提督はBarにいる。
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ハロウィーンと次女の憂鬱。
我が鎮守府の運営方針は『艦娘による自治と運営』。余程変な提案でなければ許可を出すし、基本的な鎮守府内の組織は艦娘達に運営を一任している。その為か年間を通してイベント事も他の鎮守府に比べて多いらしい。何年か前にもイベントの取材として、内地の青葉がクルー(と言っても、衣笠に古鷹、加古だったが)を引き連れて取材に来た事があった。
春は花見、夏は海水浴や縁日、花火大会。秋はチーム対抗の運動会や紅葉狩り、冬はクリスマスに忘年会、餅つき大会や新年会等々。鎮守府を挙げてのイベント以外にも、艦娘達個人が個性を活かして非番の時などに小規模なイベントをやったりしている。
武蔵が主催の「九州艦娘の会」や、扶桑・山城主催の「不幸お茶の会」。長良がリーダーとなってやっているランニング同好会、なんてのもあったか。扶桑と山城の茶会には入会の為の条件があるらしいが、名前で既に解るので聞くのは止めておいた。そんなこんなでお祭り騒ぎが好きなウチの鎮守府だが、数年前から新たに加わったイベントがある。
「はぁ……。」
その日ウチの店にやって来た客も、そのイベントが気がかりらしく、いつものボトルキープしているウイスキーの進みが悪い。
「どうした?溜め息なんか吐いて。ただでさえ低い運が逃げちまうぞ?」
「……ちょっと、一言余計よ。私だって、不運に生まれたくて生まれたワケじゃないんだからね?」
むぅ、と頬を膨らませて此方をジト目で睨んできているのは陸奥。長門の妹に当たり、その火力とお姉さんキャラで鎮守府内でも頼られるポジションにいる艦娘だ。だが、扶桑・山城に並ぶ程に運が悪い。本人はさほど気にしていない所が山城達との雰囲気の大きな差だろう、と俺は考えている。
「悪い悪い。で、どうした?何か悩み事か。」
「ホラ、もうすぐハロウィーンでしょ?お菓子何を作ろうかと思って。」
成る程な、言われてみればもうそんな時期か。そう、何年か前からウチの鎮守府は金剛が言い出しっぺでハロウィーンのお祝い事をやっている。と言っても欧米のような本格的な物じゃなく、もっと日本的な、誰でも楽しめそうなコスプレイベント的なノリの奴だが。
「発起人の金剛さんたちはスコーンとかクッキー焼くって言ってたし、大和はアイスだって。」
「和菓子は?」
「全滅。お団子は鳳翔さんが作るらしいし、間宮さんはお饅頭、伊良湖ちゃんが最中でしょ、扶桑と山城がおはぎで、利根と筑摩がお煎餅やるって。」
なんだその完璧な布陣。入り込む隙間ねぇじゃん。
「長門姉さんに相談しても、『例年通りラムネでよかろう!』の一点張りだし。」
再びはぁ……と溜め息を吐く陸奥。実際問題、長門のラムネは近年売れ行き、というか部屋に訪問に来て貰っていく駆逐艦が減少しているらしい。
「姉さんは…ホラ、あれでしょ?だから内心、来てくれる駆逐艦の娘達が減ってるの気にしてると想うのよ。」
まぁ、有り得なくはない、というか長門の事だから気にしてないハズはない。大和や金剛の所に流れていく駆逐艦の娘達を見て、悔し涙を流しているかも知れん。
「だからね、今年は何か目新しいお菓子を準備しようと思うんだけど。生憎、私もお菓子作りは経験無いのよねぇ……。」
なんとまぁ、あのポンコツな姉思いの良い妹じゃあないか。よし、ならばここは俺の出番だろう。
「なぁ陸奥。もし良かったら俺が教えてやろうか?お菓子作り。」
瞬間、突っ伏していた陸奥がガバッと起き上がる。
「提督、お菓子作れるの!?」
「まぁな。ウイスキーやブランデーには、甘いお菓子が合ったりするだろ?その関係もあってな。」
まぁ、それだけじゃなく趣味で覚えた部分もあるんだが。
「ハロウィーンで配るのに適してそうなお菓子、教えてやるよ。」
翌日の午後、執務室に来るように伝えてその日は解散という事になった。
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