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Fate/Heterodoxy

作者:RIGHT@
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S-1 プロローグ/セイバー

 数日前、変な「夢ではない夢」を見た。変な浮遊感を感じ、気が付いたら周囲に数十人の顔も名前も分からない奴等が居て目の前の光に包まれた『彼』を見詰めていた。『彼』はこう言った。

『貴方達は聖杯戦争への参加する権利がある』

 聖杯戦争──万能の願望器『聖杯』を賭けて争う。しかしその圧倒的な神秘を起動させるには、なんと英雄達の魂が必要である。そのために、聖杯は七騎の英霊……正確には『マスター』と呼ばれる聖杯戦争参加資格を手にした魔術師たちに『サーヴァント』として召喚させる。
 聖杯はありとあらゆる願いを叶える事が出来る。しかし、願いを叶える権利を手にすることが出来るのは唯一人だけ。必要とされる六騎……聖杯の本来の運用方法である、『根元への到達』を成し遂げたいならば勝者の使役している英霊(サーヴァント)……召喚された英霊(サーヴァント)七騎全ての魂が必須である。

『拒否するのもしないのも自由。拒否したい人はどうぞ目を閉じて』

 数秒経つ。『彼』は確認をしたのか続ける。

『居なくて何より。さぁ、君達に正式に聖杯戦争に参加する権利を与えよう』

 『彼』がそう言うと右手に違和感を覚えた。

『それが令呪だよ。使役するサーヴァントを絶対に従わせることが出来る絶対命令権だ(ただし1つで効くとは言っていない)……現実にはまだ反映されてないから朝起きたら激痛が走るからそこのところよろしく。さて、次だ』

 『彼』が指を鳴らす。目の前には数十の触媒がまるで選ばれるのを待っているかのように宙に浮いていた。

『選びなよ。解ると思うけどそれはサーヴァントを呼び出すための『聖遺物』だ。その選択が君達の未来を決めるかもしれない。先着だから早くしないと取られちゃうよ?取らないって手段もあるけど勧めはしない』

 オレはその言葉を聞いて直ぐに触媒を取ろうとした。目についた『鞘』は瞬く間に誰かが取り、『指環』も無くなり、『短剣』も消えた。優柔不断な性格が災いし、オレは残った数個の聖遺物のうち一塊の『黄金』を選んだ。

『成る程成る程。さて、次にこの聖杯戦争のルールを説明しよう。まぁ、言うんじゃなくて直接脳内に伝えるよ』

 そう言った瞬間、オレの脳内に情報が一気に流れ込んできた。数秒経てばその情報は無くなり、思い出そうとすれば直ぐに思い出せる。だが、その情報は元々所有していた聖杯戦争の情報と殆ど同じであり、特に有用な物は得られなかった。
 『彼』の口調は何時しか軽いものになっていた。

『まぁ、聞きたいことがあればどうぞ……なになに?僕の名前?うーん……管理者(キーパー)とでも呼んで。聖杯戦争の管理するクラス管理者(キーパー)ってね。聖杯戦争の原因は僕、全部僕の仕業さ。これから起こる大抵の事は僕がやったと思ってね。異常とかは対処面倒くさいし面白いから何にも手を加えないよ。
目的?自分の考えた聖杯戦争を試してみたくなったんだ。君達にデメリットは無い筈だよ?死ぬかもしれないけどね。
僕は聖杯戦争に参加するかって?しないつもりだけど……してほしかったら言ってね。直ぐに優勝してあげるから。勿論、サーヴァントと一緒にね?
では最後に……頑張って聖杯を掴んでくださいっと……バイバイ』

 信じられなかったが目が覚めるとオレの右手には夢で掴んだ黄金と全く同じ黄金が握られていた。それと共に右手の甲に痛みが走った。

「ぐっ……あっ……!」

 焼けるような痛み、それに耐えきると右手の甲に一対の翼のような紋様、そしてその中央に十字架を模した剣のような紋様が痣のように浮かび上がっていた。

「これが……令呪か。夢で見た奴と同じだな」

 令呪を一通り見て確認、次にその掌で握っている誰かの『聖遺物』を確認する。

「黄金に関わりのある英雄……」

 オレは自分の家にある本を片っ端から調べた。何時の日か聖杯戦争に参加するかもしれない。その為に先祖が様々な英雄達の事が書かれている本を遺してくれた。いや、この家(書物庫と魔術工房)と魔術刻印以外、何一つ遺されていなかった。

「鞘があったからセイバーじゃない?いや、何十人も居たんだ、セイバーが一人だけとは限らない……恐らく渡された情報とは違う種類の聖杯戦争の可能性がある……」

 聖遺物から真っ先に思い浮かんだのは人類最古の英雄『ギルガメッシュ』ありとあらゆる財宝を有し、一度聖杯戦争に現界している。その際のデータを読み見ると正に『黄金』のサーヴァントだ。

「……だが、コイツには来て欲しくないな……」

 性格的にも全く合わない。恐らく現界させた数秒後にはオレは殺されるだろう。王に気に入られるように振る舞うなんてことできるはずがない。

「……他に英雄は……有名なのだとコイツか?……ああ、そうだ可能性があるならコイツだな。だが他にも『黄金』の鎧を持つ大英雄……『黄金卿』を発見した英雄、巨万の富を得てそれを瞬く間に浪費した元帥……探せば探すほど出てくるな。これだけだと分からないか……」




 数日後 日本 都内某所

 準備は万端。後は召喚するための詠唱を唱えるのみ……命を失うことになっても構わない。受け継がせる子孫なんて居ない、オレが死んだところで悲しむ友も、もう居ない。何も無いから……聖杯を掴んだときに何か産まれるはず……そう信じたい。聖遺物を置き、右腕を前に出す。そして、オレは詠唱を唱え始める。

「……素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師────。
 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で王国に至る三叉路は循環せよ……。
 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。
──告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」

 風など入ってこない筈の魔術工房に召喚魔方陣を中心に竜巻のように風が巻き起こる。

「……誰が出てくる……」

 風の奔流が収まり、視界が明確になったオレの目の前には190cmはありそうな身長に、白と灰の混ざった長髪、胸元が開いた鎧とそこから見える緑色に輝く紋様。

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した、命を」

 低くも柔らかい声。短い言葉だったが聞くだけで安心できるような、そんな声だった。

「……セイバー、お前がオレのサーヴァントか?」

「ああ、間違いない。俺は貴方に仕えるサーヴァントだ」

「……真名は?」

「……それを今ここで言うことは出来ない」

「わかった。……なら何をしよう」

 オレがセイバーに問い掛ける。セイバーが少し沈黙してから口を開く。

「……今回の聖杯戦争の事についてお互いに持っている情報を共有しよう」

「分かった。なら場所を移動しよう。付いてきてくれ」

 セイバーが頷き、立ち上がる。印象は「寡黙」といった所だ。必要最低限の発言しかしていない。
 オレとセイバーが工房の階段を登り、書物庫兼生活スペースへと移動する。簡素なソファ二つがテーブルを挟み、オレとセイバーが向かい合わせに座る。

「初めに、この聖杯戦争のルールを確認しよう」

 オレは珈琲を出し、最初の情報交換へと移る。

「オレの持っている聖杯戦争のルールは自前のも合わせたら『(セイバー)(アーチャー)(ランサー)(ライダー)(アサシン)(キャスター)(バーサーカー)の七基の英霊(サーヴァント)が聖杯を巡って魔術師(マスター)と共に最後の一人になるまで戦う』なんだが。そこに違いは?」

「……殆ど違うとも言っていいだろう」

 そこは既に分かっていた。数日前の『夢』で明らかに参加するであろう魔術師が多かった。しかし、管理者(キーパー)は歴代に起こった基本的な聖杯戦争のデータのみをオレ達(マスター)に伝えた。恐らくその情報を使ってサーヴァントとコミュニケーションを取れと誘導されたようだった。

「だろうな、なら話してくれ。データなら読み尽くしたがそれでも知らないことが多くあると思うからな」

「……この聖杯戦争は三回の戦争に分けられている」

 セイバーの口から驚くべき事が言い放たれた。三回という数字、そんなデータは当然あるはずもなく、更に基本的にはバトルロイヤル形式である聖杯戦争からしたら異端も異端だ。

「……一回戦目は五基の同クラスサーヴァントによるバトルロイヤルだ」

「……同じクラス……?」

「セイバーのクラスが俺以外に四人いる。残り二人になるまで戦うのが一つ目の戦争だ」

「……そこからしてイレギュラーと言うことかよ……」

 セイバーがオレの言葉に頷く。オレは即座に「続けてくれ」と言って二回戦目の説明を待つ。

「二戦目は二人になった各クラスが分かれ、ランダムに決められた他のクラスの英霊と共に戦う。7VS7の戦争だ」

「噂に聞く聖杯大戦と同じやり方か……」

「そうだ……最終戦だが二回戦でクラス関係なく残り七人になったら仕切り直してその七人での通常の聖杯戦争だ……と、言われた」

「それが一番近いな……。だがそれだと三騎士ばかりになりそうな気もするな……
言われたってことは誰かから言葉で伝えられたと考えていいんだな?」

 ふと疑問に感じたことをオレはセイバーに問いかける。セイバーはその問いに頷いて

「ああ、自らの事を聖杯戦争の管理者(キーパー)と名乗っていた」

 その人物はオレの夢に出てきた管理者(キーパー)と同一人物だろう。基本的な聖杯戦争で英霊(サーヴァント)は現代の知識や聖杯戦争のルールなどは聖杯から与えられるのが管理者(キーパー)は直々に英霊(サーヴァント)達に情報を与えてるのだろう。

「成る程……一通りは理解した。当たり前だがお前とオレが勝ち続ければいいだけだろ?」

 当然の事を正に出来るかのようにオレはセイバーに向けて、自分にも向けて言う。自己暗示、そしてセイバーへオレの意思を示した。

「……その通りだマスター。貴方がその気持ちなら俺も存分にこの剣を振るうとしよう」

「これからよろしく頼む」

 オレは右手を前に差し出す。セイバーは頷き、俺の右手を強く握り締めた。

「……マスター、聖杯戦争の補足説明だが、今回と次回……最終戦以外は魔力の心配はしなくて良い」

「どういう事だ?」

「最後以外は全力で自らの実力を示せ、そう言われた。マスターの魔力もそれに該当している」

「分かった。ならお前の全力を見せてくれ。オレもそれに全力で支援しよう」

「有難い……勿論だ。マスター、共に戦おう」

 ここでセイバーが何か言いたげにオレの顔をみる。

「どうかしたか?」

「……マスター、良ければ名前を教えてくれないか?」

「……オレはお前との立場は対等だと勝手に思っている。お前が真名を明かせばオレも教える。お前が宝具を披露すればオレも魔術の奥義を披露する。この関係は不満か?」

 セイバーの驚いた顔をオレは微笑しながら下から覗き見る。セイバーは首を横に振り、笑った。

「ああ、そう言う関係も良いものだな……友人のようで」

「……そうだな」





 _その後書物庫にて

「…………友人……か」

 不意に漏れてしまった忌々しい言葉に気付き、オレは口を閉ざす。もう二度と自分の口からその単語を出さないようにしていたが、改めて決意した。
 




 世界(視点)は移り変わる。



 深夜二時 アメリカ 某州

『トウ オマエ オレ マスター?』

 アメリカでは名門と名の通っている一族「カインツ」が()()()となるセイバーを召喚した。触媒は一人目のセイバーを召喚したマスターが一瞬目を付けた『黄金の指環』を使ったようで台座に美しくも狂気に満ちたその指環が乗っている。
 カインツ家現当主レット・カインツはマスター権限であるサーヴァントのステータスを見て確信する。
 _このサーヴァントはステータスでは最強クラス、そして私の調べが当たっているのならこの戦い、私の勝利だ。 あの胡散臭い管理者()の言葉を無視して正解だったな。何が『狂戦士(バーサーカー)で召喚することをお薦めするよ』だ。コレがバーサーカー(狂戦士)でなく、知能を持っているのであれば令呪で制御しきれるに決まっているだろう!私はあの「カインツ」の正当なる後継者だ!
 レットは右手の甲に浮かび上がっている竜を象った令呪を第三のセイバーに見せ付けながら頷き、微笑しながら口を開く。

「ああ、そうだ。私がお前のマス

 そこで言葉は途切れた。頭がセイバーが振るった右手から突き出された魔炎により消し飛ぶ。レット・カインツの人生はサーヴァントを召喚し、マスターであることを確認する最中にサーヴァントに殺された。積み上げてきたモノ、犠牲にしてきた者、それが全てが無駄となった瞬間だった。

『オレ マスター イラナイ』

 鱗とも呼べる外套に身を包んだ四人目のセイバーは辺り一帯をまたもや右手から放たれた豪炎によって燃やし尽くし、感覚で察知した生前の宿敵の元へ向かうべく飛び立った。

『マッテイロ オマエ オレ コロス』

 直感的に感じ取った一人の宿敵(セイバー)を求め、イレギュラーな存在となった異形の剣士(セイバー)はアメリカの空から姿を瞬く間に姿を消した。
 
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