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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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39話 持て余る力 3.11&12

 
前書き
特別まとまりなくても良いと最近思えて書いています。
自然体な感じになるかなと。登場人物にしろ人ってそれぞれ価値観違いますから。。。 

 
* 地球軌道圏上 ラー・ヤーク 艦橋 3.11

主たる面々が顔を揃えていた。ハヤト、アムロ、ベルトーチカ、カイ、ミハル、カミーユ、コウ、キース、ユウ、バニング、ベイト、アデル、アレン、そして新たに加わったクワトロと秘書官兼親衛隊なるシュナイダー、ミーシャ、ガルシア、バーナード・ワイズマン(通称バーニィ)と首都防衛隊のクリスティーナ・マッケンジーと大所帯になっていた。

ミケル、キキのシローにゆかり有る者達、そしてシナプスは地球での残務処理の為同乗しなかった。

その中でクワトロが話し始めていた。通信モニターでフォン・ブラウン市のアナハイムのある研究施設と繋がったままで。そこにはアムロの父親テムとオクトバーが映っていた。

「さて、ソロモンが地球への進路をとっていることについて・・・」

クワトロがテムの画面を2分割にして戦略図を映し出した。

中心に地球、傍に連邦の地球軌道艦隊とネオジオンの艦隊、そしてラー・ヤークらの部隊。ソロモンとティターンズのシーマ艦隊、傍にブライトのロンド・ベル迎撃艦隊。ルナツーとティターンズの艦隊。

各宇宙要塞は地球を中心にトライアングルな構図でその中でソロモンだけが一つ抜き出て地球へ接近中だった。

「ティターンズの暴走による隕石落としと言っていいだろう。これは進路と速度を持ってして疑うことをする事態を考慮に入れている猶予はない」

アムロが頷く。

「そうだな。あっという間に阻止限界点を突破してでもされたら元も子もない」

地球の引力に如何なる脱出策も効かなくなる限界点。だが・・・

「それはソロモンがそのままであればという話だろう」

テムがモニター越しで発言した。クワトロも同感だった。

「私が仮にそれを実行に移したとしたら・・・」

クワトロの言葉にアムロの眉間が軽く歪む。

「一番恐れるのは推進力の停止か隕石の体積減少にある」

一同の中でキースが首を傾げ質問した。

「あの~、推進力の停止は分かりますが、体積の減少って?」

コウが代わりに説明した。

「地球へ様々なデブリを今でも落としているのは知っているよな?」

「・・・ん?」

「大気圏の摩擦熱は尋常でない。モビルスーツなど消失させるほどだ」

「あー!成程」

キースが合点がいったようだった。テムが話し始める。

「そうだ。古来より地球はあらゆる隕石から守られていたのは大気層の為でもある。それを突破するような質量には地球は直接ダメージをもらう」

一同が頷く。アムロは昔を思い出していた。そうアクシズの落下のことだった。
あのときもブライトが接舷して破壊工作を行った。それは失敗に終わったのだが。

「・・・その轍を踏むわけにはいかない・・・」

アムロの呟きをベルトーチカだけは聞いていた。

「(一体何のこと?)」

ベルトーチカはアムロにバレない様に横目で見ていた。テムもクワトロの提出した戦略図を眺めていた。

「クワトロ君と言ったか?」

テムの唐突な呼び掛けにクワトロはモニターのテムを見た。

「何でしょうか?」

「有事をソロモンだけに限定するのは安易でないのかなと」

艦橋にいる皆がざわついた。カミーユはテムの危惧することを口に出した。

「ティターンズの首脳部が全て消えた訳じゃない。パプテマス・シロッコのことを言いたいわけですね」

テムが頷く。テムもアナハイムを介して連邦の内情を仕入れていた。それが商売に繋がるためでもあるから故に仕方ない話だった。

「洞察素晴らしいですな、お若いのに。流石z(ゼータ)の設計先任者だ」

カミーユは首を振り、謙遜する。

「ガンダムの第一人者に言われ光栄です。それぐらいならこの場にいるもの大体が気付いています。それがこの動揺ですよ」

テムは頷く。

「さて本題に入ろうか。何故私らがこの第一線の戦場に立つ君らのブリーフィングに通信ながら呼ばれたか」

そうテムが言うと、代表してハヤトが話し始めた。

「想定の下、ソロモン級の隕石を如何に効率よい爆破を仕掛けるか。それも対象物の内と外での対処。計算を弾き出してもらいたい。ここに居るパイロットらよりも遥かに優れる技術者としての力を地球の為に助けてもらいたい」

テムは少し笑った。それに対して幾人か嫌な顔を見せた。その行為に即座にテムが謝罪する。

「申し訳ない。地球を守りたい、守りたくないがスペースノイドとアースノイドの戦いの一つの考え方だとふと思ってね。・・・母なる地球がそれほど人類にとって大事なのかと。まあ何でも人の手で壊そうとする意思は基本良くはない」

全クルーが黙ってテムの意見を聞いていた。

「シロッコという者の驕りというものかな。人は何らかの形で依存できるものを求めてしまう。かくも私もアナハイムという受け皿に身を委ねてあまり何も気にしないでいるようにいた。・・・万事が本当はどうでも良いことなのだ。それを放って置かない奴らが問題があるのだと私は考える」

地球を壊そうとする意思を持つ者、理由が在れどそれはするべきことでないし、別の事に目を向ければ良いことだとテムは意見の1つとして考えていた。アムロも父親の意見に甚く同意した。

「親父の言う話が最もだ。やり方の強引さの多くは不幸へ導く」

テムは息子の意見をたしなめた。

「アムロ、その考え方も人を不幸にするぞ」

アムロはムッとした。

「親父はシロッコがやろうと思う行為が正しいと!」

「全て正しい訳じゃない。視方の違いなんだよ。良し悪しは全て結果を見なければ答えは出てこない。万事どうでも良いなど私が思うだけであって、それは傍観、停滞を意味する。進化に停滞など有り得ない。そこの周りにいる人たち全員がどう思うか、考えるか、これが大切なんだよ」

アムロは頭を掻きむしった。そしてテムに詰め寄った。

「じゃあ親父は地球に隕石が落ちて住めない星になっても一つの選択だというのか!」

「起こり得る1つの選択肢だ。やる側の、そこまでのリスクを負ってまでのことについて何らかの理由を考えたことはあるかい?」

アムロはテムの言うことに言葉が詰まった。ただ破壊が正しいことではない一辺倒でしかなかったからだった。傍にいたクワトロは厳しい表情でテムを見ていた。テムは嘆息した。

「困っているひとを助けたいので動いているならば、そんな彼らを救ってやるための戦いだということも知って戦うことだな。首尾よく全てを綺麗にした後何も残らないぞ」

クワトロはアムロの現状での限界についてテムが良く説明したと思っていた。アムロは大人すぎた。まだカミーユの方が純粋でいる。力を持つ者がそれを避けて通ろうとすることをアムロは実践してきた。それは社会的には非常に迷惑なことでもあった。

組織は優秀な人材は上にあるべきである。それが世の為だ。逆はそれこそ不幸でしかない。

ハヤトは親子の話から強引に本題へと戻した。

「レイ博士。話が脱線してます」

「おっと、失礼。私らで効率良い、爆破計画を練っておきますよ。爆薬は大丈夫ですか?」

「問題ありません。現在地球軌道艦隊へ合流する途上です。そこでネオジオンとロンド・ベルが艦隊再編を行っております。爆薬の供与も打診済みです」

ハヤトはテムの質問に即答した。

「理解しました。ではまた後程」

テムとの通信が終わった。アムロは複雑な面持ちだった。ベルトーチカは心配そうにアムロに声を掛ける。

「アムロ・・・」

その声にアムロは目を瞑り小さく嘲笑していた。ハヤトは詳細を詰めて皆に話をし、その場は解散となった。その後カミーユ、カイがアムロへ声を掛けた。

「厳しい人ですね。壊すことは良くないが、壊すことの理由を知れなんて」

「しかしながらあんなにハッキリ言う人とはね、お前の親父さん」

アムロは苦笑した。カミーユとカイの気遣いを快く受け取った。

「有難うカミーユ、カイ。無理難題を解決してきた親父だ。それぐらい思慮深くなれという話だろうよ。実際にはできやしない。が・・・」

クワトロがアムロの下へ歩み寄り、アムロへ語り掛けた。

「できないことをやらないのとやるとでは経験に差が出るだろう。アムロ、君は避けてきたことをすべき時なのだ。そうでなければ再び惨事を起こす要因になる。私のせいでもあるがお前自身の原因とも考えたりはしなかったか?」

アムロはクワトロ見ては目を逸らす。そしてアムロはクワトロの意見に軽く反論した。

「・・・だからあの時は止めた。歯がゆさに暴力で訴えては・・・ならないと」

「だがお前は反対するだけで何か代案があったか?」

「・・・」

「それもいいだろうが、確固たる意思、信念を持って動く者達を止める為には言うことを聞かないから同じ力で止めるようではお前も同じだ」

「オレはそれ程大したひとじゃない」

「そう思っているのはお前だけだ。ここのクルーは皆お前のことを大した存在だと思っている。カミーユ君もな」

クワトロの話にカミーユは頷く。一体どこまで理解しているのかはアムロには不明だったが、恐らくは端々の話の流れを感性で汲み取ったに違いないと思った。カミーユは優れたニュータイプであるからだ。

「アムロ中佐。貴方の存在は皆のシンボルでもあります。ハヤトさんも同じです。道を択ぶにしろ確かに大事ですが、選ばないことはしないでください。勿論オレも選びます」

カミーユがテムの言葉を借りて言った。そこでアムロは逆に尋ねた。

「カミーユ、君は何を選ぶ?」

「オレは・・・パプテマス・シロッコを・・・彼と話をします。選んで答えを出すに過程が必要です。1つ1つの行動が1つ1つの答えを導き出していくと思います」

アムロは「そうか」と一言言った。カイもアムロの姿勢の半端さを弾劾した。

「アムロ、今までの戦いも守るというよりはお前がただ守りたいものを守っていただけだ。だからお前は本当に守らなければならない。それが何かはお前が選べ」

「カイ・・・キツイな」

「オレはジャーナリストとして仕事をしてきた。ちゃんとな。人は影響ある立場まで上り詰めて逃げるようでは世界の害だ。人である限りは務めを果たす時がきたんだよ」

アムロは答えなかった。今はまだ答えが出せなかった。正論の上に犠牲が成り立つと思えない。已む得ない犠牲にしろ最小限の痛みばかりを探していた、しかしそれが正しいかどうか、とアムロは自問自答していた。



* シロッコ艦隊 旗艦内 格納庫 3.11 23:00

モビルスーツが数多く並ぶ中で人だかりができていた。理由はその人だかりの光景の中にライラを始め、数人瞳孔を開いたまま倒れているものがいたからだった。

その人だかりの中央にはマスクを外したララァことメシアが立っていた。そのメシアに周囲のクルーが銃口を向けていた。そしてそのメシアに対峙してシロッコとその袖に隠れるようにサラがいた。

事はメシアがシロッコの乗艦する艦へ戻って来てから起きた。メシアの搭乗しているユニコーンが着艦し、メシアが降りてきたところからだった。ライラはメシアの独断による総旗艦ドゴス・ギアの撃沈、地球への降下並び宇宙へ舞い戻る人智を超えた力、それに恐れ問いて強迫した。

メシアはそれを嫌い無視をしたが、ライラがそれを許さず殴ろうとした。そこでメシアは自己防衛本能が働き、視えない力でライラを窒息させた。それに恐れた周囲の取り巻きがメシアに銃口を向けて放った。その者達もメシアは同じく窒息させた。その光景に艦内が混乱し、シロッコが到着した流れだった。

シロッコは複雑な面持ちで言葉を選んでメシアに話し掛けた。

「・・・目的は?」

メシアはクスクスと笑い出した。その笑い方が妖艶で全てのひとが息を飲んだ。1年戦争時代のララァと比べてもう大人の女性としてメシアは体つきから全て成長していた。

「目的ですか?それは貴方が私を攫った時に知っていたでしょう」

「明確には分からん。貴方が人類にとって危険な存在だということか」

「私はそうは思っていません。世界の調律をするものが私なのです」

シロッコは唸った。メシアは平然としている。メシアは続けて話す。

「・・・この世界の権力者たちは勿論貴方も含めてね、調律をしない。といいますか、やり方をご存じないのです」

「人の限界だというのか」

メシアは頷く。

「そうです。理を知る者は人では耐えられません。救世主たるもの、森羅万象により選別されたものでなければなりません。それに選ばれる理由は私にもわかりません」

「何故だ。貴方は選ばれし者なんだろう?」

メシアは首を振る。

「自然の力を物事の事象を測り()ることは、明日貴方が朝この時間にコーヒーを飲むことを知る事同義です。結果が私なのです」

シロッコはため息をついた。その行為が周囲の緊張を少し解いていた。シロッコは腕を組み、少し考えてから再び尋ねた。

「理とはニュータイプが起こすであろう事象の最果てか」

メシアは微笑み答えた。

「ええ、そう例えて良いでしょう。人を超えた人は人ではありません。その力を持て余し暴走してしまいます」

「貴方はそこに介入すると?」

「それが世界の意思です。全てはバランスの下。奇跡とはその瞬間に起きるもの。それが継続的に、持続的に起こることは均衡を壊します」

「で、現状は貴方から見たらどうなのだ?」

メシアは真顔でシロッコを直視し答えた。

「7年前からバラバラになっていたピースが1つに集まりつつあります。人、物、思想と全ての流れが1つに」

「確かにな。この地球圏でも地球軌道上が最後になるだろうと私は考えている」

「ええ、決着の時と言っていいでしょう」

シロッコはゴクリと唾を飲んだ。メシアが話続ける。

「私はその行く末を静観させていただきます。但し・・・」

「但し?」

メシアの眼がきつくなる。

「人の限界の中で事を済ませる事をお勧めします。勿論束になって起す奇跡ぐらいならば大目に見ましょう。事象の地平を超えるようならば容赦はしません。世界は穏やかであるべきなのです」

シロッコは組んだ腕を指で軽く叩いていた。

「・・・貴方も含めて、アムロ・レイも違和感だと考えている。この世界のな」

メシアは感心した顔をシロッコに向けた。

「私を攫うだけのことがあります。世界の不純物を視るとは」

シロッコはメシアの言に頷く。

「そう。7年前からだ。違和感を感じた。その答えに辿り着くまで程々時間が掛かった。感覚と知恵だけが頼りだった。貴方が例える世界の不純物というものを利用して世界をより良い方向へ誘導していこうと・・・」

シロッコは一つ咳払いをして話続けた。

「あの当時の感覚はうっすらだったが、木星へ行く予定がここに残ることにした。それは乱世を感じたからに他ならなかった。私も野心がある。あの頃は若かった。が、ホワイトベースに乗っている時に徐々にその乱世が地球圏の危機と感じ始めた。背筋が凍る想いだったよ」

メシアは目を瞑り軽く頷く。

「やはり鋭い感性ですね」

シロッコはメシアの褒め言葉に失笑した。

「フッ、そこまで読み取る力が無ければ、既に地球圏など存在しなかっただろう。貴方も含めたオーパーツによって、地球圏が勝手に掻き回されて、塵と化していた」

「・・・」

メシアは黙っていた。シロッコは続けた。

「フロンタルにせよ、不純物の混ざり合いにより本来の純物が汚れてしまっている。それを掃除するのは私であり、この世界の住まう者たちだ」

メシアは不思議に思ったことをシロッコに尋ねた。

「私は貴方が天才だと思います。が、そこまでの答えを何故知っているのですか?」

「世界の黒幕と知り合いだからな」

「成程」

メシアはシロッコの答えに納得した。そしてメシアはシロッコに願い出た。

「さて、私の今の願いはここで事の成り行きを見守らせていただきたいだけです。いかがでしょうか?」

「断るといったら、この艦のクルー全て殺戮するのだろう」

シロッコの言葉に銃を構えていた取り巻きが動揺した。メシアは笑って答えた。

「ええ。私にとっては貴方などこの世界の障害にはならないと思っています。不純物の成果はフロンタルにありますから」

シロッコは片手を挙げて、周囲を制した。そして命令した。

「皆、下がれ。メシアを戦闘ブリッジへ案内する。彼女は軍籍でない。来賓として扱う。丁重にな」

取り巻き皆不服そうな顔をしながらもその場を散開していった。シロッコには逆らえない。
その結果にメシアは満足していた。

「フフッ、有難うございます、シロッコさん。・・・それと」

そしてメシアは付け足して述べた。

「私は願わくば調律者としての出番なく、事が静まれば良しと考えます。私を含めたイレギュラーは世界を大きく狂わせました。介入を強引には望みません。無責任と重々承知の上です。どうか解決に導いてください。無理そうならば・・・壊します」

シロッコはメシアに向けて鋭く睨みつけた。

「人の足掻きを見るが良い。この世界の始末は我々が務める。外野は高見の見物をしているが良い」

メシアはその挑発に笑顔で返す。

「ええ、喜んで」

メシアはそう言って、直ぐ近くのメカニックにユニコーンの整備を頼み、ゆったりとした足取りで格納庫より立ち去っていった。その後ろ姿をシロッコとサラは見つめていた。

「パプテマスさま・・・」

サラが終始不安そうな顔でシロッコを見た。シロッコは可愛い部下を慰めた。

「大丈夫だ。何もかもな。隕石を落とせば人は変わる」

シロッコは自身にもその言で慰めていた。まず変えなければと。その変化に応じてメシアの動きが決まる。もしかしたらその瞬間で世界が終わるかもしれない。辿る道は初心者がサーカスの綱渡りをするよりも遥かに険しいものかもしれない。メシアの基準が分からない限り、流れを身に任せる他なかった。


* ソロモン 宙域 ブライト艦隊 同日

戦況は芳しくなかった。理由はソロモンの速度が落ちないこと。それは前方のシーマ艦隊への攻撃がケーラ部隊の直接攻撃とスレッガー部隊の迂回攻撃を見事という程受け止めていたからだった。

ケーラ部隊にはシーマ艦隊のほぼ全軍。スレッガー部隊にはたった1機のモビルスーツに翻弄されていた。その報告にブライトは苛立っていた。

「正面!艦隊になるぞ。弾幕薄いぞ!何やってんの!」

ブライトの檄が飛ぶ。隣でメランが各戦隊へ連携の為に指令を出していた。

「艦長、タイミングはどうなさいます?」

メランがブライトへ確認を取っていた。それはソロモンの核パルスエンジンを壊して進路変更させる段取りのことだった。誘導弾でミサイルを撃ち込む。それもティターンズ艦隊からくすねてきた強力なものを。

事は単純なのだが、複雑にしているのはブライトの科白の通り艦隊戦になるからだった。こんな状態で撃ち込んでも100%撃ち落とされる。それでメランは確認していた。

「混戦に持ち込んで、モビルスーツ隊で道を作り、単艦で突破する」

メランはバカなとは言わなかった。メランもその方法しかないと考えていた。何せ時間が無い。
刻一刻とソロモンは地球落下軌道の阻止限界点へ近づいている。艦隊戦がソロモンが通過するところまでズレ込むようならば限界点を超えてしまう。が、単艦突破など撃沈の可能性が高い。

「こうなったら腹括るしかありませんな」

メランは諦めた様な声を出した。ブライトはマイクを使い、艦内放送をした。

「全乗組員に次ぐ。本艦は間もなく艦隊戦に入る。そこで本艦は全速で単艦突破を図り、ソロモンへ向かう。かなりの危険を伴う行為だ。ほぼ的になるようなものでもある。しかし、それしかソロモンを止める手立てがない。迂回部隊がソロモンの足止めに失敗している。命懸けの後詰となる」

ブライトは話す内容につれて声のトーンが落ちていった。

「・・・すまんが、皆の命をくれ」

この放送でラー・カイラムの全クルーが神妙な面持ちで腹を括った。

・・・一方、迂回部隊のスレッガーはシーマが操るパラス・アテネに部隊の半数を失っていた。

スレッガーのリ・ガズイもモビルスーツ形態になっており、パラス・アテネの機敏な機動性に照準が取れなかった。

「なんて速さだ。このリ・ガズイが走り負けている!」

そう感想をもらすスレッガーを後目にジェガンが次々と撃墜されていく。パラス・アテネのビームサーベルとライフルが宇宙に花火を上げていた。

この世界のパラス・アテネは重火器仕様でなく、とてもスリムな造りをしていた。寸分の移動の動きすらも制御できるようにスラスターの数を増やしていた。

1機のジェガンが襲い掛かってくるパラス・アテネをビームライフルで応戦していた。

「っく、落ちやがれ!」

そう向かってくる敵に連射するが、最小限の動きで躱す。至近に来た時、パラス・アテネの振り下ろすサーベルの動きに合わせてサーベルで受けようとしたが、気が付いたときに既に振り下ろされた後だった。パラス・アテネの腕にスラスターが付いて、高速で振り抜くことが可能だった。

真っ二つにされたジェガンを見たシーマは恍惚な顔をしていた。

「遅い・・・遅すぎる。フハハハハ・・・」

シーマは次の獲物を視界に捉えていた。それはスレッガーのリ・ガズィだった。
殺気を感じたスレッガーはサーベルを構えながら、ライフルをパラス・アテネへ向けた。そして残りの部下に後退命令を出した。

「おい!オレが殿軍を務める。お前たちは後退しろ」

その命令に部下は抵抗した。スレッガーのモニターにワイプで出現して主張する。

「隊長!オレらはまだやれ・・・」」

その後の科白をスレッガーは言わせなかった。

「バカ野郎!上官命令だ。軍規とお前らの意地がどちらが大事か。プロフェッショナルなお前らなら理解できるだろうが!」

部下たちはグッと堪えて、スレッガーの指示に従った。

「分かりました。後退します」

部下達が一機、また一機と本隊へと後退していった。パラス・アテネとスレッガーは対峙し、交戦している間に生き残った部下は皆撤退に成功していた。それを見たシーマは感心していた。

「アッハ~、やるじゃない。このガンダムもどきが」

シーマはスレッガーを狙い定めて、数々の攻撃を繰り出していた。スレッガーはそれを長年の勘と技量で受け流していた。その動きを見たシーマは舌で唇を舐めていた。

「いいねえ、涎が出そうだよ。あたしのパラス・アテネの相手になる奴がいるとはねえ。もう少しギアを入れてみようか?」

シーマの気分が高まり、それに呼応するようにパラス・アテネが緑白く輝いた。

「うふふ、次はちょっと早いよ。避けてみい!」

パラス・アテネが急加速した。その動きにスレッガーが立ち構えた。視覚でその動きを確認していた。

「(この動きには・・・この回避で間に合うか)」

スレッガーは計算で導き出した回避行動で動いた。それが足りない。今までのパラス・アテネの動きならば、可能だった計算よりも半歩後ろだった。パラス・アテネの鋭い斬り込みがリ・ガズィのサーベルを持つ右肘より下を切り取った。

スレッガーとシーマともに舌打ちをしていた。片や避け切れず、片や斬りきれず。シーマは次の斬り込みに入っていた。その動きをさせる前にスレッガーは無事な左腕の方でパラス・アテネのサーベルの持つ手を掴んでいた。その動きにシーマが驚く。

「何と勘が良い!」

掴んでいる間スレッガー、シーマともお互いの声が聞こえた。スレッガーはその声が女性のものだということが分かり、

「何だ女なのか、相手は」

と口にしていた。それに対してシーマは苛立ちを感じた。

「何だい。女じゃ悪いか、お前にとっては!」

スレッガーは肩を竦ませて答えた。

「女は抱くのが趣味でね。戦うのは趣味じゃない」

シーマは高らかに笑った。スレッガーの冗談に。

「アッハッハッハ。じゃあさあ!」

シーマの操るパラス・アテネはスレッガーのリ・ガズィの掴む手をからサーベルを離し、もう片方の手に持ち替えては瞬時にリ・ガズィの両腕、両足を切断した。

「何と!」

その動きにスレッガーは驚いた。自身油断はしていなかった。が、相手の技量がスレッガーの上をいっていた。そう感じていた。

「あたしがお前の傍で看取ってやるよ!」

そう言ってシーマはサーベルをリ・ガズィの頭上より振り下ろそうとした時、パラス・アテネのサーベルの持ち手が爆発した。

「ぐっ、何!」

シーマは誰かに攻撃されたと思って見回した。すると1機の大型なモビルアーマーが目に入った。その機体の識別はパラス・アテネにも登録されていた。

「・・・オーキス、GP03。凍結されたんじゃないのか!」

そうシーマは叫ぶと、GP03から次々とパラス・アテネへと弾幕が浴びせられた。それをシーマは気をつけながら避ける。そして怒りを覚えた。

「OK.図体だけの張りぼてが!パラス・アテネでスリムにしてやるよ!」

シーマはスレッガーを捨て置き、一路GP03へと矛先を向けて場を離れていった。スレッガーは一息ついていた。

「ふう、助かったのかな?」

・・・

GP03にはルー・ルカが搭乗していた。ガルマへ委譲後ラヴィアンローズにて係留されていたものを改良されて現に実戦投入されていた。つまりガルマによって仕掛けられた援軍だった。

「あ~、何か遅刻した?でも、遠目からやられそうな味方機を助けたみたいだけど・・・」

ルーは呑気そうな声でぼやいていると、ワイプにミリイから忠告が入った。

「ルー!言っておくけど戦場よ、そこは。訓練と違うからね。エマリーさんに叱られるよ!」

「はーい、わかってますよ」

そう適当に答えていると敵機接近の警報がルーのコックピット内に鳴り出した。それを聞いたルーは真剣な面持ちでモニターを見入った。

「さて・・と。敵さんに一太刀浴びせなきゃね」

そう楽観的に考えていたルーは敵の存在についてよく知らなかった。気が付けばコックピット内に振動を感じていた。

「きゃあ。何?何?」

振動が続いていた。ルーはモニターで至る所を見ては、自機の破損部分のサインがアラートで鳴っている。つまり攻撃されていることをルーはようやく理解した。

「えー!だってあそこで、ここにー!」

そして混乱していた。そんなことはシーマにはお構いなしだった。パラス・アテネはGP03の周囲を回っては斬り込み削っていた。

「アッハッハッハ、まるで的!ホント唯の張りぼてだ」

そしてボロボロ機体と成り果てたGP03の後方でシーマはメインディッシュを今から頂くような待ちきれないような気持ちで佇んでいた。

「ではでは、頂いちゃいましょうか」

上擦った声でシーマが言うとき、コツンとパラス・アテネに何かがぶつかった。何も敵意を感じなかったので気が付きもしなかった。

「ん?デブリか」

パラス・アテネのカメラをそのデブリと思われるものに移動させるとシーマは顔を歪ませた。

「あの四肢のないモビルスーツ!」

リ・ガズィが流れ着いてパラス・アテネの隣にいた。その直後リ・ガズィが爆発四散した。その余波をパラス・アテネは思いっきり受けていた。

「なっ・・・うわあーーーーーー!」

シーマは絶叫した。爆発した理由をルーは見ていた。

「あのジェガン、やるじゃない」

シーマはGP03に集中し過ぎていた。気配を消して機会を狙っていたジェガンが立ち止まっていたパラス・アテネにリ・ガズィを流しあてて狙撃することに成功した。そのジェガンに乗るパイロットがGP03に通信を入れた。そしてワイプモニターにパイロットの映像が映る。

「おい、パイロット。オーキスの全火力をパラス・アテネに向けて放て」

スレッガーだった。ルーは言われたことを即座に行って、バランスを崩していたパラス・アテネに何百発という小型ミサイルが全方位から追撃していった。それに気が付いたシーマは不意を突かれた怒りと共に昂る。

「ふ・・ふざけんじゃないよ!」

パラス・アテネのサイコフィールドを展開した。追撃してくるミサイル群を次々と破壊していく。
それで防いだが、爆発の閃光と煙で周囲が視覚的に様子が見て取れない。シーマが目視で確認できたミサイルの次のものは至近距離のメガビーム砲の銃口だった。

「なんだと!」

シーマは顔が引きつっていた。次見た光景は予想通りビームの発射だった。ビームの出力はシーマのサイコフィールドを突き破り、パラス・アテネへとコースを取っていた。パラス・アテネの身をよじらせて躱そうとしたが、機体右側がザックリとビームの熱量で持っていかれた。

「うわあーーーーーー!」

パラス・アテネのコックピット内にリ・ガズィ爆破以上の衝撃が見舞われ、シーマは内臓のいくつかが体内で破裂、損傷してしまった。それにより吐血をした。

「ブホッ・・・ハア・・・」

ノーマルスーツを着込んでいたシーマはヘルメットを外し、傍にある鎮痛剤を体に打った。すると息を切らしながらも気絶せず保てていた。

「・・・こんなん・・・では、シロッコに会わせる顔が・・・ない!」

シーマは半身吹き飛んだパラス・アテネを操り、GP03に突撃していった。その機体の周囲にはサイコフィールドが展開されていた。しかし通常のサイコフィールドとは違い、斥力引力場でなく、通過上にあるデブリらを全て消失させていっていた。その現象を見たルーは腰が引けていた。

「あれ・・・これって・・・ヤバいんじゃない」

ルーが引きつりながらパラス・アテネの進行を見ていた。何かしようとハンドルを握るがそれ以上の事ができない。何故か金縛りにあっていた。

「え?・・・う、動いてよ!」

ルーが混乱した。ルーはモニターで突撃してくるパラス・アテネと同時に側方にジェガンがいるのが確認できた。

「早く離脱しろ!」

スレッガーが叫ぶ。しかしルーは動かない。

「ちぃ!」

スレッガーはジェガンのサーベルを使ってオーキスから無理やりステイメンを引きずり出した。
スレッガーとルーがその場から少し離れるとただ真っ直ぐオーキスへ進むパラス・アテネを見ていた。

パラス・アテネがオーキスに接触すると速度が極端に落ちた。オーキスも徐々に分子分解されて、爆発もなくスーッと通過していくようだった。しかし事態が少し変化があった。それをルーは声に出していた。

「見て!アレ」

「なんだ、ありゃ」

パラス・アテネが足元から砂の様に溶け出していった。理由は分からないが彼らはこれが対峙する敵の最期だということを感じていた。

パラス・アテネの中のシーマは恍惚な顔を浮かべていた。

「アハ・・・感じる。宇宙の流れが。あたしは1つになっていく・・・フフ・・・なんて気持ちいい」

シーマはパラス・アテネの崩壊と共に一緒に宇宙の塵となっていった。
それを見物し終えた2人はそれぞれ感想を漏らしていた。スレッガーのモニターワイプにルーが映る。
先にスレッガーが口に出し始めた。

「・・・一体、あの現象はなんなんだ?」

「私にも分かりませんわ。ただ・・・」

「ただ?」

「サイコフレームの共鳴。あの光はそれでしょう。意思が形となる力はサイコフレームの特徴ですから」

スレッガーは腕を組んで難しい顔をしていた。

「オレはさぁ、色々見てきたからサイコフレームの優位性を知っているつもりだが、物を粉々にするなんて恐ろしいな」

ルーが頷く。

「ええ。普通の金属ではありえない不可思議な領域まで手が届くサイコフレームは可能性以上に不安物質です」

「そいつはお前さんの見解かい?」

「私もそうですが、アナハイムのレイ博士からの受け売りだとエマリーさんから・・・」

スレッガーはレイ博士とエマリー・オンスの名前を知っていた。特にレイ博士。あのアムロ・レイの父親ということとサイコミュの第一人者の1人。意見は重要だと考える。

「さてと・・・。友軍への援護せねばいけないが、何分単機だしな」

スレッガーはジェスチャーでお手上げをしていた。そこにルーがワイプ越しに微笑を浮かべていた。

「私が何故ここに居るかご存じで?」

スレッガーは試されている様で嫌気が刺した。

「いや、知らんね~」

ルーは補足説明した。

「月からの友軍としてガルマ議員が手配して私がココにいます」

「ガルマ議員だと?」

「ええ。クラップ級8隻を率いて後背からの陽動とブライト本隊との合流で」

「つまりカラバか」

「ご名答。ということで私の母艦へ帰投しましょう」

ルーが話し終えると、スレッガーは索敵モニターを見た。友軍のサインの為、接近警報はならずにクラップ級艦船が大きさを示すようにスレッガーのジェガンを横切っていた。

* ラー・カイラム 戦闘ブリッジ

ブライトとメランは矢継ぎ早に索敵、被弾箇所、救護、砲撃の指令を行っていた。
モニターを見れば周囲が全て敵であり、味方でもあった。

最悪を極まる混戦状態でシーマ艦隊もラー・カイラムの識別ができなかった。
シーマ艦隊含むすべてのモビルスーツの標準がバーサムだった。この頃のバーサムは改良最適化が研究上やり尽くした程完成されていた。

一方のブライト艦隊、所謂ロンド・ベルはジェガン。しかし新型ながら完成形に至るまでまだ余地があった。この差がバーサムに分をもたらしていた。低コストながら数があるバーサムにジェガンは押されていた。

そんな状況を通信で入り、メランがブライトへ告げる。

「艦長。このままでは・・・」

ブライトは拳を握りしめていた。

「今は・・・耐えるのだ。対空砲火を続けながら進路を作れ。ケーラ隊も呼び戻す」

「ケーラ隊は前線のレベルを保つに重要ですが?」

「それで地球に落ちたら元も子もない。既に作戦行動中で腹を括っている。戦場を縮小させるんだよ」

メランは難色を示すが、ブライトの指示に従った。今のままでは突破前の撃沈が避けられない。

* ケーラ隊 空域

前線でバーサムやシーマ主力艦隊の攻撃を食い止めるに補っていたのがケーラのリ・ガズィ。バーサムを落とす事既に2ケタ乗せた。そんなケーラは無線でラー・カイラムから指令を受けていた。

「・・・なんだって!ラー・カイラムの特攻の援護だと、バカな!」

旗艦撃沈は艦隊の敗北を意味することケーラは知っている。だが作戦時間に猶予が無いことも知っていた。ケーラは唇を噛み、操縦桿を握ってラー・カイラムの進行方向への道筋に当たる空域の掃除にリ・ガズィを向けた。

「死ぬんじゃないよ、アストナージ!」

そう口にして、目の前のバーサムやアレキサンドリア級の艦船を次々と撃墜や航行不能にしていった。
戦場は少し移動してケーラはラー・カイラムをカメラで捉えていた。周囲は勿論バーサムと敵艦船がうようよ漂ってはラー・カイラムと数隻の護衛艦、ジェガンを攻撃していた。

自分に助けを求めた理由が理解できた。あの様子では10分と持たない。そこまでしなければタイムアップ。ケーラがソロモンへ目を向ければ大きな姿を見せていた。

「ココが正念場か」

ケーラはリ・ガズィを操り、ラー・カイラムの前に出た。その行為がラー・カイラムへ攻撃を仕掛けていたバーサムの編隊を崩す。

ラー・カイラム船内のモニターでその動きを目撃した。そしてその隙をブライトは見逃さない。

「よし!主砲一斉射。後に機関最大船速でソロモンの側面に回る。護衛部隊、残りの艦は同時に微速後退。現宙域にポケットを作るぞ」

ブライトが命を下すと、メランは部隊に暗号通信を打った。即座に行動を移す。

ケーラは敵部隊の中央を突破し、迂回してその宙域に戻ろうとした。その宙域でラー・カイラムは砲撃して進路をこじ開け前進、他が後退する光景が見て取れた。そして敵が一瞬どちらへ攻撃しようか惑う姿を見た。ケーラはほくそ笑んでいた。

「バカな。戦場で止まるのか」

ケーラは止まっているバーサムに目がけて砲撃、それに呼応する様に、ラー・カイラム以外の後退した艦艇が砲撃した。その攻撃にバーサム部隊は一時混乱した。

ラー・カイラムは単艦で戦闘宙域より離れようとしたが、バーサム部隊の中でもラー・カイラムを選ぶものも少なくなく、追撃に苦慮していた。ブライトが機関手に確認する。

「もっと早く行けなのか!」

機関手がマイクでブライトへ告げる。

「無理です!エンジンが臨界に達してしまいます」

その回答に重ねる様にメランからブライトへ危機を伝えていた。

「艦長、目標地点までは後5分。ですが、敵モビルスーツ隊の本艦への捕捉時間は4分半です」

「30秒・・・たった30秒だぞ!」

ブライトは席の手すりを叩いていた。メランは頭を掻き、思案模索していた。メランはハッと思いつきアストナージへ連絡を取り、ブライトに進言した。

「艦長、ゲタを使いましょう」

「ゲタ?」

ベースジャバーのことだった。一体何のためにとブライトが尋ねた。

「ミサイルを艦から発射離脱させます。この宙域にミサイルを棄ててゲタで狙撃させます」

ブライトは少し考え、捨てるミサイルの選別は1択しかないことをメランに言う。

「アレを使うのだな」

「そうです。元々、少し大目に積んできたのです」

「しかし、誰かが狙撃しなければ・・・」

「私とアストナージで行きます」

そうメランが立ち上がると、静止する間もなくブリッジを後にしていった。ブライトは唖然としていた。

「・・・あ・・・メラン!」

そう叫ぶこと2分後、1機のベースジャバーと1基のミサイルが宙域へ置かれていった。
ブライトはブルブル震えていた。

「・・・オレは艦長だぞ・・・。何をしているんだ」

そう小さく呟きながらも作戦宙域へ艦を進めていた。

* ベースジャバー内

メランは操縦席の後ろに立ち、アストナージが運転していた。目の前に1基のミサイルと追撃してくるバーサムらを見えていた。

メランは唾を飲み込んだ。アストナージは息が荒かった。

「副艦長・・・ハア・・・まだですか?」

「まだだ・・・理論値でいけば生還できるはずだ」

メランは特別バーサムらを一網打尽にしようとは考えていなかった。なるべく驚かせて時間を稼ぐ。それを念頭に入れていた。

アストナージが索敵モニターを見てメランへ接触時間までを告げる。

「後1分です」

するとベースジャバーに向けてバーサムからビームが放たれていた。完全に捕捉された証だった。ゆらゆらと回避行動を取るが、掠りベースジャバー内に衝撃が走る。

「副艦長!」

アストナージが焦る。メランは時計を見る。そして45秒になった時メランはアストナージへ砲撃命令を下した。

「よし!やれ!」

ベースジャバーから1基の小型ミサイルが放たれた。その後ベースジャバーは急速反転後退した。その時ベースジャバーの片方のエンジンがバーサムの攻撃に掠り火を噴いた。

「うわあ!」

「ぐっ!」

2人共悲鳴を上げた時、宙域が閃光に包まれた。

* ラー・カイラム 戦闘ブリッジ

トーレスが後方での核の爆発を確認していた。

「艦長!核の爆発を確認。バーサム隊の追撃が緩みます」

ブライトは頷く。その時には作戦宙域へラー・カイラムは到達していた。ソロモンの側面、核パルスエンジンが丸見えだった。

「ミサイル全基発射!核パルスエンジンの根本に叩き込め!」

ラー・カイラムから放たれたミサイルは見事に2基にエンジンを破壊し、残ったエンジンは真っすぐ進む推進力を得られず、地球を逸れる様に進路を変更していった。

ブライトは席にもたれかかり、息を付いた。そしてタイムリミットまでの時間を聞いた。

「・・・ちなみにリミットまでは?」

トーレスは計算して口笛を吹いた。

「後22秒でした。核の推進力でも重力に負けて落ちる寸前でした」

ラー・カイラムの中で喝采が生まれた。そこにもう2つ喜ばしい情報がトーレスからもたらされた。

「艦長。敵艦隊が降伏の意思を表明。並び、メラン、アストナージの生存を確認。被弾しながらも本艦へを帰投してきます」

ブライトはその報告を聞くや否や歓喜の雄たけびを上げていた。メランとアストナージが着艦してブリッジに戻ると状況は2転する。その知らせはメランからだった。


「艦長。悪い知らせです」

「なんだ?」

「ルナツー、ア・バオア・クーの地球への隕石落としの報を投降してきた艦隊幹部からの証言で得られました」

「なんだと!」

ブライトは唖然とし、天を仰いだ。ブライトの頭の中で友軍の戦略配置を思い描いては頭を振っていた。

「打つ手がない・・・」

ブライトの呟きにメランは俯いた。そしてトーレスからのあるところからの光速通信により状況が3転した。

「艦長!ラー・ヤークから緊急通信です」

ブライトは即座に反応し、通信を映すように伝えた。そこに映ったのはハヤト、アムロそしてクワトロだった。クワトロの顔を見てブライトは首を傾げた。

「シャア総帥が何故ラー・ヤークに?」

最初の一言目がそのように言った。ハヤトは簡潔に説明し、ただ瓜二つなだけで別人と話した。それでブライトは納得した。続けてハヤトが話し始めた。

「ブライト。貴方達は残存兵力とソロモンとをまとめてルナツーへ向かってもらいたい」

「間に合うのか?」

ブライトの疑問にハヤトは頷く。

「ああ。地球落下前にソロモンにロンド・ベルが持つ爆弾を満面無く仕掛けてルナツーへぶつけて爆破四散させる。それにより細かく砕かれた隕石が地球に降り注ぐがダメージは軽減される」

「計算は済んだ上か?」

するとアムロが代わりに話し始めた。

「ああ。ブライト、オレの親父の計算だ。こちらのクワトロさんの勧めで隕石落下が免れないならばの算段でアナハイムへ計算を投げた。1個1個の威力が大気圏内で弱まるか消失することを視野に入れれば地球は助かると」

「成程な。地球対巨大隕石では話にならんから砕くか」

メランの顔がパーッと明るくなり、ブライトの許可を得ないまま艦隊に爆破作業と艦隊の再編を急がせるように指示出しをし始めていた。それをブライトは黙認した。アムロは話し続ける。

「ルナツーにも小規模ながら艦隊が居る。彼らの抵抗を加味すると時間が足りない。仕掛けを作る必要があった」

「了解した。隕石落としありきの戦術だな。ソロモンもルナツーも粉微塵にしてやる」

ルナツーに関しての方法は理解したがア・バオア・クー方面はどうするかが気がかりだった。それをブライトは問うた。

「してアムロ。ア・バオア・クーは?」

そこに割り込んで別の回線が入って来た。それはネオジオンからによるものだった。
モニターが2分割されてそこにシャアが映った。

「ア・バオア・クーは同様にアクシズをぶつけよう。既にハヤト氏から連絡をもらっている。ア・バオア・クーの方が激戦だ。ネオジオンとカラバで当たろう」

モニターのハヤトが頷く。

「というわけだブライト。既にロンデニオンからの友軍がロンド・ベルの艦艇に脇を通過すると思う」

アムロが現実的な戦力比が付け足して言った。

「それでも混成艦隊とア・バオア・クーの戦力比は1:2と見ている」

これはクワトロの政府筋からのシロッコが持ちうる戦力を計算してのことだった。正確さは揺るぎないと思っていいだろうとブライトは思った。

「分かりました。再編の後ルナツーへ向かいます。ソロモンのエンジンの調整は要塞内の操作盤を取り急ぎ行う。メラン!」

呼ばれたメランは結果だけ報告してきた。

「艦長既にソロモンは進路を落下進路へ向けてのルナツーにあります。あとは艦隊の再編だけです」

「時間は?」

「30分」

「時間が惜しい。今でも行ける艦艇は?」

「残存の半数の29隻です」

「ラー・カイラムと25隻を先発する。2陣でメラン、お前が率いてルナツーへ来い」

「了解致しました。ご武運を!」

メランはブライトの指示に素直に従った。すぐさまメランは戦闘ブリッジから離れ、シャトルへと向かった。後陣を指揮する艦艇へ移動するために。

* サイド6 聖櫃内

カーディアスとジョン・バウアーがサイアムの前に立っていた。
カーディアスが口を開く。

「おじい様・・・。このような事態を想像していらっしゃったのですか?」

サイアムはうっすら目を開いて孫を見ていた。

「・・・世界を憂いていた。私はあのオーパーツから世界の加速を始めさせた。それはこの結果に過ぎない。善と悪。それが有れば世界は刺激的に動く」

サイアムの言にバウアーは唸りながら尋ねた。

「詰まる所、やはりフィクサーな訳だな。文字通りの」

サイアムはバウアーを見て、その言を認めた。

「何か仕掛けたとしたら私だろう。一応は調整しては導いてきたつもりだった。こんな老いぼれの願いなんだ。生きている間に見たいものをすべて見てみたい。ただの欲求に過ぎない」

再びカーディアスが祖父に話す。

「最初から騙されていた訳ですか。私に世界の悪に対抗しろと。それがマーサだと突きとめさせて、表向きできないからロンド・ベルを立ち上げさせて・・・。マーサもマーサでおじい様にそそのかされてその気になってしまい・・・」

サイアムは無言だった。カーディアスは話続ける。

「世界は飛躍的に時間が流れてしまった。最早止めることはできない」

サイアムはそこで口を開く。

「・・・タイミングで調整だけはした・・・つもりだった。だがそれを上回る刺激がもたらされてきた。途中で理解した。私の手に余るものだ時流とはのう・・・。だがそれもまた一興」

世界の黒幕の悔やむ吐露と反して道楽たる喜びが見えた。自分位の地位にありながらもできないことはできないと改めて知った。バウアーはこの老人の楽しみで今の今まで事態が起きていたことを確信できた。

「カーディアスとの綿密な調べがあって元凶を突きとめた。しかし時計の針を元に戻せないというならば貴方の命を持って雪辱を晴らさせていただきます」

そう言うとバウアーは銃をサイアムに構えた。カーディアスも止めようとしない。
その時、2発の銃声が轟く。その後カーディアスとバウアーは脳天を撃ち抜かれて倒れていた。

暗がりから涙しながらもガエルが銃を持ち出てきた。

「う・・うう・・・許してくださいカーディアス様・・・」

サイアムはガエルを労った。

「よく・・・やった。ビストは私で終わりだ。それで良いと思う。マーサが後どれだけ踊ってくれるかに尽きる。ガエル、暇を出そう。どこでも消えるが良い。お前ほどの力が有れば余生に困ることはないだろう」

ガエルは振り返りその場を後にしてその後姿を消した。サイアムは前に映る地球圏の絵図を眺めていた。

「種は撒き終え出し尽くした。後はどのような芽生えを始めるか・・・。私の手に余る混ざり具合だ。期待以上のドラマが見れるだろうよ・・・」

サイアムは独りほくそ笑んでいた。
 
 

 
後書き
いきなり悪い爺になってしまいました。 
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