Three Roses
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第三十二話 太子の焦燥その一
第三十二話 太子の焦燥
論戦が終わり王宮に静寂が戻った、だがそれでも政は動いており今度は二つの話が出ていた。
王室の儀礼、そしてマリーの婚姻のことだ。太子はまずはマリーの婚姻について言及した。
「出来る限りはだ」
「はい、あの方にもですね」
「ロートリンゲン家の方をですね」
「伴侶に」
「そうされたいですね」
「新教ではあるがだ」
しかしというのだ。
「我々の婚姻は時として信仰すらもだ」
「越える」
「婚姻により相手の国を己がものとする」
「それが為にはですね」
「新教徒との婚姻もですね」
「構いませんね」
「そうだ、それは小さなことだ」
太子は平然とさえして言い切った。
「それは分家筋でもいい」
「ロートリンゲン家の」
「そうした方でもいいですね」
「だからこそですね」
「新教徒の方でもですね」
「婚姻を結びますか」
「そのつもりだ、マリー王女の夫にはだ」
太子は極めて冷静な口調で己の側近達に述べた。
「ロートリンゲン家の者としたいが」
「しかしですね」
「それは、ですね」
「出来るかどうか」
「何とか押し込みたいところですが」
「出来るかどうかは」
「難しいかもな」
太子は今度は現実を話した。
「マリー王女は我々を警戒している」
「近頃は特にですね」
「そうされていますね」
「旧教についても」
「どうにも」
「だからだ、婚姻を結ぼうにもだ」
それを目指していてもというのだ。
「断る可能性が高い」
「では、ですね」
「この度の婚姻は」
「我々の思い通りにはならない」
「その覚悟はしておくべきですか」
「そうなる様に進めていくが」
しかしというのだ。
「相手が頷くか」
「それが問題ですね」
「ロートリンゲン家との婚姻について」
「旧教徒と新教徒の違いをですね」
「どう意識されているのか」
「私は構わないがだ」
太子はだ、信仰はあろうともそれ以上に政治を考えている。現実を第一に考えて割り切っているのが彼だ。
だからだ、こう言ったのだ。
「マリー王女は乗っ取られると思っている」
「この国をですね」
「ロートリンゲン家に」
「そのことを警戒されていますね」
「マイラ様との間にお子が出来れば」
「そうも考えておられますね」
「そのことがわかる」
はっきりと、というのだ。
「だからだ」
「婚姻のことも」
「ロートリンゲン家が相手では断りますか」
「そしてそのうえで」
「別の方とですね」
「婚姻を結ばれる」
「そうされるおつもりですか」
「おそらくな、この場合は仕方がない」
太子はまた現実を言った。
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