ピンクのサウスポー
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第九章
「やっぱりシュートからな」
「そこからスライダーがええな」
「左にはそれやな」
「わかっていても打ちにくいわ」
その投球を見て多くの者が言った、これでワンアウトだった。
そしてだ、二人目は。
右バッター、左のアンダースローでは不利な状況でしかも左ピッチャーに強い上にアベレージーヒッターだったが。
そのバッターにはだ、まずは内角にスライダーを投げ。
そこからシュートだった、この投球でだ。
相手はやはり泳がされた、これであと一人となった。
「右にはスライダーが内角になるしな」
「それでシュートが外角になる」
「左右への揺さぶりになるな」
「そうして投げればええんやな」
「水原はそれが出来るからな」
「右バッターにも強いわ」
ファン達は唸った、最後のバッターになると。
「あと一人!あと一人!」
「日本一や!」
「阪神日本一や!」
「あと一人や!」
「水原踏ん張れ!」
「あと一人や!」
甲子園、そしてテレビやネットで試合を観るファン達のボルテージは最高潮に達した。水原はその中で淡々とした表情だった。
そしてその表情でだ、最後の勝負に入った。
ストレート、シンカー、またストレートを投げてツーストライクからファールを打たれた。ファールの時甲子園は少しがっかりした。
「あと一球やのに」
「そこで粘るか」
「相手も必死やな」
「中々終わらんわ」
「しんどいわ」
ファン達は三塁側のスタンドに消えたファ-ルを見て思った、だがあと一球だった。
水原はキャッチャーのサインに頷きそのうえで最後の投球に入った、最後は。
低めのストレート、水原の武器の一つだった。そのストレートが。
バッターの足元に入った、ボールかどうかスレスレだったが。
僅かに入っていた、審判もそれを見て。
「ストライク!バッターアウト!」
この次の言葉は一つしかなかった。
「ゲームセット!」
この言葉と共にだ、阪神ナインはマウンドに駆け寄り。
水原を抱き締めなかった、女性なのでセクハラになるからだ。
その代わりにナインで抱き合ってだった、監督を胴上げした。甲子園は日本一に沸き立った。
「やった!」
「やったで!」
「阪神優勝や!」
「日本一や!」
「水原が決めた!」
「決めてくれたで!」
ストッパーとして最後を締めた彼女も讃えた、水原はこの年新人王になり。
二年目も三年目もだった、ストッパーとして活躍した。毎年低い防御率でストッパーを務めてくれる彼女の存在は大きかった。
その彼女にだ、ファン達は名付けた。
「阪神やけどな」
「女の子やしな」
「黒と黄色よりもや」
「あの色や」
その色はというと。
「ピンクや」
「水原こそピンクのサウスポーや」
「ピンクの虎やな」
「それになるな」
あのあまりにも有名な曲から通称が決まった。
「これしかないわ」
「水原こそピンクのサウスポーや」
「最後を締めてくれるストッパーや」
「最高のストッパーや」
こう言って水原を応援する、水原は二百セーブを挙げてもまだ二十代だった。だが結婚を発表すると共に引退となった。
まだ同期の鶏谷や村岡、江冬、掛田、バード達は阪神で活躍していた。しかし彼女は去った。だがファン達は引退する水原に球場で声援を送った。
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