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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督の休日・5


 よほどさっきの口移しが恥ずかしかったのか、真っ赤になって俯いたままの金剛。一方俺は頼んでおいたチーズケーキとカフェモカが来たので、一服しながらさっき買った戦術書を読みながら、ボンヤリと外の景色を眺めていた。

「……ん?」

 今、窓の外に見慣れた顔が通ったような気が。

「おい金剛。」

「ふぇっ?」

 まだ頭が沸騰してやがる。原因は自分だろうに。

「あれ霧島じゃねぇか?」

「テートク、霧島だって休みの日には外出位しますヨ?」

「あっそう?じゃあそれが……男連れでも?」

「what!?」

 思わず英語が出ちゃってるよ、どんだけビックリしてんだよ。

「窓の外、見てみ。」

 金剛が見るのに合わせ、俺ももう一度確認の為に外を眺める。やはりあれは霧島だ。いつもの制服ではない。モコモコのコートに短めの丈のスカートにニーハイ。いつもキッチリカッチリしていて固い印象があったんだが、今の服装はなんとも女の子っぽい。意外な一面だ。

「Oh…霧島のあんなに嬉しそうな顔、初めて見ました……」

 金剛の目にはうっすらと光る物が。まさか……泣いてんの?

「霧島が腕に抱き付いてる男は……あ!あれこの間の秋祭りの警備で見たぞ!憲兵の若いにぃちゃんだ。」

 そういえば演習の後に親しげに話をしていたが……まさかこんなに親しい仲になっていたとは。

「さぁて、私達は後を尾けますか!」

 元気よくそう言って伊勢が立ち上がった。

「……だな。青葉に売れば間宮券の足しにはなるだろう。」

 長門もケーキに満足したのか、おもむろに立ち上がった。おいお前らなぁ。

「あ、天城も気になりますっ!」

「私も面白そうだから行ってきます!」

 天城にプリンツまで……やっぱ色恋沙汰の話には弱いか。ここは霧島の直ぐ上の姉である榛名に止めてもらいたいものだが……。

「は、榛名も気になりましゅ……」

 あ、ちょっと甘噛みしてるけど、止めないのね……。まぁ良いけどさ。

「ま、程々にしておけよ?霧島は怒らせるとコワイからな。」

 バタバタと出ていった5人を見送りながら、俺達もそろそろ出ようかと立ち上がり、会計を済ませて店を出た。

「私……心配してたんですヨ。」

 車を走らせ始めた所で、口を閉ざしていた金剛がポツリ、と言い出した。

「……霧島の事か?」

「あの娘は末っ娘で、姉の私達にいつも気を使ってたんデス。いつも本音を隠していて、全てをさらけ出してはくれなかった……ケド、あの娘も全てを出せるパートナーを見つけたんですね。本当に…本当によかった……!!」

 グスグスと隣から聞こえる音を聞こえないフリをしながら、俺は車を走らせた。

「……悪い、金剛。タバコ吸いてぇから一旦停めるわ。」

 しばらく走って物陰に車を停め、下車して煙草に火を点けた。2~30分程、ゆっくりと煙草をふかし終え、車に戻ると、金剛の顔は元の綺麗な顔に戻っていた。



 時刻は夕暮れ時。空は星の輝きが混じってプラネタリウムのようになっており、水平線にはオレンジの夕陽が煌々と燃えていた。その明暗のコントラストが美しく、まるでこの世の物ではないような景色だ。場所は街から離れた小高い丘。昔海軍の演習で地形が変わってしまった場所らしく、記念碑のような物と小さなベンチが設置されてちょっとした公園のようになっていた。

「Oh~…beautifulデース!」

 金剛は子供のようにはしゃいでクルクルと回りながらその景色を眺めている。

「金剛っ!」

 もう無理、もう限界。可愛すぎてここでプロポーズするしかない、そう思った。背後から身体の前に両腕を前に回してホールドする……所謂『あすなろ抱き』ってヤツで、金剛の動きを止める。

「ひゅえっ!?ててて、テートク~!な、何してるデース!?」

「もうね、俺も我慢の限界。……やっぱね、お前に俺の隣にずっと居て欲しいわ。」

 一旦ここで言葉を切り、落ち着く為に一呼吸おいた。

「なぁ金剛。……俺と結婚、するか?」

 ……言っちまった。ついに言っちまった。この微妙な距離感が壊れるのがイヤで、つい避けていた言葉を。だが、肝心の返事が来ない。

「う……うぇいうぇい!Please waitデスよテートク~…。いつも言ってマスけど、時間と場所を弁えtーー」

「時間:デート終盤。」

「うっ……」

「場所:二人っきりの絶景ポイント。」

「ううっ……」

「これ以上のタイミングはないと思うんだが、OK?」

「お、OK……。」

「で、返事は?」

「……………………………。」

 黙り込んだまま、小刻みにプルプルと震えている金剛。もう一押ししないとダメか。

「好きだ、金剛。」

「ひゅえっ///」

 あ、またビックリして過呼吸みたいになってる。可愛いなぁもう。

「片方が意思表示してんだ。それを聞いたら然るべき意思表示を返すのが礼儀ってモンじゃないのか?」

「い、いい、意思表示デスか~…?」

「おぅ。シンプルに言うなら、YESか、NOか。」

「そ、それって今更聞く意味ありマスか~?」

「ある。なきゃ聞かん。」

「わ、私の気持ちは今までにずっと、何度でも、言葉に出して来たつもりですケド……。」

 金剛は俺のホールドから逃れようとしているのか、モジモジと身体を動かし始めるが、逃がしてはなるまいとホールドを強くする。

「今までにいつ、どこで、何回言ったかなんて関係ない。俺は今、ここで、お前の口から直接、お前の気持ちを聞きたい。」

「あ、あの……。」

「あん?」

「これ、夢じゃないデスよね。」

「何なら俺の頬に思いっきりパンチしてみるか?気絶したら現実だろ。」

「や、やめときマース……。」

 スー、ハー…。金剛が深呼吸をしているのが判る。どうやら腹を括ったらしいな。

「提督?」

「あんだよ。」

「一旦、離してください。」

 あすなろホールドをほどき、向かい合う形になる。その顔は夕陽に負けない位に真っ赤だ。

「耳、貸してください。」

「ホラよ。」

 金剛の顔面に押し付けられる位に耳を押しつける。

「ち、近すぎデース!もう少し離れて、そう、私が背伸びして届く位に……」

「こんなモンか?」

 離れた瞬間、金剛の顔が耳に近付いてきた。耳に当たる吐息がこそばゆい。

「I love you,My only sunshine.」

「どうか私を、貴方だけのものにして下さい」 
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