ピンクのサウスポー
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第六章
「自分はこれだけ応援されているってな、しかしな」
「それが出来ないと」
「無視してそれでもだ」
「私のピッチングをすべきですね」
「御前ならどんな調子でも抑えられる」
ここでは水原を励ました。
「巨人でもどのチームでもな」
「だからですか」
「そうだ、自分を保って投げろ」
こう言うのだった。
「わかったな」
「わかりました、じゃあ出番が来たら」
「頼む」
コーチは水原に言った、そのうえで彼女に練習を続けさせた。
試合がはじまると球場はコーチの言葉通りファンで埋め尽くされた、黄色と黒で完全に彩られてしまっていた。
その観客席を観てだ、監督は笑って言った。
「今年も凄いな」
「はい、そうですね」
「今年もこの時が来ましたね」
「じゃあいよいよですね」
「開幕ですね」
「今年も優勝するか」
監督は笑ったままこうも言った。
「そうするか」
「はい、それじゃあ」
「開幕から勝ちに行きましょう」
「それでスタートダッシュですね」
「勢いを掴みましょう」
コーチ達も応える、そしてだった。
試合がはじまった、阪神打線は巨人投手陣を攻めたが七回を終わって四対一だった。今は勝っているが。
「問題はこっからや」
「終盤や」
「八回九回をどう抑えるか」
「それや」
「そこが問題や」
この二イニングがというのだ。
「特に九回や」
「水原がストッパーちゅうけど」
「大丈夫か?」
「抑えてくれるか?」
「別に女の子やからやないけど」
「ルーキーやしな」
それでというのだ、だがやはり女であるということも不安材料であった。男社会の中での女となれば仕方ないか。
「大丈夫かいな」
「ほんまにな」
「抑えてくれるか」
「心配や」
八回がはじまった時点でこんなことを話していた、そして。
八回は何もなくだ、三点差のままだ。
九回裏となった、それまでブルペンで投げて肩を暖めていた水原にコーチが言った。
「出番だ」
「はい、それじゃあ」
「投げて来い」
こう言うのだった。
「いいな」
「わかりました」
水原はコーチに確かな顔で答えた。
「行ってきます」
「いいか、攻め方はだ」
「はい、キャンプやオープン戦でやっていた通りに」
「内角から外角だ」
内角攻めでのけぞらせて外角で泳がせて打ち取れというのだ。
「低めにも集めろ」
「そうしてですね」
「強気でいけ、御前はコントロールがいい」
水原のこの長所も話した。
「だからぶつけることもない」
「だからですね」
「安心して攻めろ」
デッドボールの心配もなく、というのだ。
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