| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三章 夢魔と半妖精に紡れる絆
  虚像-フェイク-part1/誇りと愛の狭間で

ラ・ロシェールよりも向こうの場所にある村、タルブ。その村の近くには、緑に覆われた山がいくつかそびえていた。
そしてその山の間に生い茂る森の中に、ハルケギニアの空を飛ぶ船の中でも、風変わりな様式と大きな船体を持つ船が落ちていた。

落下したのは、まだサイトたちがハルナの鞄を取り戻すべく舞台にたった頃。
レコンキスタを影から牛耳る謎の女『シェフィールド』や、彼女のもとで修羅の道をゆくメンヌヴィルことダークメフィストの魔の手から逃れるため、ティファニアたちはかつてアルビオン王党派と手を組んでいた炎の空賊団が乗り回す船『アバンギャルド号』に乗ってアルビオン大陸を脱出した。
自分たちを守ってくれるために残った二人のウルトラマン…シュウとアスカ、二人をあの場に残して。
それからしばらく、二人がいなくなったことでウエストウッド村の5人の子供たちは激しく動揺を走らせた。二人がいないことを差し引いても、まだ子供の彼らの身は大変危険でショックな出来事に見舞われ、ふさぎ込んだ様子を露わにしていた。だが彼らは、空賊たちが彼らと共に遊んだりご飯を作って食べさせたりなど、笑顔を取り戻させてくれた。

しかしまだ厄介な問題があった。

「なぜ僕が子守などをしなければならないんだ!」

そう言って声を荒げたのは、アルビオンの青年軍人であるヘンリー・スタッフォード。シュウたちが手に入れたインテリジェンスナイフ・地下水を握ったことで意識を乗っ取られたことで、結果的に彼らの逃避行に付き合わされることになった不幸な青年である。
彼は国への忠誠心が高い生粋の軍人。空賊たちとの折り合いは当然のごとく悪かった。
そうなることを予想して、マチルダは彼には地下水を身に着けさせたままの方がいいと思ったのだが、地下水でも、自分を握った相手を延々と操ることはできず、さすがに限界が来てヘンリーが自我を取り戻してしまったのだ。
「当たり前だろ。今のあんたはわしらの庇護下にある状態だ」
炎の空賊団のさん兄弟船長の一人『ガル』の一言に対し、ヘンリーはガルと、彼の傍にいる空賊のクルーたちを睨み付ける。
「僕がこんなことになったのは、貴様らのせいだろうが…」 
「確かに、それは否定できん。でじゃが…それはそれ、これはこれ、だ。いくらあんたがわしらのせいでここに連れてこられたとしても、あんたがサボっていい理由にはならない。子供たちの未来もかかっているんだからな」
「僕の未来は無視するのか」
「おやおや、国のためなら命を捨てる覚悟を持った兵士のセリフじゃないのぉ?」
「き、貴様…!」
次男船長ギルの小馬鹿にしてきた一言に、ヘンリーは彼らをキッと睨み付ける。
今すぐにでも魔法でぶちのめそうかとも考えたが、生憎杖は取り上げられている。逆らわれないようにと、マチルダや空賊たちの提案だ。
さらに、三男船長グルも口を開いてきた。
「とにかく、主にもチビたちの相手をしてもらうぞ。他にも食料確保に船の整備…やらなかったら飯抜きだからな」
「貴様らの施しなど受けるか!そうするくらいなら、死んだ方がマジだ!」
貴族としてのプライドを強く出して見せるヘンリー。そ
しかし、彼を止めに、ウエストウッド村の子供エマが反対して来た。
「そ、そんなの駄目だよ!」
「死んじゃうなんて駄目だよ…」
「あんた、子供の前で自殺でもするつもりなら、あたしはあんたを止めさせてもらうよ。この子達に死体なんか見せたくないからね」
「まさかアルビオンの誇るべき軍人が、子供の前で死体になりたがるのかのぉ?」
「き、貴様!さっきと言ってることが違うぞ!」
まるでさっきと真逆の言葉を面白がってるような態度で言ってきたギル船長にヘンリーは突っ込みをいれた。
「それはそれ。これはこれ、じゃ」
全く詫びるなかったギルに、ヘンリーはギリッと唇を噛み締める。
仕方なく、ヘンリーはティファニアたちウエストウッド村の皆と共に空賊たちの世話になることとなった。


「すみません、あなたにまで苦労を背負わせて」
「全くだ。僕はアルビオンの軍人だぞ」
不本意ながら世話になることとなったヘンリーは不満を隠せずに、ティファニアにそれを漏らした。テファもまた、無関係だったはずの彼まで巻き込んでしまったことに責任を感じて謝ってきた。因みに彼女はヘンリーの前では必ず帽子を被ってエルフの血を引く者の証である長耳を隠しており、ヘンリーにはハーフエルフであることを隠したままだ。彼は彼女の両親を殺したアルビオン軍の一員で、彼女もまた殺されかけたことがあるからである。
この時の彼らは、マチルダもテファに万一のアクシデントがないよう同行し、山の中に流れる川の水で皿洗いをしている。
「どうして、あなたは軍人になろうと思ったのですか?」
「なんだ、急に」
洗った皿を篭に積めながら、テファはヘンリーに向けてふと気になったことを尋ねる。
「私、戦いに赴く人の気持ちがわからないんです。怪我をしたら痛いし、死んでしまったら悲しいだけなのに」
シュウがこれまでウルトラマンとして戦い、自分達を守ってきてくれたことを思い返しながら彼女は言った。シュウには確かに感謝をいくらしても足りないほど助けられてきた。だが、同時に彼が自ら痛みをともなうばかりの戦いに身を投じることに心を痛めていた。
ヘンリーたち軍人も似たようなものだ。マチルダから聞きかじったくらいだが、戦場に出た貴族は命より名誉や誇りを尊ぶという。
「国のために戦い、死ぬ。貴族の誉れを求めるのは当然だ」
「死ぬために戦うなんて…」
やはりマチルダから聞いた通り。ヘンリーもそれが正しいと信じて疑わないのか。
「ふん、君には理解できないだろうな」
「わかりたくなんかないです…」
「何?」
「だって、死んでしまったら…終わりじゃないですか…」
悲しげに言うテファに、ヘンリーは少しの間無言となる。少しの間をおいてから、彼は再び口を開いた。
「君まで彼女と同じようなことを言うのだな」
「彼女?」
誰のことを指しているのだろうか、テファか聞き返す。
「僕の婚約者だ。でも僕が志願するときに、婚約を破棄した。猛反対されたけどな」
婚約したということは、その人と愛を誓い合った仲と言うこと。それを自らなかったことにしたと聞き、テファは信じられないと言うように目を見開いた。
「なんでそんなこと…!」
「言っただろ。僕は軍人だ。国のために戦うって死ぬ。生きて帰れる可能性なんてない。それに未練を残したまま戦場に立てば、敵に隙を作るかもしれない。
だったら、別れるしかないじゃないか!」
「…足手まといってことですか?」
別れる直前にシュウから言われたショックな一言を思い出してテファが聞くと、ヘンリーは迷わず頷く。
「ああそうだ。戦場に立つ者にそんな余計な感情なんか必要ない。
…ペンダントに肖像画を収めてまで、我ながら未練たらしい。あんなもの、不要な未練を残すだけだ」
「ペンダント?それは…」
一体何のことを言っているのだろうとテファが尋ねようとしたところで、マチルダが二人のもとにやってきて口を挟んできた。
「貴族に限らず、男ってかっこつけばかりだね。馬鹿みたい」
「な、なんだと!?」
侮蔑の言葉を隠さないマチルダに、ヘンリーは激情を露わにする。だがマチルダは睨み付けているヘンリーにまったく臆すことなく話を続けた。
「テファにも、あんたみたいに自ら戦いの場に駆り出る男がいたよ」
それは紛れもなくシュウのことだった。
「そいつは村に来てから、盗賊や怪獣から、何度もあたしたちを助けてくれていた。けど、この子の気持ちを蔑ろにしてきた。戦ってほしくない、無理をしてほしくないってこの子の気持ちをね。
あいつが傷つくたびに、この子の心にも傷が入り込むんだ。人の心ってのはね、傷の痛みは傷口が癒えていくうちに痛みが消えるけど、人の心ってのはそう簡単なもんじゃないんだ。一生その痛みを引きずるかもしれない」
「一生…」
「あいつやあんたがどんな思いで戦うことを選んでいるのかなんてこの際問題じゃない。
残された人間の気持ちも知らないで、格好をつけて、なんの得があるのさ。辛いのは、待ってる側もなんだよ。一緒に戦うことも傷の痛みを分かち合うことも出来なくされた人間の気持ちを…あんたは少しでも考えたことがあるのかい?」
「…」
「ないだろうね。そりゃそうさ。どうせこう考えていたんだろ?
『自分と縁を切ればこれ以上彼女が悲しむことはない』とかさ」
「…ああそうだよ!国を守るために戦場に出るんだ!どうせ死ぬと考えるのが自然だろう!」
「馬鹿な男だね。一度繋がっちまった縁を、婚約を破棄した程度でプチンと切れるほど単純なことがあるもんか」
「それは…」
言い返そうと思ったが、ヘンリーは言葉をつまらせた。
「だいたい国を守るだって?何から?」
「それは…アルビオンを脅かす侵略者からだ!」
すかさず次の質問を投げ掛けてきたマチルダにヘンリーは思い付いた答えを言ったが、マチルダは明らかに呆れかえって深いため息を漏らした。
「なんだ、その反応は!」
「あんたね、アルビオンで暮らす人々ならまだしも、今のアルビオン政府に守る価値なんてあるのかい?
怪獣を使うわ、不可侵条約を結んでおきながらトリステインに不意討ち同然に侵略するわ、未知の技術で戦艦を強化し、その出所をろくに調べもしなかった。
あんたが少しでもまともなら、今のアルビオンを支配するレコンキスタがきな臭さ満載なの、わかるんじゃないのかい?
そんな怪しい連中と組むくらいなら、婚約者の傍にいて守ってあげるのがマシじゃないか」
次々と痛いところを突いてくるマチルダに、ヘンリーは押し黙る。
「あたしはアルビオンの貴族がどうなろうが構いやしないけどね、あんたは待つ側の気持ちを考えな。少しはその格好つけてるだけのおめでたい脳ミソも少しはマシになるだろうさ」
マチルダはそう吐き捨てて、「テファ、早く戻るよ」と一言告げ、船の方へと戻り始めた。
「…」
結局マチルダにまともに言い返す言葉も見つからなかったヘンリーは悔しくなり、その場で俯いたまま立ち尽くした。
「…ヘンリーさん」
すると、そんな彼にテファが、声をかけてきた。
「私も、あなたが最初から死ぬために戦うの、やっぱり賛同できない」
「…君もそう思うのか」
「だって、死ぬのは最後の最後じゃないですか。それまで、もう少しだけ…」
テファはエルフの血を引くがゆえ、幼い頃王弟の妾であった母と共に軍に追われ、殺されかけた。両親は死に、友達である妖怪ヤマワラワともはぐれ、川に落ちた。もう溺れて死ぬかと思った時、「諦めるな」という声が聞こえてきて誰かに手を引っ張られ、気がついたら川岸に打ち上げられたところを、探しに来てくれたマチルダに発見されたのだ。
「ヘンリーさん、婚約者さんのもとに生きて帰りましょう。その人も、きっと待っています」
「…」
「二人とも、早く来な!」
マチルダの声が聞こえた。テファは「今行きます!」と返事をして、すぐにマチルダのもとへ向かった。
生きて帰る…か。貴族の誇りより…愛のために生きる。そんなこと今まで考えたこともなかったかもしれない。



ヘンリーはそれから、森での生活に溶け込み出した。空賊たちの自由すぎる行動には度々面食らうことが多く、子供たちの相手も今まで経験したことがないこともあり、戦とはまた違った苦戦の日々だった。しかしそれでも、軍にいた頃よりも穏やかな日々だった。
子供たちも自分を「ヘンリー兄ちゃん」と呼び、心を開き始めていた。
「ねえねえ兄ちゃん、魔法見せて!」
ある時、村の子供の一人であるサマンサが魔法を見せてくれと頼んできた。神聖な魔法を芸のように見せるのは気が引けたが、これも子供たちのためと思い、得意な風の魔法で小さな竜巻を起こして見せた。杖は一応没収されていたものの、ここに来たばかりのころよりも態度が軟化したのを見計らってガル船長が特別に返却したのだ。
「兄ちゃんスゲー!」
「そ、そうか?」
初級の魔法だから、相手が平民の子供だとしても誉められて少し謙遜したくなる。
「へえ、あんた結構ノリがよくなったんじゃないかい」
そんなヘンリーを見て、森の中から戻ってきたマチルダが目を丸くした。一緒にサムも同行し、手には地下水も握られていた。そして二人の周囲に、大量に買ってきた食料袋が魔法の力で浮遊している。
からかわれているようにも聞こえ、ヘンリーは気まずげに「うるさい」と一言呟く。
「お帰りなさい、マチルダ姉さん」
「おう、マチルダの姉さん!どうだい?回りの様子は」
マチルダとサムの元に、テファと空賊クルーの一人が出迎えてきた。
「地下水とあたしとで、近くに住み着いてる亜人たちを始末してきたよ。あとタルブからも食料を買ってきた」
「俺様はパシリかよ。あの旦那に着いてきたかったな」
「うっさいぞバカナイフ。文句いってないでそのまま魔法で荷物運べ」
愚痴る地下水にサムが以前の恨みできつく言ってきた。
「マチルダ姉ちゃん、シュウ兄まだ帰って来ないの?」
「…」
エマの口からシュウの名前が出てきて、ウエストウッドの住人だったテファやマチルダ、そして他の子供たちの空気が重くなった。
「エマ、シュウ兄に何か悪いことしちゃったのかな?だから、戻って来ないのかな?」
「…そんなことないさ」
マチルダは身を屈めてエマを抱き寄せた。
「そうだよ!シュウ兄が戻ってこないからエマが変なこと言うんだ!」
エマが言った一言に、村の子供のジムが、未だ戻らないシュウに不満を漏らす。
「なに言ってんだ!シュウ兄は頑張りすぎてたじゃないか。戻りたくても戻れないかもしれないだろ」
だがそれをもう一人、村の少年のジャックが反発した。
「戻れないってどうしてだよ!」
「知らないよ!怪我をしたからとか…」
「でもエマが変なこと考えてんじゃん!テファ姉ちゃんも兄ちゃんがいなくなってから…」
「みんな、喧嘩はそこまでにして!」
ヒートアップするあまり、喧嘩に発展したのを見かね、テファが二人に注意を入れる。
「姉ちゃんは嫌じゃないの!?兄ちゃんが戻ってこないこと!」
逆に注意を受けたジムが、テファ自身がどうなのかを尋ねてきた。
「それは…」
確かに彼には一刻も早く戻ってきてほしかった。だが、最後に別れた際に言われた「足手まとい」という言葉が彼女の中で引っ掛かり続ける。
子供たちもテファやマチルダも、ここにはいないシュウという男にたいして興味を抱き、子供たちに訊ねた。
「そのシュウという人は、君たちから見てどんな人なんだ?」
「うんとね…強くてカッコいい!」
それに答えたのはサマンサ。シュウがテファを窮地から救い出したことは、まだ彼らの記憶力に新しかった。
彼らの脱出劇に付き合わされた時に出会った、ハルケギニアでは珍しい黒髪の青年。あれが彼らのいうシュウなのだろう。まともな話ができなかったが…。
「おい貴族の兄ちゃん!こっちに来て、船の整備手伝ってくれ!」
すると、ヘンリーに向かって空賊クルーの一人が手伝いを求めてきた。
「…やれやれ」
そう言えば力仕事も手伝わされるようになったのだな。ウエストウッド村組はまだしも、正直まだ空賊たちには心を開き切れていない。正規軍と悪党の確執というものだ。
アバンギャルド号はアルビオンを脱出して地上に落下した衝撃で、船体には修理に時間を要するほどのダメージが入っていた。ヘンリーはマチルダと地下水にならぶ、その場で数少ないメイジの一人なので、必ず手伝いをされるようになっていた。しかも二人(片方はナイフなので正確には一本と言うべきか)と同じくトライアングルクラス。その分仕事の量も凄まじかった。
しかし、ヘンリーはアバンギャルド号の構造について色々気になるものを目にして来た。
この世界では空を飛ぶ船は風石を利用している。だがこの船はそういったものを使っていなかった。船の内部をあちこちに伸びるパイプ…動力機関そのものが、風石を利用するものではない。
全体的にハルケギニアで作られたものとは思えないような構造をしていた。これほどの立派な船はレキシントン号の比較にもならないし、空賊が持っていること自体不自然だ。
しかし空賊たちも、この船の製造敬意については一切知らないという。誰が何のために作ったのか、その目的と用途は誰にもわからないのだそうだ。
「グレンもいたら、もうちっと修理がはかどるんだがな…」
船体の傷の入った箇所を修復する空賊の一人が、ここにはいないグレンの名前を口にした。
「グレン…。確か、王党派と共にレコンキスタ軍に抵抗し、王党派の勝利に貢献したという、あの炎の戦士か…!」
ヘンリーはアルビオンにいた頃から、何度もレコンキスタに反抗してきた炎の空賊団の話を何度も耳にしてきた。レコンキスタが使役するという怪獣をも圧倒する力。それをアルビオンの正規軍の人間の耳に、うわさが届かないはずがない。
「奴は中々見所がある奴だ。驚異的な能力と力を持ちながら、それに胡座をかかず自由を貫く奴よ。それでいて義理堅い」
「あぁ、さっさと帰ってきてほしいもんだぜ。あいつの存在は、俺たち炎の空賊にはなくちゃならねぇ」
あらゆる工具を使って修理作業を続けながらグレンのことを誇らしく語る空賊たち。
ここまで評価を受け、そして誰もが帰りを待ち続けている。
ヘンリーはシュウやグレンを羨ましく思った。待っている人たちから、こんなにも慕われているのだから。


アバンギャルド号墜落の夜から、彼らは夜中の見回り当番を決めた。夜の闇に紛れて、他の族や亜人…最悪テファを狙う輩がやって来るかもしれないのだ。ヘンリーやマチルダも含め、炎の空賊たちは朝昼晩、主に食事の時間前後と寝る前を中心に見回りを行った。
「貴族の兄ちゃん、そっちには何もなかったな?」
この日ヘンリーは空賊クルーの一人の男と見回りをした。
「問題ない。亜人の気配も何もなかった」
「んじゃ夕食前の見回りはこれで終わりだな。戻ろうぜ」
「ああ…」
戻っていくそのクルーを見て、ヘンリーは奇妙なものだと思った。今まで賊は国を汚し脅かす存在だと思っていたアルビオン貴族の自分が、彼らとこうして会話している。そして意外にも、炎の空賊たちは誰もが自由を愛し、そして賊とは思えない人間味に溢れた者たちで占められていた。こんな憎めないような人達が、なぜ空賊などやっているのか。けどヘンリーは興味こそ抱いたものの、彼らの過去の事情に触れることは無粋だと考え、触れないようにした。
さて、そろそろ戻ろう。そう思ってヘンリーが皆が寝泊りに使っているアバンギャルド号へと向かい始めた。

だが、またしても魔の手が彼らにしつこく忍び寄っていた。

ガサッと草が揺れる音が聞こえてきた。
「!」
ヘンリーはとっさに、草が揺れた方を振り返る。亜人?それとも、別の盗賊か?杖を握り、草の中にいる気配の正体に警戒する。
そして…茂みの中から一人の影が姿を現した。
「あ、あなたは…!!」
その人物を見て、ヘンリーは驚愕する。現れた人物は…。



リトラに乗って、サイトたちUFZは、新たなメンバーとしてハルナも加えタルブ村を来訪、村の人の情報を頼りに近くの山岳地帯を訪れた。
「村の人の話だと、この山の向こうにあるはずだ」
そびえる山を見上げながら、ジュリオは言う。
「山登りをするなんて…はあ、足が棒になるの嫌なのよね」
山を歩くのは、登山家でもない限りほとんど縁がないだろう。モンモランシーは上る前にげんなりした様子だ。
「魔法で飛べばいいじゃん」
サイトが別になんともないだろといった感じで言うが、ギーシュがやれやれと肩をすくめながら言い返してきた。
「わかってないな君は。魔法も魔法でなかなか疲れるものなのだぞ」
「僕も長い時間飛べないからなぁ…」
見るからに長期活動に向いていないマリコルヌも愚痴っている。なんだよ使えねぇな…とサイトは思った。ゼロに変身して空を飛び慣れてしまったせいもある。長く飛ぶことができない彼らを情けなく感じてしまっていた。
「空を飛べるなら、あの鳥の怪獣で飛べるんじゃないの?」
「そうですね…空からの移動なら」
ルイズはリトラを指差して、もっともに思えることを口にする。
「細かいところまで調べるには、さすがに空の上からだけじゃね。リトラは僕のいうことしか聞かないし、僕は上空から、君たちは地上から見て回ってくれ」
「お前さらりと楽してないか!?」
「あ、ルイズとミス・モンモランシにハルナ君も、歩くのが嫌なら乗るかい?」
マリコリヌが抗議の声を上げるが、ジュリオはさらりとスルーしただけでなく、女性三人組に向けてナンパじみた誘いをかけてきた。
「いいの…?」
しかもモンモランシーはあっさりと乗せられかけた。
「モンモランシー!!?」
またしても気に食わないイケメンの甘い誘いに載せられそうになった恋人にギーシュは激しく動揺する。
(モンモランシー、さすがにそこは断ってやるべきじゃないか?仮にもギーシュの彼女だろ?)
心の中でレイナールはモンモランシーに突っ込みを入れる。とはいえ、ギーシュも自業自得なところがあるため、あえて口に出さなかった。
「私は自分の足で見つけるわ」
「私も平賀君と一緒に行きます」
ルイズとハルナは、やはりサイトへの想いもあるし、あまりふざけるべき状況というわけでもないので丁重に断った。
(ふぅ…よかった)
ルイズもハルナもさすがにジュリオの誘いに乗らなかったためか、サイトは心なしか安堵した。
「寂しいな。じゃあ僕一人てことか」
「いいから早く行けよ!」
やたら軽いノリばかりを披露するジュリオに対して、馬鹿にされているような苛立ちを募らせたマリコルヌがあっちいけといわんばかりにしっしと手を払う。ジュリオは特段精神に来ているわけでもなく、寧ろそんなマリコリヌの反応さえも楽しみながら、リトラの背に乗って山の上空へ飛んでいった。
「ふぅー、ふぅー…ったく、前々から思ってたけど、なんなんだあいつ!本当にロマリアの神官か!?」
「全くだ!人の愛しき人に対して色目を使うとは何たる侮辱か!」
「ま、まぁまぁ…落ち着こう。短気は損気だ」
ジュリオを見て、いつぞや元の世界で幾度か世話になった、軟派な髭面の医者を思い出したムサシ。そんな彼の宥めを受けつつも、向こうで彼を神官にしたロマリアの連中の気が知れないと、マリコリヌやギーシュはジュリオに対する評価を格段に下げる。


少し揉めたような雰囲気が出たものの、UFZは今度こそ女王から任された調査任務を開始した。

ギーシュとモンモランシー、レイナールとマリコルヌ、…二人一組で調査に当たることにしたのだが…ここでまたしても揉め事が発生した。

「サイトはご主人様である私と行くの!」
「いいえ!私とです!」
「あたしとペアの方がいいに決まってるだろ!」
そう、ルイズとハルナが、どっちがサイトと組むかで揉めてしまったのだ。しかも双方全く譲る気配もなく、しかもハルナの闇人格であるアキナまで表に出てきて余計に収拾がつかなくなってしまう。
サイトとペアになることで、ルイズはサイトがハルナに色目を向けないため…しかし本音はハルナと同じでサイトとの距離を縮めたがっていた。
先刻の仲直りはどうしたのやら…。
「ふ、二人とも…喧嘩してる場合じゃ…」
「「サイトは黙ってて!」」
「はい…」
なんとか二人を落ち着かせようとするが、逆に怒鳴られて押し黙るサイト。
「サイト一人をめぐって麗しい二人の女性が相対する、か。やれやれ…」
「苦労してるな、彼…ただでさえ片方は、あのルイズだからな」
他の魔法学院生徒4人組は、なんとなくこの事態を予期していた。ルイズやハルナからすれば隠しているつもりだろうが、駄々漏れと知ったらとんでもなく恥ずかしいこと。だがウェザリーの舞台に立った頃に、二人がサイトを見る目がどのようなものなのかはすでに周囲は把握済みだった。
「モテる男は辛いねえ、けけ」
デルフは最近あまり喋る機会がなくて拗ねてるのか、まるで酒の肴として楽しむように呟く。
『なぁゼロ…なんとかならないかこの二人』
『知るか。自分で何とかしやがれ。あ~眠い』
今はデルフが使えないとわかり、ならゼロに相談を持ちかけるが、ゼロは我関せずの姿勢を崩さず。こいつら他人事だと思って…薄情な相棒たちにサイトはムカつきを覚えた。しかし、そんなサイトたちを見かねてムサシが彼らに提案した。
「じゃあ二人が組んで、サイト君は僕と組もう。それならなんともないんじゃないかな?これ以上は平行線だし」
「…仕方ないわね」
「そうだな…」
二人は見るからに残念そうにしていたが、いつまでもこんなところでサイトの相方の権限を巡って喧嘩しても時間の無駄であることはわかるので、渋々ながらも従った。

こうして調査は四組に別れて、今度こそ調査任務が開始された。

しかし、このときすでに夜が始まろうとしている時刻。すでに森の中は暗くなり始めていた。
「暗くなってきたな…」
「ハルナ、…じゃなかった。今はアキナなのね」
あたりを見渡し奥へ進みながら、ルイズは今のハルナの姿を確認する。強気な口調と目つき、そして今の彼女のトレードマークであるポニーテールを見て、今はアキナなのだとわかった。
「どうやらハルナの奴、今のあたしと違って怖がりみたいだからな。それにあたしの方が体を動かすのが得意だから表に出たんだ」
「ふ、ふーん…なんだ。臆病なのね」
「そういうあんただって足が震えてるじゃないの?」
アキナは、ちょっと優位に立って見せようとしたルイズが震えているのを見逃さなかった。
「こ、ここここれは武者震いよ!お化けなんて怖いもんですか!」
「だ…誰もお化けだなんて言ってないだろ…」
余計に墓穴を掘ったルイズに、アキナは呆れた。とはいえ、こうして歩いているアキナもまた、ルイズが口にした『お化け』というワードに内心、恐怖を感じたのは内緒である。



一方で、マリコリヌとレイナールのコンビだが、こちらもマリコリヌが夜の闇に慣れていないせいもあって恐怖を抱き始めた。
「うぅ…暗くなってきたな…って、あいだだだ!!」
恐怖で歩き方がおかしくなったせいか、マリコリヌは地面からはみ出た木の根に足を引っ掛けて転んでしまう。
「大丈夫か?」
レイナールは転んだマリコリヌに手を貸し、彼を起こした。
「ふぅ…マリコリヌ、少しは毅然としてくれ。軍属の連中からすれば、僕たちはまだ無名の子供だが、女王陛下のご指名で選ばれた近衛隊となったんだぞ」
「うぅ…それはわかっているけど…夜って、変な奴が出てくるかも出し、明日にしようよ」
「僕たちの独断でそんなことできるわけないだろ。皆に迷惑がかかる。
別に僕たちが怪獣を直接退治するわけじゃないんだ。あくまで調査、もし怪獣が出ても軍の人に任せればいいって、陛下もおっしゃっていただろ?」
「うぅ…」
まだ臆病風が治る気配のない彼を諭すレイナールに、もっともなことを突きつけられ続けて、マリコリヌはもう言い返すことはできなくなって渋々立ち上がった。


「サイト君、何かわかるかい?このあたりに、何かの気配を感じるとか…」
「…いや、今のところは何もないです。にしても、少し日が暮れてきましたね」
その頃、ムサシとサイトもまた、自分たちが歩いている森の状況を見渡しながら、麗のアルビオンの空から落ちてきた『何か』を探し回っていた。
「うん、夜が近づいてきた以上、あまり長くは活動できないね」
サイトに指摘されたとおり、あたりが暗くなっているのを見て、ムサシがあまりこの森を長居できなくなってきたのを悟る。ただでさえこの世界には、地球と違って通信連絡もうが発達しているわけでもない。だから夜間の活動を、まだ未熟な彼らに強いるには少し酷かもしれない。
「ところで、ムサシさん。コスモスのエネルギーは、まだ回復できてないんですか?」
「…いや、まだだよ。」
やはり、まだか…これまで知らない個体とはいえ、ウルトラマンの先輩でもある彼と戦ってみたいという願望もサイトにはあった。それだけにサイトは少し残念に思った。
「にしても、アルビオンから一体何が起きてきたんだろうな…?」
『さあな。けど…』
アルビオンは現在、侵略目的の異星人たちと繋がりを持つレコンキスタが支配している。これまでレコンキスタは、ワルドやリッシュモンたちの野心を煽り、卑劣な手段を企ててきた。そんな奴らが支配する場所から落ちてきたもの…ろくなものとは思えない。しかもそれに引き換え、こちらは人間たちの怪獣などの災厄に対する防衛力は紙に近い。今のUFZもあくまで怪獣討伐ではなく、事前調査任務だ。もし怪獣が現れたら、現在立て直し中の軍に任せなければならない。
とはいえ、危険が伴う可能性がある以上、仲間たちの身の安全のために一刻も早く正体を突き止めたい。
サイトは目を凝らしながら、闇に包まれていく森の奥の方をじっと見ながら前へ進んでいく。
「…」
次第に二人は、進んでいくうちに何か嫌な気配を感じ始めていた。何か嫌なことが起こりそうな…
そのときだった。
「うわああああああああああ!!」
聞き覚えのある叫び声が聞こえた。ギーシュの叫び声だ。声からして明らかに、なにかしらの災いがギーシュと、彼に同行していたモンモランシーに及んだのかもしれない。
「ギーシュ!?」
「行ってみよう!」
二人は悲鳴が聞こえた方角へ走り出した。


さて、そのギーシュたちの悲鳴がサイトたちに届くまでに何があったのかを話そう。
「く、暗くなってきたな…明かりの魔法を使った方がいいだろうか?」
「そうね、あまりくらい状態で立ち回るのは危険だわ」
山林の中にある谷と谷をつなぐつり橋の上を、二人は明かりをともすコモンマジック〈ライト〉を使い、明かりをつけた。もう夜が近づき、森の中も暗くなって薄気味悪さが強まっていた。
「も、モンモランシー…怖いのなら僕の後ろに隠れるんだぞ?僕は君の騎士なのだから」
「…ぜんぜん頼もしくない騎士ね」
モンモランシーも確かに怖いがギーシュほどじゃない。というか…自分よりビビッているギーシュの姿を見て、逆に恐怖心が和らいでしまったのだ。ある意味そのあたりについては感謝しているが、やはり情けなく見えてしまう。
震える足をつり橋のロープで支えながら先を行く二人。ふと、モンモランシーはつり橋の下を見て、目を細めた。
「…何か見えない?」
「え?」
ギーシュも彼女の言葉に視線を下に向ける。すると、誰かが下にいるのが見えた。暗くてよく見えず、黒い影が二つあるように見える。
「もしや、幽霊…?」
「はっきり言わないでよ馬鹿!考えないようにしてたのに!」
「痛!?」
モンモランシーは気遣いがなっていないギーシュの頭をはたいて、再び視線を橋の下に向け、耳を済ませた。




つり橋の下にいる人がけの正体…それは見回りをしていたヘンリーと…

「く…クロムウェル皇帝陛下!?」

なんと、レコンキスタの総帥にして現アルビオン皇帝のクロムウェルだったのだ。
自分の陣営のトップを前にして、ヘンリーはすぐに跪いた。
「君かね?我が軍からここに連れてこられてしまった兵というのは」
「は!自分であります。ですが…なぜ陛下が自らここに?」
現皇帝が自ら、それもたった一人でトリステインの田舎に来るはずがない。だがこうして、自分の目の前に現れた。疑問ばかりが及ぶヘンリーは尋ねずに入られなかった。
「君が我が国から脱走した空賊共に誘拐されたと聞いてね。それが気になって様子を見に来たのだよ。我が虚無の力を使ってな」
「…!」
ヘンリーたち、アルビオンの兵士たち…末端の者たちには、彼が本物のクロムウェルではなく異星人の擬態であること、そもそも本物のクロムウェルが虚無の担い手を自称してただけで実際は違っていたことはわからないままだ。だから、クロムウェルがたった一人で突然この場所に現れたこと、彼の口から放たれた『虚無』のことを、彼は信じてしまう。
「さて、君をさらった炎の空賊たちはどこかな?」
クロムウェルは、本物の彼がそうだったように、貼り付けたような笑みを浮かべてヘンリーに尋ねる。
「それは…」
「いや、尋ねなくてもわかることだった。君がここにいるということは、この森の中なのだろう?」
「…はい」
「なら、彼らにも挨拶をしなければならないな」
「挨拶?」
「ヘンリー君、君に案内を頼みないが、構わないかね?」
ヘンリーはクロムウェルの口からそのような言葉が出てきたのを聞いて、目を丸くした。
「どうしたのだ?もしや、余の命令が聞こえなかったのかな?」
「ッ!い、いえ…そういうわけでは…」
自分はあくまでただの一兵士。立場上、皇帝である彼の命令に逆らう刺客などない。しかしヘンリー個人は、テファやマチルダたちに命よりも名誉を重んじる姿勢を見せはしたものの、あまりこのクロムウェルへの…レコンキスタが王権を簒奪してからのアルビオンに対して好印象は抱けなかった。怪獣という異形の存在を操り、ロイヤル・ゾウリン号…もとい、レキシントン号だって異常な改造を施していた。エルフの技術を導入したからだと入っていたが、どう考えても無理のある話だ。けど誰も疑おうとさえもしない。自分たちが伝統ある王室よりも、虚無を自称するどこぞの怪しげな男の持つ危険な力を信じた。きっと自分だけじゃないはずだ。
「そう動揺せずともいい。余にとってアルビオンの者たちは、聖地を求める同志にして友達。余が君のために行動するのは当然だ。なんなら、君をアルビオンへ連れ戻してあげようじゃないか」
「!」
故郷への帰還の話を持ちかけられ、ヘンリーは目を見開いた。
現在のアルビオンの最高権力者であるクロムウェルに逆らうほどの気概はなかった。何より…
(…彼女は今、どうしてるだろうか)
先刻のテファたちとの会話で、婚約を破棄した元婚約者の身を、案じてしまっていた。ロペットペンダントに入れた肖像画に描かれたままの彼女の姿が脳裏に浮かぶ。
「わかりました…こちらになります」
ヘンリーは主であるクロムウェルの命令に、頷いた。しかしそのとき、クロムウェルは頭上のつり橋を睨み付け出した。
「…待ちたまえ。どうやらねずみが割り込んでいたようだ」
次の瞬間だった。彼は懐から銃を取り出した。それも、ハルケギニア製の銃ではなかった。サイトたちがこの場にいれば、きっとその銃を見て、その銃が異星人が作るタイプのものだと瞬時に認識していただろう。その銃を頭上のつり橋を支えるロープに向けて、クロムウェルは発射した。
銃口から放たれたレーザーが、つり橋を支えるロープを焼ききってしまい、橋の上にいたモンモランシーとギーシュの二人が落ちてしまった。
「きゃあああああ!!」「うわああああああああ!!!」
二人は悲鳴を上げながら、何メートルも上空から落ちてしまう。落下のせいで二人ともパニックを起こしており、空を飛ぶ魔法の詠唱の余裕さえもなかった。
が、しかし…二人は詠唱していなかったというのに、体が浮遊する感覚を覚えた。目を開けると、確かに自分たちは浮いている。二人はゆっくりと地上へと降ろされた。
「む…?」
目を細めるクロムウェル。今の魔法はヘンリーではなかった。詠唱していなかったし、杖も握っていない。とすると…。
「ったく、何の騒ぎ?」
その答えを自らの身をもって示すように、森の方から姿を見せた人物がいた。
「あなたは…!」
ギーシュとモンモランシーは、現れた人物を見て目を見開いた。
魔法学院で学院長オスマンの司書だった女性、そして盗賊フーケとして名を馳せた女、マチルダだった。彼女だけじゃない、空賊のクルーが数名ほど、彼女と共に集まってきていた。
「どうした、なにか魔物でも出てきたか?」
そう言ってさらにやってきたのは、三兄弟船長の一人であるガルだった。
なぜ船長自ら飛び出てきたのかと思うが、彼ら炎の空賊は船長も自ら戦場に出る気骨の持ち主だったのである。
「ヘンリー、あんたがいつまでも戻ってこないから心配してみたら…一体どういうこと?後ろの男…一体何者?」
「それは…」
マチルダが疑惑の眼差しをヘンリーに向け、ヘンリーは言葉を詰まらせる。なぜか以前に会ったことのある魔法学院の生徒二人も混ざっているのも気になったがこの際どうでも良かった。
まずい、今の彼女は自分を不振に思っている。
「む…貴様、クロムウェルか!」
「な!?」
ガル船長がクロムウェルの顔を見た瞬間、彼が誰なのかを瞬時に言い当てる。それを聞いてマチルダも、そしてギーシュとモンモランシーも目を見開いた。
「あぁ、姐さん。ガルの旦那の言うとおりだ。俺様も見たことがある。レコンキスタを陰で操ってる、あのシェフィールドとかいう女ともつるんでやがったのを見たことがある」
さらにマチルダが、他に持ち主にできそうな奴がいないので腰にくくりつけていた地下水も、クロムウェルの顔を見て同意した。
「なんでアルビオンの新皇帝がこんなところに…!?」
クルーたちも、アルビオンの皇帝がこの場でたった一人姿を見せたことに驚いていた。
「なに、私の友達が世話になったみたいだからね。それにしても、土くれ。我々レコンキスタに誘うはずだった君が、炎の空賊の世話になっていたとは」
「…不本意だけどね。けど、これで一つはっきりしたね」
マチルダはヘンリーを鋭い目で睨みつけた。
「ヘンリー、あんたあたしたちを売ろうとしていたんだろ?」
「待ってくれ!僕はそんなつもりじゃ…!」
もちろんヘンリーとて、クロムウェルが現れたことは予想外だった。だが、これまでマチルダたちの身の回りではありえないはずのことが当たり前のように起きていた。しかもテファが何度も、レコンキスタ…シェフィールドに狙われてきた。そのシェフィールドとつながりのあるこのクロムウェルとアルビオン兵であるヘンリーがくっついている。疑ってもおかしくない。
「余の友達を責めないでもらおう。私はただ、彼と…」
自分が友達と呼ぶヘンリーに対する罵声をさえぎり、クロムウェルはマチルダたちの後ろに向けて指差した。
「そこの後ろにいるお嬢さんを故郷に返してあげに来ただけだ」
「!」
マチルダたちはとっさに振り返ると、そこにはテファが歩いてきていた。
「テファ、どうして出てきたんだい!?」
「だって、ヘンリーさんも姉さんも、戻ってこないから心配で…」
どうやらヘンリーが戻らず、それに続いてマチルダも戻ってこないことを憂いての行動だった。そんな深刻なテファたちの空気に、空気を読まない男が場違いなことを口にしてしまう。
「おぉ、またしても僕はこの麗しい妖精ともう一度ご対面することができるとは…」
「なにこんなときにナンパしようとしてるのよ!」
アホっぷりと丸出しにしてきたギーシュを、モンモランシーがバシン!とぶっ叩いた。
そんな二人を無視して、クロムウェルはテファを見る。
「ごきげんよう、モード大公の忘れ形見殿」
「ッ…!なんで父さんのことを…」
自分の亡き父のことを持ち上げられ、テファは驚く。同時に、モードの娘とテファのことを読んだことに、ヘンリーも驚いた。彼もアルビオンの貴族なので、噂などで亡きアルビオン王ジェームズ一世の弟である大公のことを聞いたことがあったのだ。まさかテファが、王家の血を引く者だったとは夢にも思わなかったのだろう。
「アルビオンの新皇帝が、わざわざ何のようだ?わしらは貴様のことを今すぐ首をねじり切ってやりたいと思っているのだぞ?」
ガルが鋭い目で、片目を眼帯で隠した隻眼で脅すように睨み付ける。この男さえいなければ、アルビオンは無駄な混乱を起こさずに済んだ。このクロムウェルが本物ではないものの、
「言っただろう?余はこのヘンリー君を連れ戻しに来たのだ。そして、モード大公の娘を、余が自ら故郷へ連れ帰る、と」
「要は連れ去りに来たんだろ!?ヘンリーはあくまでそのついでか、利用しようとしたって魂胆だろうが!」
マチルダが嘘をつくなと言わんばかりの声でクロムウェルに怒鳴った。
「さあヘンリー君、君が我々アルビオンの友達ならば、遠慮はあるまい?」
マチルダの怒鳴り声など無視し、クロムウェルはヘンリーに視線を向け、命令を下した。
「モード大公の娘、ティファニア嬢を回収するのだ」
ヘンリーは苦悩した。テファとのあの会話がなかったならば、命令に従っていたかもしれない。
しかし…。
「…私には、無理です。彼らには借りができてしまっている。恩のある相手に、杖を向けるなど…」
「なるほど、君の恩義を受けたら、その分を自ら返すという気概は嫌いではない。ならこうすればどうかな?」
クロムウェルは指をパチンと鳴らした。すると、上空に空間の歪みが発生し、巨大ななにかが二つ、落下した。
「ヤマワラワ!?」
その片方の落下物は、テファの幼き日の友達だった怪獣『童心妖怪ヤマワラワ』だった。だが、やはり最後に見たときと同じで、様子がおかしい。目が邪悪な赤色に染め上がっていて、グルルル……と、古い友達であるはずのテファを、獲物を狙う肉食獣のような目で睨み付けており、テファは彼から絶対に向けられないはずの視線に戦慄した。
そしてもうひとつの落下物は巨大な十字架。
「来なければ…ティファニア嬢自ら来やすくすればよいだけのことよ」
思わずモンモランシーが声を漏らす。ギーシュもと驚いた。

「っ…ウルトラマン!?」

十字架に張り付けられていたのは、なんと…

目から光を失った銀色の巨人…ウルトラマンネクサスだった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧