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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第83話「最後のジュエルシード」

 
前書き
さて、ジュエルシードは残り一つです。(地球上では)
さすがに偽物程苦戦させません...が、緋雪やユーリを再現した例もあるので、当然苦戦はします。
 

 






       =優輝side=





「...優輝達のおかげで、最後のジュエルシードの場所が分かった。」

 僕らがクロノ達にキーワードの答えを教えてしばらく。
 再び全員が会議室に集まっていた。

「どうやら、僕らが“聖奈司”を思い出せない認識阻害に掛かっているのと同じように、キーワードの“答え”に辿り着く事を阻害されていたようだ。」

「...結局、あの言葉の答えって...。」

 直接言葉を聞いていたなのはが聞き返す。

「...単純だ。始まりにして帰るべき場所...。そんなの、生まれ育った場所で、いつも帰り着く“居場所”である家しかない。」

「ああっ!」

「っ...!」

 納得したようになのはは声を漏らす。
 ...それと、奏が“ホントに単純だった!?”って感じに驚いていた。

「それで、場所を教えてもらって実際にサーチャーを送ってみたが...僕らでは上手く認識ができなくなっていた。」

「それは一体...。」

「...さっき言った認識阻害さ。」

 フェイトが聞き返し、クロノが答える。

「サーチャーを通して見ても、“そこにある事”が認識できなかった。」

「...記憶を思い出している優輝達や私を除いて...ね。」

 付け加えるように言ったアリシアに、皆の視線が集中する。

「現に、私が見た場合だとしっかりとそこにジュエルシードがあったよ。」

「だが、それを封印しに行くには阻害を受けている僕らでは少々厳しいかもしれない。」

 “そこで”と言って、クロノは一度僕らを見渡す。

「ジュエルシードの暴走体の事も懸念して、少数精鋭で行こうと思う。まず、認識阻害の影響がない優輝と椿と葵は確定だ。休んだばかりだが...頼めるか?」

「大丈夫だ。」

 僕が頷くと、椿と葵も同じように頷いていた。
 ...リンカーコア以外、きっちり休んだからだいぶ癒えている。

「後は僕を含めて何人か....なんだが...。」

「ジュエルシードの結界内がどんな状況かわからないから、臨機応変に対応できる人が望ましい...って訳だよ。」

 臨機応変に...か。それならば、戦闘経験が豊富な人物がいいけど...。

「....私が行くわ。」

「奏!?」

 そこで、奏が立候補する。

「...確かに、奏は偽物戦の時に大活躍をしたが...。」

「大丈夫。...認識阻害なら、影響がないから。」

「....何?」

 そういって、奏は僕の方を見る。もしかして...と思って見つめると、奏は頷く。

「...いつ、記憶が?」

「ジュエルシードの暴走体との戦闘中。夢の中から脱出する際に...。」

「なるほど...ね。」

 記憶が復活して、認識阻害を受け付けないのなら入れた方がいいな。

「クロノ。」

「ああ。奏も参戦だな。他には...。」

 臨機応変っていうのも必要だけど、それ以上に認識阻害をどうにかできれば...。

「(認識阻害は所謂“司さんに関する事”が思い出せないように掛かっている。認識阻害を無効化するには、司さんの事を思い出しておく必要がある。でも...。)」

 それ以外に何か手段がないか思考する。

「(...あれ?“司さんに関する事”...?なら、最初から司さんを知らない人はどうなるんだ?)」

 認識阻害は司さんを思い出さないためのもの。
 なら、最初から知らない人は大した影響を受けていないでは...?

「...優輝、何か思う所でもあったのかしら?」

「...いや、ちょっとね。」

 考え込んでいたのが椿にばれ、視線が僕に集中する。

「.....僕は母さんと父さんを推薦するよ。」

「...理由を聞いてもいいか?」

 当然ながらクロノに理由を聞かれるので、答える。

「一言で言えば、認識阻害の影響が薄いかもしれないから...かな。認識阻害は司さんに関する事を思い出さないようになっている。でも、母さんと父さんは最初から司さんを知らない。だから...。」

「そうか...!それならば...!」

 ...でも、この推測には少し穴がある。
 認識阻害によって、司さんに関する事は“なかったこと”にされている。
 ならば、例え最初から知らない場合でも認識阻害の影響はあるかもしれない。
 まぁ、それでも他の人よりはマシかもしれないけどね。

「...この面子で行くこともできるが...他に誰かいるか?」

 人数は十分。そう思ってクロノは皆を見渡す。
 そこに、一つの意見が挙がった。

「あの、私も行っていいですか?」

「リニス...?」

 そう、リニスさんが立候補したのだ。

「...なんとなく、私が行かなきゃならないと思えたので...。」

「...リニスさんは、司さんの使い魔だからね。何かしら思う所はあるんだろう。」

「そうか....よし、リニスなら臨機応変な対応ができるだろうし、いいだろう。」

 僕とシュライン以外で、最も司さんを理解しているとすれば、それはやはりリニスさんだろう。だからこそ、僕もリニスさんは参戦するべきだと思えた。

「...これ以上は大人数だな。なら...。」

「おいおい、誰か忘れちゃいねぇか?」

 ...大人しいと思ってたけど、そんな事なかったか。王牙...。

「悪いが定員オーバーだ。控え組として待機していてくれ。」

「はぁ!?どう考えてもそいつより俺が行った方がいいだろうが!」

 おー、久しぶりに突っかかってきたな。
 いや、小さい事なら度々突っかかってきたけどさ。魔法関連では久しぶりだ。

「お前は臨機応変な対応ができないし、認識阻害の影響も受けている。それなのに余計に人数を増やすのは愚策だ。他の皆は理解しているぞ。」

「なっ...!?」

 周りを見れば、あの織崎も理解していた。
 ...まぁ、僕が参戦している事にどこか納得がいってなさそうだが。

「...理解したか?」

「......ちっ。」

 王牙も納得はしていないが、理解はしたようで不機嫌ながらも座りなおす。

「さて、じゃあさっき言ったメンバーで行こう。」

「待ってくれ。今から行くのか?」

 まるで今から行くかのように言うクロノに、織崎が質問する。

「ああ。全員、十分な休息は取った。それに、優輝やアリシアの話を聞く限り、あまり悠長にはしていられない。」

「...そうか。」

 司さんは半年近くもの間、誰にも気づかれず、しかも飲まず食わずで過ごしている。
 シュラインや偽物の言動から、まだ生きているのは確実だろうけど、それでもできるだけ早く助けた方がいいだろう。

「準備ができ次第、管制室に集まってくれ。」

「了解。行くよ椿、葵。」

 準備と言っても、ほとんど必要ない。常備しているからな。

「....頑張ってね。皆。私も認識阻害の影響がないから、アースラからのバックアップは任せて。」

「ああ。頼りにしてるよアリシア。」

 アリシアの激励を受け、僕らは管制室へと向かう。





「お待たせしました。」

「よし、これで全員揃ったな。」

 先ほど決まったメンバー。僕、椿、葵、奏、母さん、父さん、クロノ、そしてリニスさんの八人が揃う。

「既に結界は張ってある。僕とリニスではほぼ確実に認識できないだろうから、案内は頼むぞ。」

「分かった。」

 そして、そのまま僕らは司さんの家の前に転移した。





「司さんの両親は巻き込んでいないよな?」

「当たり前だ。アリシアから聞いた限りじゃ、その二人は魔法について知っているそうだが、だからと言って巻き込む必要はない。」

 誰もいなくなった結界内の司さんの家のドアを開く。
 そして、そのまま二階へと歩いていく。

「...なんというか、不法侵入みたいね。」

「言わないでくれ母さん...。自覚してるから。」

 いくら世界をずらした状態である結界内でも、罪悪感はある。

「あら?まだ司の事を思い出せてない時に、この家に入ったのは誰だったかしら?」

「うぐ....!」

 今更掘り返さないでくれよ椿...!

「...つ、着いたよ。...見える?」

 とりあえず、ジュエルシードがある司さんの部屋の前に着く。
 思い出す前と違い、僕らには普通に認識する事ができていた。
 ...が、他の皆は違ったようだ。

「いや...ここまで来ても認識できない...。」

「私たちもよ。」

「...私は見えるけど...。」

 やはり、母さんや父さんですら見えないようだった。
 そして、奏には見えていたようだ。

「とにかく、入るよ。どんな感覚に見舞われるかわからないから、しっかり備えて。」

 ドアを開け、中に入る。
 クロノ達にとっては壁に向かっていくようなものだったけど、僕らに追従する事で何とかついてくる。

「見つけた...。」

「皆、行くよ。」

 奏がジュエルシードを見つけ、僕がその結界に触れて入り込む。
 瞬間、世界が歪んだ。



「っ....!これ、は...。」

「家の前...?」

 結界内に入り、目を開けると...そこは、司さんの家の前だった。

「戻された...って訳じゃなさそうだ。」

「そのようですね...。」

 一瞬家の前に戻されたかと思うが、それは違った。
 今まで通り、景色にノイズが走っており、何より空が闇を表すように黒かった。

「...今までとはまた違った結界...。これはこれで異色だな...。」

「僕らが認識できるという事は、結界内には認識阻害が掛かってないのか?」

 何か嫌な感じのする結界内だ。まるで、心の中を覗かされているような...。

『皆、聞こえる?』

「アリシアか?聞こえるぞ。」

 そこへ、アリシアからの通信が入る。
 その事から、この結界内は別に通信を遮断するような事はなさそうだ。

「そちらからモニターはできているか?」

『一応ね。だけど、ノイズ混じりだから良好とは言えないよ。』

「途切れる可能性もあるのか...わかった。できる限りそっちでもモニターを頼む。」

『了解。』

 そこで一端通信を切り、状況を把握する。

「...ねぇ、この周り...家から離れた所...。」

「...まるで、ここだけ切り離されたかのようだな...。」

 母さんと父さんがそう呟く。
 ...結界内の異常な光景は、空だけじゃない。
 家から20mほど離れた所から先は、まるで暗闇のように見えなくなっているのだ。
 空は見えるのに、20m先の景色は見えない。
 矛盾した不気味な空間...そうとしか言えなかった。

「気持ち悪い...。」

「ああ。なんというか、“負”を表しているようにも見える。」

 もしかしたら、この結界は司さんの“負”の側面を表しているのだろうか。
 そうとも思える程、結界内は不気味に思えた。

「とにかく、もう一度中に入ろう。この家が中心になっているって事は、中にジュエルシードの暴走体があるはず。」

「...そうだな。」

 意を決して家の扉を開ける。

「っ....!?」

「な、な...!?」

「これ、は....!?」

 家の中は、明らかに現実での構造と違っていた。
 まるでホラーゲームにあるような迷宮。そんな迷路が奥まで続いていた。

「...これは、完全に異界と化しているわね...。」

「心象風景というか...とにかく、“負”を凝縮したような世界だね。」

 椿と葵が冷静にその光景を分析する。

「心象...これが、司さんの心なのか?」

「ええ。...迷宮に、まるで“負”を塗り固めたかのような雰囲気。」

「さしずめ、殻に閉じこもっているって所だね。しかも、誰にも気づかれたくないと来た。」

 全てを拒絶し、自分がいなくなればいい。
 そう思っていた司さんに、確かに合っている光景なのかもしれない。

「...進もう。進まなきゃ、何も変わらない。」

「そうね。」

「行くよー、皆。」

 覚悟を決め、中へと足を踏み入れる。
 葵が呼びかけてくれたおかげで、皆もハッとして僕についてきた。





「...不気味なくらい何も出てこないな...。」

 通路を進んでいく中、クロノがそう呟く。
 明らかにホラーゲームのように不気味な道なのに、何も出てこないのだ。
 迷路状になっているため、行き止まりもあったが、それ以外何もなかった。

「タンスにテーブル、イスとかが偶にあるけど...それだけか。」

「偶にタンスで通路を作られたりしているね。」

 まさに寄せ付けたくないような入り組み具合。
 ただただ不気味な雰囲気の通路が続いていくだけだ。

「.......っ。」

「こ、こういうの苦手だわ...。」

 見れば、奏や母さんがこの雰囲気に中てられて怖がっていた。
 クロノも少しばかり怖いのか、冷や汗が見えた。

「...なぁ、少し...聞いてもいいか?」

「...?どうしたんだ?」

 会話が少ないのが嫌なのか、クロノが何か話題を振ってくる。
 ...前方は葵が、後方は椿が警戒しているから、会話には応じれるな。

「...ここまでの迷宮を、思念を受け取っただけのジュエルシードが生み出しているんだ。...それほどの暗い想いを抱くという事は、相応の過去があった...。優輝、君はそれを知っているようだな。できれば聞かせてほしい。」

 その言葉に、皆も気にするように僕を見る。

「....あまり、口外したくはないんだけどな...。いいよ。」

 少し間を置いてから、僕は話し出す。

「まず、前提として、僕...それと司さんには“前世の記憶”がある。」

「前世...なるほどな...。」

「.........。」

 奏は知っているため、黙って聞く。椿や葵は前に保留にした事だと気づいたようだ。

「母さんや父さんには、前に少し話したよね?」

「...ああ。もしかして、司ちゃんも...。」

「...あれとは、また違う前世だよ。」

 司さんも導王時代の人物なのかと思う父さんの言葉を、僕は否定する。

「待ってくれ。違う前世...?まさか、二回も生まれ変わったのか...?」

「...あれ?なんでクロノがそれを...。」

 ...一度、話を整理した方がいいかもしれない。

「ちょっと待って。わかりやすいように一から簡単に説明するよ。まず、僕には二つの前世がある。司さんが心を閉ざした原因のある前世と、“導王”として存在していた、前世のさらに前世。」

「...細かく言えば、前世はこの世界とは全く違う、別世界...。」

 奏が補足する。...まぁ、言っても言わなくても今は変わらないか。

「クロノは、なんでその両方を....って、そうか...!」

「...本当、勘がいいな君は...。でも、口外はしないでくれよ?」

 僕が過去に行った時、皆の記憶は封印したと思っていた。
 でも、事件そのものをなかった事にする訳にはいかないため、なんらかの形で記録を残しておかないといけない。
 ...それでクロノは記憶を封印していなかったんだ。

「え、えっと、優輝?一人で納得してもわからないのだけど...。」

「...まぁ、ちょっとした事情で覚えていたってだけだよ。」

 むしろ気になってしまう納得の仕方だったため、母さんが聞いてくる。
 詳しくは説明できないので、それを適度にはぐらかす。

「...“導王”として存在していた前々世は強さの原点ってだけで、今は関係ないから飛ばすよ。...それで、前世の話なんだけど...。」

 脳内で何を説明するか適当に整理し、話し出す。

「まず、司さんの前世の死因は、大量出血と衰弱。...虐待の末、刺されたんだ。」

「なっ....!?」

 死因を言うと、皆が驚く。
 虐待...つまり、家族に暴力などを振られた挙句、殺された訳だ。
 親である母さんや父さんはもちろん、クロノやリニスさん、奏も大いに驚いた。

「なんで、虐待を...。」

「...聖司...あ、司さんの前世は“祈巫聖司”って言って、元は男だったんだけど...聖司はある日、突然病気にかかったんだ。それも、治るかわからない程重い病気にね...。」

 リニスさんの呟きに答えるように、僕は歩きながら話を続ける。
 ...皆、黙って聞いている。椿や葵も警戒を怠らずに耳を傾けていた。

「最初は、それを治そうと聖司の両親も必死だった。だけど、段々とお金がなくなっていって...切羽詰まった両親は、日に日に心を病んでいったんだ。」

「...病気を治そうとして、お金を使い果たしてしまったのか...。」

「心を病んでいった両親は、そのうち病気にかかった聖司を恨むようになっていったんだ。そして、挙句の果てには治らないと思って、聖司を生命保険にかけた。」

 それは、詰まる所息子を死なせてでもお金を取り返そうという事。
 その事に、皆が絶句する。

「...奇跡的に病気を快復して退院したんだけど、ある意味では病院にいた方が良かっただろうね。...退院してからは、聖司にとっては地獄だっただろうから...。碌に食事は与えられない。顔を合わす度に睨まれ、暴力を振られ...ストレスの捌け口にされた。」

「っ、ひどい...。」

 奏が辛そうな顔をしながらそう呟く。
 ...ああ、僕も事情を聴かされた時そう思ったさ...。

「両親は借金に借金を重ね、聖司も心が壊れていったんだろうね...。そして、衰弱していった頃に、母親が聖司を殺そうと襲ったんだ。」

「っ....!」

 誰かが息を呑む。...この後どうなるか、予想がついてしまったからだろう。

「聖司は必死で逃げた。...そこで、前世での僕と鉢合わせしたんだ。」

「...優輝...。」

 ...無意識の内に、僕は手を力強く握りしめていた。

「怯える聖司に対して、どうしたのか僕が疑問に思っている内に、件の母親が来て...聖司は、護ろうとした僕を庇って、刺されたんだ...!」

「優輝...!無理しなくていいのよ...!」

 宥めるように母さんが言う。
 ...いつの間にか頬を涙が伝っていた。...やっぱり、辛い思い出なんだな...。

「大丈夫...。話を続けるよ。...刺された後、僕は周りに集まっていた人に警察と救急車を頼んで応急処置にあたったんだけど...聖司の体はあまりに衰弱していて...。」

「...そのまま....か?」

「...ああ。...その時、聖司の母親が言っていたんだ。“あんたなんかに....幸せなる権利なんてないわよ....!”って....。」

 ...おそらく、それが今の司さんの心を蝕む元凶なのだろうと、僕は思っている。

「....ひどい...な。」

「ああ。...幸せになるのに、権利なんていらない。なのに、聖司は母親に全てを否定されたんだ。」

 理不尽...この一言に尽きるだろう。
 誰だって、好きで病気にならないし、何よりも助けようとしていた癖に、掌を返すように追い詰めたのがあまりにもひどい。

「...でも、どうして今の状況に...。」

 そこで、父さんが呟くようにそういう。
 確かに、今話した部分だけでは、司さんがいなくなろうとした理由に直接は繋がらない。

「....司さんは...聖司は優しすぎたんだよ。それこそ、自分が関わった事であれば、なんでも責任を持とうとするぐらいに。」

「...まさか、殺される状況になったのも...。」

「....死ぬ寸前、聖司は、さ...申し訳なさそうな顔してたんだよ。まるで、巻き込んでしまったと謝っているような...いや、“自分が生きていて悪い”と思っているように...。」

 リニスさんが感付き、それに続けるように僕は語る。

「前世で僕は天涯孤独になってね...。生活面では無理だったけど、精神面では聖司によく助けられていたんだ。...それだけじゃない、聖司は皆に分け隔てなく優しさを振りまいて....それは、“聖奈司”に転生しても変わらなくて...。」

 脳裏に過るのは、小さい事から、大きい事まで人の助けとなっている聖司、もしくは司さん。...優しすぎた故に、それを否定され、心が壊れたんだ...。

「一度全てを否定されて、悪い方向へと考えてしまう悪循環に陥ってしまったんだろうね...。だから、今はこうしてどこかで誰にも気づかれないように閉じこもっている。」

「.........。」

 ...一通り話し終わって、皆は黙り込んでいる。
 色々と、思う所はあるのだろう。いつも明るい笑顔の裏で、ずっと思い悩んでいたのだから。

「...僕は、目の前で聖司を...親友を死なせてしまった。...だからこそ、今度は助けたい。助けられなかった贖罪として...何よりも、“親友”として...!」

「優輝...。」

 話している内に、決意が新たに固まる。
 辛い思い出だと、悲観はしない。...でも、もう二度と起こさないと誓う。

「....ごめん、長々と話しすぎたね。」

「大丈夫よ。特に何かが起こる気配もなし。逆に言えば、何も変化がないからちゃんと進めているかも不明だけどね。」

 ずっと警戒していてくれた椿がそういう。

「...助けなきゃね。」

「...ああ。」

 葵も、僕の隣に立ちながらそう言った。

「何度か、階段を下りたけど、最深部には着かないわ。」

「...この家には地下はないはず。なのに階段を下りるというのは...。」

「まるで、深層意識に入っていくのを表しているみたいだね。」

 本当に、この結界内は司さんの心を表しているようだ。
 暗く、入り組んだ迷路のような通路。“負”の感情に雁字搦めに囚われ、抜け出せなくなっている...まるでそんな感じだ。

「...でも、そろそろよ。」

「そうだね。」

 椿と葵の言葉に、全員が前方に集中する。

「...今までになかったものが来たよ。」

「扉...。」

 それは、なんの変哲もないただのドア。
 ...だけど、それはまるで最深部と言わんばかりにポツンとあった。

「...突入する前に、僕から一つアドバイス。」

「ん?」

 扉を開けながら、僕は言葉を紡ぐ。
 扉を開けた先には、もう一つ扉が。どうやら、複数扉が並んでいるらしい。

「...司さんを助けるつもりなら、決して“負”の感情には呑まれないで。そうでなければ、彼女は絶対に救えない。」

 そういって、最後の扉を開け放った。











 ...そこには、散らかり、ボロボロになった部屋と...。

 部屋の隅で蹲るように座る司さん...その姿をしたジュエルシードがあった。











 
 

 
後書き
毎回存在を忘れそうになる王牙ェ...。
結界内はなんとなくまどマギの魔女結界をイメージしながら描写しました。
“負”を表現するには不気味さを出すべきですので...。

次回、戦闘です。悪堕ちするとパワーアップする方式をふんだんに使ってあります。 
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