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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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41話 ア・バオア・クーの戦い① 3.13

* ア・バオア・クー宙域 パプテマス・シロッコ 3.13

既に戦闘態勢が整い、直ぐにでも火花が散りそうな両軍の距離の前線で1機のモビルスーツが鎮座していた。その後ろにはア・バオア・クーと自身の艦隊が展開していた。

その機体の名はジ・O。パイロットはティターンズ最後の司令官パプテマス・シロッコだった。
彼の目の前にはカラバの艦隊とネオジオン艦隊、そして各々のモビルスーツ部隊が展開していた。

シロッコ側が戦力で言えば倍近くある。そして隕石落としは云わば籠城戦だ。
城を攻め落とすには古来より3倍以上の兵力差が有って挑むものだと言われている。

圧倒的な力の自分に立ち向かうカラバ、ネオジオン、またはロンド・ベル。どれもがかつては敵同士だった関係が味方として手を取り合っている。その決意が揺るぎないものにする為には共通した強大な敵に立ち向かう必要性がある。

「・・・人類は組織的なしがらみを潜り抜けて、再び思想というモノの名の下集まった。これが本来忘れていたものだ。大切な事だ。それを気付かせてくれたのは私も含めた時流によるものだ」

そうシロッコは独り呟いた。そのシロッコの前に3機のモビルスーツが現れた。Zガンダム、νガンダム、サザビーだった。勿論乗るパイロットの面子はカミーユ、アムロ、そしてネオジオン総帥のシャアだった。

カミーユがシロッコに話し掛けた。

「初めましてですね。シロッコ将軍。オレはカミーユ・ビダンと言います」

カミーユの力を測れるほどの機体性能と自身の力を持ち合わせていたシロッコは話し掛けてきた者の存在を対等と認めた。

「成程、カミーユ君。さて余り時間は無い。3者とも出てきたからには話があるということなんだろう」

シロッコは敢えて3人のモニターへ直接回線を開き姿をさらした。3人とも各々ワイプモニターを映し出してほぼテレビ会議の様な仕様になった。その状態を見たシロッコは頷いて話始めた。

「後はアムロ・レイにシャア・アズナブルか。私がココにいることはワナだということを承知しているわけだな」

アムロはシロッコの話に頷く。

「魅力的過ぎる囮だ。しかし手は出せない。貴方は鶴翼陣形で進軍している。もし我々が貴方を追い求めて部隊を動かせば・・・」

その後シャアが話す。

「あっという間に包囲殲滅。そんなことは誰もが知っている」

シロッコは一笑した。

「フッ。ということは話というのは別件だな。我々で話を付けようということか・・・。しかし3対1は中々卑怯だな」

アムロは首を振った。

「どうとでも言えばいいさ。貴方が起こした動乱が地球の体制を変えてしまう。ルナツーは辛うじて地球に致命傷を与えることはできなかったが、環境破壊と多数の地球に住まう住民に被害を及ぼした」

再びシャアが話す。

「その余波で地球からの離脱者が多数現れて地球を棄てる意識が高まった。我々には嬉しい話だがな」

シロッコがシャアの発言を取り上げた。

「それならばシャア。何故私の味方をしない?」

「投げやりで無責任だと思ったからさ。統率する者は先んじて事業計画を練って導いていく義務がある。お前のやり方の失点はそこにある。ギレンでも愚鈍な政治家でもやっていたことだ」

シロッコは虚を突かれた気分になった。シャアという人物を余り知らずにアムロらと同じく熱い人物と捉えていた。シャアはどうやら文明人して生きていく上でのプロセスを大事にする人物らしいと初めて知った。

一方のアムロもシャアの発言にこの世界のシャアは自分の知る違うシャアだと感じていた。恐らくはララァの様な存在を失うことなく、悲観することなく、ただ何を為していけば良いかを純粋に良い方向で考えていける人物へと成長を遂げたのだと思った。

「(人は些細なきっかけでもここまで変われるものなんだな)」

そうアムロは嬉しく思えた。何分(なにぶん)命を狙われ、そこまで恨み思われていた自分が、その宿命の相手について何も思わない訳が無かった。前の世界では救えなかったシャア、自分の想いが今少し晴れたような気がした。

シロッコはため息を付いた。3人に本当の事は伝えられない。この性急さには理由がある。
フロンタルとメシアだ。

彼らはこの世界的な事件を高見の見物に決め込むつもりだ。フロンタルは計算内だ。メシアは計算の外に出てしまった。この世界の想いが束になっても敵わない。力で対抗する次元でない。

そのため息を3人が見て、シロッコは内心ハッとしてしまった。表情には出さないところがシロッコだった。

「・・・もう少し簡単な理由で戦いをしてもらいたいものだ」

そう言って思いを濁した。それを3人には何とか悟られなかった。
カミーユがシロッコへ話し掛けた。

「貴方は、どんな簡単な理由で地球を壊そうと、人を不幸にしようとしているのですか?」

シロッコは自分のペースに乗ってきたカミーユに悪役らしく対応した。

「そうしないことが不幸なのだよ。今までの厭戦も目覚めない地球に居るという特権意識が私の様な者を輩出したのだ」

カミーユは眉を潜め、矛盾を突いた。

「言い方が可笑しくありませんか?地球特権意識を持つティターンズに所属する将軍であるパプテマス・シロッコが地球を壊すなど!」

「フフッ、ティターンズも一枚岩ではないのだよ。組織など右に寄る者が有れば左もいるということだ。私は結果地球から巣立つ必要性を感じたのだ」

「なら!何故・・・貴方だけで良いだろう!」

シロッコは笑った。

「私はどちらかと言えばそちらのシャアの様な立場を自称している。事は私一人でどうにかできる様な問題ではない」

シャアはそこで一つ呟く。

「性急でお粗末だ」

シロッコも同感だと思った。本意でないからだ。カミーユはシャアの助け舟を乗る。

「ああ、性急でお粗末だ。貴方の様な優秀な方がそんな事を計算できない訳が無い」

シロッコはそんなカミーユの質問にもサラッと回答した。

「そう冷静に考えることで世界が変われるのか?」

「落ち着いて考えないと良い答えも出せないでしょ」

「落ち着いて考えた結果がこの状況なんだよ!」

シロッコはいきなり吼えた。カミーユはビリッと威圧された。

「今まで消えていった政治家らや有力者らは皆冷静に物事を運んでは最悪な方向へと進んでいった。そして舵取りは消えて、漕ぎ手がいない舟を各々が話し合いながら、探り合いながら進んでいこうとする」

「そうだ。それでいいじゃないか。相談して解決する。やっと世界が皆同じテーブルにつけるんだ」

カミーユはシロッコが語る世界の現状を肯定する。それをシロッコは否定した。

「船頭多くして船山に上る。それではこの広大な宇宙で路頭に迷う。覚悟の上でも世界に一石を投じねばならない」

「石にしてはデカすぎるだろ!」

カミーユは陳腐な切り返しにシロッコは一笑し、再び厳しい表情になる。

「確かにな。だが冗談ではない。最早人類はチェックメイトなのだよ。地球で、暖かな土にぬくぬくとしている、その想い出から抜け出せない人類に誰かが荒療治をかって出ないことにはな。後戻りは退化だ」

「何を慌てているんですかシロッコ将軍!」

「・・・これが好機であって、私が為すべき事なのだ。これを回避してはもう私は何も力になれない」

カミーユはシロッコの焦りが見て取れた。ある程度まとまりつつある地球圏の勢力はとても危ない均衡の上で成り立っていることはカミーユは知っていた。それをシロッコは言いたいのだろうかと思った。
だが何かしっくりといかなかった。

シャア、アムロはシロッコの言から考えていた。この7年で争ってきた者達が手を取り合って仲良くしようなどという理想を語るには難しいことだと。大事な意思はシャアやアムロではなく、一下士官であって、それを支持する市民、政体にあるからだ。

ジオンのせいで、連邦のせいで不幸になった者達との関わりが戦後待っている。

この戦いは結束の面で必然的だと。純粋に地球を侵略してきた敵を人類が守る、のような構図をシロッコは提示していた。

アムロはシャアに話しかける。

「シャア、オレたちが正義の味方らしい。シロッコは侵略者だ」

シャアはアムロの言いたいことに頷く。

「そう言う構図を彼を提示している。彼を倒して終いだな」

シャアがそう言うと、カミーユが苛立って2人に声を掛けた。

「ちょっと待ってください!」

カミーユの呼びかけにシャアが答える。

「どうしたカミーユ?」

「彼の言葉・・・彼のテンションが全く食い違っています。彼は真意を語っていない!」

カミーユの声にシロッコは一方的に通信を止めた。

「では戦うとしようか」

「ちょ・・シロッコ!」

3人のモニターからシロッコのワイプが消えた。3人の目の前に映るのはジ・O。そのジ・Oが左手を挙げた。すると軍が一斉にゆっくりと進軍してきた。

カミーユは憤り、アムロとシャアは目の前のジ・Oに目がけて射撃を始めた。シロッコはそれを難なく躱す。シロッコもライフルで応戦する。カミーユだけがその場から動かず、アムロとシャアはその射撃から回避行動を取っていた。

その1つがカミーユの直撃弾として向かってきた。アムロ、シャアもその弾がカミーユに直撃すると直感で分かった。

「避けろ!」

「何しているんだカミーユ!」

2人して叫んだがZガンダムは動かない。そのビームの軌道がZの直前に来て直角にズレた。それを見たアムロ、シャア、シロッコは驚愕した。Zの周囲に何らかの磁場が働いていた。物理法則を無視する力だ。

シロッコが目を凝らしてZを見た。何とか薄っすらとフィールドが見えた。そして違和感を覚えた。

「(可視困難な力・・・まさか、彼も人外の力を得ようと・・・)」

シロッコは舌打ちした。この先禁断の領域に人が踏み入れたとき、滅ぶかその人自身が消えるかの2つに一つだとシロッコは考察していた。

「(メシア・・・これをどうみるか?)」

シロッコはチラッと後方の艦艇を見ては再び前へ戻す。すると目の前へと接近してくるνガンダムとサザビーの姿が見て取れた。両方ともファンネルとライフルを用いながらジグザグに射線を絞らせないようにジ・Oへ接近してきた。

「(流石エース!)」

シロッコはライフルで両者のファンネルを的確に撃ち落とし、その間も彼らの接近を阻む様に威嚇射撃をこなした。それを見たアムロとシャアはシロッコの戦闘能力に驚いた。

「(まさか・・・)」

「(ここまでやる奴とは)シャア!」

「分かってる。ええい!」

シャアは単機で速度を上げて、アムロより先行した。戦法を変えてきたことをシロッコはシャアに意識を向けた。シロッコのライフルの2射でサザビーのシールドを破壊した。シャアはダミーを放出しながらジ・Oの懐へと接近した。

「(獲れる!)」

シャアはサーベルでジ・Oの横腹を薙ぎ払おうとしたが、既にシロッコもジ・Oのサーベルでシャアのサーベルを受けていた。

「シャア!よくやった」

アムロがサザビー、ジ・Oの上部に躍り出ていた。同様にサーベルを握り、ジ・Oの頭上から打ち下ろそうとしていた。シロッコはライフルを持った手をアムロのガンダムの振り下ろす腕を阻んだ。その反動によりアムロのガンダムは後方へのけぞる。シロッコはその隙にシャアを追い詰めようとした。

「まずシャア、君からやらせてもらう」

シロッコはジ・Oの仕掛けのひとつ隠し腕を使う。突然出てきた腕にシャアは虚を突かれた。

「(やられる!)」

シャアは至近での隠し腕のもつサーベルが自身を貫かれるイメージを抱いた。
その時、ある機体のサーベルがその隠し腕のサーベルを受けた

「なっ!」

シロッコは驚く。そこにはカミーユのZガンダムがいた。幽霊の様な気配で誰もが気が付かなかった。
その隙にシャアは離れた。シロッコは認識したZに攻撃を仕掛けた。

何合もサーベルを合わせてシロッコはカミーユの実力を知った。そして安堵した。

「(取りあえずやれそうだ。問題は彼の過ぎた覚醒か)」

カミーユの攻勢にアムロとシャアが参戦する。シロッコはライフルを仕舞い、隠し腕と合わせて3つのサーベルを用い、3機を同時に相手をしていた。それにアムロ、シャアとも驚愕した。

「ここまでやるのか」

「ああ、シロッコという才能。規格外だ」

「・・・」

アムロとシャアは感嘆を漏らしていたがカミーユだけは別だった。彼の真意が知れないまま戦うことに苛立っていた。カミーユは意識をシロッコへと向けていた。サーベルを合わせながらも何かを読み取ろうとしていた。

そのプレッシャーにシロッコの心はざわついていた。

「(まずい・・・カミーユという少年は・・・)」

物事には順序がある。カミーユがスキップし、フロンタル、メシアに出くわすことは都合が悪い。
その焦りがカミーユに伝わって来ていた。

「シロッコ将軍・・・」

カミーユが呟き始めた。シロッコは答えない。

「カーディアスさんからフロンタルの存在は聞いています。貴方が諸悪の根源たるに得ない!それなのに!」

カミーユの発言にシロッコは頷く。カミーユはカーディアスからある程度の話を聞いているという事実をシロッコは今知った。その背景が有って純粋に自分の行動に疑問を持った訳だ。

シロッコはため息を付いて一つ本音をカミーユに語った。

「カミーユ君。一つ伝えておこう」

「なんだ!」

「君は独りでこの軍勢を相手にできるか?」

「無理に決まっている!」

「これよりの相手は独りでは立ち向かえることのできない。最早才能でどうにかできるものではない事態だ」

シロッコは3人の相手を防戦一方ながらも捌ききった。その時には中央部より増援部隊が到着してきていた。ジ・Oにしても三機相手での燃料の消耗は甚大だった。

「ギリギリだった」

シロッコはすぐそばにいたメッサーラで来ていたサラに前線の指示を任せた。

「サラ、君ならできるはずだ。教えた通りに彼らを窮地へ落とすのだ」

「かしこまりました、パプテマス様」

シロッコは自分の旗艦へ帰投しようと後ろを振り向いた。そこには肉眼でとらえられ程大きなア・バオア・クーが居た。

「(さてと、宇宙移民たちもこの事態をどう捉えるか・・・)」

サラの部隊の後方に各サイドのマスメディアが来ていた。シロッコはジャミトフ亡き後の戦闘から報道各社への規制を解いた。それよりも率先して報道するように促していた。

地球の最期、人類の巣立ち、地球回帰からの決別などなど、人類にとっての現在最高のテーマを報道へ提供した。予想通り食いつきが半端なかった。

* カラバ 旗艦 ラー・ヤーク 

ハヤトは帰投してくるアムロらの報告を聞き終わっていた。隣にカイ、ミハル、クワトロが居る。
他の面々はすでに出撃し、各部隊を指揮していた。

ハヤトは陣容を改めてモニターに見てはため息をついていた。

「勝てる戦・・・ではあるのだが、人道的ではない」

倍を有するシロッコ軍に対してそうハヤトが発言する理由をカイは知っていた。

「地球軌道艦隊が持っていた土産だろ?戦術核など戦で用いても良いことなど一つもない」

カイの意見にクワトロが頷く。

「同感ですな。ですが、それをア・バオア・クーに用いるのは悪くはないでしょう」

カイが首を振った。

「核の使用事態が最悪なんだ。ミハル」

「ハイ、こちらです」

ミハルより提示されたタブレット資料にハヤトとクワトロは見入った。

「報道規制が解かれている」

「ほう、そう来ましたか」

「ああ、共通な世論は核散防止だ。正しいと謳うならば核はもはや使えない」

カイが両掌を返して、ため息をつく。そして戦況図を眺めた。両軍とも鶴翼陣形を取りつつ戦闘していた。そのため中央部が空洞化し、総力戦という状況ではなかった。それもア・バオア・クーの前進と共に崩れていくことになる。

「両翼ともに技量で補っているため、押し込まれもせず押し込みもできてないな」

カイがそう言うとハヤトは頷く。

「ああ、現状は五分だが中央部の軍、いわゆるア・バオア・クーと共に動く敵本隊が厄介だ」

ハヤトがそう言い終えると、モニター通信でアムロが登場した。

「ハヤト、ひとつ提案がある」

「なんだ、アムロ?」

アムロが手元のタブレットを動かして、ブリッジにデータ通信した。

「メディアを利用して、核使用の正当化をこの時だけに限るんだ。現状地球無くして生計が立たない。シロッコはそれを考慮せず、犠牲を強いてでも自立を図りたい。それは地球を潰してまでもと」

カイは微笑した。

「お前も悪党になってきたな。オレは好きだぜ、そんな考え」

その通信にシャアとカミーユも参加してきた。シャアも最寄りの補給艦としてラー・ヤークを利用していた。

シャアがまず話始めた。

「私たち宇宙移民らには劇薬だ、アムロ。ガルマも私もそれでは後日の苦労が絶えない」

シャアの反論にアムロが代案を求めた。アムロは顔を顰めた。シャアは戦後のことを視野にしてはア・バオア・クーの落下すら計算に入れている。冷静さと冷徹さがあった。

「ならば、この事態の打開をどうするんだシャア」

「何も大々的に喧伝する必要ないことということさ」

シャアは秘密裡にやれと言っていた。カイは笑った。

「こりゃ、ここには悪党しかいないとは。で、シャア。一体どうしようと?」

シャアはワイプ越しに頷く。

「ええ、隕石内部から核を爆発させればいい。メディアが見てとれるのは戦況の外観だ。戦闘している内部までは見れない」

核の利用確認はカメラで捉えた爆発具合によるものだとシャアは述べた。カイは腕を組む。そして質問した。

「しかし、今のメディアに通じるか?」

「ア・バオア・クーの移動には核パルスエンジンを利用している。そして現に核の実質的な持ち主はティターンズだった」

シャアがサラッと答えると、ハヤトがボソッと言った。

「・・・誘爆と言い切る気か」

シャアはニヤッと笑った。

「ご名答。ア・バオア・クーにはティターンズの核がある、と世間に発信しておく。嘘か誠かはこの際どうでもよい」

アムロとハヤト、カイが「でもなあ・・・」と口を揃えて話していた。その後ハヤトが話す。

「こなす上でまず決死隊が必要だ。そしてある程度誤爆の可能性を示唆したい。内部事情に少しでも触れる組織、いわゆる連邦組織に近いカラバやロンド・ベルはやはり難しい」

シャアは「だから我々がいるのだろ?」と再びサラッと言った。

「ネオジオンなら共闘しようが、そこまでの内情は機密で調べようがなかった。隕石を止めるに動く動力の核パルスエンジンの破壊が急務。それによる隕石内のシロッコの核が誘爆、これが脚本だ」

シャアは他3人を黙らせた。3人とも深く悩もうが時間的猶予といい、代案が思い浮かばない。
3人とも頷きはしたが、返事はしなかった。シャアはそれで充分だった。

「では、レウルーラに戻らせてもらう。あとはこちらで勝手にやらせてもらう」

シャアはそう言い、ラー・ヤークから発艦していった。シャアの進む方向にはネオジオン艦隊がいた。
半数は片翼でガルマが陣頭指揮を執っていた。別動隊が既に分かれて、ア・バオア・クーへ向かっていた。ハヤトは軽く舌打ちをしていた。

「シャアめ。補給に来た以前に艦隊に指示していやがった」

カイもため息をつく。

「そうみたいだな」

アムロは急ぎ発艦許可をハヤトに求めた。

「ハヤト、オレの戦隊も急ぎサポートに入る。先手はいいが、あれではシロッコ本隊に潰される」

ハヤトはもちろん許可を出した。しかし、アムロの戦隊だけではなかった。

「アムロ、先行してくれ。しかしこの本隊も共に動く。総力で目標を仕留める」

アムロはハヤトの覚悟に微笑を浮かべた。

「了解だ。カミーユ、先に行くぞ。アムロ、ガンダム出る!」

隣り合って傍にいたカミーユのZをアムロは一目して発艦した。カミーユはアムロらの話には参加せず、別の想いに馳せていた。

「(シロッコの背後に躊躇いの、悩みのもやが見えた。アレの正体を探る必要がある)」

カミーユに発艦を求めるオペレーターの声が聞こえ、カミーユは我に返った。

「すまない。呆けていた。カミーユ、Zガンダム出ます!」

カミーユはカタパルトで射出されてから即座ウェイブライダーへ変形した。カミーユが周囲を見渡すと無数のゲタ(ベースジャバー)が浮いていた。発艦したジェガンらは即座にそれに乗り、先行するアムロのνガンダムを追尾していった。

カミーユはエンジンを上げて、アムロに追いつく。

「(この戦いの正体を暴かないと、何かが良くない気がする)」

そう曖昧な想いを抱いたまま、カミーユは戦闘に身を投じていった。


* ア・バオア・クーの後方宙域

そこには3機の機体が浮いていた。1機はジ・O、もう1機はユニコーン、そして巨体を浮かべるジオング。

ジ・Oに搭乗しているシロッコは神妙な面持ちだった。ユニコーンのメシアことララアは平然としており、ジオングのフロンタルは含み笑いをしていた。

「さてと・・・世界を握る者たちがここに一同会した訳だが・・・」

シロッコが先に話し出す。フロンタルがその後話し出した。

「これは計算外だった。と言えども常に計算など役立たないものだが」

そしてララアも話す。

「ええ、あなたたちにとってみればそうでしょう。人の身である者、造られた者は世界の合理性を持って存在している価値あるものです」

フロンタルがララアに尋ねた。

「あなたは?」

「私は世界にとってマイナスであり、プラスであります。世界の均衡はゼロでなければ世界が壊れます。私の存在がなくなる時、それは世界が安定したときです」

シロッコは黙っていた。フロンタルはララアの神格的発言にケチをつけてみた。

「例えば、私があなたをここで消そうとしましょう。何が起きます?」

「・・・世界が壊れましょう。マイナスがその存在のまま消えてしまってもバランスが崩れます。私はオーガスタのサナトリウムで世界との接続を行っていました。しかしながら、ここにいるシロッコに邪魔されました。結果、私自身への一通な世界との接続だけになってしまったのです」

「ふむ。もしシロッコの邪魔が入らなければ?」

フロンタルの問いにララアは少し間をおいて答えた。

「貴方は居なかったでしょう」

フロンタルは眉をひそめた。

「それはどういうことです?」

「・・・私の存在意義は世界の均衡の為。純粋なものにする為。私も含めて不純物たるものは取り除く必要があります。本来の道筋から逸れているこの世界はとても危ないのです。その調整をあのサナトリウムならば可能にできました」

「それならば、またオーガスタに戻ればよかろう」

フロンタルがララアに言うと、ララアは首を振る。

「もう既に時機を逃しました。あの時ならば手繰り寄せることのできた世界の糸は最早数々の出来事のズレによって無数の糸が混ざり合い、取ることはできません」

シロッコは2人の会話を黙って聞いていた。続けてフロンタルがララアに話す。

「仮に完全な貴女になりえたとして、何故私を消す対象となりえたのでしょうか?」

「見れば見えます。大枠をもってして整頓すれば貴方のような存在は整理対象でしょう」

「・・・確かに」

フロンタルは少し笑った。

「で、不完全な貴女はこれから何をしようと?」

「・・・私は感じ取れる範囲での人外の力を排除することしかできません。それも人の力で及ばないものしか手出しできません。確証ないことに動くに一体何を世界に及ぼすかが私にはわからないからです」

フロンタルは腕を組み思考していた。当然の質問をシロッコへ投げかけた。

「シロッコ、何故私にこの女史を会わせたのだ?」

シロッコは深呼吸をしてから答えた。

「今、現時点でお前を倒せる人はいない」

ララアとフロンタルはシロッコの話を静かに聞いていた。

「倒せる機会があったかと言えば・・・ありはしなかった。手順を踏む必要があったからだ。私なりに野心を持ち、人類を正しい方向へ導いていく、その標になれればと思い行動していた」

シロッコはモニター越しだが、ジオングとユニコーンを一目見た。

「メシアは、オーガスタにてサイコミュの研究をしていた。その成果は著しく、その果てに在るものを想像したときに寒気がしたのだ」

「ほう、寒気とは?」

敢えてフロンタルが相槌を打った。

「人類皆共感し合える世界だ。雑に言えば達観してしまうということだ。とてもつまらないと思わないか?」

ララアは微笑を浮かべた。

「・・・そこまではしません。ただ調整をしたかっただけです」

「神の見えざる手でか。人の行為に意思がなくなる」

シロッコが唸っていた。フロンタルは「なるほど」と頷いていた。そして自身のことも尋ねた。

「して、私はどうかな?」

「フロンタル。貴方はこのメシアと対極だ。人の怨念の集合体、その可能性は神の領域にあるかもしれない」

「買いかぶりすぎではないかな?」

シロッコは首を振る。

「私は見る目がある方だ。だから今日まで生き残ってきた。貴方の力とその望みをこの場で削りにきた」

フロンタルは首を傾げた。

「何故?貴方がこの私とやろうとでも?」

その回答はララアからもたらされた。

「フフ・・・私がフロンタルと戦うのね」

「というより、戦わざる得ないだろう」

シロッコはララアの言葉に重ねた。フロンタルも得心したような表情をしていた。

「やり方は違えど、目の前のガンダムもどきを倒せば私の願いが成就されるか」

ララアはフロンタルのジオングを目の前にして、ゆったりと緑白いオーラを出し始めた。

「世界の均衡の為に迎え撃つ必要に迫られた訳ですね」

2人の意見にシロッコは笑みを浮かべていた。

「そういうことだ。化け物同士で潰しあってもらう。私という一個人が仕掛けた人為的な戦いだ。互いに存分にやってくれたまえ」

シロッコのジ・Oが後ろを振り向きその場を去ろうとしたとき、ララアが一つ尋ねた。

「シロッコ、貴方はいつこの絵を描いていたの?」

シロッコは再度笑い、答えた。

「それこそ買いかぶりですね。状況を知れば、こんなひらめきは最近でも生まれます」

ララアはそれを聞いて、シロッコへこう答えた。

「分かりました。貴方は人でした」

シロッコはララアの言葉を聞いて、ア・バオア・クーへ戻っていった。


* ア・バオア・クー宙域 

カミーユがアムロを抜いては突出して前に出ていた。カミーユの早業は神懸かっていた。
再三のアムロからの連携要請もカミーユは断っていた。

「軍属の戦いではないんですから、アムロ中佐。オレはシロッコに会う必要があるんです」

カミーユがそう言うとZが更に宙域の奥へと進んでいった。最早アムロの声も届かない。

「仕方ない。オレたちの編隊だけでア・バオア・クーにとりつくぞ」

「了解!」

アムロのνガンダムとジェガンらはシロッコ軍のマラサイらを蹴散らしてア・バオア・クーへ肉薄しようとしていた。

カミーユが思うがままZを走らせているとまるで運命の如く、目的の人物に会うことができた。

「シロッコ!」

「む!カミーユ君か」

Zはモビルスーツ形態に戻っていた。目の前にジ・Oが居る。

「シロッコ将軍。あなたの真意を知りたいんです。貴方はそれほど悪いひとではない」

シロッコは高らかに笑った。

「馬鹿な!私以上の悪人がどこにいる?破壊の限りを尽くし、尚地球を潰そうとしているのだぞ」

カミーユは首を振った。

「それは・・・全て演技だ。殺された方にとっては迷惑だがな。将軍こそが万人に叡智を与えることができるひとだとオレは思う」

「なら同志になれ」

「それはできない。将軍が主役に立たないからだ。まるで世捨て人のようにも感じられる」

シロッコはカミーユを目の前にして目を瞑り考えていた。

 
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