ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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贖罪-エクスピエイション-part1/半妖精の憂い
「…っち。無様な者ね。結局虚無を二人とも逃すなんて」
アンチラ星人が敗れたのを、シェフィールドはガーゴイルの目を通して見通していた。
まあ、あの程度の星人にちょっとおもちゃを与えた程度でどうこうできるわけではなかったと考えるべきか。日に日にウルトラ戦士側は強くなっており、トリステインもこれまでの動乱を通して対策を立て始めていることだろう。それに、あのにせネクサスはまだ試作型で、オリジナルには遠く及ばなかった。ウルトラマンとほぼ五分の力を持つゴモラに敗れるのもおかしくない。
ガーゴイルを戻し、視線をロンディニウム城の執務室に意識を戻したシェフィールド。すると、彼女のいる部屋に、紳士服を着た小太りで色白の男チャリジャが入ってくる。
「やれやれ、せっかくあなたにお売りした怪獣も一体奪い返されてしまいましたか」
「…あまり困っているようには見えないわね」
シェフィールドは笑みを見せるチャリジャを見てそう呟く。
「ええ、怪獣は他にもたくさん捕獲しております。現在は、あの『カオスヘッダー』とやらを分裂させ、怪獣たちに憑依させ強化を図る実験をしております。より良い商品をお届けしてこそ、商人としての原則ですからね」
「助かるわ。ちょうど例の『あれ』を作るための餌が必要だったから」
「それは大いに結構。ですが、持ち合わせは?」
「ちゃんと払える分は持っているわ。心配しなくていい。次の手も彼に任せてあるわ。失敗した場合の保険もかけてある」
「すでに手を打ってられてるとは…だが次は成功なさるのか?」
チャリジャも、深くかかわっている取引相手の事情についてはある程度認知していた。
今は、闇の力を得た傭兵…メンヌヴィルに頼んでおいた仕事を任せていたはず。
「さあね…次の作戦が成功するかどうかなんて、これまでのことを考えるともはやどうでもいいわ。少なくとも…『あの方』をこの世界に呼び出すまでの基盤作り…それが今の私の活動目的なのだから」
シェフィールドは窓の外に広がる空を見上げた。空の向こうにある、一つの星を見つめていた。そこに、探し求めている何かを感じ取っているように。
ふと、シェフィールドの目の前に、とても魔法文化に富んだ世界には似合わない電子モニターが出現した。
「ん?こちらシェフィールド。どうしたの?」
『お久しぶりです。「ドクター・ヘロディア」。そちらの首尾はどうですか?』
モニターに、長身の黒い紳士服を着た男の姿が表示され、シェフィールドにあいさつしてきた。ただ…なぜかシェフィールドと呼ばず、全く異なる名前で彼女を呼んでいた。
「…その名で呼ばないで。『スライ』」
『おっと、失礼。何分呼び慣れていないものでして』
ため息交じりに言うシェフィールドに対し、『スライ』と呼ばれた男は、モニターの向こう側でわざとらしく謝ってくる。
「…まぁいいわ。『あの方』の状態は?」
『警備が厳重のようでしてね。どうやら彼らも擬態能力を持つ者に対しては特に警戒心が高いようです。やはり姿のみで欺くという手は使えそうにありません』
「…仕方ないわね。それなら…こちらから無理やりこじ開ける手で行きましょうか」
『了解いたしました。なら私は座標の割り出しに入りましょう。そちらの仕事は任せましたよ…シェフィールド殿?』
モニターはそこで消え去って通信は切れた。
通信先の男と、何かを狙っているのだろうか。その辺りに興味を惹かれたチャリジャがシェフィールドに尋ねてくる。
「お知り合いで?」
「不本意ながらね。でも、あなた…商売相手の事情に首を突っ込むのはどうなの?」
「これは失敬。あなたの通信相手は中々のお方のように感じ取れましたので」
「…」
シェフィールドはチャリジャに対して気を抜けない気持ちを抱いた。こいつとはあくまで駒として利用する怪獣を手に入れるための繋がりしかない。もし自分以外に都合のいい商売相手を見つけたら、すぐにそちらに手のひらを返すこととなるだろう。チャリジャはその後、商品の様子を見に行くと告げ、部屋を去った。
すると、チャリジャと入れ替わるように、新たなモニターが表示された。
『……ゴォォォォ…』
次に現れたのは、仮面をつけた不気味な男だった。言葉を発さず、声はうなっているだけ。シェフィールドは少々困った様子でその男に言った。
「…あなたね、はっきり言葉を喋ってくれないとわからないわよ」
『悪い悪い。どうもこいつは喋るのが得意じゃないみたいでな。「結界の準備は完了した」と言ってるぜ』
すると、今度は雨合羽を着たチンピラくさい口調の男がシェフィールドに軽い感じで、うなり声を発した男の代わりに報告を入れてきた。
「通訳ご苦労様。あと二人いないみたいだけど…」
『心配にはおよばねぇよ。あの二人も、「あの方」を呼び出すために必要な装置の材料を集めている』
「そう、ならいいわ。引き続き工作に入って。その二人がこちらに来たら、結界を発動させる。急いで」
『おう。ところで、そっちはどうだ?虚無の力とやらを持っているメスガキを手に入れるとか言ってなかったか?』
「今回は見送るわ。私の主も積極的にとることはないと言っていたし。
できれば早いうちに手に入れたかったのだけど」
シェフィールドの計画は、破られる度にまた一つ、ハルケギニアを……エスメラルダを覆うほどの規模に膨れ上がりつつあった。
「なるほど、そのようなことがあったのですね」
王宮にて、帰還したサイトたちから話を聞いたアンリエッタは、サイトらと共に、彼らによって救出されたマチルダとティファニア、そして炎の空賊団3兄弟船長と謁見の間にて対談した。
この時の他の空賊のクルーやウエストウッド村の子供たちは別室で待機している。
ムサシもサイトたちを待っている間、ヤマワラワの相手をすることにした。ヤマワラワは好奇心旺盛な傾向があり、城の中であまりうろうろされると怪しまれることを考慮しての配慮だ。また、怪我人に至っては地下水が適当にクルーの一人の体を借りて治療魔法をかけているとのことだ。モンモランシーも手伝っており、レイナールとマリコリヌも、不満をこぼしつつもムサシと共に子供たちの相手をさせられている。
ヘンリーは元々アルビオンから迷い込んできた敵国の兵士で、今は事情聴取を受けている。
「ルイズたちから話は伺っております。ウェールズ様たちに力を貸してくださったそうですね。その節は本当にありがとうございました」
かつてウェールズ皇太子と共にレコンキスタに反抗した炎の空賊たち。アンリエッタにとって、彼らは愛する人を支えてくれた大恩人であった。一度会ってぜひ礼を言っておきたかった。
「なに、わしらは自由を脅かすあのクソッタレ共が気に食わなかっただけよ!」
「全くじゃ、聖地を目指すだの、ハルケギニアを一つにするだの、結局は小山の大将になりたがっていたクズの集りじゃったからのう」
「あのクロムウェルとかいう奴をこの桃髪の嬢ちゃんと一緒にぶちのめした時はスカッとしたわい!」
三兄弟船長たちはガハハハ!と、まるで宴会席のおっさんのような笑い声を上げた。
(やっぱ強烈だな、このおっさんたち……)
ウェールズという前例はあるが、それでも女王相手にいつも通りの態度の彼らにサイトは苦笑いした。
「ちょっとあんたたち、陛下に対して無礼じゃない!」
ルイズはあまりに無礼な態度を隠しもしない彼らに怒鳴る。本来なら、たとえ義賊でもこのような場に空賊である彼らを招き入れるのは本来ならあり得なかったが、アンリエッタが是非とも会いたいと、他の貴族たちの反対を押し切って謁見の間に招き入れたのだ。
「よ、よいのですよルイズ。私は気にしてないわ」
アンリエッタは口ではそういい、確かに怒ってはいなかったが、強烈なキャラクターを見せたガル船長たちに若干圧倒されていた。
「しかし、あのレコンキスタの総帥にして、アルビオンの神聖皇帝を名乗ったクロムウェルを討伐したとは驚きました。これでウェールズ様に力添えをしたアルビオンの旧臣たちや国王陛下、そして民たちも安らかに眠れることでしょう」
アンリエッタは先ほどまでルイズたちの口から明かされた、異形の存在に化けたクロムウェルを倒したという事実に、死を喜ぶという意味では不謹慎かもしれないが、諸悪の根源と思われる者が彼らの手で裁かれたことを聞いて、どこか心が晴れやかになったところがあった。
「…いえ、それはまだわからないと思います」
しかし、ルイズは首を横に振ってアンリエッタに言った。
「ルイズ、どういうこと?レコンキスタの支配者が倒れたのなら…」
レコンキスタは自然と瓦解する。そうなれば、サイトの口から聞いていた、レコンキスタへ助力していた異星人とやらもまた、利用価値を亡くした組織に見限りをつけると思っていた。だがまだルイズたちは安心した様子を見せていない。
「そのことなんですが…最後にクロムウェルは言っていました。まるで自分の代わりが他にもいるだろう、と」
「え…?」
アンリエッタは目を見開いた。聡い彼女は瞬間に悪い予感を感じた。
「サイト、あのクロムウェルについて知っている事ある?」
「あ、ああ…」
サイトは気づいていた。あのクロムウェルはそもそも…ただの駒でしかなかったことは察していた。
サイトが生まれる前の時代…アンチラ星人は『異次元人ヤプール』という極悪のエイリアンの部下として地球に潜入した。過去の防衛チームの隊員に化け、当時地球を守っていたウルトラマンや防衛チームの隊員たちを、怪獣をやっつけるというマッチポンプを使って欺き、隙を突いて倒したふりをした怪獣で攻撃を仕掛けるという策謀を実行したと語った。
「人間の姿を利用して、人を騙す異星人か…なんと卑怯な」
「けど、敵を倒す手段として有効でしょう。そして侵略目的の異星人は、手段を択ばない。これから先は厄介になるかと思います」
クロムウェルは、異星人たちのただの傀儡に過ぎなかった。アルビオンの軍人たちはそれを知らないまま、クロムウェルは虚無の担い手だと思い込まされて従っている。なら、あのアンチラ星人を倒したところで、また別の擬態能力を持つ異星人がクロムウェルの役を担うと言うことか。
貴族として、人間としてそのアンチラ星人というエイリアンにアンリエッタは義憤を覚えたが、表に出ていたアキナが警戒を促しながら敵の狡猾さにある種の評価を示した。
「それに、異星人にはウルトラマンの姿を…場合によっては能力さえもコピーできる者もいます。今回のように、ウルトラマンの模造品が襲ってくることも、おそらく…」
「なんですって…!?」
さらにアキナの口から放たれた事実に、アンリエッタは愚か、ハルケギニアで生きてきた者全員が驚愕する。闇の巨人以外にも、ウルトラマンの力を行使する侵略者の存在を示唆され、より気を引き締めなければと誰もが思った。
次に彼女か視線を傾けたのは、マチルダと一緒に立っていた、ティファニアだった。
「ティファニアさん。良からぬ輩に狙われ、お辛かったでしょう。でも安心して、私はあなた方をこれ以上危険に晒させません」
頼もしい言葉でテファに安心を与えようとしたが、テファは沈んだ表情を浮かべていた。
「…………」
「テファ、大丈夫か?」
「…大丈夫って、なにが……?」
「いや、なにがって……」
サイトも何とかしたくて、彼女に声をかけるも、テファの沈みきった表情を変えられなかった。
「……ずっと、この調子」
マチルダも今のテファには心を痛めていた。シュウが姿を消してからこの調子である。
父モード大公の屋敷の中で、そして森の中で外の世界をほとんど知らないまま生きてきたティファニア。そんな彼女が初めて見る王都トリスタニアを見ても、まるでリアクションをしなかったほどだ。
「あぁ、なんということだ。このような可憐な花がずっと涙の雨に打たれているようでは枯れてしまう。僕が何か力にならなくては」
「あんたは余計なことしないで。モンモランシーに言いつけるわよ」
そんなテファを見かねてギーシュがしゃしゃり出ようとしたが、当然ながらその気遣いの裏に下心が丸見えだったので、ルイズからモンモランシーの名前を出されて息を詰まらせた。
「お嬢ちゃん、そんな辛気臭い顔すんな。せっかくの美人が台無しだぞ?」
「あんたねぇ…」
茶化しているようにも聞こえる口調で言ってきたこともあって、マチルダは言葉をかけてきたギルを睨み付けた。そんな彼女にジュリオが口を挟んでくる。
「まぁまぁ。グル船長さんの言うことも最もだ。それよりティファニア嬢。せっかくの機会だから陛下とちゃんと顔を合わせた方がいいよ」
「っち…」
このチャラ男くさい奴に諌められるのは気に食わないが、言っていること自体は間違いではない。少しでも笑顔を取り戻してほしいとも思っていたマチルダは、少し舌打ちしながらも退いた。
「ティファニア、顔を上げて頂戴。あなたには、お礼を言いたいのです。以前ルイズたちがあなたの村を訪れた時のことで…」
アンリエッタはティファニアに触れて、少しでも安心感を与えようと言葉を懸けようとしたが、一つ気が付いたことがあった。
「あら、あなた…どうして屋内なのに帽子を?」
「あ、こ…これにはわけが…」
テファは、エルフの血を引くことを隠すために、外出時では必ず帽子をかぶっており、今でもかぶったままだった。そうしなければ、エルフを敵視するブリミル教徒で絞められた王宮内の貴族たちに目をつけられてしまうからである。
「……」
マチルダは一つ覚悟を決めた。ここに連れてこられたのは、異星人にテファが狙われてしまった状況下でサイトたちの救出をやむなく受けざるを得なかったためだ。しかし王宮と言えば、前述でも語った通りエルフを敵視する者たちの巣窟も同然。場合によっては女王を人質にして、テファを脱出させる算段を考えていた。
「…陛下、ティファニアには重大な事情ゆえに、帽子を常に被らないといけないのです。ですが、どのような事情があっても、どうかティファニアを拒絶しないことを願います」
すると、ルイズがアンリエッタにそのように説明を入れてきた。
「お、おいあんた!」
「大丈夫よ、陛下はあなたたちが考えているようなことはしないわ」
マチルダが止せ!と言わんばかりにルイズに言うが、対するルイズは安心してほしいと言った。
「ルイズがそのようにお願いするほどです。ティファニア、帽子を脱いだ姿を見せて」
「…はい」
ティファニアは、女王から言われた通り、自ら帽子を脱いで、先のとがった二つの耳を露わにした。
「まぁ、その耳は…エルフ!」
さすがにアンリエッタもこれには驚いた。
一度アルビオンを来訪し彼女にあらかじめあったことがあるサイトたちは驚くことはなかったが、どうする、やはり杖を抜くか?とマチルダは同時に考え始めた。
ふと、グルがウェールズとの会話で思い出したことを口にする。
それはサイトたちがテファやマチルダから、以前聞いたことがあることだった。
「そういや、ウェールズの坊ちゃんが言ってたな。自分には会ったことのない従妹がいるってな。死んだ伯父である大公の娘さん、とか…」
「もしや、ティファニア、あなたの父君は…」
「…はい、私の父はモード大公。アルビオン王の弟君です」
それからテファは自らの口で、かつて妻を亡くした父が自分の領土に現れたエルフの娘を妾として保護し、いつしか夫婦同前に愛し合う仲になり、その果てにハーフエルフである自分が生まれたことを話した。
「それなら、なおさらあなたを守らねばなりません。私にとっても大切な肉親の一人…従妹ではないですか」
まさか人間とエルフの間に子供が生まれ、親の片方が亡きアルビオンの大公だったことにアンリエッタたちは(特にギーシュが)驚いた。同時にアンリエッタが彼女を守ると、あまりに意外に思える意志に、マチルダはアンリエッタに問いかけた。
「…失礼ながら、陛下はエルフを恐れないのですか?」
「私も、エルフが始祖の敵であると教育されたことがあります。でも、私はそうは思いません。だって、本当に始祖の敵でしかないのなら…ミス・サウスゴータ。あなたという味方もいなければ、ティファニアがこの世に生まれることなどないはずです。それに、私はあなたという従妹とこうして出会えて嬉しいわ」
「…ありがとうございます、陛下」
今度の女王の寛大さに、マチルダは驚いた。これまでウエストウッド村の近くを通りがかった行商人は、テファがエルフの血を引くと聞いただけで、慌てて逃げ出したくらいだ。
しかし、まだテファの表情に大きな変化がない。
「…まだ元気が出し切れていないようですね」
「すみません、まだ…アルビオンを出てから色々ありすぎて」
暗い表情を保ったまま謝罪するテファを見て、サイトが一つの予想を立てた。
「…シュウのことか?」
「はい…」
「シュウさん?もしや、あなたがシュウさんをこの世界に召喚したのですか?」
「シュウを、ご存じなのですか?」
女王がシュウを知っていると聞いて、テファは目を丸くする。
「ええ。私も彼には返しきれない恩義があります。ただ、私たちの方でも居所がつかめない状態です」
「そうですか…」
「大丈夫よティファニア。あなたの使い魔さんも、私の方で必ず探してみせます」
「お心遣い、感謝いたします。でも………私……」
「ティファニア?」
まだ晴れない表情のテファ。シュウの姿がないことだけではないのか?と疑問を抱き始める。
「実は…」
その訳を、テファは話した。ところどころ話すべきか迷うところもあったが、そこはサイトやルイズが後押ししてくれた。
ウエストウッド村を、シェフィールドと名乗る女が、テファが持っているという『虚無』を狙い、怪獣を使って襲撃してきたこと。それに対して、シュウがウルトラマンに変身して戦ったこと。だがそれを経て、徐々にシュウの様子がおかしくなり始めたこと。ある戦いでついに危機を迎え、そこをもう一人のウルトラマンに変身した『アスカ』という男が危機を救ったこと。しかし、最終的にロサイスから脱出する際、シュウは黒い巨人との戦いで、アスカと共に行方がわからなくなってしまったこと…脱出の際に偶然出会った、この炎の空賊たちが力を貸してくれたことを話した。
「虚無の担い手が、私以外にもいたのね…それもあなたが…」
さらには、テファがもう一人の虚無の担い手だった。これもまた無視できないことだった。
だが、彼女が聞いた通り、テファはアルビオン王家の血も受け継いだのなら、自分がトリステイン王家の血筋であることと同様に、資質があることが頷ける。
しかもそれをどういうわけか知っていたという…ガーゴイルを介して怪獣を操って彼女たちを襲った謎の女シェフィールド。さらには、ウェールズを操って自分を攫おうとしたダークメフィストことメンヌヴィルもまた彼女を…いや、それ以上にシュウを狙ってきたという。敵の手が自分たちの知らないところに、ここまで伸びていたとは。サイトたちは敵に…レコンキスタと侵略宇宙人たちに強く戦慄した。
「まじかよ…」
シュウがそれほどの激闘に身を投じ、さらにまた自分の知らないウルトラマンと遭遇していたことにサイトは驚いたが、メフィストとの戦いで姿を消してしまっていたとは。通りで、これまでビデオシーバーで通信ができなかったわけだ。
『こいつはまずいかもな。グレンはラグドリアン湖で眠っているウェールズを守ってるから、湖を離れられないし…ムサシの世界から連れ出された怪獣が敵の刺客として現れるかもしれないことを考えると…』
ゼロも、ネクサス=シュウという頼もしい味方が行方不明という事実に、焦りを覚えた。この先もおそらく、ハルケギニアを侵略しようとする異星人や怪獣、闇の巨人たちとの戦いが激化するのは目に見えている。すでにレオはこの星での弟子の活動や状況報告のために光の国へ帰還しているだろうし、そんな中であの男ほどの戦士がいなくなる状況は思わしくない。
「陛下!アンリエッタ女王陛下はおられるでしょうか!?自分は魔法学院へ、アニエス隊長と共に派遣された者です!」
その時だった。謁見の間の扉の向こうから、銃士隊の隊員と思われる女性の声が聞こえてきた。
「入りなさい」
アンリエッタが入出を許可し、入ってきた銃士隊員が臣下の礼を取りながら彼女の前で跪く。
「突然の来訪をお許しください」
「構いません、何が起こったのか話しなさい」
「実は…」
次にその銃士隊隊員の口から飛んできた報告内容は、サイトたちに強い衝撃を与えるに十分すぎた。
「トリステイン魔法学院が黒い巨人の襲撃を受け、半壊!!」
「!!!」
トリステイン魔法学院に、黒い巨人…!?やはり自分たちの学び舎が、自分たちの目の行き届いていないうちに襲撃を受けたという、想定外の事態に、サイトたちは驚愕した。
「被害は…?」
「銃士隊の者の半数以上が、死亡…。学院に通っていた生徒、教師にも死傷者がいた模様…ですが、ウルトラマンが現れ、黒い巨人を見事撃退したので、壊滅は免れたと」
「ウルトラマンが現れた…もしかして、そいつネクサスですか!?」
「は、はい…」
「…ッ!」
銃士隊隊員が、突如話に割り込んでしまったサイトに対し、少し圧されながらも頷いた。テファは、魔法学院に姿を現したというウルトラマンがネクサス…シュウであることを聞いて強い反応を示した。
シュウが…彼が生きている…!
「ネクサスって…あいつか…」
アキナはこれまでウェザリーの刺客だった頃からも、彼とぶつかり合ったことを思い出す。同じ地球人でウルトラマン、自分が好意を寄せているサイトとはまた別の興味もあった。
だが今のテファは、シュウともう一度会うことに対して抵抗を感じていた。
彼と会っても…何を話したらいいのかわからない.
生きていてくれたことは確かに嬉しい。しかし…
―――――足手まといなんだよ
ロサイスでメフィストと戦うためシュウが変身する直前に言った、彼の言葉が…そして普段は冷静なはずの彼をあれほど取り乱させるほどの存在であることを予想させる茶髪の少女の姿が、この時のテファの脳裏によぎり、影となってのしかかっていた。
あの言葉と、シュウの心を乱すほどの少女の存在が、彼が生きているという事実に対する喜びをほとんど打ち消してしまっていた。
しかし、シュウが生きていると聞いて動き出したのはサイトだけではない。
「…テファ、あたしも一緒に行くよ。あいつにはそろそろ、一言言っておかないといけないことがあるからね」
「姉さん、でも…」
それはマチルダだった。顔を上げて不安を露わにするが、マチルダは笑みを浮かべてテファの頬に手を添えた。
「大丈夫。あいつが何か言ってきたら、あたしがガツンと言ってやる。今度こそ、あの死にたがりに、今まで以上の説教してやらないと」
「死にたがり…?」
何か不穏なことを口にしたマチルダの言葉を、サイトは聞き逃さなかった。
テファとシュウの間に、いったい何があったのだろうか?
それに魔法学院が襲撃を受けたと聞いて、シエスタやコルベール、オスマンたちが果たして無事なのかも確かめたくなった。
そのためにも、サイトはルイズたちと共に一刻も早く魔法学院へ戻る決意を固めた。
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