逆襲のアムロ
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40話 ロールプレイング 3.12
* ゼウス 宙域 3.12
ジュドーとプルツーはジオングから通ずる波長を元にある球体を発見に至っていた。
それと同時に数機のモビルスーツによって包囲されてしまっていた。
包囲された機体名はクシャトリアと表示があった。見た目が小型のクインマンサ。そして目の前に赤いモビルスーツ、シナンジュが立っていた。
ジュドーとプルツーは歯を噛みしめていた。それはシナンジュのフル・フロンタルからもたらされた情報に対しての苛立ちからだった。エンドラの撃沈とグレミーらの死亡についてだった。
「そんなの嘘だ!」
ジュドーが叫ぶ。プルツーは手元の端末で各ステーションを中継しながらエンドラの消息を探していた。フロンタルは無線封鎖しなかった。むしろ「調べてみるが良い」と告げていた。
ジュドーは通信でプルツーにある注文も付けておいた。万が一の保険だった。
その間にフロンタルは他愛のない話をしていた。
「ジュドー君といったかな」
「そうだ」
ジュドーは嫌悪丸出しの声をフロンタルに投げかけた。フロンタルは気にせず続けた。
「君らは最下層民として生まれては生きる為に色々なことをしてきただろう」
「・・・」
「時に不平等さを呪ったりしたりしてね」
「そうでもないさ」
ジュドーは答えた。
「人それぞれ生まれも育ちも違う。その環境は選べるものでない。だからその持ちうる力で皆必死に豊かに、幸せになろうと思うんだよ」
「それが争いを産むのだ」
フロンタルは平然と否定する。ジュドーはその威圧感にこのフロンタルという人物の根底を見抜いていた。彼は否定する人間だと。
「君の言う通り、豊かでも貧しくとも心の平穏というものは平等にして訪れることは、手に入れることはとても難しい。獲得する為にはそんな概念であろうが争いが起きてしまう」
ジュドーは少し頭を振って話す。
「競争原理を否定はしてはならないと思う。誰もが満足しない?それが普通だよフロンタルさん」
フロンタルの表情が曇る。
「・・・成程。流石グレミーの一派だけのことはある。私が求めることや挑発など受け入れて反発するかと思いきや、思いっきり流せるとは」
そんなフロンタルの回答にジュドーは笑わなかった。
「別に流したいわけじゃないさ。あんたが何でも否定に走る傾向があるから、オレはまともにあんたと話しができないと思っただけさ」
「ほう。私は君と話をしたのだが・・・」
「だったら!」
ジュドーが初めて敵意を出した。
「何が目的だ!オレらの一体何が!」
フロンタルは一息ついた。そして淡々と話し始めた。
「君たちのような存在。邪魔なのだよ。微かな望みも無用なのだ」
ジュドーはフロンタルから発した言葉の力を受け止めてゾッとしていた。
「・・・こいつは、ヤバい奴だ。いわゆる災害だ」
ジュドーはフロンタルを自然災害と同様と見なした。例えば台風にモノを壊すなと言うことと同義なものをフロンタルに見た。
「益々、話ができやしないじゃないか。フロンタルさん」
フロンタルは今までの話の流れを思い出し、謝罪した。
「そうだな。済まなかった」
「なっ!」
突然の謝罪にジュドーが戸惑う。フロンタルは話し続けた。
「ではお話をしよう。ジュドー君」
フロンタルは一呼吸おいた。
「私は君の様な良い存在が出てくるためのスケープゴートと言って良いだろう」
「生贄だと?」
ジュドーの言葉にフロンタルは頷く。
「そうだ。人それぞれ役割がある。一種のロールプレイングだ。悪役が居て、ヒーローが居る。そんな関係だな。私は無論悪役だ」
ジュドーは黙っていた。後ろの座席のプルツーは未だ中継しながらもグレミーの消息を探していた。
「その物語は希望を探す物語。そのスパイスが強ければ舞台は豪奢になり、より洗練られた出来栄えのある演劇となろう」
ジュドーは複雑な面持ちで言った。
「フロンタルさんが贄だというならその舞台は本心ではハッピーエンドに終わらせたいと?」
フロンタルは頷く。
「それが私の役割だ。だがな演じる私も退場するには条件がある。私を退場させられるほどのヒーローが現れることだ。それはジュドー君かもしれないし、他の誰かかも知れない」
「だが、アンタは自分を・・・自我を持ち合わせて、そんなに客観的に立場が見えるなら!」
フロンタルはジュドーの叫びを拒絶する。
「私は器なのだよ。演じることが全てで存在意義だ。それが私のエゴだ。さて何故こんなことを君に話したか?それには理由がある」
「理由だと?」
ジュドーは眉を片方上げてフロンタルに聞く。フロンタルは指でジオングを指した。
「ジュドー君、君の乗るジオング。並の力、並の能力では起動しないよう設計されている」
「なんだと」
「その設計には私も携わっていた。間接的でだがな。ギレンが後々で私に秘密裏にしたせいで探すに手間取った。そしてギレンは良い置き土産をしたものだ」
ジュドーはペラペラ話すフロンタルに誘われるように質問した。
「それは?」
「ゼウスだ。元々はそのジオングでやろうと思っていたのだが、その出力をさらに増幅させる装置をわざわざ開発していたとは棚からぼたもちだった」
ジュドーは目を閉じて情報を整理した。ギレンはこのジオングがあらゆる問題を打破する機体だと。それはジュドーとプルツー共に感じ取ったことだった。それはフロンタルには何も情報を与えていない。
かくはフロンタルはジオングがゼウスという謎のものの増幅制御装置だという。
「さて、私は悪役を演じるにあたりあるものをある人から都合してもらっている。この際その人物は抜粋しよう。そもそも、ジュドー君と話す理由だ」
ジュドーは物凄く警戒した。自ら悪役と名乗るフロンタルが手の内を見せようとする。その理由は碌なものではないと直感でわかったからだった。
「・・・フロンタルさん。アンタがそんな手の内を見せるにはオレらを生かしておくわけにいかないか、若しくは・・・」
「利用したいからか。その通りだよジュドー君」
ジュドーは息を飲んだ。するとプルツーからグレミーの情報の調べが終わったことをジュドーに告げられた。
「ジュドー・・・」
プルツーが沈んだ声をしていた。ジュドーも覚悟した。
「いいから言え、プルツー」
「エンドラは撃沈。グレミーとモンドが戦死。フィフスルナが沈黙。エルらの乗組員の生存確認不明。ビーチャから通信文でサイド6宛てに送られていたよ・・・」
ジュドーはグッと胃が締め付けられるような感覚に陥った。プルツーの声も勿論フロンタルに届いている。
「ようやく事実を受け入れたか。それは私が下した決断だった」
「・・・なぜ・・・」
ジュドーがマグマの様な怒りを沸々と沸き立たせていた。
「なぜ!こんなことを!あいつらはただジャマなく生きていたいだけじゃなかったじゃないか!」
フロンタルは困った顔をして平然を言い切った。
「その理由は先ほど答えたつもりだったが?」
「なんだ!」
「微かな望みも邪魔なのだよ。それすら排除の目的だ。人類に逃げ場なし。未来永劫この地球圏で絶望を感じながら死に往くことを導くことこそ私の役割」
フロンタルの回答にジュドーは憤慨した。
「プルツー!!」
魂の叫びはプルツーを震え上がらせた。
「ひっ!・・・何なんだジュドー」
「奴を仕留める。この世から奴を消し去ってやる」
ジュドーはジオングの操縦桿を握り、怒りに任せて動かし始めた。その動きを牽制するようにクシャトリアらも動き、ジオングを止めようとした。
「しゃらくせー!」
ジオングから発せられたサイコフィールド場はクシャトリアを静止させた。その力にクシャトリアのパイロットのマリオンとクスコがフロンタルに助けを求めていた。
「フロンタル様・・・」
「う・・動けない・・・」
かくもフロンタルのシナンジュもそのフィールドにやられ動けなくなっていた。その状況に自然と笑みがこぼれていた。
「まさか・・・ここまでとはな。ジュドー君の力は現在の私すら凌駕するとは。ジオングを動かせるだけの力をこれで私も授かることができる」
ジュドーはジオングのマニュピレーターを動かし、静止しているシナンジュを掴んだ。
敵意むき出しのジュドーは掴んだシナンジュを握りつぶそうとしていた。
「これで終わりだフロンタル!」
そう念じたジュドーの想いが瞬間的に全て吸い取られるような感覚に陥った。
「なっ・・・んだ・・・と・・・」
ジュドーはその場で気を失っていった。その姿をプルツーが見て叫んでいた。
「おい!ジュドー!一体どうしたんだよ!」
その状況の説明をフロンタルは話した。
「ジュドー君の怒りの感情全てを私がもらい受けた」
プルツーが聞こえてくるフロンタルの音声に激高した。
「なんだと!ジュドーを返しやがれ!」
フロンタルは笑った。
「フハハハハ・・・それは難しいな。別にジュドー君を奪ったわけではない。彼の才能を私が切り取らせてもらったまでだ。このシナンジュに搭載されているパンドラボックスによってな」
「パンドラボックスだと!」
「全ての負を私の力に帰る装置だ。これで私は事象の壁を越えて人類を滅する」
プルツーが失笑した。
「フッ・・・何をバカな。お前1人で何十億人ものあいてにするのか?愚かにも程あるぞ」
フロンタルは首を振る。
「だから私は役割を与えられ、準備をしてきたのだ。それを応援してくれるゼウスという装置もあるしな」
「一体何を?」
「サイコフレームの干渉領域が既に世界に流通され、それに呼び掛ければ応答する。普段日常で持ちうる携帯など良い参考だ。そのジオングを用いて、ゼウスで増幅させて人類を無気力化させる。後は朽ち果てて終末だ」
プルツーは「在り得ない・・・」と一言呟く。だがフロンタルはそれを本気で成し遂げようとしている。そしてその理由はないとも言う。それが彼に与えられた役割だとしか言わない。
「常人ならば普通の思考だ。君もそうだな、プルツーと言ったか?」
「ぐっ・・・」
プルツーの体にただならぬ気配を感じた後、頭痛に見舞われた。
「あああああああ!」
プルツーが叫ぶ。フロンタルはクスクスと笑っていた。
「まあ、抵抗せずして手に入れるには君もジュドー君と同じく廃人となってもらうことが一番手っ取り早い。後は任せて眠るが良い」
「・・・ざけるな・・・」
フロンタルの耳に小声で囁く。その声の持ち主にフロンタルは真顔になった。その声は大きくなった。
「ふざけるな!!」
魂の咆哮と呼べる叫びがジオングから解き放たれた。そしてジオングのコックピットが開く。ジュドー、プルツー共にノーマルスーツを着用していたが、その空間が緑白く丸く包まれていた。
「フロンタル!これ以上オレの大事なものを奪わせやしない!」
既にプルツーは正常に戻っていた。ジュドーが発するサイコフィールドの為でもあった。
ジュドーの言葉にプルツーは紅潮した。
「(ジュドー・・・)」
ジュドーが改めてジオングの操縦桿を握ったが、そこで違和感を覚えた。
「(こいつは・・・動かない)」
それはフロンタルにジオングが何等かの原因で制圧されたことをだった。操縦桿が固着していた。他のコンソールパネルを試した。するとハッチは動くようだった。
「成程な。プルツー」
「何だジュドー」
「ここから出るぞ」
ジュドーがそう言うとコックピットのハッチを開いた。その行動にプルツーが驚いた。
「何やっているんだ!」
プルツーがジュドーを怒鳴りつけた。ジュドーは首を振って「このジオングはもう動かない」と一言言った。その声をフロンタルは聞いていた。
「ジュドー君。流石の切り替えの早さ恐れ入る」
フロンタルが感嘆を漏らす。そしてジュドーとプルツーはジュドーのフィールド場を展開しながら宇宙空間へ飛び出した。フロンタルはゆっくりとその2人にライフルの銃口を向けた。
「さて、君らの利用価値は既に無くなった。後はその微かな望みだ。これを断たせてもらおう」
その時フロンタルの索敵モニターに急接近する機体を捉えた。それはジュドーの後方からだった。
「友軍か?」
フロンタルはカメラモニターでその物を捉えた。ZZだった。フロンタルはそのZZに向かってライフルを放った。するとZZは意思を持ったかの如く、回避の為に3つに分離した。その一つはフロンタルに目がけて突撃してきた。もう一つは威嚇射撃を仕掛けてきた。
「無駄なあがきを」
フロンタルはクスコとマリオンに意識で目くばせしてその分離した2機を撃墜させた。そして改めてジュドーに目を向けたときその場にジュドーは居なかった。索敵モニターを見ると急速度でこの宙域から離れる反応が見て取れた。
「上手く逃げたな。些細なきっかけを有用させるとは私も驕りがあるようだ」
フロンタルは自嘲していた。流れからジュドーらを消そうとしていた自分が急に抑えられている。
自分でも本気な部分と遊びな部分とよく分からなくなるときがあると理解していた。自分に与えられている役割、それに対しての意欲、それを見物して楽しむ自分、様々な部分で不安定だった。そんなことが総合されてジュドーを逃がしたことに対しても惜しくも感じなかった。
どれもパンドラボックスによるものだと自覚があった。ありとあらゆる何かが自分に取り込まれていた。一番の気になることが。
「(しかしながら以前抱えていた体の痛みが、不調が無くなっている)」
身軽の様な感覚、それ以上に何も感じない。何かを越えた感覚。思うと動く感覚。
パンドラボックスの作用に耐える為の薬漬けにしていた体だった。負の力を受け入れれば入れるほど負荷が掛かる自分の体。それまでは薬で何とか凌いでいた。賭けの要素が大きかった。負の力を受ける器の自分が耐えうるのか。それとも力に押しつぶされて無に帰してしまうのか。
目的達成の為に自己犠牲は已む得ない。それだけの代償を払って成就するものだと思いフロンタルは動いていた。ある程度の力を手にして触れると大体の質と量が理解できた。まだ足りないと、これで十分と言う匙加減が。
クスコがワイプでフロンタルのモニターに入って来た。
「どうするの?」
フロンタルは一瞥して、首を振る。ジュドーの追撃の事をクスコが求めていた。それをフロンタルは拒絶した。現状優先すべきは放棄されたジオングの確保だからだ。
「ジオングの接収が優先事項だ。このまま置いていては未だある軍事力に破壊されてはかなわん。最早作るにも作れないプロトタイプだからな」
マリオンがジオングについて質問する。
「マスター。この機体の何が大事なんですか?」
「ゼウスのリモコンと言っておこうか。ゼウスの体内に居ては耐えれないこともジオングの作用でそれを可能とさせることができる」
フロンタルはシナンジュのコックピットハッチを開けて、ジオングの開いてあるコックピットへと乗り移る。フロンタルはある操作をするとそのコックピットユニットがジオングから分離した。その光景をクスコが見て「ほう」と一言感嘆な声をあげた。
フロンタルは再びシナンジュへ戻り、コックピットユニットが離れたジオングの空洞にシナンジュを収納させた。するとジオングがシナンジュと一体化して動きだす。ステイメンが収まったオーキスの様だった。
「これが本来の完成形だ。ギレンすら知らない。彼の知る所はサイコフレームの最上級機体とそれでもたらされるサイコミュへの影響の可能性だけだ。そのことは彼の想像に及ぶものではない」
フロンタルの感想にマリオンが尋ねる。
「その真価の一端を見てみたいのですが・・・」
「是非もない」
フロンタルはジオングの機体をゼウスに向けた。そしてゼウスの艦橋へ通信した。モニターにマーサが映る。それにマーサが答えた。
「何かオモチャを見つけたようだね、フロンタル」
マーサがそう言うとフロンタルは頷く。
「ええ。期待以上のオモチャです。私はただ促しただけであとはギレンが仕上げてくれました。ここまで期待はしていませんでしたが・・・」
「成程・・・棚からぼた餅ね。で、私の計画に有益なものなんでしょうね」
「それは勿論。元々ゼウス単体でも為せる業でしたが・・・」
「それが?」
フロンタルはマーサの返しに笑みを浮かべた。
「ゼウスの力を200%以上も発揮できます」
マーサは驚きを見せた。そして高らかに笑った。
「アッハッハッハ、よくやったフロンタル」
フロンタルは首を傾げた。そして質問した。
「ミズ・マーサ。状況がよくわかっていらっしゃない」
マーサはその質問に急に真顔になる。
「・・・何の話です」
「ゼウスの出力が200%です。それを及ぶ力は艦橋のフィールドの耐久を凌駕します」
マーサは急に顔色が変わった。そして引きつっていた。
「フ・・・フロンタル・・・何を言い出すんだい?」
その声に艦橋のクルー全員が狼狽えて騒がしくなっていた。皆が大体ゼウスの性能を知っていた。そして解析が終わった今その凄さを知っていて、それはゼウス内に居て安全だった。それが大前提であった。
フロンタルはマーサが理解に至った事に満足感を覚えた。
「それが正常な反応です。そしてこのジオングがゼウスのリモコンとなります。では、ごきげんよう」
「ま、待ちなさい!」
マーサの呼びかけの声が発したとき、艦橋の全員のみならずゼウスの中にいる全ての人がその場で倒れ込んだ。マーサも叫びながら全身を硬直させて崩れ落ちていく。
「(何を・・・誤ったのかしら。マ・クベの一件からも彼を疑うべきだった・・・)」
この時、マーサは悟った。死に際は走馬燈の様に思考が巡るらしい。自身ももれなかった。マ・クベの利用価値を見出しながら何故か死地へと彼を送り込んだ。今思えばそれはおかしい。でもその時の自分はそれを許したことに関してとても自然だった。
しかしながら不自然だ。だがもう遅すぎた。見ること叶わない自分には無用なことだった。マーサの目の前は白いもやだけでゆっくりと漆黒の闇へと落ちていった。
全員から煙が立っていた。その現象をモニターで見たクスコはゾクゾクと身震いして興奮した。
「マスター、この結果は?」
「フフッ、ゼウスの全クルー全員をショートさせた。人の中にも電気が走っている。その信号と呼べる神経伝達の発する電位差の制御を解放したのだ」
クスコは唾を飲んだ。
「へへ・・・、怖い話だねえ」
フロンタルはクスッと苦笑した。
「ゼウスの力の一端だ。この度はゼウスの動力部以外を行使した。これで更なる力がゼウスに加わるだろう」
マリオンはフロンタルの話に質問した。
「更なる力とは何ですか?」
「ゼウスの力の源泉はサイコフレームの結晶ではない。ここだ」
フロンタルは自らの頭を指で指した。マリオンは息を飲む。
「あ・・・頭ですか?(絶対に違う)」
「回答が陳腐だな。脳だよ」
マリオンは気分が悪くなった。フロンタルは続けた。
「マーサもある程度の科学技術スタッフも知っている。あのゼウスは人の脳を幾万も培養して直結させてサイコフレームに反映させている。無論生きた脳だ」
クスコは笑っていた。
「全てギレンがやってくれた成果ですね。マスター」
「そうだ。かの総帥のクローン施設。失敗すら成功の母へと変貌させた。恐ろしい奴だ」
マリオンは深呼吸をして、ギレンの行為をフロンタルへ再び質問する。
「しかし、何故こんな事を?」
フロンタルは一笑して答えた。
「無論。私への対策だろう」
「マスターへの?」
「ギレンは恐ろしい奴だった。私の存在を知り、パンドラボックスの性能とその展望の予測すら立てていた。それに対抗するためには同等の力が必要だと。ゼウスと私の力、似たようなものだと思わないか?」
マリオンは尋ねられ、ゆっくりと頷く。
「そう・・・ですね」
「勿論、技術の面で私に知られることも承知していた。だが、私の方が一枚上手だったというだけさ。あの仕掛けで仮にギレンの力が私より上だったらば私はここに居なかっただろう」
「そんな僅かな戦いだったのですか?」
「フフッ、私はそれ程過信していないさ。いつ何時もオンタイムでの試合をしてはたまたま勝ってここに居るだけだ。ただ運が良かったとしか思っていない」
フロンタルは一息入れて、宇宙に浮かぶゼウスを見つめた。
「マーサを徐々に蝕んでいかせた力もその過程で出来た話。さもなくばマ・クベ、マーサたる巨魁を打ち倒すことはできなかった。」
2人ともフロンタルのその言葉が本気だと思っていた。現状の結果が単に生き残ってこれたというだけというのは一緒にいただけ理解していた。裏付けあって生き残れるほどこの世界は甘くはない。余程の幸運ですら生き延びるに足りない。それを凌ぐ天運がフロンタルらには備わっていた。
クスコはそんな話を聞く中で力で人が操れることを思い、ふと疑問を尋ねた。
「ならマスター?マーサ、マ・クベともに洗脳はできなかったのかしら?」
フロンタルは頷く。
「彼らは確固たる意思の持ち主だ。壊せど洗脳はできなかった。促して疑問に持たせぬ程度だけだ。それも怪しまれない程度にな」
「へえ~、で、始末したと?」
「どうなろうが奴ら自身が本当に私の望みを完遂するには覚悟が足りないだろうよ。お前らと違って彼らはやはり生への執着がある」
マリオン、クスコともに欠陥としてあるのがそこの部分であった。それ以外は気持ち悪いものは気持ち悪い、綺麗なものは綺麗だと感じる。フロンタルの話に賛同しては協力してきているのがこの2人だった。フロンタルは話を戻した。
「さてと、ゼウスに戻って再調整だ。残りの技術班をゼネラル・レビルから呼び寄せて洗脳させて仕上げと行こう。事は急ぐぞ2人とも」
「あいよ」
「わかりました」
クスコ、マリオンともに頷いた。フロンタルはジオングを手に入れ、マリオン、クスコとゼウスへと帰投していった。その中でフロンタルはマーサの事を偲んでいた。
「(運の無い女性であったが、サイアムから託された私を世話しては目を掛けてくれた。悲しくは思う。だが、そんな貴女が世界の災厄になる姿を見るに堪えない。私が元より災厄としての全うする計画なのだ。私に任せて貴女には眠っていていただこう)」
ジオングはその後ゼウス内で整備されて赤く塗り直されることとなる。
* ルナツー 宙域 ジェリド艦隊 3.12
ジェリドはバウンド・ドッグで十数機もののジェガンを撃墜していた。傍にはエマとカクリコン、マウアーとそれぞれガブスレイに搭乗しては向かってくるロンド・ベルの部隊を撃退していた。
ジェリドの顔が強張っていた。理由は戦況にあった。ロンド・ベルのいくつかの艦艇がルナツーへ接舷されていたからだった。
事は1時間前、ルナツーは地球落下軌道への阻止限界点を越えて歓声を上げたが、ロンド・ベルの抵抗が止まない事に違和感を覚えた。
カクリコンとエマに偵察させてロンド・ベルの艦艇を拿捕すると作戦内容を暴露できた。
「ルナツーを細かく爆破して砕くだと!」
ジェリドがそう叫ぶとエマが対応を聞いてきた。
「どうするジェリド司令?」
「どうも何もやらせる訳にはいかない!地球を潰して休ませて、オレらは地球という概念から抜け出さなければならないんだ」
カクリコンがため息をつく。
「全く、ティターンズの当初の概念は何処へやら・・・」
マウアーも頷く。
「地球を守ってこそのティターンズなのにねえ」
ジェリドは激高した。
「やかましいわ!シロッコの理念にオレたちは賛同したんだ。最後までやり通す」
エマが頷き話す。
「そうね。ここまでの戦いも地球有りきで起きてきたことだものね。八つ当たりで地球には迷惑かかるけどこれで少しは平和になるわ」
するとカクリコンが気合いを入れた。
「よおーし!いっちょ邪魔してくっか」
するとカクリコンのガブスレイが傍のバーサムを引き連れて接舷しようとするロンド・ベルの艦艇を攻撃しに飛び出していった。ジェリド達も続いて行った。
先に飛び出したカクリコンがジェガン隊とぶつかった。
性能と練度の差は互角ですぐに膠着状態になってしまった。
カクリコンのガブスレイがモビルスーツ形態で敵機のリ・ガズィとぶつかる。
「このガンダムもどきめ!」
カクリコンが威勢よくライフルを放つがリ・ガズィは半身躱して避ける。リ・ガズィを操るはケーラ。ケーラは一応はこのガブスレイのパイロット技量を認めた。
「やるじゃない。もう少しズレていたら当たっていたかもね」
そのお返しにケーラもライフルを放つ。カクリコンはその攻撃を避けるが、ケーラは間髪無く3射してきていた。それも威嚇と直撃弾を予想して。そのうちの一撃がカクリコンのガブスレイを掠めた。
「うぐっ」
カクリコンに振動が走る。そこからは距離を保ちながら互いにライフルの応酬が続いた。
先に動き出したのはケーラだった。
「埒があかない。なら斬り込むまで」
ケーラはライフルをしまい、煙幕弾をカクリコンへ浴びせた。
「うおっ!」
カクリコンはモニターに映る白煙に戸惑いを覚えた。その瞬間次に見えたのはリ・ガズィの機体で至近だった。
「もらったよ!」
ケーラはサーベルでカクリコンのガブスレイに袈裟斬りを浴びせた。カクリコンは反射的にガブスレイの体を捻ったが右腕を持っていかれた。
「なんと」
カクリコンは態勢を整えることができなかった。間髪なくケーラの攻撃が続く。今度はケーラはカクリコンのガブスレイの胴体を蹴り飛ばす。
「ぐわあ!」
カクリコンは一瞬気が飛んだ。ケーラは再びライフルを構えた。相手は動くに動けない状況と感じた。
「これでジ・エンドだ」
ケーラはライフルの引き金を引こうとしたとき、ケーラのライフルが見事に狙撃された。
「やる!3時方向か」
ケーラはそのポイントから動く。傍にいた友軍のジェガンよりライフルをすぐさま調達し、その方向へ射撃した。変形したガブスレイが反撃射してきた。その射撃にいくつかのジェガンが小破した。
「やっぱりやる!あんな距離でジェガンを」
ケーラは傍のジェガンに撤退を促した。それにジェガンのパイロットは強気で言った。
「隊長!まだできます」
その意見にケーラが一喝した。
「バカ野郎!生き残ってこその物の種だ。上官命令だ!退くんだよ」
「は・・はひ!」
小破したジェガンらはケーラと残りのジェガンらの支援で撤退できた。カクリコンもそれまでには態勢を整えることができ、支援に来たマウアーのガブスレイと合流を果たしていた。
「すまない。マウアー」
「大丈夫か。カクリコンは後方へ」
「わかった。先陣を思いっきって切り過ぎた」
「いいさ。勢いは肝心だからな」
カクリコンはお礼を言って部隊後方へと退いた。その後戦線はマウアー、そしてジェリド、エマと維持することになった。
1時間後、ロンド・ベルの艦艇のいくつかがルナツーへの接舷を許していた。理由は戦力差にあった。ルナツー方面のジェリド艦隊は再結集したロンド・ベル艦隊の2分の1にも満たなかった。
それでも阻止限界点の突破を許すまでは防衛できた。ジェリドもそれで十分だと考えていた。その想定を超えた事には対応はできない。
ジェリドは対応に迫られた。あくまで阻止の為に玉砕をするか、この場を退いて落ちるルナツーをどんな形であれ見届けるか。その時シロッコの訓示を思い出した。
「オレたちが新しい世界の作り手、担い手になるんだ。どんなにカッコ悪くても生き延びる」
そう独り言を言うと、エマに通信した。
「エマ!」
呼び掛けると音声だけでエマが出た。
「何!ジェリド!今手が離せないの!」
エマは単機で複数機のジェガンと渡り合っていた。そのままジェリドは言い流した。
「全員にルナツーから撤収のサインを告げろ。進路は地球を迂回して敵と逆進方向、シロッコ艦隊へだ」
エマが辛うじて1機撃墜すると変形して急速離脱を図った。追撃するジェガンはその速度に追いつかなかった。そしてエマはオープンチャンネルでの撤退信号と並び信号弾を放った。
するとカクリコン、マウアーと気付き、ジェリド艦隊は一目散に乱れ乱れて撤退していった。その姿をラー・カイラム艦橋で見るブライトは「むやみに追う必要はない!目の前のデカブツだけに集中しろ」と告げ、全機、全艦艇を持ってルナツーを粉微塵に砕くことだけに専念した。
ジェリドはある程度離れたところで再結集を図った。すると3人と共に残軍がやってきたが、アレキサンドリア級が僅か3隻、モビルスーツに至っては14機だった。
「(何とまずい戦をしたのだ。艦隊の3分の1もない)」
後悔はしたが起きたことを取り戻すことはできない。取りあえず今できることにだけ力を注ぐことにした。
合流を果たしたジェリド残存艦隊は全機を収容し、交代要員を当番で取り決めては部隊の休息に充てた。最も食べて寝るだけだったが。
食堂内にジェリド、エマ、カクリコン、マウアーと揃っていた。ジェリドが話し始めた。
「シロッコらの戦場に辿り着くにしても半日は要する。休養に十分な時間だ」
するとエマがある映像を持ってきた。
「皆が一番知りたい情報だと思って持って来たわ」
カクリコンがほうけて質問した。
「一体なんだ?」
マウアーは呆れてカクリコンをたしなめた。
「今まで私たちは何をしていたのかしらね」
「あー!」
カクリコンは思い出したように声を上げた。ジェリドは気にせずエマに映像を回すよう告げた。
するとルナツーが映し出されていた。
「おー」
カクリコンが再び声を上げた。他の3人も見入る。いくつもの貼り付いたロンド・ベルの艦艇が見えた。阻止限界点はその物質の質量によるもので艦艇クラスではまだ重力に負けることのない距離だった。それでもリミットはあった。
映像の10分後にはロンド・ベルの艦艇らが全てルナツーより離脱した。するとルナツーは四方へ亀裂が走り割れる。その割れた1つずつにも更に亀裂が走り割れる。それが延々と繰り返された。
結果、大気圏内へ到着前に艦艇クラスまでの石ころになった。が、それが地球の大気圏内で燃え尽きるに少々及ばなかったものがかなりあった。
ルナツーの落ちた付近はアメリカの穀倉地帯から太平洋を渡りチベットまで降り注いだ。そこらに無数のクレーターができる始末になった。それでも地球には甚大な被害を与えることとなった。資源、人的にも。
エマはその後テレビチャンネルへと変えた。すると報道でこのルナツーの落下について特集していた。
その後政府情報筋からもう一つの隕石落下の方が報告されているとの情報が報道されていた。これにより地球がようやく騒ぎ出した。
今回の出来事が牽制になると4人は思った。シロッコが全て読んでいたとも思った。
マウアーは身震いをした。
「しかし、シロッコ将軍は恐ろしい」
マウアーの呟きにジェリドが尋ねる。
「何故だ?」
マウアーはジェリドを見て自分の考えを話した。
「マスコミをも戦略的な要素に入れていた。当初3方向からの隕石落としだ。最短はソロモン、次にア・バオア・クー、そして一番遠いルナツーだ」
3人とも頷く。マウアーは話続けた。
「しかしア・バオア・クーが残った。ルナツーを先に落としておいて」
「それがどういうことなんだ?」
カクリコンが説明を求めるとマウアーが話した。
「ソロモンは軍への牽制。ルナツーは世論への牽制。本命はア・バオア・クーなんだ。将軍の狙いは隕石落としよりも地球の危機を知らせたかった」
エマは複雑な面持ちで疑問を呈した。
「何故、隕石を落としたいのにわざわざ落とすぞ!って知らせたいのかしら?」
マウアーは考えてゆっくり話始めた。
「おそらくは・・・あまり犠牲を出さずに済ませたい、そして一致団結させたい、地球に居てはならないよという警告、というか地球から外に目を向かわせたいという話か、あー!分からない!」
マウアーが頭を掻きむしって抱えた。カクリコンがコーヒーを口にして思った事を述べた。
「でもさあ~、完全に八つ当たりだよな?」
「何がさ?」
ジェリドが聞いた。カクリコンはジェリドを一目見て天井へ目を向けた。
「地球へさ。なんか全てが地球を出汁にしている感じがあるねえ。オレにとっちゃ今まで地球があるから起きた問題で、地球がなければ別に考えが向くような感じで将軍が地球を壊そうとしている気がしてならない。まっ、それも一つのアイデアなんだろうけど、地球が不憫だねえってことよ」
ジェリドも考え込んで、カクリコンの意見に同意した。
「・・・確かにな。しかしシロッコがこの辺で地球に休んでもらおうと思ってやっていると考えては?地球に人が居なくなれば、時間が地球を癒してくれるだろうよ」
「それも利己的なんさ。多角的に考えても人の都合など利己的なんだ。そんな事で地球を潰すなんて考えてもいいのかなってね」
4人共考え込んでしまった。
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