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NARUTO~サイドストーリー~

作者:月下美人
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SIDE:A
  第十話

 
前書き
 久しぶりに投稿します。
 第五話のヒナタ誘拐の話を一部書き直しました。 

 


「おっちゃん、ラーメン替え玉一つ!」


「じゃあ俺も」


「ふむ、では妾ももらおうかの」


「あいよぉ!」


 今日は休日のため学校は休み。昼飯で一楽に来ていた俺たちは三人仲良く並んでズルズルとラーメンを食べていた。汐音は醤油、俺は味噌、クーちゃんは塩味。


 一楽のラーメンはマジで美味い。こしがある麺はまさに弾むと言っていいほど弾力があり、このもちもち感がたまらない。スープもコクがあって濃厚なんだけどそれでいてしつこくないというか、後味の良いさっぱりとした味だ。


 汐音が早くもおかわりを頼み、俺とクーちゃんもそれに続く。基本我が家はあまり外食をしないから、こういう機会を得ると腹一杯食べようとするんだよね。


 ラーメンうまー、と出てきた替え玉の麺をズルズルと啜っていると、背後からタッタッタッと地面を駆ける音が。


 そして「ハールートーさん!」と鈴の音が鳴るような可愛らしい声とともに小さな衝撃が背中を走った。


「おおっと! ったく……危ないだろハナビ」


 振り返るとそこには笑顔を浮かべる一人の少女の姿。


 姉に似た整った顔立ちに一族特有の白い目。甘え上手で少しお茶目な性格の彼女は俺の背に抱きつきながら楽しそうに笑い、言葉だけの謝罪を口にした。


「えへへ、ごめんなさーい」


 艶やかな黒髪がさらさらと零れる。


 彼女は日向ハナビ。ヒナタの妹で二歳の女の子だ。


「あ、ハナビ。こんにちはだってばさ!」


「汐音さん! こんにちはっ」


 俺から離れたハナビは汐音に抱きつく。


 俺たちがハナビと出会ったのは半年前のヒナタとの見合いの場。汐音とハナビは不思議と馬が合うようで驚くほど仲がよくなり、今では親友と言えるほどの間柄だ。


 俺にとってのシノみたいな感じかな。キャイキャイと楽しそうに騒ぐのは見ていて和むけど、場所を選びなさい。


 営業妨害になりかねないため勘定を済ませる。


「ごちそうさまー」


「あいよ! ……丁度だな。また来いよ!」


「おーう。ほら行くよ二人とも」


 じゃれ合う二人を促す。隣ではクーちゃんがハンカチで上品に口元を拭いていた。


「美味であった。店主よ、また腕を上げたな」


「へへっ、まだまだですよ」


 照れくさそうに鼻の下を拭う店主。


 汐音とクーちゃんにハナビも足した一行は特に当てもなく、小物店や忍具店、書店や甘味処などぶらついていると、ハナビが声を掛けてきた。


「そうだ! 折角なんで家に来ませんか?」


「ハナビのところに?」


「はい。姉さんもいますし、きっと喜びますよ」


 そう言われると行かざるをえないじゃないか。まあ嫌じゃないけど!


 そういえばヒナタは今何してるのかな?


「姉さんですか? 姉さんなら父様と稽古ですよ」


「ヒアシさんか」


 そういえばヒアシさんには最近顔を見せていなかったっけ。あの人には俺も昔からお世話になってたし、久しぶりに俺も稽古つけてもらおうかな。


 ヒナタと俺が正式に顔合わせをしたあの日からヒアシさんには本当によくしてもらっている。なにやらヒアシさんは俺とヒナタをくっ付ける気が満々らしく、半年前から稽古をつけてもらっていた。とはいっても組み手の相手をしてもらうだけだが『日向は木の葉最強』を謳う日向家の当主は父さん並みに強く、ぶっちゃけ体術のみの組み手だと勝敗は三割といったところ。木の葉最強は伊達じゃないわ。


 日向が修めている日向流柔拳は経絡系を見抜く白眼があってこそ本領を発揮する。白眼を持ってない俺も軽く柔拳の基礎を習ったけど、なんというか中国拳法の八卦に似た動きなんだよな。もしかしたら原作の元ネタは中国拳法から来てるのかもしれない。


 まあ当主であるヒアシさん直々に教わったおかげで、オリジナルの柔拳技をいくつか習得できた。機会があれば見せようと思うがぶっちゃけ殺人術に分類されるから軽々しく見せれないのがネックなところ。文字通りの"必殺"技をヒアシさんや父さん、ガイ師匠に披露したら口を揃えて実戦以外での使用を禁ずるって言われたくらいだし。まあ結構えぐい技だからなアレ。


「んー、じゃあお邪魔しようかな」


「決まりですね!」


 さあ行きましょう行きましょう!と汐音と俺の手を取って走り出す。そのはしゃぎっぷりに苦笑を漏らし、可愛らしい妹分の後に続いた。





   †               †               †





 大きな門を潜ると立派な家が姿を現した。武家屋敷のような平屋建ての家だ。


 日向一族宗家、ヒナタとハナビの家であり、お手伝いさんも含めて宗家にはいつも十人以上の人がいる。


「ただいま戻りました」


 それまでの活発な言動がなりを潜め、楚々とした仕草で戸を開ける。日向の姫君として相応しい教育を受けてきたハナビは家の中限定で淑女と化すのだ。外だとお転婆娘になるけれど。


 丁度その場に居合わせていたお手伝いさんの女性がハナビに気が付くと、その場に膝を着き深く頭を下げた。


「お帰りなさいませハナビ様。……あら? 皆様もご一緒なのですね」


 お手伝いの女性――松さんはハナビの後ろで佇む俺たちの姿に気が付くと小さく目を開くと、ふっと表情を緩めた。


 懐かしい人の顔に俺も表情が和らぐ。


「こんにちは松さん。お邪魔しますね」


「お邪魔しまーす!」


「邪魔するぞ」


「はい、お久しぶりです若様。皆さんもお変わりないようですね。ようこそいらっしゃいました」


 ヒナタの婚約者だからか、宗家の人たちは俺のことを若様と呼ぶ。始めは気恥ずかしかったが今では流石にもう慣れたものだ。


「姉上は修練場ですか?」


「はい。ヒアシ様もそちらにおられます」


「わかりました」


 俺たち一行を朗らかな笑顔で迎えてくれた松さんはからヒナタとヒアシさんの場所を聞き、そちらに向かった。


 修練場というのはいわば道場であり、離れに作られている。広さは大体五十メートル四方。ここの存在を知った当初はどんだけ日向の敷地は広いんだと声を大にして言いたかった……。


 すれ違う人たちと挨拶を交わしながら埃一つない渡り廊下を歩いていると、修練場の扉を超えて威勢の良い掛け声が聞こえてきた。


「やってるな」


「ですね」


 声はヒナタのもの。今日もヒアシさんに稽古をつけてもらっているのだろう。


 引き戸を開けて中に入る。木の板を使用した床の上を滑るように移動しながら、二人の親子が組み手を行っていた。


 方や白眼を展開させて掌底や蹴りなどを流れるように繰り出すヒナタ。そして、もう片方は白眼も使わずに涼しげな顔でかわし続けるヒアシさん。余裕綽々の表情で紙一重で回避する様はまさしく柳に風。


「ただいま戻りました父上」


「――ハナビか。ヒナタ、今日はここまでにしよう」


「はぁ、はぁ……。は、はい。ありがとう、ございました」


「うむ」


 肩で息をしながらヘトヘトな様子で一礼するヒナタに頷き返すヒアシさん。


 振り向き俺たちの姿に気がつくと、表情を和らげた。


「おお、ハルトくんか。汐音ちゃんと九尾殿も。久しぶりだね」


「ご無沙汰しています、ヒアシさん」


「こんにちはおじさん!」


「久方ぶりじゃの」


 ペコッと頭を下げると苦笑したヒアシさんが肩に手を置いた。


 そして、毎度お馴染みのあの台詞を投げかけてくる。


「ハルトくん、私のことはお義父さんでいいと言っているだろう? 私は君のことも本当の息子だと思っているのだから」


「ねえねえおじさん! 汐音は!?」


「もちろん汐音ちゃんもヒナタやハナビ同様、娘のように思ってるよ」


 汐音の頭を撫でながら柔らかい口調でそう言うヒナタパパ。


 なんかヒアシさんに気に入られているっぽい俺は日向家にやって来るとこのように声を掛けられている。


 俺もお義父さんと呼ぶのは悪い気分じゃないんだけど、ちょっとまだ気恥ずかしくて素直に呼べない。それにヒナタとは婚約関係であってまだ結婚してないしね。


 幾分か呼吸を安定させたヒナタが顔を赤らめながら慌ててヒアシさんに詰め寄った。


「お、お父様! あの、は、ハルトくんにも事情があるんだし、まだ、は、早いと思います!」


「うぅむ、しかしハルト君はいずれお前と結婚するのだぞ? そうなれば私はハルトくんの父になるのだし、今のうちに言い慣れておいてもいいと思うんだが」


「け、結婚! そ、そんな……はぅぅ……!」


 顔を真っ赤にして頭から湯気を出すヒナタ。そんな娘の様子を呆れたような顔で見ていたヒアシさんは小さくため息をついた。


「ヒナタ、まだ恥ずかしがっているか? もう見合いをして半年も経つというのに」


「うぅ、だってあの憧れだったハルトくんとだなんて、いつまでたっても慣れないよぉ」


「はぁ、この引っ込み思案な性格は一体誰に似たのやら」


「間違いなくお婆様ですね」


 赤らめた頬を両手で押さえるヒナタを見てため息をつくヒアシさんとハナビ。俺は許嫁の可愛い姿にほっこりしてます。まあ、そのうち慣れると思うしのんびりいこうぜ。


 ヒアシさんたちと一緒に母屋に戻った俺たち。


 ヒナタは汗を流すために一旦別れて浴室へと向かい、ハナビも姉の後を追った。


 ヒアシさんの部屋に通された俺たち三人。広々とした室内の中央に設けられた木製のテーブルにそれぞれ座ると、早速ヒアシさんが話しかけてきた。


「最近どうだね。ヒナタと同じく今年からアカデミーに通っているのだろう?」


「ええ。楽しいアカデミー生活を送ってますよ。シカマルやキバたちとは以前から交流を持ってましたけど、修行とかであまり遊ぶ時間も取れなかったですし。そういう意味では貴重な時間ですね」


「うむ。ハルトくんもまだ八歳。修行もいいが、友人と時間をともにするのも同じくらい大切なことだ。ハルトくんの実力ならアカデミーで習う技術、知識は問題ないだろうが、他者との交流を通じてチームワークの重要さを学ぶ良い機会だろう」


「そうですね、任務は基本チームで動くと聞いてますし。俺も流石にチームワークの修行はやってませんから」


 入学してから知ったことだが、任務ではスリーマンセルで動くことが多い。そのため、アカデミーは交流を深めてチームワークのイロハを学ぶ意義もあるのだそうだ。


 人一人で出来ることは、たかが知れている。転生特典をもらっている俺であってもそれは例外ではない。人より出来ることは多いかもしれないが、なんでも出来るなんて思ったら、いつか命取りになるだろう。忍は一事が万事を地でいく世界なのだから。


 アカデミーに通い始める前から汐音を通じて、シカマルたちと時たま遊んだり、修行の相手になったりと交流を持ってはいた。しかし、俺個人も修行があったりするため必然的にシカマルたちと一緒にいられる時間は限られている。


 もう少し、シカマルやシノたちと一緒にいられる時間が欲しいなと思っていた俺にとって、アカデミーは意外と有意義な場所だった。これは嬉しい誤算だな。


 それに、ヒナタとも一緒にいられるしな!


「修行の方はどうだね?」


「順調ですよ。体術はガイ師匠に師事してから、最近になって父から一本取れるようになってきましたし。術の方も開発は順調です」


「……君が作る術はなんというか、凄まじいものが多いからな。作るのもいいが、あまり禁術指定になりそうなものは控えなさい」


「ええ、わかってます。まあ、禁術指定の術を使っても未だにクーちゃんには勝てませんけどね」


 体術のみならそこそこ追いつめることが出来るけど、術もありとなるとまったく歯が立たない。


 禁術指定のオリジナル忍術を使っても簡単に避けられるし。やっぱりクーちゃん強すぎ。本人曰く、五影が束になって掛かってようやく互角らしいし。


「ほほ、当然じゃ。妾を誰と心得る? 九尾の大妖狐ぞ」


 誇らしげに胸を張るクーちゃん。豊満な胸がぼよん、と大きく揺れた。


「まあ九尾殿が相手では致し方あるまい。むしろ、その歳でミナトから一本取れるのはすごいことなのだぞ?」


「そうは言いますけど、しょせんは模擬戦ですし。実戦ではまだまだ足元にも及びませんよ」


「経験がものをいうからな、それはしょうがない。ハルト君も忍になればすぐに上忍に昇格出来るだろうし、焦ることはない」


 朗らかにそう言うヒアシさん。まあわかってはいるけど、負けっぱなしというのもやっぱり悔しいのだ。


「――失礼いたします」


 ふすまの向こうから凛とした声が聞こえてきた。


 一泊置いてスッとふすまが横にスライドすると、妙齢な女性が膝をついていた。


 丁寧な所作で頭を下げた女性は俺たちを見ると、ニコッと微笑んだ。


「お久しぶりですねハルトくん、汐音ちゃん、狐さん。ようこそいらっしゃいました」


「ミオさん」


「こんにちはおばさん!」


「うむ。壮健なようじゃな」


 淡い桜色の着物を着た女性は日向ミオさん。ヒナタとハナビの母でヒアシさんの奥さんだ。


 ヒナタをそのまま大人にしたら多分こうなるんだろうな、と思うほど親娘の顔が似ている。


 長い黒髪をうなじ辺りで団子状にアップした姿は女性ならではの色気があり、ヒナタも将来こういう風に成長するのかと思うと楽しみで仕方ない。


 ミオさんは傍に置いていたお盆を持つと立ち上がり入室する。そして俺たちの前に湯飲みを置くとお茶を淹れてくれた。


「ありがとうございます」


「いいえ、私も旦那様も、また来て欲しかったので。こうして顔が見れて嬉しいのですよ。どうぞ、熱いので気をつけてくださいね」


「うむ、ちゃんと氷を入れて冷ましておるな。流石はミオじゃ」


「恐縮です」


 猫舌のクーちゃんは熱いお茶が飲めないから、こうして氷を入れて冷まさないといけない。クーちゃんを迎える上で必要なルールを覚えていたミオさんは淑やかに微笑んだ。


 俺と向かい合うようにして座ったミオさんは最初にヒナタのことを聞いてきた。


「アカデミーでのヒナタはどう? ちゃんとやっていけてる? あの子、あの性格じゃない。ちゃんとクラスの子と一緒にやっていけてるか心配で……」


「ええ、俺が見てる限りは大丈夫そうですけど。どう?」


 女子のことは女子に聞くことに限る。ということでヒナタとも仲の良い汐音に聞いてみた。


 熱いお茶をふーふーと冷まして飲んでいた汐音はパチパチと目を瞬きさせる。


「ん~、大丈夫だと思うよ? 汐音もいのちゃんもいるし、基本的に皆と一緒に行動してるから。女の子の中でも変な話は聞かないもん」


 まあヒナタの変な話が上がったとしたら、妬みとか何かだろう。あんないい子に悪い噂が出るとは思えないし。


 汐音の話を聞いたミオさんはホッと安堵したようだった。


「そう、ならよかったわ」


「お父様、入ってもよろしいですか?」


 ふすまの向こうからハナビの声が。


 父の許可を得てふすまが開くと、風呂上りのヒナタとハナビが立っていた。


 二人とも部屋着の浴衣に着替えていて、風呂上りのためか色白の肌が若干火照ている。


 ヒナタは白い生地の浴衣で帯はピンク。ハナビは逆の黒い生地で帯は青だ。


 ヒアシさんに促されて二人もテーブルに着く。


 配置としてはこのようになっている。


   父

 ハ テ 母
 シ | 姉
 ク ブ 妹
   ル


 ヒナタは俺の方をチラチラと見てはササッと顔を視線を反らすと言う行為を何度も行い、その都度妹にからかわれていた。姉妹仲は良好のようでなにより。


 和やかな雰囲気のなか他愛のない話をしていると、ミオさんが唐突にこんなことを聞いてきた。


「それでハルトくん。うちのヒナタとはどこまでいったの?」


「そうですね、この前は顔岩の方までピクニックに行きましたよ。な、ヒナタ」


「う、うん。楽しかったね」


 いたずらっ子が浮かべるような笑みでニヤニヤと聞いてくるミオさん。


 絶対この手の会話がくるとにらんでいた俺は落ち着いて対処した。


 ヒナタは一週間ほど前のデートを思い出し顔を赤らめて嬉しそうに微笑む。


 それを聞いたミオさんは「またまた~」と軽く聴き流した。


「ハルトくんったらとぼけちゃって。お義母さん騙されないぞ♪」


 パチンと片目を瞑って見せる三十「ハルトくん?」――妙齢の女性。


 淑やかで柔らかい物腰のミオさんだが、結構ちゃめ気もあり、よくヒナタとの仲をネタにこうしてからかってくるのだ。


「手は流石に繋いでるわよね。じゃあキスは? ちゅーはまだかしら?」


「ち、ちゅ……っ!?」


 顔を真っ赤にしたヒナタは脳が茹蛸になるのではないかと心配になるくらい頭から蒸気を出した。ここが漫画の世界だからか、人って本当に頭から蒸気が出るんだ……。


 初心にもほどがある反応を見せる姉を見て、ハナビが眉を顰めた。


「もう、しっかりしてください姉上。奥手なのが悪いとは申しませんが、そんな様子ではハルトさんを他所の女に取られてしまいますよ?」


「ええっ!? そ、そうなの?」


 妹の諫言にバッと顔を振り向かせるヒナタ。


 そんな姉にため息をついたハナビは幼子を諭すかのように静かな口調で言った。


「いいですか姉上、よーく考えてみてください。容姿端麗で質実剛健。四代目火影様のご子息でありながら鼻にかけることなく気さくに声を掛けてくださいますし、面倒見も良い。しかも、あの九尾の狐を撃退し、支配下に置いたという類を見ない実績を持つんですよ。容姿、性格、実力、家柄、そのどれもが良いなんて人そうそういません。ハルトさんはこれから先、正直かなりモテると思います。あまり良い例えではありませんが、こんな優良物件を放っておく女の子はいませんよ普通」


 一つ一つ指を折りながら、俺について解説してくれるミオ。あの、本人ここにいるんですけど。聞いてるこっちとしては結構恥ずかしいな。


 ヒナタは話を聞いているうちに段々不安になってきたのか、最後のほうではすでに涙目になってしまっていた。


 潤んだ目をこちらに向けてくるヒナタ。言外に他所の女の子のところにいかないよね、と訴えてきているかのようだった。


 困った顔で頬を掻いた俺はしっかりと頷いてやった。


「まあ、俺がモテるかどうかは判らないけど、少なくとも俺自身はヒナタ以外の娘と付き合うつもりはないよ」


「は、ハルトくん……!」


 ぱぁっと顔を輝かせ、次いで恥ずかしがって見せるという味のある二段変化を披露するヒナタ。ヒアシさんはうむうむと大きく頷き、ミオさんは「あらあら、ごちそうさま♪」と頬に手を当てて微笑んだ。


 むぅぅっと頬を膨らませてご機嫌斜めのクーちゃん。


 紅い目でキッとヒナタを睨んだ。


「妾の目が黒いうちは破廉恥なことは許さんぞ。ましてや、ち、ちゅーなど! そういうのは祝言を挙げてからするものじゃ!」


「ち、ちゅー……! 祝言……! はぅぅ……」


「あーあ、ヒナタちゃん気絶しちゃったってばさ」


 クーちゃんの言葉にとうとうキャパシティを超えてしまったのか、こてんとハナビの肩に頭を倒し気絶してしまった。


 そんな娘の姿にやれやれと首を振るヒアシさん。


 その光景がどこか懐かしく思い。


「――ああ、そっか……」


 半年前の顔合わせとまったく同じやり取りをしたのだった。

 
 

 
後書き
 年内にもう一話投稿する予定です。
 
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