提督はBarにいる。
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提督の休日・6
思わぬ金剛からの大胆な返答に、俺の頭は一瞬フリーズ。しかし、段々と実感が湧いてきた瞬間、思わず金剛を抱き締めていた。
「ちょ、ちょっとテートク!苦しいデスよ~!」
「あぁ、悪い悪い。お前が可愛すぎるからつい、な。」
そう言った瞬間、ボンッと音がしたんじゃないかと思うくらい、金剛の顔が更に赤くなった。やっぱりこういうストレートな表現に弱いらしいな。
さて、ここからどうしたものか。ホントなら日帰りの予定だから帰るべきなのだろうが、正直このまま帰るのが惜しくなってきている。
「テートク……あの…。」
「もしかして、今晩帰りたくない……か?」
金剛は少し俯き、コクリと頷いた。仕方ねぇ……始末書は覚悟しとかねぇとな。俺はケータイを取り出し、電話をかける。
「あ~早霜か?俺だ。急で悪いんだが今晩店を任せてもいいか?…おぅ、任せるわ。すまんな、土産は買ってくよ。……あぁ、じゃあな。」
ケータイを切り終えると、金剛にニカッと笑ってみせる。
「無断外泊だ。始末書と大淀の雷は覚悟しとかねぇとな。」
そう聞いた金剛はフフッ、と笑う。
「良いですよ、テートク……いえ、darlingと一緒ならno problemデス。」
と言って抱き付き返してきた。ヤバイね、これは。
「さぁ~てと。とりあえず今晩の宿を確保しねぇとな。」
正直こんなことになるとは思ってなかったから、ホテルの予約もクソもあったもんじゃない。とりあえず街に下りて、それから決めようか。
「とりあえず金剛、離れようか?」
「ンー!イ~ヤ~デ~ス~!」
ゴン。思わず拳骨落としてしまった。
「今晩の宿を確保しないと、帰る羽目になるぞ。」
「お、おうらいデース……。」
金剛は頭を抑えながら、すごすごと付いてきた。
今宵の宿は案外、すぐに見つかった。ホテル等ではなく、マンションやアパートの空き部屋を貸し出している斡旋所を見つけ、その中でも新しめの部屋を一晩借りたのだ。
「テートク~…何でホテルじゃないんデスか~?」
「あれ、嫌だったか?こういう普通の生活スペースっぽい部屋の方が新婚気分とか出るかと思ったんだがなぁ。」
“新婚”という言葉に陥落したのか、ホテルじゃない事に不満タラタラだった金剛はうってかわって、ルンルン気分でショッピングカートを押している。部屋と家具類しかない部屋なワケだから、当然食事は自分達で準備しないといけない。そこで、斡旋所で鍵を借りた足でスーパーにやって来たのだ。
「ん~……何を作るかな~?」
金剛は決して料理の出来ない艦娘ではない。寧ろ調理の技術は高い。だが、ベースとなっている料理がいかんせんよろしくない。イギリス生まれだから、当然のごとくイギリス料理が彼女の料理の源流なワケだ。読者諸兄もご存知の通り、イギリス料理はかなり独創的な物が多い。……ぶっちゃけ言ってしまえば、マズい物が多い。体調を崩して寝込んだ時に、スタミナが付くからと『ウナギのゼリー寄せ』を持ってきた事があった。あの時は本当にどうしたものかと悩んだものだ。
「ねぇdarling、折角だからお互いに料理を作って、食べ比べしまショウ!」
「おぉ、それいいかもなぁ。…けどよぉ、そのダーリンって止めてくんない?何か照れ臭い……///」
俺も恥ずかしくなって頬を掻くと、金剛は鼻息荒く語る。
「良いじゃないデスか~。darlingと呼ぶのはワタシだけのspecialデスよー?」
まぁ、事実だしいいんだが、慣れるまで時間がかかりそうだなぁコリャ。……ってなワケで互いの作る料理が解らない方が面白いだろうと、二人別れて買い物を済ませ、合流して宿へ向かう。
借りた鍵で扉を開け、部屋に入る。
「お~、結構きれいじゃねぇか。」
部屋は1DK、風呂・トイレ別。家具も備え付けで1晩2万ならまぁまぁ、ってトコか。
「Oh!ここならdarlingと住んでも狭くないネー。」
「そうかぁ?すぐ狭くなっちまうだろ、この位じゃ。」
「Why?なんでデース?」
怪訝な表情で眉を吊り上げる金剛。
「家族が増えたら狭いだろ、この位じゃ。やっぱ一戸建てぐらいじゃないとなぁ。」
俺の発言を聞いた途端、またもや真っ赤になる金剛。家族が増えるってのは、まぁそういう事だよな。にしても、ちょろかわ過ぎませんかね?この高速戦艦は。
「さぁ~て、と。作りますかね。」
そろそろ調理開始だ。何を作るかはまだ秘密だ。
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