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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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真・魔人-ファウスト・ツヴァイ-part5/取り戻した絆

サイトたちは、ついにダークファウストとの戦いに決着をつけた。真の黒幕で、第2のファウスト『ファウスト・ツヴァイ』となったウェザリーを倒すことで。
あの戦いの後、サイトとルイズ、ジュリオの三人以外を街に残し、三人はトリスタニアに一時状況報告のために戻ることになった。残る側の現場にはムサシをチームの監督者として残してある。彼の人柄と経験をもとにした判断力なら大丈夫だろう。
それに、移動手段にジュリオのリトラを使うから、ただでさえ早いタバサのシルフィードよりもさらに早く飛ぶことができるから、すぐに戻ることができる。
「よくやったね。サイト君。ハルナちゃん。本当に、よく頑張ったよ」
ラ・ロシェールを出る前、宿の一室に二人だけを呼び出し、ムサシはサイトとハルナを個人的に呼び出し、二人の行いを称賛した。その時のハルナは、ウェザリーに植えつけられたファウストとして…闇の人格としての彼女だった。
「これも、春野さんが俺たちを後押ししてくれたおかげです」
「僕は、何もしていないよ。というか…何もできなかった。できれば、僕も君たちのために直接何かをしたかった」
『最後になんとかするのは俺たちの仕事だ。元々別の世界からやってきたお前に全部をお世話になっちまったら、俺たちが怠けちまう…』
言葉だけで直接手を貸せなかったことを申し訳なく思うムサシに、ゼロがサイトの体を通して気にしないように言う。
「そう、だね…君たちの可能性を、僕の余計な手出しで潰してしまうことだけは避けなければならない。それに、僕は僕で、やらなければならないことがある」
「あんたの世界の惑星にいた怪獣たちの奪還…だね」
ハルナが言葉を紡ぐと、それにムサシが頷いた。
「苦労して、怪獣と人類の共存する世界を作り出したんだ。それを無に帰すわけにいかない。そのためにもまずは…」
ムサシはそういうと、懐から青く輝く石を取り出す。サイトたちはそれを見て目を丸くする。ただの石のように見えるが、これには自分たちが持つウルトラマンの力と似た不思議な力を感じた。
「春野さん、それは?」
「コスモスと僕の、絆の証『輝石』だ。でもこれが、僕がコスモスと一体化している上で石の状態で留まっているということは、まだ力が戻りきれていないということだ」
「変身できる状態だと、別の形になっているってこと?」
ハルナが尋ねると、ムサシは輝石をコクッと頷いて輝石をしまいこんだ。
「さらわれた怪獣の中には、かつて他の怪獣たちを凶暴化させる力を持った存在がいる。もし、チャリジャが邪悪な宇宙人に彼を引き渡したとしたら…間違いなくその能力を悪意のある異星人たちに悪用されてしまうかもしれない。その前に、コスモスの力を早く回復させてあげたい」
強い決意を口にしているものの、ムサシの表情は苦しそうだった。
長年の夢だった、人類と怪獣…生態の違い故に対立するしかなかった種族同士の共存する優しい世界。それを、商売などという実に身勝手な理由で怪獣バイヤー・チャリジャは壊した。絶対に、取り戻さなければならない。
「でも、いつ変身できるだけの力が戻るかもわからないし、それ以前に僕一人じゃ危険だ。できれば君たちの力を借りたいんだけど、事情があるだろうし…」
怪獣たちを取り戻したいのが本音だが、だからといってムサシはサイトたちの意思を無視してでも協力を申し込めるほど自分勝手になれなかった。
「春野さん、たぶん俺たちが進む先と春野さんが進む道は、同じはずです。レコンキスタにチャリジャって奴が入り込んでいるなら、このまま一緒に行けば、春野さんたちの怪獣もきっと取り戻せます。俺、お姫様にも話を持ちかけてみますよ」
「ありがとう。君には、力を貸そうと思ってるはずが、逆になってしまっているね」
「いや、俺…春野さんの言葉がなかったら、ハルナを助けることを諦めていたかもしれない…改めてお礼を言わせてください」
もし、この人の言葉がなかったら…そう思うとサイトは一つの最悪な未来を描いてしまう。でも、それはもう訪れることはないだろう。この人の言葉がサイトに、何が何でもハルナを救ってみせるという勇気を与えてくれたのだ。
「あたしからも…ありがとう、春野…さん」
「二人とも、前から思ってたけど、春野さんって呼び方はちょっと慣れてないから…普通にムサシでいいよ」
少し苦笑いを浮かべながらムサシは言った。若いころからよく下の名前で呼ばれていたせいで、苗字呼びは慣れていなかったようだ。
「ところでハルナちゃん、ウルトラの力…まだ使えるのかい?」
ふと、ムサシはハルナが再び変身したことで、まだ彼女が変身能力が使えるかどうかを尋ねると、ハルナは首を横に振った。
「…今すぐには、たぶん無理だな。あんたと同じ。自分でもわかるんだ。本来あたしはウェザリー様に闇の力を取り上げられたから変身は二度とできない。あの時…ハルナとあたし…光と闇の二つの心が一つになった…奇跡みたいなもんだ。本当なら絶対に起こらないはずの現象なんだ。
でもあの時、あたしはサイトを助けたいって思いを強く抱いた。それが…どういうわけか変身のキーになったのは確かだよ」
やはりあの時彼女が変身できたのは、非常にイレギュラーなケースだと彼女自身が分かっていた。そんな奇跡のような変身を、次も行えるかどうか、そもそも今も変身能力を持っているかどうかも分からない。
「あぁ、それと…これからは今のあたしの名前…『アキナ』って呼んでくれ。その方がハルナの方のあたしとの区別がつけやすいだろ?」
「アキナ…か。いい名前だと思うぜ?」
光と闇が対極の存在であるように、彼女の名前…『春』奈の逆で、『秋』奈。悪くないと思ったサイトがそういうと、ハルナは…いや、アキナは少し照れくさげに頬を掻いた。
「ところでよぉ、あまり時間をかけっと、貴族の娘っ子からどやされると思うぜ。ちと時間食ってるぞ」
『そうだな。二人とも、そろそろ行った方がいいぞ。戻るまでは、ムサシの方がギーシュたちと一緒に女王様の任務を進めてくれるみたいだしな』
デルフとゼロ、二人からルイズたちのことを指摘され、三人ははっと顔を上げる。すると部屋の外から「サイト、いつまで時間食ってるの!早く来なさい!」と、待っているルイズから不機嫌な声が聞こえてきた。
これ以上待たせてしまうと、ルイズがまた拗ねてしまう。二人はムサシに、ここに来るまでの間のことを頼むと、すぐにルイズとジュリオの元へ戻って行った。
「サイト、ちょっと」
「なんだよ?早くルイズのとこに戻らないと…」
早く戻ろうとせかすサイトを引き留めてきたアキナは、そっと彼に耳打ちした。
「あたしもハルナも、あんたを手に入れてやるんだから…覚悟しときなよ?」
「へ?」
「ほら、さっさと戻ろう!」
呆然とするサイトだが、アキナは背中を押してサイトの足を速めさせた。


「…」
遺されたムサシは、窓の外でジュリオのリトラの背に乗って一時トリスタニアに戻るサイトたちを見送りながら、輝石をもう一度取り出してじっと見つめる。
「自らの思いで、光を呼び起こすなんて…」
闇の力を失って戦う力を失ったと思われたハルナが、そう反する光の力を使い、再びファウストとなってサイト=ゼロを救ったことを思い返し、まだ年端もいかない少女であるはずの彼女を、ムサシはすごいと思った。
ふと、そんな彼にコスモスが、彼の中から語りかけてきた。
『ムサシ、それは君も実際にやって見せたことだ』
「コスモス…」
『今の私たちにはまだ力が戻っていない。しかし、彼らを見ていると…私たちが力を取り戻すのも、そう遠くはない。そんな気がするのだ』
「ええ、そうですね…」
僕たちも負けていられない。なんだって、ウルトラマンとしては彼らの先輩でもあるのだから、格好悪いままではいられない。
帰りを待っている家族や仲間もいるのだから。


リトラの飛行速度は速く、すぐにサイトたちは王宮へ到着し、アンリエッタへ謁見した。
「そうですか。ウェザリーさんが黒い巨人ファウストによる暴動の黒幕だったのですね」
アンリエッタは、ルイズの口から今回の事件の詳細を聞く。
正直驚かされる内容だった。元々ウェザリーがファウストの力の持ち主。しかし自分がトリステインへ復讐するには、間違いなくゼロやネクサスなどウルトラマンたちが邪魔をしてくるとみて、ハルナ…アキナにその力を一時預けた。ウルトラマンに戦いを挑んだり、トリステイン各地であらゆる災いを振りまかせていたのは、自分が復讐を果たす前に倒されないため、ウルトラマンに負けないほどのマイナスエネルギーを吸収して、ウルトラマンの邪魔が入っても彼らに確実に勝てるだけの力を手に入れるためだ。なぜハルナを人形として選んだのかは…サイトがウルトラマンであることを知らない面々からすれば謎のままだったが。
「では、街のあの黒い立方体の物体も…」
トリスタニア、そして今回ルイズたちが派遣されたラ・ロシェールにも点在していた謎の黒い物体。ファウストはそこから発する黒い霧のようなものを…マイナスエネルギーを吸収して己の力を強化していたのを思いだし、アンリエッタはハルナに視線を合わせると、彼女もうなずき返してきた。
「はい、ウェザリーさんが用意したものです。…おそらく、ビーストヒューマンを使って」
「ビースト、ヒューマン?」
「ビーストの持つ細胞を埋め込まれた…動く人間の死体です。ウェザリーさんは闇の力を手に入れて、怪獣…主にビーストを操ることができるようになったそうです」
「死体…」
死体と聞いて、一度殺され操られてしまったウェールズに惑わされた時の事件をアンリエッタ…そしてサイトとルイズは思い出した。あの事件も、そしてサイトの場合はしたす他を取り戻すためにモット伯爵の屋敷に殴りこんだときにも交戦したことがある。もとは人間だった存在を…死体を相手にする。相当頭がイカれた者でなければ気分が悪くならない者などいない。
「ハルナ、元々トリステインの貴族だったウェザリーがなぜそのような恐るべき力を手にしたか、そのいきさつはご存知ですか?」
「それは確かに気になるね。このトリステインに闇のウルトラマンの力の話なんて、ファウストとやら以前にはなかったと思うが」
「…それは、おそらく…ウェザリーさんが『あの方』と呼ぶ、なにかしら邪悪な存在から力を授かったからだと思います」
ジュリオもまた疑問を抱く中、それに回答したのはハルナだった。
「アキナと一つになって、やっと思い出したことがあるんです。私が、この世界に連れ込まれた直後の記憶…」

私は地球にいた頃、GUYSの平賀君の捜索任務が滞っているのがもどかしくて、平賀君の行方を独自で探してました。でも、素人ができることなんて結局本職の人たちに敵うはずもなくって、結局諦めかけていた時でした。
真っ黒な暗雲が私の頭上で立ち込めてきて、私に近づいてきたんです。怪獣のような、何か危険な感じがしたので、当然逃げたんですけど、結局追いつかれてその黒い雲に飲み込まれたんです。
気が付いたら、何もないどこかの暗い部屋の中に閉じ込められていました。なんだか怖くて、それでも出ることもできず、そのまましばらく待っていたら、ウェザリーさんが入ってきたんです。
そして、ただ短く単純な言葉を口にしました。
「『あの方』から授かった力を、お前に一時預ける。私の復讐のために…」
それを聞いた瞬間、私の意識は消えました。次に目覚めたのは…タルブ村のシエスタさんの家で、平賀君と再会した時です。

「あの方…?」
一体何のことだと疑問を感じたアンリエッタに続き、サイトも戦いの最期でウェザリーが口にした言葉を思い出した。
「そういえば…ウェザリーはおr…ウルトラマンに倒された時に、最後に言っていた気がする。自分も、『あの方』の掌で踊らされた人形…だって」
「元々彼女は獣人のハーフで、それ故に迫害されていたみたいだけど、彼女の言う『あのお方』がそれに付け込んで、あの力を与えたのかな?」
ジュリオも話に聞いていた彼女の境遇を振り返りながら、一つの仮説を立てる。
「その『あのお方』っていう奴、ロクでもない奴でしょうね。人間にあんな力を与えるなんて…」
ルイズはルイズで、トリステインを…ハルケギニアに災いを振りまくための力をウェザリーに与えた『あのお方』という存在に対して怒りを覚える。
「しかし、気になりますね。わざわざサイトさんの知り合いである彼女を…どうしてそのような邪悪な存在が浚い、ミス・ウェザリーに与えたのか…」
「そうですね。誰がどうしてハルナを…」
アンリエッタは、ハルナが狙われたことに関しても疑問を抱く。それはサイトがウルトラマンで、彼の知り合いであるハルナを人質的な価値観で敵が利用しようと考えていると考えるのが自然だが、あいにくこの場でサイトの正体を知るのはハルナとジュリオだけだ。
事情を知らない者からすれば、別に誰でもよかった気がしてならないだろう。
「ま、まぁ…わからないことを気にしても仕方ないですよ」
サイトが少し気まずげに言う。その言い回しに、ルイズはちょっと奇妙な話し方をするサイトを怪しんだが、すぐに気に留めなくなった。
「ハルナさん、あなたの中には、まだ力は残っているのですか?」
「…まだわかりません。正直、ウェザリーさんに力を奪われた時はもう二度と変身できないって思っていました。でも、私もアキナも…もうこの力を悪いことに使う気はありません」
「その根拠は?」
一つ懸念していることを、アンリエッタはハルナに尋ねた。その目を見て、ハルナは理解した。アンリエッタがあのように疑惑の眼差しを向けてくるのは当然だろう。もう一つの人格であるアキナもまだ彼女の中に存在し、彼女が闇の力を、トリステインは愚かハルケギニアに再び災いを振りまくために行使することを考えているのだ。
「アキナという自分の心の闇を引き出されてから、はっきり自覚したことがあるんです。私は…平賀君をこの世界に連れてきたルイズさんのことを…まだ許しきれていないです。この世界で彼に再会したときは、平賀君のお母さんのためにも絶対に一緒に帰ろうと思っていました」
「……」
ルイズはそれを聞いて、後ろめたい表情を浮かべる。彼女もハルナの気持ちを理解できていた。サイトを強く想っているから、逆に彼女の立場に自分がなったら、無理やり連れて行った相手に対して憎しみを抱きたくなる。
「でも、平賀君はこの世界で戦うことを選びました。だからルイズさんのことを…平賀君を惑わす悪い人のように思えてなりませんでした」
「だから…あたしはルイズをウェザリー様に差し出し、サイトを取り戻してやろうと考えた。どんなにサイトが望まなくても…」
その思いを口にしたのは、ハルナから入れ替わったアキナだった。急に入れ替わるなよ、と少し驚いたサイトは小さく呟くが、彼女の話にそのまま耳を傾けた。
「でも今は、もしこの力を完全に使いこなせたら…こんな醜い心の塊であるあたしを助けてくれたサイトたちのために、今度はこの力でサイトたちの力になりたい」
それはハルナとアキナ…一人の人間『高凪春奈』としての嘘偽りない言葉だった。しかしそれをアンリエッタは受け止めてくれるかはわからない。言葉だけならなんとでも言えるのだから。
「…これまであなたはウェザリーの手先として、ダークファウストとして、トリステインに多大な被害を与えました」
「お姫様!」「姫様!」
まさか、やっと自由になれたハルナに極刑でも下すつもりなのか!
それはウェザリーに操られたからで…とサイトとルイズは、ハルナを責めようとする口調のアンリエッタに抗議を入れようとしたが、ジュリオが二人に手をかざして制止する。
「いいんだ、二人とも。あたしたちがやったことは…たとえ誰かの思いのままに動いていただけだったとしても、同じだ」
「けど…!」
アキナも二人が自分を心配して抗議を入れようとしてくれたことに、気持ちが軽くなるのを覚えたが、それでも自分がやったことへの始末はつけなくてはと、サイトたちに首を横に振って見せた。改めてアキナはアンリエッタと互いに向かい合い、その言葉に耳を傾けた。
「あなたは確かに闇の手先として動いていた。でも…」
次に勧告されるであろう罪状と刑に、アキナは…ハルナは覚悟を決める。
しかし、飛んできた言葉はそんな言葉ではなかった。
「最後は友人であるサイトさんのために、その力を使ってウルトラマンたちの勝利に貢献しこのトリステインを守ってくれました」
「え…」
「高凪春奈さん。これからあなたには、サイトさんとルイズのもとで、UFZのメンバーとして、働いてもらいます。それがトリステイン女王、アンリエッタ・ド・トリステインがあなたに与える罰です」
「女王陛下…!」
「お姫様!」「姫様!」
そんなことは寧ろ願ってもないことだった。アンリエッタが事実上、ハルナのことを許してくれたのだ。それどころか、これからは仲間としてともにいられる、今の彼らによって夢のような破格の待遇である。
「それと、わかっているでしょうが、あなたが元々あの黒い巨人だったことは、内密にいたしなさい」
「大丈夫です。そのリスクもよく知ってますから」
ハルナもサイトと同じM78世界地球の人間だ。かつてある悪徳ジャーナリストによってウルトラマンの正体が暴露された時の、周囲の衝撃は彼女も覚えがあり、その危険性も知っている。
あの戦いでなぜかファウストが二人になってしまったことへの疑問も募っているだろうが、ギーシュたちも結局知らないままだ。
「よろしい。
そしてルイズ。此度のウルトラマンへの助力、見事でした。あなたの魔法がなかったら、ミス・ウェザリーの闇の力に、さすがのウルトラマンたちも敗れてしまったのかもしれません」
「ありがとうございます!」
今回のゼロたちの勝利には、ルイズの存在も無視できない。あの時、ゼロとファウスト…二人の巨人たちを幻影と入れ替える魔法。それがなかったら、いずれゼロたちがファウスト・ツヴァイ=ウェザリーの圧倒的な闇の力の前に敗北していたかもしれない。
「あなたには本来、このような危険なことはさせたくないのですが…あなたの力が必要となっている以上、そうも言っていられません。でもどうか無理はしないで。決して死なないで」
「姫様…はい」
アンリエッタからの、一人の幼馴染としての視線と言葉を、ルイズは強く受け止めた。そしてアンリエッタは、今度はサイトの方に視線を向ける。
「サイトさん、今回もルイズを守ってありがとう」
「い、いえ…俺は…何も」
少なくともサイトの姿では何もできていない。だから謙遜した。
「何もできていないなんて思わないで。あなたの存在がなければ、ハルナは今もまた闇の力に囚われ、ウェザリーの操り人形のまま破壊を繰り返していたかもしれません。
ウェザリーの呪縛を彼女が振り切れたのは、紛れもなく彼女を大切に思うあなたの存在が大きかったからだと私は思います」
「……」
「これからも、ハルナのこともルイズの事も…仲間たちを大切に思うその優しさで、頑張ってください」
「…はい!」
笑みを見せたサイトに、アンリエッタもにこっと笑った。


ルイズたちがアンリエッタに、ラ・ロシェールでの戦いの報告に向かっている間、ムサシは残ったギーシュ・モンモランシー・レイナール・マリコルヌらと共に、街とアルビオンの間の空の爆発から落下したものの調査のため、ラ・ロシェールの町に留まったままサイトたちを待っていた。
ジュリオの情報だと、街の外…タルブ村の山岳地帯のふもとの森に落ちたらしい。
「タルブ村にまた寄ることになるなんてね」
ギーシュが少し感慨深そうに呟くと、レイナールが彼に尋ねてきた。
「ギーシュはレコンキスタが村を襲った頃に来てたみたいだが、何かあったのか?」
「サイトやミスタ・コルベールが学院に持ち込んだ銀色の乗り物があるだろう?あれは『竜の羽衣』としてこの村に安置されていたものなんだ。サイトはあれを乗りこなし、怪獣に痛手を与えたのだよ」
「へえ、あれってタルブにあったものなのね。あんな鉄の塊が空を飛ぶとは思えなかったけど」
モンモランシーはあまり興味無さそうに軽く言った。
「でも、なんでギーシュが誇らしげなんだよ」
マリコルヌが、やたらサイトの活躍を自分のことのように熱く語るギーシュを呆れたように見る。
「きっとサイト君は彼にとって誇れる友達なんだよ。だから自分のことのようにうれしいんだ。そういうことない?」
「他人の名誉は自分のじゃなくてそいつのじゃん」
マリコルヌのどこか卑屈さを思わせるコメントに、ムサシは苦笑した。自分に自信が持てる子ではないのだろう。
「しかし竜の羽衣、か。サイト君から聞いていたけど、それにも興味があるな。確か君たちの学校に置いてあったままなんだよね」
「それならサイトに言えばいいんじゃないかしら?」
「ああ、そうするよ」
モンモランシーからの勧めに、ムサシはぜひそうしたいと思った。以前タルブ村でウルトラマンとトリステイン軍が、レコンキスタと怪獣軍団に立ち向かった時に、竜の羽衣…ウルトラホーク3号とやらは敵の攻撃でボディに破損個所ができてしまったらしい。自分は機械に関してはこう見えて心得があるから、ぜひとも力になってあげたい。この世界の未来にも、きっと繋がると思うから。できれば、サイトが言っていた、どこかにいるもう一人のウルトラマンに変身する青年にも会っておきたいものだ。
すると、頭上から内科が近づいてくる音が聞こえてくる。頭上を見上げると、頭上からリトラが羽ばたいてきた。
「お、サイト君たちが戻って来たみたいだね」
背中からは、思っていた通り、王宮へ報告に向かっていたサイトたちが戻ってきた。
「みんな、お待たせ」
「お帰り。…あら?あなた…」
モンモランシーが真っ先に、サイトたちと共にハルナが同伴してきたことに目を丸くした。
「あなたハルナじゃない。もしかして着いてきたの?」
「おいサイト、ルイズ。彼女は僕たちと違って、女王陛下の近衛部隊の者じゃないだろう。どうして連れてきたんだ。危険だろ?」
待っていた者たちは全員が困惑している。彼女は魔法も使えなければ戦うこともできない平民の少女だ。連れてくるより、どこか安全な場所に置いておくべきじゃないのかと誰もが思った。
「いや、そのことなんだけど」
サイトが説明を入れようとしたら、ハルナが「私が言う」と告げ、自らギーシュたちの前に一歩出た。
「今日から皆さんの仲間になる高凪春奈です。まだ未熟なところもありますが、頑張っていきますのでよろしくお願いします!」
「…だそうよ」
気合を入れて改めての自己紹介をしたハルナの言葉を、ルイズが最後に閉める。
「そうなのか、よかったじゃないかハルナちゃん!」
「はい、ありがとうございます!」
ムサシは、ハルナがUFZのメンバーとなったことを祝福した。
「え…本気なの?」
「それは女王陛下から言われての事なのかい?」
しかし一方で、突如ハルナが、自分たちUFZの仲間入りを果たしたという話に、モンモランシーやマリコルヌは困惑した。
「おぉ、可憐な花が僕たち女王陛下の栄誉ある部隊に入ってくれるとは!
平民なのは少し気になったがサイトの例もあるから大丈夫だろう。そう思わないかい、マリコリヌ、レイナールよ!?」
「ま、まぁ…僕もどうせならかわいい女の子が仲間の方が…」
「まったく、男って…」
「簿、僕は別にどちらでも構わないぞ!だから、同類扱いとかは勘弁してくれよモンモランシー?」
ギーシュに続き、マリコリヌまでも不純なことをぼやきだしたことにモンモランシーは彼らを冷ややかな目で見た。彼女から誤解されるのを良しとしなかったレイナールが弁明したもの、ぎーしゅと一緒にいる手前、どれほどの効果を持ったか…期待はできそうにない。ムサシはそんな彼らに苦笑いを浮かべる。そのうち彼らと一緒にされそうな嫌な予感をした。
「平賀君。私は…もう逃げない。ただ平賀君の助けを受けるだけの身にはならない。私も、平賀君と一緒にできることをしたい」
「…無茶はすんなよ」
強い決意を目に宿したハルナを見て、サイトはただ一言言った。
一方、ルイズは少し不満を抱いていた。事件が終わってから、ハルナには結局二つの人格が宿ることになった。一応事件後、ルイズは〈解呪〉で、ハルナからアキナの人格を消そうか提案したが、ハルナはそれを拒否した。自分の闇と向き合うためにも、ウェザリーによって生み出されたもう一人の自分と共に生きていく、と決めたのだ。
その二つの人格とも、サイトは以前と変わらず…いや、寧ろ以前より一層仲が良くなっている気がしてならなかった。
(もう少し、構ってくれてもいいじゃない…)
「そういやルイズ、体は平気か?」
ふと、サイトがルイズの方を見て体調を尋ねてきた。
実は前回の戦いにて、新しい魔法〈イリュージョン〉を習得し、ウルトラマンたちの勝利に貢献したルイズ。だが虚無というものはどうしても使い勝手が悪く、新技となると精神力がすぐに空っぽになりがちだ。
「…別に、何ともないわ」
少しそっぽを向きながらルイズは適当に返す。
「そっか。じゃあ、何かあったらすぐいえよ。お前も放っておいたら無茶しそうだからな」
「わ、悪かったわね…!」
反論したいところだが、実際結構ルイズも無茶をする様があった。特にフーケ事件の時とかが顕著だ。変に気を使ってきてくれているが、サイトの口調からして別に他意がないことが伺えてきた。
今のルイズの様子を見て、ハルナが同じ女性として何かに気付き、彼女の手を引いてくる。
「どうしたんだハルナ。話なら別に俺たちの前でも…」
「ごめん平賀君、今はルイズさんと二人で話をしたいの。他のみんなが聞かないように見てて」
「君にも聞かれたら不味いみたいだね。サイト君、僕らはこっちで話でもしようか」
「なんでお前なんだよ」
ハルナの意思を汲み取ったジュリオがサイトを誘って、少し離れた場所にサイトや他のみんなを連れていく。皆が話を聞かれない位置まで着いたところでハルナはルイズの方を見やる。
「なによハルナ」
いきなり手を引いてくるとは、一体何を話すつもりだろうか。
「ルイズさん、もう聞くまでもないことだと思うけど…
平賀君のこと、好きですよね?」
「なぁ!?」
突然の質問にルイズは驚き、顔を真っ赤にした。
「ば、バババ馬鹿!!なななななに言い出すのよ!あんな、あんな馬鹿犬のことなんか…」
やはり思った通りの反応だとハルナは思った。
「なら、平賀君はこのまま私がもらってもいいんですよね」
「え…!」
「じゃあ、早速平賀君に告白しようかな。鈍感な平賀君のことだから、はっきりしないルイズさんより、私の方がいいはずだろうし」
次に飛んできたハルナの一言にルイズは呆気に取られる。しかしハルナが踵を返そうとしたのを見て、彼女は危機感を覚えた。
「そ…そんなの駄目!サイトは私の使い魔なんだから!だから、他の子なんて、駄目…なんだから…!」
つい感情的になったルイズは思わずそのようにハルナに怒鳴ってしまう。
「…だったら、それをはっきりさせないと駄目ですよ」
「え?」
ハルナの返しに、ルイズは目を丸くした。
「好きになる気持ちって、わだかまりがあっても止められないものだって、止めようとしたら凄く苦しいんだって、ルイズさんを見てたらそう思えてならなかったんです。うまく思いを伝えられない苦しさは、私も分かるから」
「…あんたは、それでいいわけ?元々私は、あんたからサイトを取り上げたようなもんよ?」
ルイズは、サイトをこの世界に呼び出したことについて、ハルナが自分を憎んでいたことを知っている。知らなければならなかった。だがそのハルナが、自分がサイトに惹かれるのを許すようなことを言ってきた。
「私は、平賀君の存在に逃げていた。でもそれだけじゃ、彼の隣に立てないってわかったから…
私の平賀君への想いが本物であることを証明したいの」
「ハルナ…」
「だからルイズさん、あなたとは真正面から…平賀君のことで挑戦したいんです」
ルイズはそれを聞いて、ふんと息を吐いて笑った。
「ラ・ヴァリエールの三女たる私に勝負を挑むなんて、後悔してもしらないわよ?私の方がいいってあの馬鹿犬が言っても、文句はなしよ」
「それはこっちの台詞ですよ?」
目を閉じて聞けば、互いに対する対立の意思表示。だがこの時の二人には、サイトを起点としたわだかまりを越えた絆があった。
「ルイズさん、改めてよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
ルイズとハルナは互いに握手を交わしあった。
「おーい二人とも、早く来いよ!」
遠くからサイトの声が聞こえてきた。あまり待たせるのも悪い。すぐに行こう。
「行きましょうか、あの馬鹿犬のもとに」
「ええ」
二人は、想い人と仲間たちの元に向かって走り出した。


パキッ


ところ変わって魔法学院。ここしばらく表舞台に立てず、サイトと会う時間が下がり気味のシエスタが、何かの衝動に駆られたのか、調理に使うはずの木製のおたまの柄をへし折った。
「ど、どうしたシエスタ?」
コック長のマルトーがシエスタに対して戦慄を覚え、恐る恐る尋ねる。
「いえ、気にしないでくださいマルトーさん。ただ…」
マルトーの方を振り向いて笑みを見せたシエスタだが…
「なぜか、わからないけど…大事な何かに乗り遅れたような気がしてイラついただけです」
その笑顔は不吉で真っ黒なオーラを放っていた。
彼女の同僚たちは、しばらくシエスタを怪獣並の脅威に感じ、恐怖したという。



こうして、闇の巨人ダークファウストとの戦いは幕を下したのである。


だが、戦いは激化していく。
ファウストとの戦いなど、まだサイトたちにとってはこれからも延々と続く戦いの序章でしかないのだ。
「ファウスト…ウェザリーが敗れたか」
「思いの外早いうちに壊れたな」
ロンディニウム宮殿の執務室でシェフィールドが静かに呟き、同じく話を聞いていたメンヌヴィルが感情のないコメントを口にする。
「あら、あなたと同じ闇の戦士なのでしょう?同類同士、倒されたことを悔やんであげたら?」
「俺にとって興味があるのは、強者を焼くことだ。あの女がどうなろうと知ったことではない」
「冷たいのね。まぁいいわ」
実際のところ、彼女が倒されたことなんてどうでもよかった。寧ろ、彼女の死を確認したスパイロボでそのままウルトラマンたちの新たなデータを取れただけでもいい。それに…。
「彼女の抜けた分の戦力は、チャリジャから十分に提供できるわ。それに、彼が提供してくれた怪獣たちは中々優秀な駒がばかりで、寧ろかえって扱いに困るくらいよ。これなら、我が主も喜んでくれるでしょうね」
「…あの商人か」
サイトたちが予想していた通り、チャリジャは今もレコンキスタ…シェフィールドたちと結託しているらしい。だが、この場に彼の姿は見当たらない。
「気になるかしら?でも残念ね。彼が今どこで何をしているのかまでは私も知るところではないわ。どこかで商品になる怪獣でも探している頃でしょう」
「陰気な商人ごときの所在などに興味はない。それよりも、奴がやられたということは、俺にも新たな仕事を与えることになっているはずだが?」
自分にとって焼却対象である強者との戦いの場についてのことに頭がいっぱいのメンヌヴィルは、チャリジャのことなどどうでもよかった。
「あら、今度はあなたが機嫌が悪そうね。ダイナもネクサスも殺せなかったから拗ねたのかしら?」
「…貴様から消し炭にしてやろうか?」
「冗談よ。ちゃんとあなたには任務を与えるわ。
あなたには…魔法学院を占拠してもらう」
「魔法学院を、だと?」
メンヌヴィルは自分に下された命令を聞いて目を丸くした。魔法学院だなんて、未熟者な子供たちか平和ボケしたヘナチョコメイジの教師しか集まっていない。
「ウルトラマンゼロの現在の主な本拠地よ。今スパイロボで探らせたところ、今のウルトラマンゼロは魔法学院を離れているわ。その間に、学院を襲撃して奴の精神を追い詰める」
「…なるほど、もう一人のウルトラマンか」
つまりはそいつをおびき寄せるのか。策略はあまり好みじゃないが、相手の身も心もいたぶる類のものならば楽しみ甲斐がある。メンヌヴィルは少し気が乗らない様子から一転して笑みを浮かべた。
「魔法学院を襲えば、ウルトラマンゼロはトリステインの虚無と共に、そこに戻ってきてあなたに勝負を挑むに違いないわ。奴と戦って勝利し、彼とトリステインの虚無を回収なさい」
「…いいだろう。ウルトラマンゼロの焼け焦げたにおい…それを嗅ぐのが楽しみだ」
己の非道さと残虐さを積み隠さない笑みを、メンヌヴィルは浮かべる。
その時の彼の顔は、まさに悪魔そのものであった。 
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