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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督の休日・4

 
前書き
 糖分を要求された結果がこれである。反省はしていない。後悔はメッチャした。 

 
 金剛を連れてやって来たのは、メインストリートを少し外れた所にある少し古ぼけたような印象のある喫茶店。見た目は一見するとボロく見えるが、内装は年季は入っているが良く手入れされていて、洒落た雰囲気を醸し出している。マスターの料理の腕も確かで、コーヒー・紅茶もさることながら手作りだというケーキ類も絶品。更には軽食まで出してくれる。俺のお気に入りの店で、外出の際には必ず立ち寄っている。

「いらっしゃい。」

 店のドアを開けると、チリチリンとドアベルが鳴る。マスターはいつもの朗らかな笑顔で出迎えてくれる。有名人で言えば俳優の藤村俊二さんにソックリだ。店内には小粋なジャズが流れ、いつもながら落ち着いた雰囲気だ。

「て、提督!?なんでここに!」

 見知った顔が居なければ、だったが。



 面子は伊勢に長門、榛名に天城、ドイツ組のプリンツ・オイゲン。なんともまぁ珍しい取り合わせだな。

「いや、たまには嫁も構ってやらんと怒られるんでな。久しぶりにデートでも、と思ってな。」

 と、少し冗談めかして言ったら、伊勢が意地の悪そうなニヤーっという笑みを浮かべた。

「だってよ榛名ぁ、榛名も嫁艦なのにねぇ。お姉様ばっかり贔屓してると思わない?」

「そうですよアトミラールさん!ケッコンしてるなら皆平等に愛するべきです!」

 伊勢に続けと言わんばかりにプリンツの追い打ち。余計な真似を……と思っていたら、榛名自身が顔を真っ赤にして、

「い、いえ!榛名は提督とデートなんて……恥ずかしくて死んじゃいますっ!」

 そういえば、ウチの榛名は羽黒以上の恥ずかしがり屋だったか。執務中に手が触れるだけで顔を真っ赤にして書類を落とす位だったからな。一時期は嫌われてるんじゃないかと本気で悩んだが、金剛や比叡達姉妹、そして榛名本人の努力によって今は大分マシになった方だ(これでも)。実際、榛名とはまだプラトニックな関係が続いている。

「あ、そう?本人が納得してるならいいんだけどさぁ……。てか長門、アンタもいい加減にケーキ食べすぎだって!」

 さっきから一言もしゃべらんと思ったら、ケーキに夢中だったのかこのビックセブン(笑)は。

「ここのケーキが美味すぎるのがいかんのだ。」

 そう言いながらもフォークを動かす手は止めない。そんな長門を見て、おかしそうに笑う天城。よく見ると今日は、いつもの和服でもなくあの露出しまくりのチャイナドレス風の衣装でもなく、落ち着いた感じのカーディガンにチェックのロングスカート。タイツとロングヘアーはアップにしていて、なんだか別人のようだ。



「随分と珍しい取り合わせだな、一体何でこんな組み合わせに……。」

 伊勢達の座るボックス席の隣に腰掛けながら、そう訊ねてみた。

「いや~、実はね?天城がほとんど服持ってないっていうからさぁ。榛名と一緒にコーディネートしてあげようと思ってね?」

 コーヒーを啜りながら伊勢が言う。

「そこで、街の雑貨屋に向かう長門さんを見つけて。一緒に行く事になったんです。」

 口を付けていたレモンティーをコースターに置き、榛名が続けた。

「そうしたら暇そうに歩くプリンツを見つけてな。私が誘ったのだ。」

 先程まで食べていたモンブランを完食し、今度はミルクレープに手をつけ始めた長門がとどめとばかりに説明してきた。

「あ、あの……提督?天城の服装、変じゃないでしょうか…?」

 真っ赤になって俯き加減に、こちらに尋ねてくる天城。

「秋っぽくて良いと思うぞ?折角可愛いんだからもっとお洒落を楽しんだ方が良いぞ。」

「そっ、そうですか!天城、頑張りますっ!」

 こういう素直な娘なんだよな、天城って。そして金剛やテーブルの向かいから脛を蹴るな、地味に痛い。



「さてお二人さん。お喋りもいいけどご注文は?」

 話に夢中になりすぎて、すっかり忘れてた。

「ストレートティーとチョコレートタルト、お願いしマース。」

「カフェモカとチーズケーキ。豆はお任せで。」

 マスターはペコリと頭を下げ、厨房の方に引っ込んでいった。昔はコーヒー頼むと烈火のごとく怒られたモンだかな。『あんな泥水、飲む価値ありまセーン!』とか言ってな。今は漸く理解力を持ってくれたのか、それとも諦めの境地に到ったのか、どっちか解らんが文句は言われなくなった。まぁ、それだけ長い時間を一緒に過ごしてきた、って事か。

「お待たせしました、チョコレートタルトと紅茶です。」

 金剛の注文が先に来た。気にせず食べろ、と勧めてやる。チョコレートタルトにフォークを入れる。チョコレート生地はフォークを押し返す事なくスッと受け入れ、タルト生地は逆にフォークを押し返さんばかりに堅め。しかしザクッ、という音を立ててタルト生地はフォークに両断。それを口に運ぶ金剛。入った瞬間、

「~~~~~~~~っ!」

 声にならない悲鳴をあげた。そのくらいここのケーキは美味い。甘すぎず、しかし苦すぎず、そしてしつこくない。そのバランスが絶妙で、1つ1つの仕事の丁寧さを窺わせる。そしてそれがドリンクにマッチするんだよな。どれにでも。

「ん~っso happyデース!」

 ホントに美味そうに喰うなぁ、コイツ。俺も食いたくなってきた。

「おい金剛。」

「ンー?なんですカー?」

「一口くれ。」

 金剛は聞くや否やにま~っと笑い、

「仕方ないネー……。はい、あ~ん♪」

「あ~……」

 しかし、金剛のフォークは突如踵を返し、金剛の口に入った。

「あっ‼てめ……」

 しかし次の瞬間、俺の口は塞がれた。金剛の口が俺の唇に覆い被さり、口の中にチョコタルトが押し込まれて来た。

「どっ、どうですカー?スペシャルでショ~…?」

 顔を真っ赤にして恥ずかしがってるクセに何をしてくれやがりますかこの高速戦艦は。

「………………恥ずかしいから、外でやるな。こんな事。」

 沸騰した頭では、それを絞り出すのが精一杯だった。そしてそれと同時に、隣のテーブルの5人が同じドリンクを注文していた。

「「「「「マスター、アイスコーヒー。キンキンに冷やしてブラックで。」」」」」 
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