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ピンクのサウスポー

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第七章

「わかったな」
「そうさせてもらいます」
「よし、じゃあ行って来い」
 水原を言葉で送り出した。
「三者凡退にしてこい」
「それでチームは、ですね」
「勝ちだ、巨人に一泡吹かせてやれ」
 球界の敵であるこのチームにというのだ、そして。
 巨人ファン、特にテレビに出ている様な連中は水原の登板をテレビやラジオ、ネットで聴いてそのうえで嘲笑して言った。
「十代の小娘に何が出来る」
「ここから史上最強打線の真価だ」
 自称である、あくまで。
「女なんか男に奉仕していればいいんだよ」
「巨人様甘く見るなよ」 
「甲子園でサヨナラ勝ちだ!」
「ここから巨人の優勝だ!」
「巨人万歳!」
「偉大なるオーナー様に栄光あれ!」
 何処ぞの世襲制の共産主義国家の国家元首を讃える様な言葉さえ出ていた、丁度巨人の打順はクリーンアップだった。
 巨人ファン達は勝利を確信している者が多かった、だが。
 水原はコーチに言われた通りにだ、内角と外角を攻めてだった。
 巨人のバッター達を討ち取っていった、坂本も阿部も内野ゴロに抑え。
 村田はだ、瞬く間にだった。
 ツーストライクまで追い込んだ、すると。
「あと一球!あと一球!」
「あと一球や!」
「三振に取れ!」
「勝つで!」
「阪神の勝ちや!」
 甲子園は勝利に沸き返っていた、そして。
 水原は胸に手を置いたノーワインドアップのフォームからだ、アンダースローで。
 ボールを投げた、ボールは鋭く落ちるシンカーだった。
 村田はそのシンカーを無様に空振りし身体を回転させてから尻餅をついた、その瞬間に阪神の勝利と水原のセーブが決まった。
「やった!勝ったで!」
「開幕戦勝利や!」
「巨人に甲子園で勝った!」
「水原が抑えた!」
「やってくれたわ!」
 甲子園が沸き返る、そして。
 水原はナイン達と握手し背中を叩かれつつマウンドを降りた、そしてベンチでコーチに笑顔でこう言われた。
「よくやった」
「はい、何とか出来ました」
「そうだな、しかしな」
「しかし?」
「まだほんの一勝だ」
 チームはというのだ。
「ペナントはこれからだからな」
「油断せずにですね」
「勝っていくぞ、御前もだ」
 水原自身もというのだ。
「まだ一セーブだ」
「それだけですか」
「これからどんどん勝って負けてだ」
 そしてというのだ。
「セーブを挙げていけ、いいな」
「負けることもですね」
「プロならある」
 当然として、というのだ。
「だから負けてもだ」
「それでもですか」
「落ち込むな、そこから反省しろ」
「そうさせてもらいます」
「そうしろ、そしてだ」
 コーチはさらに言った。
「どんどんよくなっていけ」
「そうさせてもらいます」 
 水原はコーチの言葉に素直に頷いた、そして。 
 シャワーを浴びて球場を後にした、家に帰ると家族から歓迎されたが両親は優花に彼女の好物である刺身を出しつつ言った。 
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