提督はBarにいる。
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鱈は棄てるところないよね。
まずは身と白子を使って鍋を一品。昆布出汁をベースに、酒と醤油で鍋の汁を作る。そこにいれるのは豆腐に人参、長ネギ、大根、春菊、白菜、ささがきゴボウや昆布巻き等々、鍋物に使う野菜をお好みで。肉は入れない。
野菜を入れて火にかけ、ある程度火が通ったらそこに鱈の身と白子を入れる。身と白子にも火が通ったら完成だ。
「お待たせ、『鱈のたず鍋』だ。熱いから気を付けて食べろよ?」
炬燵の上にガスコンロを置き、鍋をその上に乗せて点火。グツグツと煮立つその絵はやはり、冬の風物詩って感じだよな。ビス子も小さなお玉を使い、出してやった小鉢によそってパクリ。
「ん!鱈の身がホロホロとほぐれて汁とよく合うわ。けれど、この脳ミソみたいなプルプルしたのは何かしら。」
なるほど、ヨーロッパのほうじゃ白子なんかほとんど食わねぇだろうからな。
「それがたず鍋の『たず』さ。鱈の白子……つまりは精巣だ。」
「えぇ!?これ精巣なの!?」
気持ち悪い物でもみるかのように、小鉢から鍋に戻そうとするビス子。
「何すんだ勿体無い!それに行儀悪いぞ。」
「だっ、だって精巣だなんて、食べる所じゃないでしょう!?」
なんて事を言うんだ全く。鱈の白子は冬から春先にかけての最高の珍味だろうが。
「あのなぁビス子。鱈の白子ってのは通称タラキクとも呼ばれてな、小間の時期しか食べられない最高の珍味なんだぞ?大体、ドイツだと豚の臓物なんかしょっちゅう食べてたろ?」
鱈の白子はその形状から、食用菊の形に似ているからとタラキクとも呼ばれる。産卵期を迎えた真鱈でしか食べられない贅沢品だ。
「騙されたと思って喰ってみな。きっと、びっくりすると思うぜ?」
「そ、そんなに言うなら……。」
恐る恐る、口の中に白子を放り込むビス子。瞬間、驚きを隠せないと言った感じで目がカッと開かれる。
「何これ、すっごいクリーミー!それに生臭さも全然感じないわ!」
意外と多いんだよなぁ、鱈の白子の食わず嫌い。『生臭そう』とか『見た目がキモい』とか、そんな理由で。
「美味いだろ?俺はもう一品作っちゃうから、俺の分も残しとけよ。」
俺はそう言って、残してあった鱈の内蔵や頭、アラの調理に入った。
まずはやかんに湯を沸かし、鱈のアラと頭に湯をかける。こうする事によって余計な滑りや臭み、細かい鱗や汚れなんかを剥がれやすくしてやる。次にボウルに水を溜め、今しがた湯をかけたアラと頭をボウルに入れ、滑りが取れるまで洗い落とす。
滑りが取れたら鍋に水をはり、酒と昆布、それに残してあった鱈の一切をぶちこむ。グツグツと煮込みながらアクを丁寧に取り除きながら煮る。鱈に火が通ったら火を弱め、味噌を溶く。この料理は味噌か塩がメジャーだが、俺は味噌仕立ての方が好みなんで味噌仕立てにした。味見をして、味を調整したら完成。
「おいビス子。『鱈のじゃっぱ汁』も出来たけど食うか?」
「うーん……今のところお鍋で満足してるからいいわ。」
そうかそうか。ちなみにじゃっぱとは、標準語で言うところの「雑把(ざっぱ)」で、身以外の普通は棄てるところという意味だ。これじゃあTO●IOが来てもやれないがな。個人的には、真鱈は一に白子で二に肝と、身よりも内臓系の方が美味いと思っている。是非とも捨てずに食べていただきたい。
結局、ビス子は一人で鍋の殆どを平らげ、酒もしこたま飲んでそのまま炬燵の魔力でKO。部屋までおぶっていく事になってしまった。部屋に辿り着いたら重巡の寮に居るはずのプリンツが居て、「ビス子を頼む」と渡したら何故かハァハァ言っていた。まぁ、疲れたから深くは考えないでおこう。
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