ピンクのサウスポー
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第八章
「いいか、ほんの一勝だからな」
「まだまだこれからだからね」
「試合に行く前も言ったがな」
「天狗にならないでね」
「本当にこれからだ」
「怪我もしない様に頑張ってね」
「うん、お父さんお母さん私気をつけるわ」
母が差し出したサイダーをコップに受けつつだ、水原は両親に応えた。
「ずっとね」
「そうしろ、そしてな」
父は娘に言った。
「藤川さんみたいなストッパーに長くなっていけ」
「長くなのね」
「太く短くじゃない」
それこそというのだ。
「太く長くだ」
「そうして投げていくのね」
「そうしろ、ずっと活躍するんだ」
「ストッパーは大変って聞いてるけれど」
母も言ってきた。
「これからだから」
「太く長くなのね」
「頑張っていってね」
「ええ、わかったわ」
「ねえお姉ちゃん」
妹も言ってきた。
「ウィニングボールある?」
「ボール?」
「うん、村田さんを三振に取ったボール」
「あるわよ」
水原は妹の問いにすぐに答えた。
「それも」
「そう、それじゃあよかったわ」
「ええ、最初のセーブのボールだから」
それでとだ、水原は妹に微笑んで応えた。
「プレゼントするわね」
「有り難う、それじゃあね」
「後で渡すわね」
「サインしてね」
妹は注文も加えた。
「それで頂戴」
「わかったわ」
姉は妹に微笑んで応えた、そうして実際に最後のボールにサインをしてそのうえで妹に渡した。そしてこのシーズンは。
阪神は村岡、江冬、掛田、鶏谷に助っ人のバードも活躍してだ。
最下位の巨人、今年も見事百敗それも百二十敗という偉業を達成したこのチームと五十ゲームも引き離しての優勝だった。その中でもだ。
水原の活躍は際立っていた、ストッパーとして三十セーブポイントを挙げてだ。
「よおやった」
「クライマックスでも抑えてくれた」
「やっぱり最後がしっかりしてるとちゃうわ」
「ルーキーやのによおやった」
「新人で一番やったわ」
「一番活躍してくれた」
「お陰でクライマックスも勝ったし」
それでというのだ。
「後はシリーズや」
「シリーズも頼むで」
「ストッパーとしてやってくれ」
「最後は任せたわ」
ファン達はもう水原に絶対の信頼を置いていた、そして。
水原はシリーズでも投げた、九回で僅差になるとマウンドに上がり。
相手を抑えた、シリーズは最後の七戦までもつれ込んだが。
阪神一点リードで迎えた最終回にだ、ストッパーとしてマウンドに上がった。球場は甲子園だった。
「頼むで!」
「胴上げや!」
「この回抑えたら日本一や!」
「水原行け!」
「最後はあんたや!」
甲子園のファン達は水原に歓声を送る、その歓声を受けてだった。
水原はマウンドに上がり投げた、まずは一人目は三球目のスライダーで泳がせて討ち取った。
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