。
そのまま投げ飛ばし、ヴィータの偽物にぶつける。
「ぁあっ!!」
―――“セイント・エクスプロージョン”
シュラインを振り下ろし、周囲の偽物を巻き込んで爆発を起こす。
その反動で優輝は飛び上がり、迫ってきていた魔力弾と砲撃を躱す。
「っ、ジュエルシード!!」
―――“フラワリング・フラッシュ”
上空にはやて、リインフォース、リニス、プレシア、そして優輝の偽物が待ち構える。
魔法の術式が大量に用意されており、今まさに降り注ごうとしていた。
それに対し、優輝はジュエルシードを使い、弾幕を張って相殺を試みる。
「リヒト!」
〈Lord Cartridge.〉
相殺が成功したのを見届ける間もなく、優輝はカートリッジでブーストを掛ける。
銃形態にしたリヒトから魔力弾を放ち、斬りかかってきた優輝の偽物を牽制する。
「ちっ...!」
〈“Boost”〉
シュラインからの身体強化も重ね、優輝は自身の偽物と切り結ぶ。
その間にも優輝はジュエルシードと創造魔法を扱い、他の攻撃を何とか凌ぐ。
...一手一手が研ぎ澄まされる。少しでも判断を誤れば、すぐに追い詰められる。
決して倒しきれず、それでもなお優輝は司を助けようと動き続けた。
「く...ぐ、がっ!?」
....だが、そこまでだった。
司の記憶を基にして作られた偽物は、記憶の中の強さに依存する。
泥が再現した中にはユーリやサーラ、緋雪、そして優輝などがいる。
司にとって、優輝達は“強い”と認識されているため、強さに補正が掛かっていた。
そんな中、大量の偽物と戦えばこうなるのは必然だった。
優輝は自身の偽物から飛び退いた瞬間、緋雪とサーラの偽物の攻撃を躱した所で、ユーリの魄翼によって地面に叩きつけられてしまった。
「ぐ、ぅ....!」
すぐさま起き上がろうとするが、群がる偽物達がそう簡単に許してくれない。
優輝は転がるように攻撃を避け、体勢を立て直そうとした所で...。
―――....泥が、波のように優輝を襲った。
「なっ....!?」
咄嗟に防御魔法で泥の直撃を防ごうとする優輝だが、その泥の波をお構いなしに突っ込んできたヴィータの偽物により、障壁に罅が入り、突破されてしまう。
「ぁ...ぁあああ....!?」
最深部を覆う“殻”の内壁に叩きつけられ、優輝は波に呑まれる。
...その泥は、“負”を集めた塊。
いかに優輝と言えど、その“負”に蝕まれるのは防ぎようがなかった。
=優輝side=
「....ぁ....ぅ....。」
...目の前から、呻き声が聞こえる。
いつの間に、視界を閉じていたのだろうか。僕の視界がそこで開ける。
―――...一瞬、呼吸を忘れた。
「な....!?」
血に濡れ、倒れる司さん。胸に剣で刺された穴があり、それが致命傷になっていた。
...瞳孔は開き、既に死んでいるのがわかった。
辺りにはジュエルシードも散らばり、一部は罅が入っている程だった。
その全てが、機能を停止している。
「なに、が....!?」
〈...マス....ター....。〉
「リヒト!?」
手に持っていた剣は、リヒトだった。
だが、その刀身は罅が入り、リヒトが機能停止する寸前なのが分かった。
見れば、足元に落ちている杖形態のシャルも罅が入り、こちらは既に機能停止していた。
「ど、どういう...事だよ...。」
辺りを見渡せば、それはまさに死屍累々の光景だった。
....誰もが死んでいる。
椿が、葵が、奏が、父さんが、母さんが、リニスさんが、クロノが....。
皆が皆、確実に“死んでいる”状態で倒れていた。
葵や一部の者に至っては、頭や体の一部がなくなっている程だった。
...それだけじゃなかった。
遠くにアースラが見えたが、それも既に破壊されていた。
巨大な剣や槍が突き刺さり、砲撃魔法でも直撃したかのように崩壊していた。
「...な、なんで...。」
―――誰がやったのか?
...簡単だ。皆は全員死んでいて、無事なのが僕一人な時点で丸わかりだ。
「ぜ、全部僕が....。」
どうして...と考えれば、すぐに答えは浮かんできた。
先ほど...実際の時間ではどれくらい経ったかわからないが、泥に呑まれたからだ。
あれは“負”の塊。あれに呑まれ、心が蝕まれたのだろう。
「っ....。」
体を見れば、まるで“闇”に堕ちたかのように全てが暗い色になっていた。
手や体は返り血に濡れ、まるで殺人鬼のようだ。
「ぁ、ぁああ....!」
リヒトが手から滑り落ち、膝をつく。
...どうして、こうなったのかが理解できなかった。ただ、理不尽だと感じた。
「司...さん....!」
僕は...僕らは、司さんを助けに来た。
なのに、結果がこのざまだ。
―――“全滅”
この言葉が、まさにふさわしいだろう。
次元を行き来する船もなくなり、僕もずっとここにいられる訳ではない。
まさに最悪。あり得る未来の中で、“最悪の結末”を引き当ててしまったのだ。
「ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ただただ叫んだ。それが、どんなに意味がないものかは理解していた。
それでもそうせずにはいられなかった。
...僕は、とんでもない取り返しのつかない事をしてしまったのだから。
こんな結末は、誰も望んでなかった。なのに、僕のせいでこうなってしまった。
それが、嫌で、納得できなくて、でも現実で...。
...絶望に...ただ絶望に呑まれて行くかのようだった。
―――....助けて....。
後書き
ショック・エモーション…名前の通り、感情が衝撃波となる。感情の強さによって衝撃波の威力も変わる、天巫女の技の一つ。
Reflexion…“反射”。そのままの効果。某ドラ〇エのマホ〇ンタみたいなものだが、当然術式が破壊されるような魔法は跳ね返せない。
Holy safety…膜のように光を纏い、バインドなどの所謂“状態異常”を無効化する魔法。
闇よ猛れ、負を満たせ…“堕ちた感情”。空間に穴を開け、そこから“負”のエネルギーの塊である泥を溢れ出させる。その泥は依代となっている人物の記憶に基づいて形を為す。イメージとしては、プリズマイリヤドライの泥の英霊無限湧き。
フラワリング・フラッシュ…“開花する閃光”。ジュエルシードの魔力を開放するように、幾重もの砲撃魔法を放つ技。偽物達の弾幕をほぼ全て撃ち落とす。
司はGOD編の事を覚えていませんが、それは記憶が封印されているからなので、“記憶そのもの”は残っています。だからユーリやサーラの偽物も現れました。
強さはさすがに本物に何段階か劣ります...が、優輝やサーラ辺りの偽物はそれでも並の強さでは勝てません。しかも無限湧き。なんだこの絶望。ムリゲーすぎですね。
ちなみに最後の優輝が押され負けてからの絶望、滅茶苦茶ノリよく書きました♪(ゲス顔)
尤も、自分はハッピーエンド主義者なので、後で読み直して後悔しています。
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