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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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虚像-フェイク-part3/虚を砕く者

炎の空族たちに保護されたティファニアとマチルダ、ウエストウッド村の子供たち、そしてアルビオンの兵士であるヘンリー。
突如現れたアルビオンの現皇帝クロムウェルは、人質としてカオスヘッダーを憑依させたヤマワラワと、十字架に捕縛させていたシュウことウルトラマンネクサスを見せつける。
テファに身柄をレコンキスタに預けることを要求し、テファはこれ以上皆に手を出さないことを条件に取引に応じてしまう。だが、彼女の虚無の力を狙うクロムウェルは、テファとかかわりのある彼らがいずれ邪魔となることを予想し、約束をあっさり破ってテファたちを、ヤマワラワとネクサスに攻撃させたのだ。
ヤマワラワに続き、ネクサスにも裏切られたと絶望しかかるテファたち。しかし、サイトたちがついに助けに現れ、サイトの口からあのネクサスが偽物のロボットであることが明かされた。
タネを明かされたクロムウェルは、『変身怪人アンチラ星人』としての正体を現し、サイトたちに襲いかかるのだった。


命令を下されたにせネクサスとヤマワラワは、アンチラ星人に下された命令通り、サイトたちに向けて岩の礫と光弾を放つ。
「リトラ!」
しかしジュリオの叫び声に応え、上空からリトラが、ヤマワラワが投げつけた岩の礫とネクサスの光弾を、口から吐き飛ばした二発の火球で木端微塵に砕いた。
「みなさん、今のうちに!」
「ギーシュ、モンモン、レイナール、マリコルヌ、アキナは彼女たちを頼む!」
「り、了解した!」
「気をつけて、サイト……!」
ムサシがタルブ村の方角を指差し、 サイトが仲間たちに村の子供たちを託す。
「あんたたち、何でここに来たかはわからないけど、助かるよ」
マチルダは、できるばあの星人に一発魔法をかましてやりたかったが、テファたちの身の安全を考え、彼らを守りながら避難することにした。
その際、子供たちと共に避難を始めたテファは、一度立ち止まってにせネクサスを見上げた。
彼の姿で破壊をもたらす機械人形。
言葉で表すのが難しく、複雑な気持ちが、彼女の心を駆け巡る。
「テファ姉ちゃん、早く!」
サムがテファに早く来るよう催促する。テファは唇を噛み締めながら、子供たちと共に村の方へ避難した。
「あなたたちも早く!」
ムサシはガル船長たち空賊たちにも避難を呼び掛ける。
「いや、わしらも戦うぞ」
しかし、ガル船長は首を横に振って断った。彼に続いて、茂みの中から隙を見てテファを救出しようとしたギル、グル、そして他の空賊のクルーたちも集まった。
「あのクロムウェルとかいう奴にはよ、何十発も鉛玉ぶちこまねえと気がすまねえからよ」
「アルビオンにいた頃の借りを返さねえとなぁ!」
全員がヤル気満々だった。ほとばしる熱気にムサシは圧されかけたが、やはりEYESの者だった身として気が進まない。
「若いの、わしらをなめてもらっては困るぞ」
「あのようなデカブツの相手など、グレンと共に何度もしては捻り潰してやったわい」
「ですけど……」
「ムサシさん、たぶんこの人たちの説得は無理ですよ」
躊躇いがちなムサシに、サイトが空賊たちに対して苦笑しながら言った。
「それに良い機会だ。俺もこの人たちの世話になったから、少しでも恩返ししたいんです」
「ほう、そこの若造。なかなか殊勝な心がけだな。それにアルビオンで会った時よりも良い顔をしておる」
「グレンが一目置いていただけはあるのぉ」
サイトの言葉に、ギルやグル船長らも笑い返してきた。
「サイト、私もやるわ!」
ルイズもやる気をだし、杖を構える。
「ぬ…」
邪魔者が次々と現れて、アンチラ星人はわずかに眉をひそめる。
だがこいつらを全員どうにかしなければ、シェフィールドの命令を完遂できない。しかし一方でちょうど良い、ここにはウルトラマンゼロとトリステインの虚無の両方がいる。アルビオンの虚無とまとめて一緒に捕まえたらシェフィールドも喜ぶはずだ。
「当初の予定より大いに狂ったが、まあよい。
貴様らに身の程を教えてくれるわ!」

タルブの山岳地帯を舞台に、サイトたちとレコンキスタ傘下の異星人の戦いが始まった。

隙を見てサイトはゼロに変身し、ムサシと共にヤマワラワを、にせネクサスにはジュリオがゴモラとリトラを用いて……アンチラ星人に対しては、炎の空賊たちやルイズが相手をすることになった。


「デヤ!!」
「キシャアアア!!」
ゴモラはにせネクサスを相手に、少し手間を取らされていた。とび蹴りを食らい、立ち上がりざまに銀色の拳が叩き込まれ、続いて背負い投げを受けて狭い地面の上を転がされた。
しかしゴモラも負けずと、己の尾を振るってにせネクサスの顔に叩き込む。
「グゥ…!!」
頬の部位を鋭く叩かれ、怯んだにせネクサスだが、ゴモラの足もとに〈パーティクルフェザー〉を打ち込んで火花を起こす。ゴモラは足の動きが止まり、そこを狙ってきたにせネクサスはゴモラの背を蹴ってダウンさせ、うつ伏せとなったゴモラの背にまたがる。そしてゴモラの角を両手でつかみ、乱暴にゴモラの顔を地面にたたきつけ始めた。
「ギシャアアァッ!!」
ゴモラは顔面を攻撃され続けて逆上し、体を無理やり起こしてにせネクサスを背中から払い落とした。倒れこんだにせネクサスに向かって突進を仕掛ける。しかし、その動きを見切ったにせネクサスは、咄嗟に立ちあがり、ゴモラの顔にもう一撃パーティクルフェザーを放つ。
「シュ!!」
「ギギャアア!!」
また顔面に鋭い一撃を受けたゴモラはもだえた。そんなゴモラの隙を突き、にせネクサスは接近して回し蹴りを一発、二発、三発と己に回転を加えながら連発し、最後に猛烈な蹴りを打ち込んだゴモラを突き飛ばした。
「ぐ…」
ジュリオは顔から脂汗を流した。偽物ロボットとはいえ、ウルトラマンが相手だ。苦戦は予想していたが…いや、だからって破壊のための人形なんかに負けるわけにいかない。
「リトラ、ゴモラを援護しろ!」
「ピイイイィィ!!」
命令を受け、上空からリトラが飛来、ダウンしたゴモラを救うべく口から火球を連発し、にせネクサスの動きを妨害した。にせネクサスはうっとおしく認識したのか、リトラに向けてパーティクルフェザーを連発する。それを警戒に避けていくリトラを、今度はゴモラが助けに向かい、にせネクサスに体当たりする。
「お前のような奴をのさばらせておくものか…」
顔を上げたジュリオは、ジロッとにせネクサス睨み付けた。
「異世界からの不純物め…」


「はははは…どうした?私を殺すのではなかったか?」
一方、クロムウェルに化けていたアンチラ星人と対峙していた炎の空賊とルイズらも苦戦を強いられていた。
アンチラ星人は、異星人ならではの身体能力を用いて、彼らを圧倒していたのだ。
「ぐ、この野郎!!」
クルーの一人が銃を放ってアンチラ星人を攻撃するも、その弾丸は当たることはなかった。瞬時にアンチラ星人がその素早い動きで弾丸を避けてしまうのだ。頭に血が上りがちな空族たちは銃で狙い撃とうとするが、やはり当たる気配がなかった。逆に、アンチラ星人はその素早い身のこなしを用いて空賊たちの射撃を避けながら彼らに反撃を加えて行った。
「うわああ!!」「どわあ!!」
アンチラ星人の動きについていけず、空賊たちは次々に吹っ飛ばされ、再起不能に追い込まれていく。
「ちぃ…」
「ち、ちょっと…大丈夫なの!?」
ルイズはガル船長に向かって問いただしてくる。サイトは戦いの最中にまたいなくなってるし…本当に大丈夫なのだろうか。
「心配する暇あるなら詠唱を続けろ、お嬢ちゃん。あんたの魔法なら、あの星人だってやっつけられるんだろ?」
そんなルイズに対してギル船長が言い返してくる。今のルイズは、空賊たちがサイトに代わって守っている状態だ。ルイズを中心に彼らが円陣を何重にも組み、頭数が多い分サイト一人よりも厚い壁とも言えるが、慣れない空気と状況にルイズは少し戸惑っているようだ。
「そこにいる小娘を引き渡せば、貴様らの命を助けてやろうと思うのだがな…どうだ?今ならまだ間に合うぞ?」
アンチラ星人はさらに数人ほど空賊のクルーを殴り倒した後、空賊の代表者であるガル船長に向けて降伏を持ちかけてくる。
「そう思うのなら力づくで奪ってみるんじゃな」
だがガル船長は乗らなかった。
「なんじゃ?すばしっこく動く割に、少女一人を捕まえることもできんのか?」
それどころか、3兄弟船長全員、アンチラ星人に対して挑発を込めた一言を言い放った。その言葉に、アンチラ星人は不快感を覚えた。
「…下等生物が。よほど死にたいようだな!」
そう言って星人は、再び高速移動を開始、今度はグル船長を殴り飛ばした。
「ぬぐぅ!!」
「グル!!」「グル船長!」
彼が吹っ飛ぶ様を見たガル船長たち。
「…!」
ルイズは思わず、また大丈夫なのかと言いかけたが、今はそんなことをしている場合じゃなかった。星人から逆転勝利を手に入れるため、すぐに虚無の魔法の詠唱を始めた。



「グルオオオオオ!!!」
ジュリオやルイズたちが戦う中、荒れ狂うヤマワラワの猛攻に、ウルトラマンゼロも苦戦を強いられた。
「グゥ!!」
見た目からして力強かったヤマワラワは、宇宙拳法をその達人であるウルトラマンレオから仕込まれたゼロ以上に力を発揮し、激しいラッシュパンチを繰り返しては彼を苦しめた。
立て続けに放たれる猛攻に、ゼロは中々反撃のチャンスをつかめない。
反撃に転じきれないゼロを、ヤマワラワはガシッとつかむと、背後の方へと彼を投げ飛ばした。
「ウワアア!!」
ドスン!と音を立ててゼロは地面に背中を打ちつけた。
「痛ってて…何つー馬鹿力だ」
口元を手で拭いながら、ゼロは立ち上がって身構える。向こうがたとえ邪悪な意思に市側されているのだとしても、ためらっていてはこちらがやられてしまう。できればこういう時は、炎のように燃え上がる強い力がほしいところだが、メビウスやネクサスのように、ゼロには姿を変える能力はない。己の今の力のみで戦うしかなかった。
繰り出されたヤマワラワのパンチや蹴りを、ゼロは受け流しながら、拳を叩き込んで反撃を加え始めた。だが、本気でヤマワラワを倒すわけにいかない。ムサシにとって、ヤマワラワはともに元の世界へ連れ帰られないといけない仲間の一人なのだ。
だから、手加減は必然的にしなければならなかった。しかし、ヤマワラワの攻撃力は高く、とても手加減しながらでは勝てる相手とは言えなかった。
「ヤマワラワ!!待ってくれ!」
その時だった。ムサシが、地上からヤマワラワに向けて呼びかけてきた。その声を聴いて、ヤマワラワは動きを止める。
(ムサシさん…!)
ゼロはヤマワラワが動きを止めたのを見て、地上のムサシの方に視線を傾けた。
彼は懐から、紐に括り付けた輝石を取り出し、それを振り回していた。すると、楽器ではないはずなのに、輝石から神秘的で心地よい音色の音が聞こえてきた。
「覚えてるかい、ヤマワラワ!!僕だ、ムサシだ!!
それにカオスヘッダー、ヤマワラワの中から僕のこともわかるか!?」
必死にムサシは、ヤマワラワと、その中に取り付かされているカオスヘッダーに向けて呼びかけた。
だが、その呼びかけに、すぐにヤマワラワは応じなかった。岩の礫を足元から掘り起こし、それをムサシに向けて投げつけようとした。
「させるか!」
〈エメリウムスラッシュ!〉
ゼロは額のビームランプから閃光を放ち、ヤマワラワが投げようとした岩を粉々に吹き飛ばした。その爆発で動揺したヤマワラワを、ゼロは両手をつかむことで動きをようやく封じることに成功する。だがヤマワラワは、その腕さえもその馬鹿力で振りほどこうとする。
「ぐぐ…んの…!!」
ゼロもさらに力いっぱい、レオとの特訓や、これまでの戦いで鍛えられた己の肉体の力をフルに使ってヤマワラワの力を抑え込んだ。
「思い出すんだヤマワラワ!昔、君は康祐さんと祐一君の親子と遊んだ、とても人懐っこい子だった!
二回目に会ったときは、マハゲラを倒すために、一緒に戦ったよね!?」
ムサシのサイドの呼びかけに、ヤマワラワはピクッと反応を示した。よし!と手ごたえを感じたムサシは、さらに呼びかけを続ける。
「カオスヘッダー!君とは何度もぶつかり合ってきた!あの時の君は、生命としては未熟だったかもしれない!でも、最後に戦った時、今では愛と優しさを理解してくれたのを忘れたのか!?思い出してくれ、カオスヘッダー!もう僕らが君と戦い理由なんてないはずだ!」
ムサシの強い決意を固めた心に、ヤマワラワの力がさっきよりも抜け始めた。だんだんと、ヤマワラワやカオスヘッダーの本来の意思が蘇りかけているのだ。
よし、いまだ!ゼロもヤマワラワを背後から羽交い締めて取り押さえると、彼の体からまばゆい光が溢れだし、彼に捕まっているヤマワラワの体に浴びせられていく。
ゼロ自らが独自に編み出した浄化技〈ウルトラゼロレクター〉。
ヤマワラワは必死になってもがくが、ゼロは決して離すまいと、彼をより強く取り押さえた。
光はやがて、二人を完全に包み込んだ。
「ヤマワラワ……カオスヘッダー……」
ムサシは確かにヤマワラワたちのことをサイトたちに託した。けど、やはり元に戻せるかどうかは、求めた結果が現実にならない限り不安なのだ。
ふと、ムサシの耳に聞こえてきた。

わだかまりを越えて繋がれた、かつての宿敵の声が。

『ムサシ…コスモス…』

「っ!この声は、カオスヘッダー!」
野太い男のような声をムサシは知っていた。間違いなく、カオスヘッダーの声だ。すると、ヤマワラワの動きが止まり、ゼロへの抵抗をやめてしまった。
さらに、ヤマワラワの体から光の粒子状の何かが現れ、浮かび上がった。
「あれが、カオスヘッダー…」
秩序をもたらすために、ひと時の混沌を与える光のウイルス…だった存在。ゼロもあの光から強い力を感じた。
『我らのために…ここまで来てくれたのか…』
「当然のことだよ、カオスヘッダー。もう僕たちは仲間じゃないか」
『仲間…か』
悪の存在だった頃の自分が聞けば正気の沙汰ではないと思うだろうが、今は違う。カオスヘッダーは人間と同じ心を手に入れている。ムサシの言葉に、喜びを感じた。
『ムサシよ…残念だが今ここにいる我は、本当の我の、ほんの一部だけだ。我はいくつにも分裂させられ、怪獣たちを思うがまま、凶暴の状態で操るための道具にされている』
「なんだって…!」
カオスヘッダーの語る真実にムサシは驚く。かつて邪悪な存在だった頃のように、カオスヘッダーは自分の意思と関係なくいくつにも分裂させられ、怪獣の凶暴化を促されてしまっているのだ。
『まだ君とコスモスの手を煩わせなければならなくなる。すまぬ…』
『いや、謝るのは我々の方だ。この世界に来てから私はエネルギーを切らしている。私の力をムサシに貸すことができない状態だ。助けに来たというのに…これでは怪獣たちをすくことも帰ることもできない』
謝ってきたカオスヘッダーに対し、コスモスは寧ろ自分に非があると詫びた。コスモスに変身可能なエネルギーがないと聞き、カオスヘッダーは一つの提案を持ちかける。
『そうなのか。ならば…我のエネルギーをお前たちに授けよう』
「君のエネルギーを?」
『私もまた光の存在。コスモスにカオス化しない程度のエネルギーを与えれば、完全ではないが変身できるエネルギーを分け与えることができるはずだ。…もっとも、我はかつて自らの力を与えることで怪獣たちのカオス化を促した者だが』
最後に自嘲気味に呟くカオスヘッダーだが、ムサシは何を言い出すんだと言い返してきた。
「かつての野望を諦め切れなくて、僕とコスモスをカオス化しようとしてるかもしれないって言いたいのかい?それは杞憂だよ。君はもうそんなことはしない」
『……』
あぁ、やはりそういってくれるのか。カオスヘッダーは内心では少し呆れを覚えたところもあったが、これがムサシという人間なのだと改めて認識した。今更だが、あれほど対立していた相手の心を救おうとした、究極のお人よし…だからこそ『真の勇者』になれた。
カオスヘッダーから放出された光が、ムサシの手に握られた輝石に吸い込まれていく。
『頼むぞ、ムサシ…コスモスよ。あの時のように…もう一度我を救ってくれ』
その言葉を最後に、カオスヘッダーは消えた。入れ替わるように、ムサシの輝石が光に包まれ、形を変えた。
コスモスの力が戻った証である、『コスモプラック』に。
「これで、よかったんですよね?ムサシさん」
「ああ、ありがとう。サイト君、ゼロ」
これで、さらわれた怪獣たちを元に戻す手段ができた。あの時の努力を、カオスヘッダーの思いを無駄にするわけにいかない。ムサシは必ず遊星ジュランからさらわれた怪獣やカオスヘッダーを救ってみせると固く誓った。
そしてゼロたちは、そんなムサシの力になりたいと願った。



「ぬ…!」
アンチラ星人は、カオスヘッダーと、それに取り付かれていたヤマワラワに異変が起きたことを察して立ち止まった。見ると、ヤマワラワの体からカオスヘッダーが引きはがされてしまっているではないか。
その隙を、ある人物は見逃さなかった。
「エア・スピアー!!」
ドス!と風の魔法が突き刺さった。
「ぐふぁ…!!」
思わぬ不意打ちを食らってしまい、アンチラ星人はその場で一度膝を付いてしまう。一体誰が邪魔をしたのか、顔を上げる星人。
視線の先に、杖を向けて立っている者がいた。
アルビオン兵士の一人…ヘンリーが自分に杖を向けていたのだ。
「き、貴様ぁ…!!」
ルイズを捕まえる前に、邪魔をしたこいつから殺してやる!殺意をヘンリーに変え、アンチラ星人は彼に襲いかかろうとした。
「今じゃ!」
その隙を見逃すまいと、ガル船長たちは残った弟たちやクルーたちと共に、銃でアンチラ星人を攻撃する。
「ち、ええい!!」
邪魔くさく感じた星人は、やむなくターゲットをもとのルイズに戻し、今の空族たちの銃を避け、今度こそルイズを捕まえようと接近する。
星人は空族たちを次々突き飛ばし、ついにルイズの眼前にまで手が届きかけた。
勝った…!
…と思ったのは、それまでだった。
ルイズは、既に虚無の詠唱を完了していた。

「〈エクスプロージョン〉!!!」

彼女の杖の先から放たれた白い光が、アンチラ星人の体に浴びせられた。
「な、が…があああああああああああ!!!」
白い光が爆発を起こし、アンチラ星人は飲み込まれていくと同時に、体中が跡形もなく砕け散った。爆風にあおられ、ルイズや周囲の空族たちも大きく吹き飛ぶ。
だが、地面に叩きつけられた痛みをこらえながら起き上ると、アンチラ星人の姿は跡形もなく消え去っていた。間違いなく手ごたえがあった。
「や、やったわ…やった!!」
「おぉ、やったなお嬢ちゃん!!」
ルイズは大いに喜びに満ち溢れていた。この手で…サイトがこれまで話していた、ウルトラマンを苦しめたという異星人を…この手で倒したのだ。
こみ上げる達成感が、勝利を確信した空族たちと共に、ルイズの心を大いに高揚させた。
「……」
一方で、杖を下した時のヘンリーの顔は、あまり晴れやかではなかった。彼からすれば、それもそうだった。あのアンチラ星人は、約束をすぐに破るような卑劣な星人だったが、同時にアルビオン=レコンキスタに味方をしている者。そんな立場の者に対して杖を向けた以上、自分はアルビオンに戻るのは不可能ともいえた。
空を見上げ、婚約を解消してもなお思い続けている元婚約者のいる浮遊大陸が存在する空を見上げた。
…いや、後悔はない。どうせ奴を頼ったところで帰れないとはうすうす感じていた。なら貴族らしく、誰かを守る騎士として戦うことができた。それだけで…よかった。
「だがこれで、アルビオンを狂わせた元凶は去ったか…」

「…それは…どうかな…?」

ヘンリーがその一言を呟いたと同時に、悪意を孕んだ声がルイズたちの耳に入る。咄嗟に身構え、声の方へと視線を向けると…
ボロボロの姿となったアンチラ星人がそこに立っていた。
「あんた…まだ生きていたの!?」
ルイズが思わず声を上げる。
「これが…虚無、か…あの方がほしがるのも頷ける…よもや人間ごときにこのアンチラ星人が敗れるとは…
だが、これで勝ったと思うなよ…たとえ私が倒れても…擬態さえできれば…アルビオンの神聖皇帝の代わりなど誰でも構わん。
それに、あの方はたとえウルトラマンが何人束になろうとも、この星の生命をすべて皆殺しにできるだけの力を持ちつつあるのだ…くくく…」
「負け惜しみのつもりか?」
隻眼を鋭くさせながらガル船長が言う。
「はは…せいぜいあの世で、貴様らが恐怖に慄きながら私と同じ場所に来るのを、待っているぞ…」
最後まで邪悪さを積み隠すことなく、アンチラ星人は最後に不吉な言葉を残し、今度こそ爆散した。



アンチラ星人が倒れたのと同時に、コントロール主であるにせネクサスにも異変が起きた。アンチラ星人が死んだために、動きが鈍り始めていたのだ。
ジュリオはそれを見逃さなかった。
「行け、ゴモラ!」
ジュリオの命令を受け、ゴモラは猛々しく吠え、にせネクサスに向けて突進した。強烈な一撃を受け、にせネクサスは宙に放り出され、地面に落下する。ゴモラは飛び上がり、にせネクサスの背中を踏みつける。ゴモラの体重の重みがかなり深く入ったのか、にせネクサスの背中からバキッ!と何かが割れる音が響いた。
にせネクサスに内蔵された機械の一部にひびが入ったのだ。いくらウルトラマンを再現しようにも、機械である分、精密機械という内臓をつぶされてしまえば故障は免れない。
立ち上がったにせネクサスだが、その動きはかなりおかしくなっていた。ロボットダンスでも踊っているかのように、動きがカクカクになり始めていて、ボディから火花も発生している。
それでもにせネクサスは、障害の排除という任務遂行を最後まで完遂させるために、抜刀に似た構えを取ってから両手を十字に組み上げ始める。
それを見て、ジュリオもゴモラを見て、止めを刺す命令を下した。
「〈超振動波〉!」
「ガアアアアア!!」
角にエネルギーを充てんし、それを必殺の光線としてゴモラは解き放った。同時に、にせネクサスもオリジナルからコピーした光線〈クロスレイ・シュトローム〉を放った。
超振動波とクロスレイ・シュトロームがぶつかり合う。だが、あらかじめ機械の内部が故障したにせネクサスの光線の威力は、だんだんと弱まり、ゴモラの光線の方が上回った。そして、数秒後…ゴモラの光線はにせネクサスのそれを押し返し、被弾。
光線をうけたにせネクサスはもだえ苦しみながら、たちまち木端微塵に砕け散った。
粉々に砕け散っていくウルトラマンの姿。それはウルトラマンを信じる者たちからすればとても気持ちのいいものではなかっただろう。
「…」
現にテファは、砕け散ったにせネクサスの姿を遠くから見て、哀しげに目を伏せていた。あのウルトラマンが本物のシュウじゃなくて安心したと思う一方……強まった不安が彼女の心を塗りつぶそうとする。
今、本物の彼はどうしているのだろう?もしかして…私の見ていないところで、何か危険な目に合っているのでは?最悪…
…考えたくもない想像をしてしまう。足手まといと一蹴された今でも…彼のことを考えてしまっていた。

だが、これで今回の事件は幕を閉じることになった。
テファや炎の空賊たちは、サイトたちの助力で保護されることになった。

 
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