Fate/Heterodoxy
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S-2 開戦/黒髪
『そうだマスター、1つ伝え忘れていたことがあった』
オレがソファに寝転がり本を読みながら何時ものように寝ようとしていたとき。セイバーがオレに背を向けたまま念話で語りかけてきた。セイバーの背は長髪で覆われており、鎧で堅められている。
『今回の聖杯戦争の舞台は用意されているらしい。故に魔術に必要な物などは用意しておいた方がいいだろう』
「ああ……ところで何故念話なんだ?」
『……何故だろうな。何故か口を開いてはいけない気がしてしまって……』
「普通に口で会話してくれ。相手がいるのに虚しくなる」
「了解した」
そう会話を終え、オレは眠りにつく。
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管理者の間
『いやぁ!まさかバーサーカーのつもりで用意したのがアレになるとはねぇ……それで狂化付いてるってまるで何処かの元帥のようじゃないか!アッハハハハハ!!あれ?じゃあまた彼がバーサーカーになるのか!傑作だねぇ!
まぁ、そうなるようにそこはかとな~く仕向けたんだけどね!うけるー!』
各地で召喚されていく英霊達を見ながら管理者は笑う。イレギュラーに次ぐイレギュラー。本来の聖杯戦争に参加していた英霊がその力を更に増して顕現していたり、予定していたクラスとは別物になっていたり、英霊にすらなることの出来ない一般人でも力を手に入れて顕現している。
『ああ面白い!早く予選を見てみたいよ!早くみんなそれぞれの英霊を召喚してくれないかなぁ!』
管理者が笑いながら大声で叫ぶ。その姿は特撮を見ている子どものようだ。次の瞬間、とあるクラスが丁度五基、召喚された。
『言ってみる物だね。さぁ、僕を楽しませてくれよ!』
管理者が指を鳴らす。その行動だけで最初のクラスの英霊五基と魔術師五人は管理者が用意した戦場へと誘われた。
『僕もちょっとだけ、ほんの興味と好奇心だけだけど……召喚してみようかな~♪』
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意識が朦朧とだが一応覚醒、目を開く。いまの時間は午前五時だろう。その時間に起きるように身体がそうなっている。
セイバーを召喚してから数日が経った。それまでは特に変化は無かったが、意識がハッキリしてくるとなにか違和感がある。
「聖杯戦争に参加するのはいいが工房が意味を成さない。魔術的に準備するものは常備してる……二回戦まではオレの魔力は無限だから」
起きてそう呟いた。意識が完全に覚醒し、オレは周囲に確実な違和感を覚えた。
「セイバー、居るか?」
先ずセイバーの所在を確認する。この違和感が敵の魔術及び宝具だとするとセイバーが居ないとどうしようもない。オレの魔術特性も踏まえてセイバーが居ないとオレはここでリタイアだ。
「ここに」
セイバーが目の前に姿を現す。その姿を確認して安堵する。
「セイバー、違和感があるんだが何か分かるか?」
「ついさっき、マスターが起きる直前、戦場に転移した」
「と言うことはセイバーが揃ったのか……だが、ここはオレの家そのものだぞ」
「……動いてみれば分かる」
そうセイバーに言われてオレはソファから降りる。その瞬間、視界がホワイトアウトする。
「うおっ!?」
思わず声が漏れてしまう。視界は直ぐに晴れ、景色を映し出す。そこには見慣れた部屋……ではなく、目の前は見慣れない程に綺麗な見渡す限りの草原だった。
「セイバー、何故管理者はこの戦場にしたんだろうな」
視線をセイバーの方に向け、問いかける。
「……恐らく『セイバー』のクラスならば正々堂々と、障害物等なしで戦え……と言う事を暗示しているように思えるが」
「オレもそういう考察だ。あっちの用意したギミックも踏まえてみるか。セイバー、この戦場が本当にこれだけか確認しに行こう」
行動に移そうと自分の所持品を確認しようとする。後ろを向くとある程度の生活用品は揃っていて二週間マトモな生活は出来そうな荷物があった。更に目を凝らしてみると自分の家にあったもので魔術関連の物が全て揃っていた。
「戦術や魔術に関係ないものであればある程度自由に物品が供給されると聞いた。それと隠蔽も施されていると言われたな」
「そうか、こんな特別な方法を取るんだ。なにをしたいんだ……」
本人はあの夢では「自分の考えた聖杯戦争をやってみたくなった」と言っていたがそれだけなのか……それだけの理由で……
「他人の苦悩する姿が見たいのならこんな戦場を用意しないだろう」
「そうだよな。それなら三十五基と三十五人を世界で戦わせるのにこんな戦場用意しないな」
オレが辺りを見に行く準備をしているとセイバーが制止をかける。
「マスター、ここで俺のスキルを使おう」
「そんなスキルがあるのか?」
「ああ、紛い物だが《千里眼》スキルがある」
_スキル判明《千里眼》──視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。遠方の標的捕捉に効果を発揮するスキル。ランクが高くなると、透視、未来視さえ可能になる。Aランク以上でこのスキルを所有している者は、一種の未来視(未来の予測)や読心さえ可能としている。EXランクまで行くと完全なる未来視や過去視、現在総てを見透す事が可能だと言う。
管理者により与えられた知識で千里眼と言うものがどれだけ有用かを理解した。
「紛い物ってのが気になるが、使えるなら使ってくれ。だがこの目でも確認したいから辺りを見てみるのは変わらないけどな」
「了解した」
セイバーが答え、黒色の外套に付いているフードを被る。紛い物と言っていたのはセイバー自身が持っている訳ではなくてあの外套が関係しているのだろう。
セイバーが辺りを見回して数十秒経つと突然フードを外した。何か焦っているようで顔を見ると驚きが全面に、そして顔が真っ青になっていた。
「どうしたんだ、セイバー。顔色が悪いぞ」
「………………」
「セイバー、どうした」
反応のないセイバーに少し強めに呼び掛ける。その声に気付いたかセイバーはオレの方を向く。
「あ、ああ、すまないマスター。なんでもない……」
その言葉が嘘と言うことは理解できた。だがオレに問い詰める資格はあるのか。オレは既に「対等」とセイバーに言っている。問い詰めたら自分で自分の言ったことを破ってしまう事になる。
「何かあったら言って良いぞ。千里眼を続行できるならしてくれ。オレはその間に魔術と身体の調整をしている」
「…………了解した」
千里眼の内容がどうか分からないが仮にもセイバーとして現界した英雄だ。オレが魔術の調整をする時間くらい出来るだろう。
オレは懐にしまっておいた魔術道具を一つを取り出す。緑色に輝く小石のようなアイテムを右手で軽く握る。
「 」
詠唱を極限まで圧縮し、辿り着いたこの魔術。口を少しだけ開き、無音で魔術を紡ぐ。これが攻撃に転じることが出来るのならどれだけ嬉しいことか────と考えたところで思考を魔術を放とうとしている右手へと切り換える。
右手の掌に握られた緑色がその輝きを失うと同時に薄く、平べったくなっていく。握っていた手を開くと石は同じ緑色の半透明で六角形の薄い板に変換された。その直後、掌から離れる。
「魔力は底無しになっても特に変化は無いか」
オレは魔術により出した盾を視認する。形はイメージしたものと全く同じで、質感もイメージ通りだ。
服から適当な魔術道具をもう一つ取りだし、それを握りしめる。
「────────────」
今度は高速で声に出し詠唱を開始する。左の掌に収まっていた紙が熱を持たない炎により瞬時に焼失し、盾が分厚く、大きくなり、その中に秘められた魔力の密度を大きくした。
「…………上出来だな」
一通り見て何時も通りと確認した後、オレは右手に強化の魔術を施し、盾を目掛けて構える。書物庫にある武道に関する本を読み漁り、自分なりに最適化させた独特の武術の構えをする。これは截拳道を基としていてその他の武術も組み込み、破壊力に特化させている。
「…………!」
一瞬で蹴りを盾に放つ。魔力の補助もあり、通常の人間に放ったら即死級であろう一撃が盾を粉砕しようとする。衝撃が身体に走る。オレの一撃は盾を全く傷付ける事無く、その場に留まっていた。
スゥ……と一呼吸置き、次に拳のラッシュを喰らわせる。それでもびくともしない。何時も通りの事を終わらせ、オレは盾に触れる。
「オレの取り柄はこれだけか……」
その盾が鋭利になっている部分に触れて、掴む。すると先程のラッシュでは傷ひとつ付かなかった盾が変形する。腕を引くと盾が細長くなり、鞭のようにしなる。それを薄く膜のように延びた形をイメージする。それに反応したかのように両手で拡げるとオレの周囲を覆う膜盾が完成した。これを元としたのは時計塔の有名な魔術師の水銀を使った魔術だ。それよりは強度も性能も低いが汎用性はあると思う。
「戻れ」
そう呟くと膜は凄まじい勢いで音も出さずに集束し、元通りの形へとなった。それに魔力を注ぐと球体となって空中に浮遊する形となった。
「セイバー、そっちはどうだ?」
オレはセイバーの方を振り向いてそう言うとセイバーはオレの声に反応してフードを外し、オレの元へと歩み寄る。
「北の方に数km行くと砂漠、東に林、西には湖、南は草原のみだ」
「大体は視界が良いところになっているな。林の規模は?」
「対軍宝具一撃で消し飛ぶ程度の規模が、それがまばらに幾つもある」
隠れる場所は湖の中だけか。隠れようとは思わないが睡眠を取るときは命取りだ。
「膜を何重にもしてみるか……セイバー、少し手伝ってくれ」
「ああ。…………!」
セイバーの視線が東の方角に釘付けにされる。その表情からサーヴァントかマスターがその方角に居ると考えた方が妥当だろう。
「セイバー、誰か居るのか?」
セイバーは頷き、フードを再度被り、少し間を置いて外してオレの方を向く。
「先程は確認できなかったが、サーヴァントとマスターらしき人物が俺達の方に近付いてきている」
セイバーの宝具の恩恵に感謝しながらこれからすることを考える。
疲労は勿論無い、身体は解れている。セイバーを視ても調子は悪くないようだ。
「来るまで体制を整えて待つとするか?それともこっちから奇襲でも仕掛けるか?」
「奇襲は賛成しない。俺のステータスは大分低く、一撃は与えられてもその後が不安になる……それに、これは俺の勝手なんだがやはり真正面から戦わせてほしい……」
「わかった。頼むぞ」
オレがそう言うとセイバーが外套を握り締める。外套は先程までの大きさの半分以下になり、スカーフ程度となった。そのスカーフを腕に巻き付けた。
「一度当たって無理と判断したら奥の手を出す。それでもいいか?マスター」
「戦闘面では好きにしろ。オレは戦闘ではサポート、主に防御面のみだ。そこはサーヴァントのお前を信じる」
セイバーのステータスとスキルを確認しながらそう言うとセイバーは顔を少し目線を下げ
「すまない……」
と謝ってきた。オレはそれに少し苛立つが表面には出さず、セイバーに向けて言葉を投げ掛ける。
「謝るな。そういう時は「ありがとう」にしてくれ」
セイバーは頷き、小さな声で
「感謝する」
と言った。オレはそれに満足する。
謝罪には嫌な記憶しかない。憎悪が呼び起こされる感覚になり、ソレを制止する。
「英霊相手に何処まで耐えられるか分からないが特別な防御の魔術は掛けておくぞ」
オレの得意分野は先程の通り防御面に特化した味方支援の魔術だ。防衛戦ならば知り合いと手合わせをではほぼ無傷の戦績を持つ。大抵の魔術師の攻撃では豆腐さえも崩すことができない。
「 」
少し長めの、無音で紡ぐ詠唱。魔力は無限だ、普段では連発不能の一度きりの魔術を何度も何重にもオレとセイバーにかける。
「攻撃するときは弱まるがそれ以外だと魔術師にはほぼ破壊不可能だ。無いよりマシだと思ってくれ」
「感謝する、マスター」
そう会話を終えた瞬間、完全に視認できる距離に二人目のセイバーとそのマスターが立っていた。
英霊の方は身長はオレのセイバーより低いが容姿端麗だった。黒髪で見るからに優しそうだが確固たる意思は持っているような顔。右目の下の方にある黒子がその美しさと意思を更に際立たせているような気もした。身体は緑色の布と鎧が合わさったような物を身に付けていて手には──
「剣と、アレは槍か……?」
剣士の英霊が、剣以外に槍を所有している……という前例は少なくとも存在していなかったはずだ。だがこの聖杯戦争は管理者の意向である程度が決まると言われていた。つまり、そう言うことなのだろう。
マスターは軽装な格好だが所々に高位の魔術反応がある。知り合いとは別格の強さである事がわかる。
オレたちと相手の距離が十数メートル程になり、黒髪のセイバーが堂々とした態度で
「鎧のセイバー!もし戦う気が有るのなら勝負を願いたい!」
その態度と声、言葉からこの英霊は正々堂々とした闘いを望んでいるのだろう。
「マスター……」
「お前の好きにしろ……って言った筈だ」
「ああ、やらせて貰おう……!」
セイバーは十字架を連想させる長剣を出現させ、黒髪のセイバーと対峙するように立つ。
「応えよう、黒髪のセイバー。俺と闘っても面白くはないだろうが……行かせてもらおう」
そこからは、人を完全に超越した世界だった。
後書き
魔術等に関してはほぼ無知なので指摘お願いします。
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